表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/81

第四十二話 On Your Mark

“On Your Mark”

陸上の短距離走などでスタート開始前に選手に対して“用意”を促す言葉として使われ、意味もそのままで“用意”。

子どもの時、同じ題名のジブリ短編映画を金曜ロードショーで初めて見た時の感動は忘れられません。

キャラクターのセリフは一切ないのに引き込まれていく世界観。

チャゲアスさんの曲も最高なんですよね!

見ていない方はぜひ!

ほんの数分しかない作品ですが、未だに私の記憶に残っている名作です!


なんだろう……

銅蘭さん、そして金翔兄さんと一緒にいると感じる、この胸の奥がじんわりと温まるような感覚。

言葉にするのは難しいけど、心の底から安らげるような──そんな、説明できない安心感。


これが……“家族”……?


なんだろう……

この、大切な人たちと、もう二度と話せないと気づいた瞬間に襲ってきた、言葉じゃ言い表せないほどの喪失感。


これが……家族を失ったときの──“悲しみ”……?


なんだろう……

目の前にいる、紅い目をした──“人”とは呼べない“なにか”。

そいつを見ていると、どうしようもなく心の奥底から湧き上がってくる、抑えきれないドス黒い感情──


これが……“破壊衝動”の根源……?


ああ……なぜだろう。

なんだか、すべてが……どうでもよくなってきた。


何もしたくない。

何も感じたくない。

何のやる気も起こらない。

体に力が入らない。

心が命令を出しても、体はそれに反応しようとしない。

……体が、自分の意思を拒否しているみたいだ。


心と体がバラバラになるような、得体の知れない“脱力感”。


この感覚──

……そうだ、覚えてる。

最初に白亜先生と出会った、あの時も同じだった。


何もかもが色あせて、ただただ体が重くて……

世界のすべてが、どうでもよくなっていた。


あのとき先生に、今と同じ気持ちを話したら──


「それはマジでヤバいやつだぞ」


って、珍しく真剣な表情で、静かに注意されたっけ。

──あのとき先生は、この感覚のことを、なんて言ってた?


……そうだ。思い出した。

これは──


“自暴自棄” ──“自分の命を粗末にして、やけくそになること“


……頭では分かってる。

それがどれほど危うくて、危険なことかなんて──

もう何度も教えられてきた。

でも……それでも──

心も体も、まるで他人のものみたいに言うことを聞かない。

気力なんて、とうの昔に底をついてる。


ただ、ただ……

ひどく、重たくて。

どうしようもなく、疲れているんだ。


……ダメだ。

ダメだと、分かってるのに。

なのに……

体が勝手に、あの“なにか”がいる神社の本殿へと、吸い寄せられていく。

振り返る力も、抗う意志も、もう残ってない。


ああ……もう、ダメだ……

全てを投げ出して、楽になりたい。

だって……どうせ……

もう、この世界に──


おれの“居場所”なんて、どこにもないんだから。


この世のすべてが、どうでもいい。


だったらもう──いっそ。

目の前にいる“なにか”に、この身を預けてみようか。


それで、全部──


救われるなら。


─────────────────────────────────────


【東京都千代田区 東京駅 丸の内駅前広場】


「……がっ!ぎんがっ!!銀河っ!!」


……誰だ?

誰かが──叫んでいる……?


「銀河!!起きろ!!銀河!!」

「……は、はいっ!!」


誰かの声に引き戻されるように、おれは意識を取り戻した。

視界がぶれて、ゆっくりとピントが合う。

目の前に立っていたのは──


「謙一郎さん……?」


おれの顔を覗き込んでいた謙一郎さんは、安堵したように頷いた。


「良かった……無事か?」

「あれ……ここは……?」


辺りを見渡すと、視界に飛び込んできたのは──

おぞましい異形の姿。


──サンドワーム型・地属性超常級悪霊。


そしてその周囲では、数人の少年少女たちがその悪霊と激しい戦いを繰り広げていた。


「氷の叫び THE FIRST!!」


刹那さんが、氷の精霊両刀を渾身の力で悪霊の足元へと投擲。

氷の片刀身が地を貫いた瞬間、氷が十字に地を走ると、ぐるりと回り円を描き始める。

形成されるのは巨大な——


“氷の円形型霊法陣”


大氷(だいひょう)獄寒陣(ごっかんじん)!!!!」


霊法発動の刹那。

氷の円形型霊法陣が薄水色に輝き、ブワァァッ!!と冷気が炸裂。

辺り一帯の空気が凍てつく中、悪霊の巨体は一瞬にして氷塊へと閉じ込められた。……だが。


「パキッ……パキパキッ……」


音を立ててひび割れる氷。

そして──


「パキィンッ!!」


氷塊が、砕ける。

凍っていたはずの悪霊が咆哮と共に、原形を保ったまま姿を現した。


「そ、そんな……!これでも、足止めにすらならないなんて……!?

 さすが……わたくしの初体験を奪ったダーリンだけありますわ♡」


咆哮を上げた悪霊が、一直線に刹那さんへと突進していく。


「ふんっ!

 外がダメなら……中から毒漬けにして、じっくり痛ぶってやる!!」


萌華さんが跳躍。

空中で軽やかに一回転しながら、毒の精霊短刀を構えた。


「毒の叫び THE FIFTH!!」


毒の刀身が、悪霊の開かれた口を正確に捉える。

その瞬間──


煉毒(れんどく)刀身針(とうしんばり)!!!!」


毒の精霊短刀の柄から、毒の刀身が射出される。

即座に新たな毒の刀身が生成され、連続で次々と、機関銃のごとく連射される。


ドドドドドドドドドドッ!!


まさに“毒のマシンガン”。

無数の毒刃が、一直線に悪霊の口腔へと突き刺さる──はずだった。


だが──悪霊は瞬時に反応した。

刹那さんに向けていた動きをピタリと止め、代わりに全身を軸に、高速スピンを開始。


「キンッ! キンッ! キンッ!」


跳ね返される毒の刀身。

甲高い金属音を立てながら、ことごとく弾かれていく。


「んなっ!? ちっ……!」


萌華さんが悔しげに奥歯を噛みしめる。


「こいつ、今までの悪霊と違って──

 バカじゃない!!

 こっちの狙いを、完全に読まれた……!!」


悪霊の回転がさらに加速。

硬質な外殻が、全方位のシールドと化していた。


そして──凶暴な唸り声とともに、尾が振り上げられる。

全身の遠心力を集束させた巨大な尾が、大地の一撃のように、空中の萌華さんめがけて叩きつけられる。


「や、やばっ……!!

 空中じゃ避けられ──!?」


まさに、絶体絶命のピンチ。

そこへ──


「いっくよーーっ!!


 水の叫び THE FIFTH!!」


側にいた麻璃流さんが、すかさず地面に水の精霊分離剣を突き刺す。

水の片剣身が地を貫いた瞬間、水が十字に地を走ると、やがて鋭角を描きながら、水の線は形を成していく。

形成されるのは巨大な──


”水の菱形型霊法陣“


二頭龍(にとうりゅう)水陣(すいじん)!!!!」 


霊法発動の刹那。

水の菱形型霊法陣が青色に輝くと、雄叫びとともにそこから飛び出してきたのは、二頭の水龍。

怒涛の勢いで空を駆け、今まさに振り下ろされようとしていた悪霊の尾に喰らいついた。


「ぐ、ぐぅっ……!な、なんてパワー……!」


麻璃流さんの顔が一気に強張る。

二頭の水龍は懸命に尾を押さえ込んでいるが……力の差は歴然。


「っ……あぐ、がぁっ……!!」


麻璃流さんの足元にある水の菱形型霊法陣が、悪霊の力圧に耐えきれず沈み込み──

バキィッ……!と鋭い音を立てて、表面にひびが走る。


「ま、まずい……!これは……もう保たない……!!」


ギリッと歯を食いしばり、


「よし……!!」


麻璃流さんはなにかを決意すると──

全力で、肺が千切れそうなほどの大声を張り上げた。


「誰かーーーーッ!!!

 助けてぇぇぇぇぇーーーーーーッ!!!!」


戦場に響き渡る見事な、助けを求める叫びが炸裂した。


「青春の匂いを嗅ぎつけ、颯爽と現れるのはこの拙者……!

 

 影の叫び THE FIRST!!


 影縛殺操(えいばくさっそう)!!!!」


悪霊の足元に映っていた影が、瞬時にうごめく。

黒き影はまるで意志を持つように形を変え──巨大な“影の手”となって尻尾に絡みついた。


「ぐぐっ……重い……けど……これを乗り越えた先に……

 青春が待っているぅぅぅ……うぉりゃああああ!!」


是隠さんの魂の雄叫びと共に、影の手が全力で尻尾を横に逸らす。


ゴンッ!!……ドスンッ!!


逸らされた凶尾は──そのまま悪霊自身の顔面にクリティカルヒット。

衝撃で悪霊がバランスを崩し、盛大に転倒した。


「おおっ!

 ありがとう、ぜっくん!助かったよ!!」

「ふっ……女性が助けを求める時、颯爽と現れ、ピンチを救う

 ……そうか、これが青──」

「ーーーーーーーーーーッ!!」


突如、悪霊が咆哮。

次の瞬間──爆風のような衝撃波が是隠さんを直撃。


「うわああああああああああああああああッ!!!」


盛大に吹き飛ばされ、空中でくるくるスピンしていく是隠さん。


「ぜっくんーーッ!!」


すかさず、近くにいた天嶺叉さんが動いた。


「ウ、ウチに任せてください……!


 樹の叫び THE THIRD!!


 芽樹丸(がじゅまる)!!!!」


樹の精霊双刀──樹の双刀身が、瞬時に伸び始める。


まず、自身が吹き飛ばされないように、左手に握る刀を地面へ突き刺した。

すると、樹の片刀身は地中に根を張り、彼女の体をしっかりと支える。


そしてもう片方。

右手に握る刀の樹の片刀身が、ぐいっと前方へと伸びる。


「っ……!」


樹の刀身はツルのようにしなりながら伸びていき、空中で吹き飛ばされている是隠さんの腹部に、きゅっと巻きついた。


「ぎぎぎっ……!

 ウ、ウチだって……ウチだって、みなさんのお役に……!」


是隠さんが吹き飛ばされないように、必死に踏ん張る天嶺叉さんの姿があった。

そこへ──


「おっりゃあああああああ!!」


空中から現れた麻璃流さんが、水の精霊分離剣を構えて落下!


ズバァン!!


そのまま悪霊の口にカチ割る勢いで直撃!!

悪霊の咆哮が止まり、場に一瞬の静寂が戻る。


「い、今だ……!!」


天嶺叉さんは即座に巻きつけた樹の刀身を縮めて引き寄せ──

勢いよく是隠さんを自分の元に引き戻した。


「はあ……はあ……た、助かった……

 ありがとうございます、天嶺叉さん」

「えっ……?あっ……え、あの……」


是隠さんにお礼を言われた天嶺叉さんの頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。

まるで、ゆでダコのように。

頬から額へ、ついには頭のてっぺんまで真紅に染まりきった、その瞬間。


ボンッ!


……彼女の体のどこかで、何かが破裂したような音が響くと同時に、頭の上からは、ほんのり湯気が立ちのぼっていた。


「だーーひゃっひゃっひゃっ!♪

 やはりここは、未来の“狂戦士(バーサーカー)“(AXの最上位クラス)こと、おれっちの出番だな!!

 たとえ相手がチーターだろうが、この勝負に勝ったとき、ぼくは──

 現実世界の狂戦士(バーサーカー)となるのだあああああ!!

 だーーひゃっひゃっひゃっ!♪」

 

牙恩は大声で叫びながら、地の精霊大剣を構える。


「地の叫び THE FIRST!!」


まるで、ホームランを狙う野球選手のように、精霊大剣を横一閃──

バットのように、豪快に大剣を振りぬいたその瞬間──

ガラスの剣身が柄から分離。まっすぐ悪霊の足元の大地へと突き刺さる。

ガラスの剣身が地を貫いた瞬間、地が十字に地を走ると、ぐるりと回り円を描き始める。

形成されるのは巨大な──


“地の円形型霊法陣”


霊砂(れいさ)嵐牙陣(らんがじん)!!!!」


霊法発動の刹那。

地の円形型霊法陣が茶色に輝くと、天をも貫かんばかりの巨大な砂嵐が巻き起こる。


「キンッ!キンッ!キンッ!」


轟く砂嵐の内部から、鋭い金属音のような衝突音が次々に鳴り響く。

同時に、火花──確かに火花が、砂風の中でバチバチと弾け飛んでいた。

牙恩はその光景を見ながら、満面の笑みで叫ぶ。


「だーーひゃっひゃっひゃっ!♪

 これはただの砂嵐じゃないよーーーー!♪

 超細かく、そして鋭利な“ガラス”!♪ 同じく超細密で鋭利な“砂”!♪

 その二つだけで構成された、特別製の“砂嵐”だ!♪

 どうだ!♪まったく身動きがとれないだろう!♪

 だーーひゃっひゃっひゃっ!♪」


しかし、牙恩の思惑とは裏腹に──

超常級悪霊は、牙恩の砂嵐とは逆方向に、全身を猛烈な勢いで回転させる。

まるで巨大なグラインダーのように──


ブワアアアッ!!


一気に牙恩の砂嵐を切り裂き、掻き消した。


「ええええええーーーーーーッ!?!?」


牙恩は目をひん剥き、盛大に叫ぶ。


「うっそでしょおおおおおお!?!?

 おれっちの、特製の!特級の!特許出願中の砂嵐があああああ!?!?

 だーーひゃっひゃっひゃっ!♪

 ランク“ルビー”のおれっちがチーターに挑むのは、やっぱり早すぎたああああああ!♪

 やっぱり“マスタークラス”じゃないと無理なのかあああああ!?♪

 これはヤバいーーーー!♪

 誰かあああああッ!♪助けてえええええッ!!♪」


背後から迫る超常級悪霊のプレッシャー……すら、牙恩は本気で楽しんでいるように見えた。


「そのお役目は、貴方様のフィアンセである──

 このわたくしにお任せくださいませ、ダーリン♡」


颯爽と舞い降りたのは──刹那さん。

氷の精霊両刀を優雅に構え、華麗に戦場へと飛び出す。


「氷の叫び THE THIRD!!


 滅多(めった)大雪斬(だいゆきざん)!!!!」

 

氷の両刀身が、ビュオッと一気に伸び──

猛烈な雪嵐を伴って、悪霊の胴体を狙い撃つ。


だが──!


「カァンッ!!」


超常級悪霊の分厚い外殻により、氷の斬撃は弾かれた。


「……んもぉぉおおおッ!?

 硬過ぎますわ、このダーリン!

 これじゃラチがあきませんっ!」


振るった両刀を握りしめながら、刹那さんは唇を噛む。


「かといって、毎回全力で攻撃していたら──

 こちらの霊力が……もちませんし……」


額に汗をにじませながらも、彼女は踏みとどまる。


「うぅ……このままだと……ジリ貧ですの……!」


目の前の超常級悪霊はびくともせず、ずしん……と一歩を踏み出す。


まさにギリギリの攻防。

それでも──彼らは、彼女らは必死に戦っている。

まさしく、命がけの戦いが続けていた。


──そうだ。思い出した。


ぼやけていた頭の霧が、少しずつ晴れていく。


おれは、謙一郎さんや牙恩……

そして──今日初めて出会った東京校や神戸校の生徒たちと、共に戦っていたんだ。


今日が初対面の人もいるはずなのに、まるで長年の仲間のような連携で──

みんなは力を合わせて、この超常級悪霊に立ち向かっている。


「銀河、立てるか?

 お前はもう、このまま精霊壁から出て、白亜先生が来るまで待機してるんだ」


謙一郎さんの声に──おれは首を振った。


「だ、大丈夫です……!

 もう、頭痛は治まりましたから……!

 だから、おれも戦います!!」


そうだ──おれはまだ、終わっちゃいない。

こんなところで、引き下がってたまるか。


おれだって、祓い科の一員なんだ。


だったら──

果たさなきゃいけない、自分の役目がある!


おれは……

いや、おれたちは、この悪霊に勝たなきゃならないんだ!!


「……わかった

 だが、決して無理はするなよ」

「はいっ!」


おれと謙一郎さんは、再び戦場へと駆け出した。


「来いっ!!悪霊!!おれが相手だっ!!」

「えっ……!?銀河さん!?

 体はもう大丈夫なんですの!?」

「はい!大丈夫です!

 ご迷惑をおかけしてすみませんでした!

 おれも……皆さんと一緒に戦わせてください!!」


そうだ──

全力の一撃なら、おれの攻撃も通じていた。

なら今は、霊力がどうこう言ってる場合じゃない!


今のおれにできること──

今、おれがすべきことは──


“全身全霊で、戦い続けること”だッ!!


「火の叫び THE THIRD!!」


柄に、全霊力を込める。

爆音と共に炎が噴き上がり、まるで火炎放射器のように刀身が形成される。

──5メートルの巨大な火の刀身。


一刀(いっとう)──」


その瞬間だった。

超常級悪霊が尻尾を高く振り上げ──地面を思いきり叩きつけた!


ドンッ!!


「うわっ!!」

「きゃあっ!!」


激しい揺れ。

地震のような衝撃に、おれたちは体勢を崩す。

その一瞬を狙い──

悪霊は高速回転し、鋭利な尻尾を振り下ろしてきた!


「銀河っ!!」

「銀河さんっ!!」


……あっ。

──ダメだ。これは、避けられない……


──死ぬ。


「……?」


……あれ?

攻撃が──こない?


何かが肌に触れている。風の流れを感じる。

そして背中には、“誰かの腕”の感触──

……これは──

誰かに、抱き抱えられている?


おれは、恐る恐る目を開けた。


「……は、白亜先生!?」


そこにいたのは──

おれたち祓い科の担任、夜太刀やだち白亜はくあ先生の姿だった。


白亜先生は、おれを抱きかかえたまま超常級悪霊から一気に距離を取り──

そっと地面に下ろしてくれた。


「よく頑張ったな、銀河」


優しい声。優しい笑顔。

そして、あの大きな手でふわりと──おれの頭を撫でてくれた。


……なんだろう。

それだけで、涙が出そうになる。


いつもはネクタイをゆるめて、Yシャツの裾を無造作に腕まくり。

どこかルーズで、いい意味で“いい加減”な先生なのに──

今日はきっちりとネクタイを締め、スーツの襟も正され、全身に隙がない。

こんなきっちりとした身のこなしを見るのは……本当に、久しぶりだった。


「お前なら……

 いや、お前らなら乗り越えられると、信じてたよ」

「えっ……?」


乗り越えられる……?

なにを……?


そのときだった。


白亜先生の背後──

地鳴りのような唸り声。


サンドワーム型・地属性超常級悪霊が、空へ向けて大口を開いた。


またしても口前には──

あの、地の円形型霊法陣が三つ同時に展開されている!


──マズいッ!!

また、あの攻撃がくる!!


「は、白亜先生!!

 後ろっ!!後ろっ!!」


おれは慌てて指差し、叫ぶ。

だが──


「大丈夫

 あとは、俺に任せときな」


その声は、あまりにも静かで──

まるで、嵐の中心の“無風地帯”みたいだった。


白亜先生は、ズボンのポケットから白手袋を取り出し、静かに両手にはめる。

その動作ひとつひとつに、無駄がない。


そして──

右腰に携行していた剣の鞘から、柄をゆっくりと引き抜いた。


その柄は——特別な色をしていた。


皆の柄は“黒”を基調としている中で──

白亜先生のそれは、“紺”と“白”の美しいツートーン。


西洋の騎士剣を思わせるT字型の構造。

柄頭は丸く、鍔と握りの接合部には透明な精霊玉が、淡く光を帯びていた。


──そうか。これは……

“あの時期“以来だ……

白亜先生が戦っているところを見られるのは──


先生は両手で柄を構え、静かに目の前へと掲げた。


その姿は、どこまでも落ち着いていて──

だけど、確かに“強者の気配”を放っていた。


白亜先生が、静かに口を開く。

その声は、深く、穏やかで──澄みきっていた。

そして、静謐なる空気を裂くように──こう、喚んだ。


On(オン) Your(ユア) Mark(マーク)


 麒光麟(きこうりん)

※キャラクター紹介

プロフィール追加

名前:夜太刀 白亜

武器:光の精霊剣

召喚精霊:光の大精霊 麒光麟

服装:通常時 (ラフなスタイル)

   上衣:紺色スーツ(ボタン2つ)(袖をまくっている)

      ボタンをかけずに全開

      白色Yシャツ(第二ボタンまで外している)(袖をまくっている)

      紺色ネクタイ(緩めている)

   下衣:紺色スーツ

   靴:黒色の革靴

服装:戦闘時(きっちりとした着こなし)

   上衣:紺色スーツ(ボタン2つ)

      上のボタンだけ閉めている

      白色Yシャツ

      紺色ネクタイ

      両手に白手

   下衣:紺色スーツ

   靴:黒色の革靴

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ