第四十一話 チーター
プラチナクラスなのに度々チーターに出くわすのはなんなん?
【東京都千代田区 東京駅 丸の内駅前広場】
「なっ……!嘘だろ……!」
「すっごーーい!!このミミズ!!
あっという間に傷が治っちゃった!!」
「せ、せっかく皆さんの攻撃でバラバラにしましたのに……」
「チートだぁぁぁぁあああーーっ!!♪
こんなん絶対チートだよーーっ!♪
“オートエイム”!!“アンチリコイル”!!“ウォールハック”!!
きっと、なんでもアリのチーターだぁぁぁぁ!!♪
みんな逃げろーーっ!!♪ だーーひゃっひゃっひゃっ♪」
「それ全部、AXのチート行為じゃないっ!?バカなのっ!?
……ってか、こんなん本当に祓えるんですか……?」
「青春する暇も与えない
……そうか、これが超常級」
「え、えっと……ウチは、どうする?
次はなにをすればいい?考えて、考えて……!」
「みなさん、落ち着いてください!」
おれは咄嗟に、大声で叫んだ。
「傷が即座に修復されようが、やることは変わりません!
攻撃は通じています! あとは……
悪霊玉がどこにあるのか冷静に見極めて、破壊を——」
その瞬間だった。
言い終える前に、サンドワーム型・地属性超常級悪霊が、突如として大口を開けた。
口前に展開されるのは──“地の円形型霊法陣”。
しかも、それを──
三つも同時に展開していた!
「ほらーーっ!♪
やっぱりこいつチーターだーーーっ!!♪
霊法陣を三つも同時展開なんて、初めて見たぞーーっ!♪
だーーひゃっひゃっひゃっ♪」
「全員、気をつけろっ!!攻撃来るぞっ!!」
次の瞬間——
“地の円形型霊法陣”が三つ同時に茶色に輝いた。
そして、各霊法陣から放たれたのは──
超巨大な岩石。
まるで地鳴りのような轟音を伴って、三方向へ向かって一斉に射出される!!
ひとつは、神戸校へ。ひとつは、東京校へ。
そして、残る一撃が──おれたち八戸校へ、一直線に迫ってきた!!
「速いっ……!
これはもう、避けらませんわっ!!
氷の叫び THE SECOND!!
氷円陣!!!!」
「水の叫び THE SECOND!!
水円陣!!!!」
「樹の叫び THE SECOND!!
樹円陣!!!!」
神戸校の三人が、即座に自身の周囲へ半球状の防御壁を展開!
氷。水。樹。
三つの属性が、まばゆく光を放ちながら形を成す──!
だが——
バリンッ!!!!
『きゃああああああああっっ!!!』
──防御壁、崩壊。
三人の身体は、凄まじい衝撃波に吹き飛ばされ、空中を舞う!
地面へと叩きつけられ、砂煙が激しく舞い上がった──!
「萌華!!こっちだ!!」
「ちっ……!」
東京校の二人は、反射的に後方へ全速力で退避!
何とか直撃は回避──した、その瞬間。
「うわああああああああっ!!」
「きゃああああああああっ!!」
爆音とともに、大地がえぐれ、視界が茶色に染まる!
あまりにも強大すぎる攻撃の“余波”。
それだけで、二人の身体は簡単に宙を舞い、遥か彼方へと吹き飛ばされていった!!
「くそっ……!
銀河!牙恩!オレに近寄れ!!」
「はいっ!」
「はーいっ♪」
「風の叫び THE FIFTH!!
直線風!!!!」
風の三角形型霊法陣が展開され、瞬時に真上に向かって激しく吹き上がる上昇風が発生。
おれたちはその風に乗り、勢いよく跳ね上がる!
一気に高度を取り、直撃をギリギリで回避──!!
だが——
「……なっ!?」
サンドワーム型・地属性超常級悪霊が、その巨体を捻りながら回転!
遠心力を乗せた“尻尾の一撃”が襲いかかってきた!!
「ま、まさか……これが本命か!?最初の岩石は……フェイント!?
しかもこの図体でこの速度……ッ!!避けきれないッ!!」
おれたちは反射的に、精霊刀剣を構えて尻尾の一撃を受け止める──!!
だが——
「ぐあああああああああああッッッ!!!!」
凄まじい衝撃が、骨の芯まで突き抜けた!
握っていた精霊刀剣ごと、全身が弾き飛ばされる!!
「ゴホッ……!!」
背中からコンクリートの壁に叩きつけられる!
肺が潰れそうな鈍い音とともに、口から鮮血が弾け飛んだ。
──思考が、数秒だけ……黒く塗りつぶされる。
「いったたた……!
麻璃流さん、天嶺叉さん……大丈夫ですか?」
「は、はい……なんとか……
まさか“SECOND“が、こうもあっさり壊されるなんて……」
「ウ、ウチもっ……大丈夫です……まだ、戦えます……!」
右前方──
神戸校の三人が、崩れた地面に手をつきながらも、ふらつく体をどうにか支え、ゆっくりと立ち上がっていく。
服は破れ、体中に傷。息は荒く、膝も震えている。
それでも──
その瞳だけは、決して折れていなかった。
「いってて……!萌華、大丈夫か?」
「んもぉぉ〜っ……!いったいじゃない……!?
攻撃の余波だけでこの威力って……直撃してたら即死コースじゃないですか!?」
左前方──
東京校の二人も、瓦礫に足を取られながら、必死に立ち上がっていた。
制服は破れ、腕や脚には擦り傷と血が滲む。
呼吸は乱れ、足取りも覚束ない。
それでも、目を背けることなく、悪霊を睨み返していた。
決して、ここで崩れるわけにはいかないと──。
「はあ……はあ……謙一郎さん、牙恩
無事ですか?……」
「オレは……なんとか……
うまく急所は外せた……まだいけるぞ!!」
「だ、だひゃひゃひゃ!♪
いいね…… いいね……
おもしろく……なってきた!♪」
二人とも、すでに限界寸前の状態だった。
制服は裂け、全身に血と土がこびりついている。
だが、倒れそうな体を無理やり支え、歯を食いしばって──それでも、立ち上がろうとしていた。
たった一撃で、この有様……
これほどまでに追い詰められるなんて……
──ダメだ。
力の差が違いすぎる。
やっぱり……“超常級”に挑むには、まだ早かったのか……?
「・・・」
桜蘭々さんは、崩れ落ちた仲間たちを前にしても──
まるで凪のように、ただ静かに立ち尽くしていた。
瞬き一つせず、わずかな呼吸すら感じさせない。
その瞳は、まるで……何かを“見定めている”かのようだった。
──そうだよ……!
桜蘭々さんは、おれと同じ“学生”でありながら、“超常級”の悪霊を──
それも、たった一人で祓うことができるって聞いた。
だったら……
おれにだって……いや、おれたちにだって……!
──諦めてたまるかっ!!!!
おれは、血混じりの唾を地面に吐き捨てた。
砕けそうな膝に力を込め、地面に両手を突いて──
立ち上がろうとした、まさにそのとき──
“あの声”が──また、頭の中に響き始めた。
「こ……せ……!
こわ……せ……!
こわせ……コワセ……壊せ……ぶっ壊せ……!!」
「ぐっ……!」
声が、直接頭の中に響く。
脳が破壊されるような痛みが頭の内側を引き裂き、膝から崩れ落ちた。
──まただ……
また、あの声が……!
「銀河……?」
謙一郎さんの声も、ぼやけて遠い。
まるで世界が、ノイズに包まれていく。
なぜだ。
なぜ今なんだ──
なぜ、この最悪のタイミングで、また“それ”が来る!
幻聴。頭痛。そして──
“破壊衝動”。
「はあ……はあ……」
「壊せ!!壊せ!!ぶっ壊せェェェ!!!!」
──これまでで最も激しい。
これまでで最も凶暴な、破壊の欲望。
誰かが、おれの中に入り込み、おれの身体を──意識を、力づくで奪おうとしている。
──ダメだ!
この破壊衝動に身を委ねては……!
きっと、なにかが終わる。
取り返しのつかないなにかが……!
「くそっ!!」
意識が、人格が徐々に……徐々に闇に……
否──
“悪”に、染まっていく。
ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!
おれは四つん這いになり、自分の頭を地面に叩きつけた。
破壊衝動を抑えるために。理性を引き戻すために。
何度も何度も、地面に叩きつける。
「ちょ、ちょっと何してるんですか!? こんな時に!?
ま、まさか……あなたも多重人格者……?
え、ちょっと……八戸校って、多重人格破綻者の集まりなんです!?」
「だ、大丈夫ですか、銀河さん!?」
是隠さんが心配して駆け寄り、おれの肩に手をかける──その瞬間だった。
「壊せ……! 壊せ……!
目の前のすべてを、跡形もなく──ぶっ壊せェェェェ!!!!」
怒声のような叫びが、頭蓋骨を突き破らんばかりに反響した。
「はあ……はあ……くるな!!」
「え……?」
「話しかけてくるなっ!!
うるさい……うるさいうるさいうるさい!!」
「ちょっと!!
わたしはいいですけど、心配してる是隠先輩にその態度は──」
「いいから、萌華」
是隠さんが制止する。だが──もう、おれの耳には届かない。
──うるさい。
すべてが、うるさい……
光も、音も、声も──
この世界のすべてが、苛立たしいほどに……うるさい!!
額から滲む血を気にも留めず、おれはなおも頭を打ちつけた。
意識が、感覚が、おれという人間が──壊れていく。
「やめろっ!!
誰なんだ……!? お前はッ……!!
おれに……おれに構うなああああッ!!」
「ちょ、ちょっと……ドMおじさん!
この人どうなってんの!?」
「誰がドMおじさんだ!!
……オレもよくわからんが……戦闘中、たびたびあるんだ
“なにか”が……銀河の頭に直接語りかけてくるような現象が……」
「なにか?」
「だが、ここまでひどいのは初めてだ……!
銀河!! 聞こえるか!? 落ち着けッ!!」
「このままでは危険です……!
謙一郎さんは銀河さんを連れて、一旦退避を!!
あとは、わたくしたちで対応しますわ!」
「わかった!助かる!」
「はあ……はあ……」
──なんだ……?
今度は、“声”じゃない。
頭の奥に、情景が流れ込んできて──それは、再生される。
ここは……どこだ?
神社……?
目の前に建つのは、古びた本殿らしき建物。
だが──その周囲は異常だった。
木々も、鳥居も、灯籠も、すべてが焼け焦げ、黒煙が空を覆い尽くすように立ち上っていた。
まるで──この場所すべてが、地獄に焼かれている。
「うわあああああああああああッ!!」
境内の中央で、一人の少年が泣き叫んでいる。
その少年は──
全身に火傷を負い、皮膚は焼け爛れ、ところどころ剥がれ落ちている。
左腕には、血まみれでぐったりとした少女を抱え、右腕では──
半透明に透けはじめている少年を支えていた。
まるで、二人を守るように──
必死にしがみつき、地面に膝をついて叫び続けている。
そして──その周囲には、無数の“悪霊”。
どす黒い霊気をまとい、獣のような目を光らせながら……少年たちを、囲んでいた。
──あの人たちは……!?
何度も……何度も、写真で見た顔だ。
間違いない……!
あの少女は──銅蘭さん。
そして、今にも消えそうな少年は──金翔兄さん。
じゃあ──
二人を抱えて泣き叫んでいるあの少年は……
──おれ……?
「うわああああああああああああッ!!
許さねえ……
許さねえッ!!許さねえッ!!
てめぇら……てめぇら全員──!
ぐっちゃぐっちゃに……ぶっ壊してやる!!!!」
──その瞬間だった。
少年──中学生の制服を着た“かつての佐藤銀河”がそう叫んだ直後、目の前の神社本殿が、まるで合言葉に反応したかのように──
ギィ……と音を立てて、ひとりでに扉を開き始めた。
誰の手も触れていないのに。
風も、気配もないはずなのに。
それでも扉は──まるで“何か”に導かれるように、静かに、そして決定的に開かれていった。
──ぞくっ……!!
扉が全開した途端、全身に猛烈な寒気が走る。
皮膚の下の血が凍りつくような感覚──“悪寒”だった。
骨の芯まで届く、“何かに見られている”という確かな恐怖。
「な、なんだ……!?」
扉の奥──
その漆黒に満ちた空間に、“それ”はいた。
いや、いるどころではない。
“こっちを見ている”。
紅く、爛れたような目が──
真っ直ぐに、おれを“見据えていた”。
──人じゃない。
──これは、“人の目”じゃない。
言葉にはできない。
それでも、全身が本能的に理解している。
この存在は──この世にあってはならない“なにか”だ。
そして──
その“闇”の中から、確かに響いた。
鼓膜ではなく、心の核に突き刺さるような、重く濁った声。
この世の言語のはずなのに、人の世の“理”に属していない、異様な響きが──
「さあ……早く……
──我の名を喚べ、小僧」
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