第三十三話 浮気=・・・
恥ずかしながら大人になってから知ったのですが、小学校の冬の体育って地域によって内容が異なるみたいですね。
みなさまは小学生の時の冬の体育はなにをしておりましたでしょうか?
わたしが小学生の時の冬の体育は近くのスケート場まで歩いて行ってスケートしてました。(毎回ではありませんが)
楽しくて休憩せずずっと滑っていたのですが、毎回必ずと言っていいほど滑り終わると靴擦れができているのに気付いて痛みで帰りが大変になっていた記憶があります……苦笑
アドレナリンって怖いですね笑
【東京都千代田区 東京駅丸の内駅前広場】
悪霊の群れが、まるで泣きながら逃げる子犬のように、謙一郎さんのもとへ駆け寄って行く。
その表情は、「助けてくれ!」とでも叫んでいるかのように、怯えきっていた。
「もっと!もっとだ!!
みんなでもっと、オレを痛ぶってくれえええええッ!!」
謙一郎さんは、歓喜に満ちた声で叫ぶと、ずしゃっと立ち上がり、再び両手両足を広げて大の字。
あらゆる攻撃を受け入れようとする覚悟のポーズを取っていた。
その表情には、恐怖も躊躇も微塵もない。ただただ——至福。
まさに、ドMの極地。いや、悟りに近い何かのよう。
そこへ、一人の少女が駆けて行く。
豊かな胸元を激しく揺らしながら、鬼の形相で悪霊たちを睨みつけていた。
「んまっ……!ダーリンたちッ!?浮気!?浮気なのねッ!?
絶ッッ対に、許しませんわーーーーーーーッ!!」
激情のままに叫ぶと、少女は制服の背中に手を伸ばし、奇妙な形状の、刀の柄を引き抜いた。
それは、握り部分が全て精霊玉で構成された“I字型”の柄。
両端には美しい鍔がついており、ただの武器ではない気配を漂わせていた。
……やっぱり、間違いない。
あの制服にあの柄、そして『刹那さん』という名前──
“氷の大精霊・白氷狼”に選ばれし少女──
“氷の精霊両刀”の使い手──
神戸校三年、田中刹那さんだ!
そう確信したその瞬間、彼女が大地を揺るがすような声で叫ぶ。
「おいで!!白氷狼!!」
その名を叫んだ瞬間——
彼女の体内から、吹雪が舞い上がる。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
辺り一面が、白い闇に包まれる──ホワイトアウト。
視界を奪われ、音も消えたその世界に、ただひとつ響き渡るのは、けたたましい咆哮。
その声とともに、白銀の霧を裂いて現れたのは、氷で形作られた巨大な獣──狼だった。
その体躯はまさに、神話の狼“フェンリル”を思わせる神々しき獣。
一歩、また一歩と大地を踏みしめるたびに、足元は凍てつき、冷気が空気ごと支配していく。
神々しさと獰猛さを兼ね備えた気高き存在。
美しく、だが、どこか哀しげな眼差しで、刹那さんだけを静かに見つめていた。
やがて、その巨大な氷狼が、柄の精霊玉へと吸い込まれていく。
すると、透明色だった精霊玉が、薄水色に染まる。
次の瞬間──
柄の両端から突如として、大雪が吹き荒れ始めた。
空気を切り裂くように渦巻く雪嵐は、やがてその勢いを内側へと収束させていき──
凝縮された雪は、冷気と共に結晶化し、まるで彫刻のように美しく、そして鋭利に──“氷の刀身”を形作った。
美しく、冷たく、鋭利な刀身。
左に氷の刀身、中央に柄、右にも氷の刀身。
それはまさに、柄の両端から氷の刀身が生えた“両刀”。
刹那さんは、氷の精霊両刀を構えたまま、静かに、しかしどこか恍惚とした表情で呟きはじめた。
「人間・好き=結婚♡
悪霊・好き=祓う♡
悪霊・浮気=……ぶっ祓う」
ぞくっ──!
おれの背筋に、凍りつくような寒気が走った。
なぜならそのとき、刹那さんの瞳が──
太陽の光が一切届かない、深海の底のように光を失っていたからだ。
「あの目は……ッ!」
忘れるはずがない。
あれは──“ヤンデレの目”だ。
以前、牙恩の部屋で一緒に見たアニメを思い出す。
一見ただのハーレムラブコメ。
しかし、終盤──ヒロインがヤンデレ化して、主人公の首を取るというトラウマ展開。
タイトルはたしか……“School Month”
『銀河さんも浮気すると、こうなりますよ』
牙恩のあの真顔の忠告が、今さらながらズシンと重く思い出された。
今の刹那さんの目は、あのヒロインと完全に一致していた。
刹那さんは氷の両刀身から冷気を放出し、自身の足元に氷の道──“アイスロード”を展開していく。
その氷の道は、静寂の中にすべるように伸び、東京駅前をまるで氷上競技のリンクのように変えてゆく。
彼女はその上を、フィギュアスケーターのような華麗なフォームで滑り出した。
優雅でしなやか。
だが……何よりも恐ろしい。
その動きは美しさと同時に、確実な殺意を孕んでいた。
氷上の女王が、狩りに出たのだ。
その異様なオーラに反応したのか──
前方にいた10体のハリネズミ型・雷属性の上級悪霊たちが、一斉にびくついたように背を向け、逃走を図る。
即座に悪霊たちの背中には、“雷の円形型霊法陣が展開されてゆく。
『ひいぃぃぃッ!来るなぁああ!!』
とでも言いたげな、必死の形相。
そして次の瞬間——
“雷の円形型霊法陣” が黄色に輝くと——
バチバチバチバチバチィィンッ!!
無数の雷針が、怒涛の勢いで刹那さんめがけて襲いかかる!
だが——彼女は、まったく動じなかった。
刹那さんは、氷の両刀身からさらに多くの冷気を放出。
そのまま進行方向へと、斜めに傾けた巨大な氷の発射台を瞬時に生成すると、勢いよく駆け上がり——空へと跳躍!
雷針の嵐を、すべてかわしてみせた。
——宙を舞う刹那さん。
だがそこへ、悪霊たちはさらなる雷の追撃を放つ。
バチバチバチバチバチィィンッ!!
空へと向けて連射される雷針。
電撃の奔流が、彼女を呑み込まんと迫る!
しかし——
キンッ!キンッ!キィンッ!!
刹那さんは両手で氷の精霊両刀を旋回させ、空中で次々と雷針を弾き落としていく。
閃く氷の刀身と雷針が、空で交錯する。
まるで、天空に咲く氷雷の乱舞。
そのまま刹那さんは悪霊たちの中心に着地。
そして、静けさを貫くように——彼女の冷たく、美しい声が響き渡った。
「氷の叫び THE THIRD!!」
両足を軸に、高速スピンを開始する。
まるでフィギュアスケートの選手が氷上を舞うように——美しく、そして力強く。
「滅多大雪斬!!!!」
次の瞬間──
氷の両刀身が、音もなく鋭く、そして長く伸びた。
周囲半径10メートルの空間が、一瞬にして氷の風に包まれる。
その圏内にいた約100体の悪霊たちが、悪霊玉ごと──真っ二つに、断ち斬られていた。
静かに舞い落ちる粉雪。辺りに咲く、淡く儚い氷の華。
そして──その中心に立つ、なおも怒りを湛えたまま構えを解く、田中刹那さんの姿。
まるで、氷の女帝のように──冷たく、そして威厳に満ち──
堂々と、その場に仁王立ちしていた。
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