番外編 ⭐︎Merry Christmas⭐︎ 〜八戸校編〜
【注意!!】
本編とは全く関係ありませんので、ご注意を!!
※今話は、国立十文字学園高等部八戸校祓い科二年、佐藤銀河の視線でお送りいたします。
【青森県八戸市 某所】
「クリスマスの叫び THE FIRST!!」
おれは、“火の精霊刀”を構え、地を蹴る勢いのまま、下から上へ鋭く振り上げた。
「散火九蝋巣!!」
次の瞬間──
“火の刀身”から、無数の小さな火玉が散っていく。
赤橙の光が空気を切り裂き、サンタクロース型・火属性上級悪霊の周囲に立てられた九本の蝋燭に、次々と火を灯していく。
ぼっ、ぼっ、ぼっ、と火がつくたびに、蝋燭の蝋が一斉に高熱で溶け出す。
溶けた蝋は、まるで蜘蛛の巣のように地を這い、悪霊の足元へと広がっていった。
──そして届いた瞬間。
ズズズッ!
蝋は瞬時に硬化し、まるで足枷のように悪霊の動きを封じ込めた。
「Merry Christmas!!」
おれは叫びながら火の精霊刀を逆手に構え、跳躍とともに真っ直ぐに振り下ろす。
狙いは、悪霊の核である──“悪霊玉”
パキンッ!
ガラスが砕けるような鋭い音が響いた。
火の刀身が悪霊玉を貫き、その瞬間、悪霊の身体は淡く光りながら、ゆっくりと透明になっていく。
──そして、消えゆく間際。
悪霊はサンタクロース姿のまま、おれの方を振り返り、にっこりと笑った。
「ホーッホッホッホ!
みんな、良いクリスマスを!
Merry Christmas⭐︎」
その声を残し、霊魂は空へと舞い上がる。
雪が舞うような軌跡を描き、やがて光に包まれ、静かに消滅した。
おれは残された静寂の中、刀をくるりと回し──
「良き、Christmasを」
キンッ!
小気味いい金属音と共に、火の精霊刀を静かに鞘へと納めた。
「……さて、牙恩は大丈夫かな?」
周囲を見渡すと──
左方で牙恩が、トナカイ型・地属性上級悪霊と対峙していた。
「ジングルベ〜ル♪ジングルベ〜ル♪鈴が〜鳴る〜♪」
──なんだ、あれは?
“ノーマルモード”に飽き、“クリスマスモード”となっていた牙恩は──
なぜか、トナカイの着ぐるみに身を包み、ノリノリで踊りながらクリスマスソングを歌っていた。
──あれ?
さっきまで制服だったよね?いつの間に着替えたんだ?
「今日は〜♪楽しい〜♪クリスマス♪……の叫び THE SECOND!!
土中猪!!」
牙恩はそのまま、猪のような低姿勢で地を蹴り、猛然と突進!
大地を揺らしながら一直線に悪霊へと突っ込み、“地の精霊大剣”をその胴体に突き刺した!
パキンッ!
乾いた破砕音。
悪霊玉が砕け、悪霊はトナカイ姿のまま、ゆっくりと透明になっていく──が、
その顔は、なぜかめちゃくちゃ不機嫌だった。
「くそサンター!
去年のクリスマスの給料、深夜手当付いてなかったぞーー!!
25%の割増を舐めるなああああ!!労基に訴えてやるぅぅぅぅ!!」
……なんか、めっちゃ文句言ってる。
トナカイも人間と同じで、いろいろと労働問題があるんだな……って、あれ?
──えっ!?
今、トナカイがしゃべったぞ!?!?
……おれが知らなかっただけで、しゃべるトナカイも存在するのか……
世の中は、まだまだ広いな……ほんとに。
そんなことを考えているうちに、文句だらけのトナカイの霊魂は、その姿のまま空高く舞い上がり、やがて光に包まれ消えていった。
「良き、Christmasを」
キンッ!
牙恩は、一礼するように地の精霊大剣を回し、静かに鞘に納めた。
「……残るは、謙一郎さんか」
今度は右方に視線を向ける。
そこには──煙突のコスプレをした謙一郎さんが、煙突型・風属性上級悪霊と対峙していた。
──謙一郎さんまで、いつの間に!?
もう全員コスプレしてるじゃん!制服のままなの、おれだけじゃん!
ずるい!おれもコスプレしたい!
「クリスマスの叫び THE THIRD!!
煤風祓い!!」
謙一郎さんが風の精霊手裏剣を投げると、それは高速で回転しながら、悪霊の煙突内部へと突入!
ゴウッ!という音を立てながら内部を貫き、舞い上がった煤をすべて吹き飛ばしていく。
……みるみるうちに、煤で真っ黒だった煙突の内側が、ピカピカになっていった。
そして──
パキンッ!
清掃完了と同時に、悪霊玉が砕けた。
煙突型の悪霊は、ゆっくりと透明になりつつ──なぜか、ものすごい勢いでグルグルと回転していた。
その様子は、まるで洗いたてのタオルを高速で回して乾かしているみたいだった。
「ありがとよ、小僧♪おかげで、全身ピッカピカだ♪
これでサンタクロースの野郎がおれの中に入ってきても、服を汚させずに済むぜ!
煙突たるもの、客を迎える準備はちゃんとしておきてぇからな!」
えっ……なんか、めちゃくちゃ感謝されてるんだけど?
どうやらあのグルグル回転は、喜びの表現だったらしい。……って、いやいや!
今度は、煙突がしゃべった!?
トナカイはまぁ、動物だし。言葉を話すって言われれば……ギリギリ理解できなくもない。うん、ギリでね。
でも煙突って──完全に無機物だぞ!?
声を出すのに必要な肺とか、声帯とか、空気振動とか……そういう生物的な構造、ぜんぶ持ってないはずなのに……
どうやって声出してるんだ!?
医学、完全に無視じゃん……!
そんなことを考えていると、煙突型の悪霊はご満悦のまま空高く舞い上がり、他の悪霊たちと同じように、光の粒となって消えていった。
「良き、Christmasを」
キンッ!
謙一郎さんは、舞い落ちてきた手裏剣をひらりとキャッチすると、流れるような動きで風の精霊手裏剣を鞘に収めた。
「クリスマス、もはやなんでもありだな……」
そう、今日は──
12月25日。クリスマス本番。
ここ、八戸市の街中からも、どこからともなくクリスマスソングが流れてきている。
スーパーの店頭には色とりどりのチキンやケーキが並び、たくさんの家の玄関には、それぞれ趣向を凝らしたクリスマスリースが飾られ、街全体が“聖なる夜”の空気に包まれていた。
おれたちを囲っていた精霊壁が解除されると、精霊科三年の樹々吏さんが駆け足でこっちにやって来た。
「よし、銀河、牙恩!いつものいくぞ!」
「了解です!謙一郎さん!」
「いきますよー!せーの!」
『おつかれーい!』
おれたちは、掛け声とともにいつものハイタッチを交わした。
「……あれ?」
いつもなら真っ先に手を差し出してくるはずの樹々吏さんが、なぜか参加していない。
「みんなーっ! 急いで帰るよーっ!」
「えっ?」
「車、もう用意してあるからー!乗って乗ってー!」
「……あれっ?
いつもの労いの言葉は……?」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ!
急いで帰らないと、点灯式に間に合わないよ!」
「そ、そうだった!!」
おれたちは慌てて走り出し、用意された車へと向かう。
樹々吏さんがここまで焦っているのには、ちゃんと理由がある。
それは──
このあと18:00から、八戸校最大の平和な行事──
“イルミネーション点灯式”が行われるためだ。
12月に入ると同時に、おれたち祓い科は精霊科と協力して、今日の日のために校舎全体にLEDライトや装飾を取りつけ、準備を進めてきた。
このイベントは一般にも公開されていて、毎年多くの人々が八戸校に足を運んでくる。
今日という日は、祓い科にも、精霊科にも、そして地域の人たちにとっても──
一年で最も華やかで、穏やかな一夜となる。
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【国立十文字学園高等部八戸校 校庭】
「良かった!まだ点灯してない!間に合ったーー!」
校庭はすでに、学園の生徒や地域の人たちで大盛況。
にぎわいの熱気が、夜の寒さを吹き飛ばしていた。
出店もずらりと並び、そのどれもが“無料”で、好きなものを好きなだけ飲み食いできるという──
まさに、太っ腹すぎるイベントだ。
ローストチキン、ビーフシチュー、ピザ。
立ち上る湯気と香ばしい匂いに、おれの腹はグーッと鳴りっぱなし。
さらにケーキやシュトーレン、クリスマスプディングといったスイーツの甘い香りも漂ってきて……もはや天国。
中央には、全長10メートルはあろうかという、巨大なクリスマスツリー。
六花のガラス細工、天使のぬいぐるみ、赤と緑のクリスマスソックスが華やかに飾り付けられ、その周りには小さな子どもたちが目を輝かせながら見上げていた。
朝礼台には──
サンタクロース姿の白亜先生が立ち、マイクを片手に会場を見渡していた。
……ちなみにだが、おれもここに来るまでの車内で、ちゃっかりサンタコスに着替えている。
「え〜みなさま、本日は……お日柄もよく……いや、お忙しい中お集まりいただき?……ん〜、まいっか!」
軽快に笑いながら、白亜先生が言葉を続ける。
「長い挨拶してもつまんないので、さっさと乾杯にいきましょ〜!
……ということで、わたくし夜太刀白亜が、僭越ながら乾杯の音頭を取らせていただきます!」
白亜先生は勢いよく叫ぶと、手にしたグラスを高々と掲げた。
「みなさ〜ん!お飲み物のご準備はよろしいですか〜!?」
「オッケーです!白亜先生!!」
「ぼくもーっ!!」
牙恩とおれが、元気よく声を張り上げた、その瞬間──
「ばっ、バカ!今のは社交辞令で聞いただけだっての!!
真に受けて返事すると、いちばん恥ずかしいやつだぞ!」
「えぇ!?そうだったんですか!?」
おれの素っ頓狂な声に、会場中からどっと笑いが巻き起こった。
「まったく……お前らは……」
謙一郎さんが、耳まで真っ赤に染めながら、そっとうつむいた。
手で顔を覆うようにして、笑いをこらえているのか、恥ずかしさを隠しているのか──たぶん両方だ。
「え、えー……コホン!では、改めまして……」
白亜先生がちょっと照れながらも、しっかりと声を張る。
「本日は、皆さまに楽しんでいただけるよう、学園一同、精一杯おもてなしをいたします!
どうぞ、目いっぱい楽しんでくださいね!
Merry Christmas!!」
『Merry Christmas!!』
その掛け声と共に──
クリスマスツリーと校舎に仕込まれたイルミネーションが一斉に点灯。
赤、黄、緑、青──
無数の光が夜空にきらめき、まるで星が降るように校庭を包み込む。
一瞬の静寂。
そして──拍手と歓声が爆発し、笑顔の波が広がった。
『Merry Christmas!!』
おれも牙恩、謙一郎さん、そして樹々吏さんと乾杯し、屋台でもらってきたコーラを一気に喉に流し込んだ。
「おーい!銀河ーー!持ってきたぞーー!」
「久保田さん!」
人混みをかき分けてやって来たのは、両手でなにかを大事そうに抱えている久保田さん。
その時──ふわっ……と、食欲をそそる最高の匂いが辺りに立ち込めた。
「ね、ねえ……この異臭、なに……?」
樹々吏さんがすかさず鼻をつまみ、数歩下がった。
「みなさん、お待たせしました!
本日、この聖なる夜のために、研究に研究を重ねておれが作った──」
布をパッとめくる。
「“タンドリーチキン 〜ガーリックライスを詰めて〜 ⭐︎クリスマスver⭐︎”です!」
──ドンッ!!
でっかい丸焼きチキンが、堂々たる存在感で鎮座していた。
肉の皮は黄金色に照り、ライスはチキンの腹から大噴火中。
そしてなによりも──最高なまでのニンニク臭。
──そう。この料理は、元々おれが学生寮の食堂で作っていたんだけど……
オーブンに入れた直後に悪霊祓いの緊急招集がかかってしまい、やむなく久保田さんに後を託した一品なのだ。
「さ、さすが銀河くん……ぶれないね……
こんな日でも、にんにく料理とは……」
樹々吏さんはひきつった笑顔を浮かべ、少し目が潤んでいた。
……そうか。
ひきつるほど“うまそう”に見えたか……よかった!
「まあ、いいじゃないか、今日くらい!せっかく銀河が作ってくれたんだし……うん!
普通にうまいぞこれ!樹々吏も食べてみろ!」
「ぼくもいただきます! ……んんっ!?おいしい!
これは……“ターメリックライス”よりも、“ガーリックライス”の方がマッチしてるかも!
この食欲をそそる匂いも最高です!」
謙一郎さんも牙恩も、手づかみでチキンをかぶりつく。
「やったーッ!!」
思わずガッツポーズをキメるおれ。
「た、たしかに……食欲をそそる匂いね……うん!今日くらい、いっか!
こうなったら、とことん食べるわよ!いただきまーす!……
本当だ!肉汁もたっぷりで、すっごくおいしい!」
「おいらもおいらも!……うまっ!無限に食えるぞこれ!」
「ありがとうございます!」
樹々吏さんと久保田さんからも感想が飛び交い、おれは再び天に向かってガッツポーズ。
──みんなが笑ってくれて、喜んでくれて。
それだけで、心の底から嬉しかった。
おれもそろそろ、自分で作った料理に手をつけようと──
フォークをチキンに突き刺した、その瞬間だった。
──ひゅうう……
「……ん?」
どこか遠くで、風の音が鳴る。
気づけば、しんしんと白いものが舞い落ちていた。
見上げると、さっきまで真っ黒だった夜空に、小さな粉雪がちらほらと降り始めている。
「おお……!White Christmasだ!」
街のイルミネーションが雪に反射して、まるで空から光がこぼれてくるみたいだった。
「……どうか、来年も──
みんなで、また一緒にクリスマスを迎えられますように……!」
思わず手を合わせて、夜空にそっと祈る。
──そのときだった。
夜空をすべるように現れたのは、トナカイに引かれたソリ。
その上に立っていたのは、赤い服に身を包み、立派な白いヒゲをたくわえた──
サンタクロース。
おれの願いを聞いたかのように、サンタさんはこっちを見て、にっこりと笑みを浮かべた。
「ふふっ♪
Merry Christmas!」
その日、おれは──
みんなと一緒に、心の底から最高のクリスマスを過ごすことができた。
⭐︎Merry Christmas⭐︎
みなさま、良きクリスマスを!!




