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第二十八話 戯れ

お正月ボケがまだ抜けていませんが頑張って書いていきます!


【東京都千代田区 東京駅丸の内駅前広場】


「な、なんて攻撃だ……!」


あまりの凄まじさに、言葉を失ってしまった。

桜蘭々さんは、悪霊の軍勢をすべて祓い終えると、なおも雷の精霊長刀を握ったまま、戦場をゆっくりと見渡していた。


……かっこいい。

おれも、いつか──

あんなふうに、強くなりたい。


そう願った瞬間、現実が背中に圧し掛かる。


──カバ型・樹属性上級悪霊。

依然として、そいつがどっかりとおれの背中にのしかかっていた。

まるで根を張った大木のように重くて、身動き一つとれない。


“理想と現実のギャップ”


あまりにも開いたその差が、胸をきつく締め付ける。

情けなさと、悔しさで……思わず涙がこぼれそうになる。


「……くそっ!」


唇をかみしめ、悔し涙をこらえながら、全身を使ってもがく。

痛みを堪え、ジタバタと腕を振り、地面を這い、どうにかして悪霊を振り払おうと足掻く。


──惨めでもいい!見苦しくたって構わない!

泥にまみれながらだって、おれは絶対に強くなってやる!

そして、いつか必ず──あの人に追いついてみせるんだ!


心の中でそう叫びながら、ひたすらに、全力でもがき続ける。


そのとき。

ふと、右腕にのしかかっていた悪霊の前足が、一瞬だけ浮いた。

見逃すはずがない。

おれはすかさず、火の精霊刀を振り抜いた。


鋭い斬撃が悪霊の足を切り裂き、ようやくその重みが背中から消えた。


──動ける!


すぐに立ち上がり、荒い呼吸のまま周囲を見渡す。

そのときようやく、戦場を取り囲むように展開された、広範囲の精霊壁の存在に気がついた。


「桜蘭々さん、一般市民の避難は完了しました

 詩音さんが今、八戸校の人と一緒に、負傷者の治療にあたっています」


東京駅構内からまた一人、見慣れた制服を着た男子生徒が現れる。


制服の上衣は前を開けたまま、その下には「青春」と白文字で書かれた黒のパーカーを着ている。

頭には黒い鉢巻。銀色の額当てには、十文字学園の校章が刻まれていた。

さらに鼻から下をすっぽり覆う黒マスク……まるで、現代風の“忍者”のような風貌だった。


「あーーっ!ずるいですよ、是隠先輩!

 桜蘭々様への報告は、わたしがしたかったのにーーっ!」


すると、今度は別の声が響く。

また一人、東京駅構内から、小柄な少女が同じ制服姿で現れた。


黒髪のサイドテールには、紫色のリボン。

制服の前は彼と同じく開けたままで、その下には桜色のパーカーを着ている。

ぱたぱたと軽やかに駆け寄るその姿は、戦場の空気を一瞬やわらげるような、無邪気な可愛らしさがあった。


おれのすぐそばにいた、50体ほどの上級悪霊たちが、あの二人に気づいた瞬間──

ドッと一斉に、そちらへ向かっていった。


それに気づいた二人は、すかさず腰に手を伸ばす。

男の子は両手に、女の子は右手に、それぞれ精霊刀剣の柄を握りしめていた。


「桜蘭々様、お下がりください

 あとは……

 是隠先輩に、すべて任せましょう」

「……えっ?」


『是隠先輩』と呼ばれた男の子は、きょとんとした顔で女の子の方を振り返った。


「そこは……『あとは、わたしたちにお任せください!』……的な、流れじゃないのか?」

「なに言ってるんですか、是隠先輩

 わたしはこれから、お疲れの桜蘭々様のマッサージで忙しいんです!

 今日だけでもう三戦目ですよ、三戦目!」

「じゃあ、なんで柄を取り出したんだよ!?」


二人は、迫ってくる悪霊の群れなどそっちのけで、唐突に揉め始めた。


「そんなの決まってるじゃないですか

 この柄を使って……桜蘭々様にマッサージするためですよ!」

「精霊刀剣をそんな使い方するやつ、初めて見たぞ!!」

「どんな道具にも、応用の使い方はあるものです

 ほら、来ますよ!行った行った!」

「ふーん……」


男の子は遠い目をした。


「な、なんです?その目は?」

「まっ!拙者の方が!萌華よりも!優秀な後輩だと!

 桜蘭々さんにアピールする、絶好のチャンスだな!」

「なっ、なんですと!?

 前言撤回!!やっぱり是隠先輩は下がっててください!

 後は、わたしが全部祓いますから!!」


そのとき、桜蘭々さんの鋭い声が飛ぶ。


「ほら、二人とも!

 戯れるのはそこまでにして、構えろ!来るぞ!」

「そ、そんな……!桜蘭々様……!」


女の子は顔を真っ赤にして、桜蘭々さんを見つめる。


「”戯れて“だなんて……!

 こんな忍者もどき、わたしの眼中にありません!

 わたしと戯れていいのは、この世界でたったお一人……

 そ、それは……」


急におどおどし始めたかと思うと、今度はもじもじと恥ずかしそうに身体を揺らしながら、何度も桜蘭々さんの方をチラ見していた。


「先手必勝──

 やるぞ!!影鯨(えいげい)!!」


突然、男の子がその名を叫んだ瞬間——

彼の体内から、奔流のような影が一気に噴き出した。


「ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


大地を震わせるような咆哮が、空間を切り裂く。

やがて、影がうねり、形を成す。浮かび上がるは、巨大なる一頭の鯨。

それは、全身が影で構成された、巨鯨。

ただそこに“ある”だけで、周囲の空気が押し潰されるような圧迫感。

見る者の心を、無言の威圧で圧倒する存在。


やがて、巨鯨は彼の手に握られた柄へと吸い込まれていく。

すると、透明だった精霊玉が“紺色”へと変色。


次の瞬間──


二本の柄から、影が一気に噴き出した。

それは渦を巻くように舞い上がり、徐々に収束しながら、黒く、しなやかに、刀身の形をとっていく。

やがて、刃先だけが鋭く仕上がり、影の中に煌めく一閃を帯びた。

こうして、二振りの“影の刀身”を、形作った。


「あれが──“影の精霊双短刀”

 ……ということは、彼が“影の大精霊・影鯨”に選ばれた──中村是隠さんか!」


以前、白亜先生から聞いたことがある。

東京校には、おれと同学年で、しかも男の祓い士がいるって。

そのときは本当にびっくりして、すっごく喜んだのを、今でも鮮明に覚えている。


──できれば、友だちになりたいな……


そんなことを思っていると、隣で、女の子が柄を逆手に構え始めた。


「あっ!卑怯だ、是隠先輩!

 わたしの方が優秀な後輩であることを、今ここで、証明してみせる!!

 やるよ!!毒吐乃大蛇(どくとのおろち)!!」


今度は、女の子がその名を叫んだ瞬間——

彼女の体内から猛毒のガスが噴き出す。

たちまち視界は霞み、広場一帯が濃厚な毒の霧に覆い尽くされた。


「ーーーーーーーーーーーーーーー !!!」


地鳴りのような咆哮が広場に轟く。

そして、毒霧の中から姿を現したのは──

全身が猛毒で構成された、八つの頭と長い尾を持つ巨大な大蛇。

その皮膚はねっとりと光り、汗のように猛毒の液体が絶え間なく滴り落ちている。

一歩踏み出すたび、植物は枯れ、空気は腐り、世界そのものが毒されていく。


やがて、巨蛇は彼女の手に握られた柄へと吸い込まれていく。

すると、透明だった精霊玉が“紫色”へと変色。


次の瞬間──


柄から凄まじい勢いで猛毒の液体が噴き出す。

液体の毒は次第に凝固し、結晶のように硬化していくと“毒の刀身”を形作った。


「彼女が“毒の精霊短刀”の使い手……

 “毒の大精霊・毒吐乃大蛇" に選ばれた──小林萌華さん!」


──思わず、あのときの白亜先生の言葉が脳裏に蘇った。


『いいかみんな、向こうに行ったら──萌華には気をつけろよ!

 油断してると、殺されるぞ!

 おれなんか、何度あいつに毒殺されかけたことか……

 昨日もな、東京校の祓い科の教室に入ろうとしたら……なんと!

 教室の扉を開けると、毒液入りバケツが落ちてくるっていうトラップが仕掛けられてたんだぞ!

 ああ……いま思い出しても、ゾッとする……

 是隠が教室の扉に「危険」って貼り紙してくれてたから、回避できたけどな

 ほんと、あいつは小悪魔みたいなやつで……

 ──まあ、そういうところ含めて、かわいいんだけどな♪

 おれにそんなことしてくれるの、あいつくらいだからさ

 それはそれで楽しいんだ♪

 だからみんなも、仲良くしてやってくれよな!

 根は、悪い子じゃないから』


白亜先生は、あのとき満面の笑みで、心の底から楽しそうにそう言っていた──けれども。

実際に目の前で見る彼女は、そんな“毒液トラップ”なんて仕掛けるようなタイプには、到底見えなかった。

どちらかといえば、小悪魔というより──

天使のような、あどけなくて愛らしい顔立ちをしていたのだから。

※キャラクター紹介

プロフィール追加

名前:中村 是隠

髪型:黒色短髪

服装:制服上衣の前はボタンをかけずに全開

   (以前はちゃんと着ていたが、桜蘭々に続き後輩の萌華も前を全開にして着ていたため、なんとなく自分も周りに合わせてそういう着方にした)

   その下に白色縦文字で“青春”と書かれた黒色のパーカー(前にチャック・ポケット無し)を着ていてフードを被っている

   頭には黒色の鉢巻、銀色の額当てには十文字学園の校章が刻まれている

   黒色マスク

   (忍者をイメージ)


名前:小林 萌華

髪型:黒色長髪・サイドテール

   紫色のリボンで結んでいる

   (小悪魔をイメージ)

服装:制服上衣はボタンをかけずに全開

   (単なる桜蘭々の真似)

   その下に桜色の犬耳フード付きパーカー(前にチャック・ポケット有り)を着ている

   (桜色は桜蘭々・犬は従順を表している=桜蘭々に従順という意味)

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