第四十三話 ある共通点
【注意!!】
※今話は、国立十文字学園高等部祓い科担任兼精霊省特別顧問、夜太刀白亜の視線でお送りいたします。
【遡ること少し前 東京都千代田区 東京駅屋上】
『六月一日!!
白亜お兄ちゃんっ!
今日はどんな一日だった!?』
このスマホに映っている、病室のベッドで寝込んでいるかわいい女の子は、俺の二つ下の妹、夜太刀黒音だ。
うん、君たちが言いたいことはすでにわかっている。
「ちょーかわいくね!?」
だろ?
そのとおり!
俺の妹は日本一、いや世界一、いや宇宙一かわいい♡
ギネス世界記録に申請すれば即“宇宙一かわいい美少女”に認定! 文科大臣に会わせれば即人間国宝決定!間違いなし!
妹を見ている時間だけが俺の唯一の癒しであり、ストレスがあっという間に吹き飛ばされる。
「今日はねーー♡……
お兄ちゃん、最悪な一日だったよーー……
精霊省での会議でまーた言われたんだーー……
『わかっているな?
初代以降初めて、同時期に全精霊刀剣の使い手が揃ったんだ
だから、絶対にこの機会を逃すなよ?
必ずあの”三大悪霊“を祓い、この悪霊時代に決着をつけるんだ
そのためにも、早くあの子たちを使い物にしろ
わかったな?』
……って!
毎度毎度、同じこと言いやがって!
使い物にしろ?
あの子たちは”物“じゃねえぞ!バカヤロウ!」
『そうなんだ!
白亜お兄ちゃん、今日もがんばったんだね!!
えらいえらい!!いい子いい子!!』
「へへっ♪そうなんだよーー♪
黒音は今日は、どんな一日だったんだ?」
『黒音はね!
今日もすっごい、いい一日だったの!
なんでだか、聞いて聞いて!!』
「何で何でーー?」
黒音はとても嬉しそうに笑みを浮かべ、そして興奮した声で答える。
『あのねあのね!
今日、凛花ちゃんと愛淫ちゃんがお見舞いにきてくれたんだーー!!
あと、漆くんも!!
みんなとたっくさんお話したんだーー♪♪』
「……そっかーー!!
それはすっごい、いい一日だったな!」
俺はスマホの向こう側にいる黒音と言葉を交わす。
「こんなところにいたのね、白亜
随分探したわよ……また、それを見てたの……」
「……なんだ、お前か」
俺はスマホを左ポケットにそっと仕舞う。
俺の貴重な癒しの時間を邪魔をしやがったこの、グレー色の童貞を殺すセーターを着ている淫乱女の名前は、肉丸凛花。
俺とは中等部時代からの同級生で、現在では精霊省の分析科で勤務している。
この若さですでに科長補佐、つまり分析科のNo.2になるほどのバリバリのキャリアウーマンだ。
「なんだとは随分なご挨拶だこと」
「お偉い精霊省様がこんな危険なとこで何してんだ?
さっさと帰った方がいいんじゃねえの?」
「冷たいわね
相変わらずお役人が嫌いなのねあなた
大丈夫よ、“歴代最強の祓い士”に匹敵するほどの祓い士が目の前にいるんですもの」
「歴代最強……ねえ……」
「あら?
歴代最強の称号は欲しくない?」
「興味ねえな
俺が欲しいのはそういう厨二病的な称号じゃくて、悪霊を祓った、そして大事な人たちを守れたっていう結果だけだ」
「ほんと、変わったわねあなた
昔はあんなに……」
「んで、マジで何しにきたんだ?
”超常級悪霊警報“が出てるのは知ってるだろ?」
「もちろんよ
こんな東京のど真ん中で超常級悪霊が出るって聞いたから、せっかくだしどんなものか実際に一目見ておきたくってね……なんて
それはただの建前で、噂の例の子を一目見にきたのよ」
「・・・」
──例の子……ね。
「科長から聞いたわよ
会議であなた
『三大悪霊は全て俺一人で祓う!!
だから、あの子たちは巻き込むな!!』
って、大臣に喧嘩売ったらしいじゃない?
まったく……
そうやっていっつも自分一人だけ背負おうとするの、あなたの悪い癖よ白亜」
「……うるせえな
この問題は俺たち大人で片を付けるべきで、子どもを巻き込むべきじゃない」
自分でもわかっている。
他人には頼れない、何でも自分一人で解決しようとするのは俺の悪い癖だって。
だから俺はあの日──失敗を起こした。
大事な妹を、そして大事な親友を……
今でも、あの日のことを思い出す度に居た堪れなくなる。
「バァァァァァッドモォォォォォニィィィィィング♡
白亜ちゃぁぁぁぁぁん♡ ……
って、やぁだ! 凛花ちゃんもいるじゃないのぉ!!」
はあ……
うるさいのが次から次へと……
この、身長が二メートルを超え、ゴリゴリマッチョで、ピンク髪のツインテールに、ピンク色のタンクトップにピンク色の半ズボン、ピンク色のブーツを履いている、全身ピンク一色のこのゴリラ型・オカマ属性ド変態級悪霊……
もとい、珍獣の名前は裸舞愛淫。
こいつも中等部時代からの同級生で、現在は十文字学園高等部東京校の精霊科三年の担任をやっている。
「あら、愛淫
久しぶりじゃない
三ヶ月ぶりくらいかしら」
「久しぶり♡
そうね!白亜ちゃんが前に東京に出現した超常級悪霊を祓ったときの後処理以来だから、それくらいかも!
それにしても……
また一段ときれいになったんじゃない!?」
「あなただって、前よりも筋肉がテカテカに黒光りしてるわ
もはやゴリラ通り越してゴキブリみたい」
「きゃあ♡
もう、そんなに褒めないで♡」
二人は昔と変わらないやり取りを交わす。
「愛淫、精霊壁の強化は?」
「とっくに終わっているわ!
終わってなかったらここにいるはずないでしょう!?
……ところで、凛花ちゃん何でここにいるの?」
「ちょっとね……気になる人に会いにきたの」
「え!?んまっ♡男!?男ね!?
きゃーーーー♡
誰誰!?!?どんな男!?」
「まあ、男なのは間違いないわね」
そう言いながら凛花が胸元の谷間から望遠鏡を取り出し、覗きこむ。
「さーて、お目当ての子は……ってあら?
六人しかいないじゃない……
と思ったら、残りの三人もちょうど来たみたいね」
現場を見ると、神戸校の三人が遅れて桜蘭々たちと合流していた。
「それにしても……
今の精霊刀剣の使い手は、キャラ濃いのが集まったわね」
「精霊刀剣の使い手になれる資格って、“キャラが濃いこと”なのかしら?」
「それだったら愛淫がなってないとおかしいだろ」
「どういう意味よ!!」
愛淫が激しくツッコむ。
「凛花ちゃん、分析科ならどういう子が精霊刀剣の使い手に選ばれるのか、もうわかってるんじゃないの!?」
「残念だけど、今でもはっきりとはわかっていないわ
だけど……」
「だけど?」
「歴代、そして今の精霊刀剣の使い手には、“ある共通点”があることだけは判明しているわ」
「”ある共通点“?」
「そう……聞きたい?」
「もちろんよ!」
「白亜は?」
「いい、知ってるから」
「そう……
そういえば、あなたが祓い科の担任になってから随分経つものね
今までの子たちのデータを見れば……わかることか」
「それでそれで!?
”ある共通点“ってなんなのよ!?
やっぱりよくある、“霊力が化け物級に多い”とか、“実は隠された力を内に秘めている”とか、そういう”選ばれし子どもたち“的な!?」
「残念ながら、現実は残酷なものよ
歴代、そして現在の精霊刀剣の使い手の共通点
それは……」
「それは!?」
愛淫はまるで、サンタクロースからクリスマスプレゼントをもらい、中に何が入っているのか確かめるときの子どものように、目をキラキラと光らせ、とても興奮している。
「それはね……
全員──
“独りぼっち”なの」
「……え?」
「家族がいない
親も、兄弟も、誰も……
精霊刀剣に選ばれる子どもたちはみんな──独りぼっちなのよ」
「・・・」
『六月二日!!
白亜お兄ちゃん!
今日はどんな一日だった!?』
俺は左ポケットに手を入れ、切り忘れた動画を切るため、スマホの電源ボタンをそっと押した。
※キャラクター紹介
プロフィール
名前:肉丸 凛花
年齢:27歳
身長:172cm
体重:秘密
職業:精霊省(分析科・科長補佐)
性格:冷静
一人称:「私」
服装:黒髪・長髪ストレート
グレー色の童貞を殺すセーター
黒色のハイヒール
好きな食べ物:チーズ、ナッツ類(ワインに合うもの)
最近気になっていること:病気で寝込んでいる10個下の妹(肉丸 蓮花)の容体が悪化したこと
名前:裸舞 愛淫
年齢:28歳
身長:205cm
体重:120kg
職業:国立十文字学園高等部東京校精霊科三年担任
性格:脳筋
一人称:「私」「愛淫ちゃん」
服装:ピンク髪のツインテール
上衣:ピンク色のタンクトップ
下衣:ピンク色の半ズボン
靴:ピンク色のブーツ
好きな食べ物:タンパク質
最近気になっていること:来月開催されるボディビルコンテストでどのようなポージングをするか