第二十九話 スポ根
みなさまお気に入りのスポ根(スポーツ根性)作品はなんでしょうか?
私は“スラムダンク”とか“メジャー”とかになりますが、最近だと“ブルーロック”にはまってます。
【東京都千代田区 東京駅丸の内駅前広場】
「さあ──
青春を始めよう」
そう呟いた是隠さんは、右手に握った影の精霊双短刀を、自らの足元にある影へと迷いなく投げつけた。
「影の叫び THE SEVENTH!!」
影の刀身が自身の影を貫いた瞬間、影が十字に地を走ると、やがてそれは緻密な文様を織り成していく。
形成されたのは──
“影の陰陽型霊法陣”
是隠さんは、まるで忍者が印を結ぶかのように、右手の人差し指と中指を眉間に添え、静かに囁く。
「集まれ、影たちよ──」
その言葉を合図に、周囲の建物が落とす影、駐車場に停められた車の影、さらには足元に転がっている小石の影までもが──
まるで意志を持つ生き物のように蠢き、霊法陣の中心へと吸い込まれていった。
すると──
影が集まるたびに、是隠さんの影は徐々に膨れ上がり、広がっていく。
そして──
是隠さんが、自らの影に突き刺していた片方の短刀を引き抜くと、逆手に構え直し、大声で叫んだ。
「自影操芸影夢!!!!」
霊法発動の刹那。
信じがたい光景が広がる。
是隠さんの影が──立ち上がったのだ。
「……でかっ!?」
思わず叫んでしまったが、無理もない。
目の前にそびえる影は、ビルの2階分にも届こうかという──
全長10メートルほどの巨体へと変貌していたのだから。
「くらえっ!!」
是隠さんが右手に握った短刀を振り抜くと──
巨大な影の右腕が呼応するように動き、悪霊へと渾身のストレートを叩き込んだ。
拳が突き刺さるようにめり込み、悪霊たちは空を舞うように吹き飛ばされていく。
「おらあっ!!」
続けて、左手の短刀を勢いよく振ると──
今度は影の左腕が動き、唸るようなアッパーが炸裂。
悪霊たちは宙に舞い、弧を描きながらさらに遠くへ吹っ飛ばされた。
なるほど……
この巨大な影は、是隠さんが操っているのか。
彼の両手に握られた、“影の精霊双短刀”によって。
その短刀の一振りごとに、影の巨人が呼吸するように動き出し、怒涛の連撃を繰り出していく。
──まるで、巨大な“影の人形”を、両手で操っているかのようだ。
「……あれ?」
ふと、脳裏に浮かんだ違和感。
この光景──どこかで見たことがある。
“両手になにかを持って、なにかを操作する”
この感覚は、単なる既視感じゃない。
見た──いや、体験したことがある気がする。
どこで?いつ?
おれは、霧のようにぼやけた記憶を──遡っていく。
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【四月中旬 青森県八戸市 国立十文字学園高等部八戸校 学生寮10階 1003号室(牙恩の部屋)】
「銀河さん!ジャンプです!」
「えっ!?
ジャンプって、どのボタンだっけ!?」
「Bボタンです!」
「オッケー!」
「わっ、敵が来ます!
Rボタンを連打してください! 連打で炎弾を連続発射できます!」
「こう……かな?」
「そうです!
その調子です、ナイス連打!!……やったーー!!
ステージクリア! 」
「ふぅぅぅ……
ゲーム、初めてやったけど……めちゃくちゃ面白いね!」
「気に入ってもらえてよかったですっ♪
銀河さんが操作に慣れてきたら──このソフトも一緒にやってみたいんですけど……いいですか?」
「どれどれ……
“It plays two”?」
「はい!これは、二人協力プレイ専用のアクションアドベンチャーゲームで……
世界中で高評価を得ている、日本でもめちゃくちゃ人気なゲームなんですよ!」
「へぇぇ、面白そうだね!
いいよ、やってみよう!」
「ほんとですか!?やったーー!!
ありがとうございます、銀河さん!!」
「ふふふっ♪」
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──そうだ! 思い出した!
前に、牙恩の部屋で一緒に遊んだ、あのゲームだ。
あれは確か……
“神天呑Switch”って言ったかな?
“両手にコントローラーを持って、画面上のキャラクターを操作する”
そうだ──
この攻撃は、あの巨大な影はまさに、あのゲームと同じ感覚なんだ!
是隠さんは影の精霊双短刀を振るい、自らの影を自在に操りながら、次々と悪霊たちへ猛攻を浴びせていく。
右フック、左アッパー、そして回転蹴りまで──
影の巨体が暴れまわるたびに、悪霊たちはなすすべもなく吹っ飛ばされていった。
あの光景を見たら──
ゲーム好きの牙恩なら、間違いなく発狂するだろう。
『うおおおーーー!!かっこいいーー⭐︎ズルいですぅーー!!
ぼくにも操作させてくださいぃぃーー!!』
そんな牙恩の叫びが、幻聴のように脳内で響いた。
「これが、お前たちの全力か!?」
是隠さんの声が戦場に轟く。
「違う!!そうじゃないことを──
拙者が一番よく知っている!!」
力強く、真っ直ぐな声。
彼は高く掲げた短刀を振り下ろし、悪霊たちを見下ろす。
「さあ、立て!!
立つんだ、悪霊たちよ!!」
そして、なぜか突然──演説が始まった。
「人生において、つまずくこと、くじけること……
そして、今のお前たちのように、地面に這いつくばることは恥ではない!」
是隠さんの声が、どんどん熱を帯びていく。
「本当に恥ずべきは──
そこから、立ち上がろうとしないことだ!!」
その叫びが、空気を震わせた。
「長い人生、誰だって一度は転ぶもんなんだ!
だから、いつまでも下を向いていてはいけない!
胸を張って、今こそ──立ち上がれ!!」
……すると、是隠さんの攻撃で吹っ飛ばされていた悪霊たちは、足をガクガクと震わせながらも、踏ん張って必死に立ち上がろうとしている。
“人”生、か……
でも悪霊って精霊だから、“霊”生?“精”生?……のような気がしなくもないが……まあ、どっちでもいいか。
「がんばれ!!
がんばって立ち上がるんだ!!
それでもだめなときは──思い出せ!!」
是隠さんは柄を握りしめて、さらに叫ぶ。
「仲間と一緒に、同じ釜飯を食べながら恋バナした、あの日の食堂──!
汗まみれ泥まみれになりながらも、競い合い高め合った、トレーニングの日々──!
そしてようやく掴んだ、レギュラーの座──!
最後には、苦楽を共にした仲間たちと勝ち取った、あの一勝──!」
影の背で仁王立ちしながら、彼は天に向かって叫ぶ。
「──そうだ、つまり!!
友情!! 努力!! 勝利!!
お前たちの魂に刻まれたその“青春パワー“を使って、立ち上がるんだーーっ!!」
……なぜか一人で白熱し、全力で悪霊たちを鼓舞する是隠さん。
だがその熱意が通じたのか──地面に倒れていた悪霊たちは、ゆっくりと、しかし確かに立ち上がっていく。
「そうだ!!
よくやった、お前たち!!
お前たちなら、きっと立ち上がれると──拙者は信じていたぞ!!」
そう言って、是隠さんが操る巨大な影が、悪霊たちをぎゅっと抱きしめた。
しかし、そのあまりの力強さからか、悪霊たちは悲鳴をあげている。
「どうだ!?これぞ青春!!
ハーーッハッハッハッハ!!」
是隠さんはすっかりハイ状態で、異常なほど嬉しそうに高笑いしていた。
「はぁ……
それは、“スポ根”って言うんですよ、是隠先輩」
近くで悪霊たちと戦っていた萌華さんが、見かねたように冷静なツッコミを入れると──
「ガーーーーンッ!」
是隠さんは激しくショックを受け、その場にズドンと崩れ落ちた。
「そうなのか……これも、青春ではなかったのか……
前に、精霊科の先生と生徒が、こんなやりとりをしていたのを見て……
てっきり、これが“青春”だと思って……真似してみたのに……」
「どうせ、愛淫先生の影響でしょ、まったく……」
呆れ顔の萌華さんが、ため息まじりに肩をすくめた。
「確かに、ひと昔前なら“スポ根”も青春のうちだったかもしれませんが……
いまの時代、根性論なんてもう古いですよ」
「そ、そうだったのか……
拙者は……この時代に追いつけていなかったのか……
まだまだ……青春への道のりは遠いな……」
是隠さん(と、その背後の巨大な影)は四つん這いになって、ひどく落ち込んでいる。
影の背中まで、しょんぼりと丸まって見えるのは──気のせいではない。
「さてっ!
是隠先輩が“青春ごっこ”で遊んでいる間に、残りの悪霊はぜ〜んぶ、わたしが──」
「そうはさせるかっ!!」
是隠さんはすぐさま立ち上がり、右手に握る影の精霊双短刀の柄──その柄頭にある精霊玉を、まるでゲームのコントローラーのボタンを押すように、親指で「ポチッ」と軽く押し込んだ。
──その瞬間。
「か、かっこいい……!」
思わず、声が漏れた。
感激と驚きが入り混じる。目の前で起きたその変化は、まるで映画のワンシーンのようだった。
なんと、影の両手が──“刀身”へと変形したのだ。
「さらば、青春」
そうつぶやいた是隠さんの声は、どこか寂しげだった。
次の瞬間、巨大な影が躍動する。
刀身に変わった両腕を振るい、悪霊たちに向けて怒涛の連続攻撃を繰り出した。
シュバッ、ズバッ──ッ!
影の斬撃が空気を切り裂くたび、悪霊の群れが光の粒となって消えていく。
その動きはまるで舞い踊るようでいて、確実に──正確に──敵を祓っていく。
わずか数秒のうちに、是隠さんと萌華さんに迫っていた脅威は、影の連撃によって一気に半減したのだった。
是隠の最後のセリフ「さらば、青春」に対する萌華の心の叫び
萌華「まだ、始まってすらいませんでしたけどね!」
後日譚とはなりますが、是隠は自らの“青春ノート”に×印を入れます。
どこを×にしたのかは下記の内容です。
5/2 高等部東京校 六階 格闘技場
精霊科三年の担任、愛淫先生(男)と精霊科の男子生徒たちが“格闘術”の訓練をしていた。
自身に向かってくる学生たちを愛淫先生は次々と吹っ飛ばし、地面に這いつくばった学生に対してなにやら大声を出して全身全霊で鼓舞している。
生徒たちが足を震わせながらも一生懸命立ち上がると、愛淫先生は涙を流しながら男子学生たちを褒め称え抱きついていた。
“相手を吹っ飛ばし、そこから一生懸命立ち上がった相手を称賛し、褒美に抱きつく”
……そうか、これが青春
是隠「これも青春じゃないのか……
ふぅぅぅ……難しいな、青春」




