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番外編 ⭐︎Happy New Year⭐︎〜八戸校編〜

【注意!!】

本編とは全く関係ありませんのでご注意を!!


※今話は、国立十文字学園高等部八戸校祓い科二年、佐藤銀河の視線でお送りいたします。


【青森県八戸市 長寿山】


「正月の叫び THE FIRST!!」


おれの持つ“火の精霊刀”、その柄から噴き出す炎が、火炎放射器のような轟音を響かせて空へと突き上がる。

渦を巻きながら上昇する炎は、やがて上空で凝縮し、巨大な火球──まるで太陽のような火の塊へと姿を変えた。


「初火の出!!」


おれは真上から精霊刀を一気に振り下ろす。

火球はその動きに呼応し、唸りを上げながら弧を描き、鏡餅型・氷属性上級悪霊めがけて一直線に降下していく。


「ぎゃあああああっ!!」


直撃を受けた悪霊は、凄まじい悲鳴をあげながら、灼熱の炎に包まれた。

焦げる臭い、立ち昇る熱気、そして……どこか香ばしい。焼き餅のような匂いがふわりとあたりに漂う。


パキッ……パキッ……パキンッ!


ガラスが砕けるような鋭い音が響く。

“悪霊玉”が粉々に砕けると、鏡餅の姿を保ったままの悪霊の体が、ゆっくりと透けていった。

やがて完全に透け切る前に、ふいにこちらを見て──にっこりと笑った。


「みんな、いいかい!?」


突然の問いかけに思わず耳を傾ける。


「お正月ってね、火を使う料理はなるべく避けた方がいいんだよ

 ……え? なんでかって?

 それはね……煮物とか火を使う料理は、“灰汁”が出るでしょ?

 “灰汁=悪”ってことで、縁起が悪いってされてるんだ!

 それに、台所には火の神様──荒神様がいるって言われててね

 “新年くらいはゆっくりしていただこう”って意味も込めて、元旦にはなるべく火を使わないんだよ

 だから、おせち料理は大晦日のうちに全部準備しておくのが昔からの知恵なんだ

 それともうひとつ──

 餅を食べるときは、喉に詰まらせないように気をつけようね〜!」


まるで正月に流れる教育番組のような豆知識をひとしきり披露すると、鏡餅の霊魂は空へとふわりと浮かび、そのまま光の粒となって消えていった。


「良き、お年を」


キンッ!


火の精霊刀を静かに収める音が、冷たい冬の空気に澄んで響いた。


「へええ……なるほどなぁ……」


おれは感心したようにつぶやく。


「そういえば、謙一郎さんが前に言ってたっけな……


『いいか?銀河

 三が日は台所に立たなくてもいいように、保存が利いて日持ちする料理を、大晦日までに全部作っておくんだぞ!』


 ……って!まさかあれ、ちゃんと意味があったとは……」 


空を見上げ、先ほど霊魂が消えた方角へと視線を向ける。


「鏡餅さん、いい情報を教えてくださってありがとう!」


おれはぺこりと、丁寧に頭を下げた。


「……さて、他の二人は大丈夫かな?」


周囲を見渡すと──

右方で牙恩が、龍型・水属性上級悪霊と対峙していた。


「も〜う、い〜くつ、寝〜る〜と〜♪」


“ノーマルモード”に飽き、“正月モード“となっていた牙恩は──

蛇の着ぐるみ姿で、正月ソングを鼻歌まじりに歌いながら、軽やかに踊っていた。


──またか。

前回のクリスマスに続いて、今回も……

コスプレするなら、せめて事前に誘ってほしいんだけどな……


「お正月〜♪……の叫び THE SECOND!!

 

 蛇土史(へびどし)!!」


牙恩が構えたのは、“地の精霊大剣”。

その“ガラスの剣身”が波打つように変形し、ぐにゃりと蛇のような形状へと姿を変えていく。

クネクネと地面を這うように進んだ土蛇の剣身は、悪霊へと迫っていく。

そして、目の前に到達すると──大きく口を開き、そのまま勢いよくかぶりついた。


パキンッ!


悪霊の核──悪霊玉が砕ける音が響く。

龍の姿をしたままの悪霊は、ゆっくりと透けはじめる。

が、その顔にはなぜか……満面の笑みが浮かんでいた。


「みんな〜!

 辰年はどんな一年だったかな!?

 良かった年にせよ、そうじゃなかった年にせよ……巳年は最高の年にしてくれよな!!」


そう言い残すと、龍の霊魂はそのまま空へと舞い上がり、光の粒となって消えていった。


……そうか。

そういえば、去年……2024年は辰年だったっけ。


干支の順番ってたしか、

子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥……だったかな?


ということは──

2025年は巳年。だから牙恩は蛇のコスプレを……そういうことか。


「良き、お年を」


キンッ!


鞘へと納められた大剣の音が、澄んだ冬空に響き渡った。


「……さてと、あとは謙一郎さんか」


再び視線を巡らせると、左方で謙一郎さんが──

門松のコスプレ姿で、樹属性の上級悪霊と対峙していた。

相手は、なんとも縁起のよさそうな……獅子舞型の悪霊。


「正月の叫び THE THIRD!!


 厄除(やくよ)風祓(かぜばら)い!!」


謙一郎さんが放ったのは、“風の精霊手裏剣”。

投げられたそれは、唸るような風音を響かせながら回転し、風の刃と化して獅子舞の悪霊を一閃。

美しい軌道を描きながら、悪霊の胴体を見事に真っ二つに斬り裂いた。


パキンッ!


悪霊玉が砕ける音が、冬空に澄んで響く。

獅子舞の姿を保ったままの悪霊は、ゆっくりと透けはじめ──なぜか、くるくると軽やかに踊り出す。


「えっ?なんで獅子舞が、正月に人の頭を噛むのかって?」


またも始まった、突然の問いかけに思わず耳を傾ける。


「それはね──その人についた邪気を食べるため!それは縁起がよいとされているからだよ!

 だからみんなも獅子舞に頭を食べられそうになったら、怖がらずに自分から頭を差し出してくれよな!」


獅子舞型の悪霊は、しっかりと、親切に説明してくれた。


……うん、もう驚きはしない。

しゃべる鏡餅、しゃべる龍。そして、しゃべる獅子舞。

おれはもう、前回のクリスマスで学んだのだ。


──イベントの日は、なにが起こっても不思議ではないと!


そんなことを考えているうちに、獅子舞の霊魂は空へとふわりと舞い上がり、そのまま光の粒となって消えていった。


「良き、お年を」


キンッ!


謙一郎さんは、静かに風の精霊手裏剣を鞘に収めた。


「よしっ!

 新年早々、まさか悪霊が出るとは思わなかったけど……無事に祓えてよかった!」


おれはそう言いながら、肩の力を抜いた。


時計を確認すると、日付はすでに1月1日。

つまり、今日は──


元日。


スマホの画面に表示された時刻は、午前5時57分。

“元旦”という言葉は、元日の午前中のことを指すから、今この瞬間こそがまさに“元旦”だ。


ここ、八戸市の街中からも、数日前のクリスマスが終わった翌日にはすっかり正月ムードへと様変わりしていた。

あちこちからお正月ソングが流れ、スーパーでは色とりどりの正月フードが並び、玄関先には門松や盆栽が飾られていた。


おれたちを囲っていた精霊壁が解除されると、眠そうな顔をした精霊科三年の樹々吏さんが、ふらふらとこちらへ歩いてきた。


「まったく……新年早々、悪霊が出るなんて……

 ふぁあぁ〜……ねむ……早く帰りましょ……」


大きなあくびをひとつ。

目をこすりながら、ぼそっとつぶやく。


「あの、みなさん

 よければなんですけど……せっかくですし、初日の出を見ていきませんか?

 さっき調べたら、八戸市の今年の初日の出の予想時刻は、6時57分らしいので!」


おれは、ふと思いついて提案してみた。


「へぇ〜、そうなの?」

「ってことは……あとちょうど一時間ってとこか!

 山頂までもうすぐだし、せっかくだから見ていこうぜ!」

「そうですね!

 さすが銀河さん!グッドアイデアです!」


仲間たちはそれぞれに頷き、少し笑顔を見せながら応えてくれる。


こうしておれたちは、スマホのライトで足元を照らしながら、静かに山頂を目指して歩きはじめた。


─────────────────────────────────────


【青森県八戸市 長寿山山頂】


山頂に辿り着き、街並みを見下ろすと──

きれいな夜景が広がっていた。


「初日の出まで、まだあと40分もあるのか……

 ねえ!眠気覚ましに、なにかゲームしようよ!?」


あまりの眠さのせいか、目が完全にガンギマリな樹々吏さんが、テンション高めに提案してきた。


「いいですね!

 でも、正月のゲームって言ったら、どんなのがあるんですかね?」

「定番はやっぱり“凧揚げ”とか、“羽根つき”とか、“めんこ”とかだけど……この暗い中でやるのは難しそうね

 そもそも道具もないし……この状況でできる正月ゲームといえば……

 そうだ!“福笑い”なんてどう!?」

「福笑い?」

「そう!”福笑い“!知らない?」

「もちろん知ってますよ!

 “ひょっとこ”とか“おかめ”の顔の輪郭が描かれた紙の上に、目や口とかのパーツを、目隠しした状態で並べる遊びのことですよね?」

「それそれ!その福笑い!」

「でも今、紙もペンも何もないですけど……どうやってやるんですか?」

「ふっふっふっ……!

 いまの時代、紙じゃなくても、スマホアプリでできるのだよ、銀河くん!」


樹々吏さんは得意げに言いながら、どこからか取り出したタブレットを構えた。


「正月にみんなでやろうと思って、福笑いのアプリ入れておいたの!このゲームすっごく面白くてね!

 何が面白いって──」


パシャッ!


樹々吏さんが急にタブレットで謙一郎さんの写真を撮った。


「な、なにするんだ、樹々吏!?」

「まあまあ、見てて……

 ほら!できた!謙一郎くんの顔!」


タブレットの画面には、確かに謙一郎さんの顔の輪郭が表示されていて、端っこには目や鼻などの顔パーツが並んでいた。


「じゃあ、まずは……牙恩くんからやってみよっか!

 はい、目隠し!」


またもどこからか取り出したアイマスクで、樹々吏さんが牙恩の両目を塞ぐ。


「牙恩くん、手ぇ出して!」

「は、はい……」


牙恩はおそるおそる右手を差し出す。

樹々吏さんは牙恩の手にそっと自分の手を添えると、タブレットの画面端っこにある、顔パーツへと導いた。


「いま牙恩くんが、人差し指で触っているのが鼻のパーツね!

 それじゃあ、動かしてみて!」


牙恩はタブレット上で右手人差し指を滑らせ、謙一郎さんの鼻パーツを動かす。


「こ、ここですかね?」

「それ言ったらつまらないじゃない!答え合わせは最後最後!

 はい、じゃあ次は右目!」


牙恩は各パーツを一つずつ慎重に動かしていく。

そして──


「あーはっはっ!!いいよ牙恩くん!!おもしろい!!」

「くっ……!こ、これは……!?」


タブレットの画面を見ると、口の位置に鼻があり、あごの位置に口。

さらに、両目の位置に両耳がついていて、極めつけは、顔の輪郭の外に両目が置かれている。

とても人間とは思えない、珍妙な顔が完成していた。


「あははははっ!!ダメだ、これはおもしろすぎるっ!!

 牙恩、わざとやっただろ!!」


おれはもう笑いをこらえきれずに吹き出した。


「……よし、牙恩、銀河

 あとでオレの部屋に集合な」


謙一郎さんがむっとした顔でおれたちを睨んでくる。


「まあまあ、そう怒らないの謙一郎くん!

 まだ初日の出まで時間あるし、ちゃんと平等にみんなの顔でやるから!

 ……ってことで、次は牙恩くんの顔でやってみよっか!」

「えっ!?ぼ、ぼくですか!?」


パシャッ!


間髪入れず、樹々吏さんが牙恩の顔写真を撮った。


──しばらくおれたちは、樹々吏さんのタブレットで福笑いゲームを楽しんでいた。

だが、やがて空が白み始めたのに気づき、ゲームを切り上げる。

そして──初日の出の予想時刻、午前6時57分を迎えた。


「あっ!きました!」

「きれい……」

「絶景ですね……」


温かな光とともに、地平線の彼方から太陽がゆっくりと顔を出す。

その光が八戸市全体を照らし出し、真っ白な雪はまるでダイヤモンドのように、太陽の反射でキラキラと輝き始めた。

街は白銀の雪景色から、幻想的な光の世界へと変わり、ずっと見ていたくなるほどの美しさが目の前に広がった。


「……お、おい!あ、あれ!見てみろ!」


なにかを見つけて驚いた謙一郎さんが、空の一角を指差す。

その先には、金色に輝く宝船に乗った──


七福神の姿があった。


『し、七福神!?』


おれたちは声を揃えて驚く。


「な、なんて縁起のいい……そ、そうだ!?

 今のうちにお祈りしなきゃ!!」

「ぼ、ぼくも!!」


樹々吏さんと牙恩は、あわてて両手を合わせ、目を閉じる。


「流れ星じゃあるまいに……でも、オレもお祈りしとこ!」


謙一郎さんもつられて両手を合わせ、目を閉じた。


「お、おれも!」

 

そうしておれたちは、八戸の空を飛ぶ七福神に向かって、それぞれ願いを込めて祈る。


──どうか、みんなが良き一年を過ごせますように!!


それがおれ、佐藤銀河の──

新年最初の“心の叫び”であった。

Happy New Year!!

みなさまにとって、良き一年になりますように⭐︎

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