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第十八話 ②精霊と悪霊について

※今話は、国立十文字学園高等部神戸校祓い科三年、田中刹那の視線でお送りいたします。


【兵庫県神戸市 国立十文字学園高等部神戸校 二階 祓い科の教室】


「はーいっ!それじゃあ、次の問題!

 ②精霊と悪霊について、わかっていることは何でしょうーかっ!?」


白亜先生の明るく張りのある声が、古びた木造の教室に気持ちよく響く。


ここ、国立十文字学園高等部“神戸校”は、今年で築五十年を迎える、木造の二階建て校舎だ。

二階は祓い科と教職員の専用フロア、一階は精霊科専用フロアになっている。


校舎全体には、昭和の面影が色濃く残っていた。

ぎしりと鳴る板張りの床、味のある木枠の窓、少しかすれた黒板──

そこかしこに、どこか懐かしい空気と静かな温もりが宿っている。


趣があると言いますか、風情があると言いますか ──

わたくしとしては、この雰囲気に、もうすっかり惚れ込んでしまっているのです。


校内には、正門と裏門、広々とした校庭、夏には生徒の歓声が響くプールがある。

そして、校舎の正面には、この神戸校の象徴とも言える一本の大桜が、まるでこの学園を見守るように根を張っている。

春になると、その枝いっぱいに咲かせた桜花が風に舞い、まるでこの学園そのものが、生徒たちをやさしく迎えてくれているように思えるのだ。


「はいっ!お母さんっ!」


わたくしのかわいい一年後輩の麻璃流さんが、元気よく手を挙げる。


「……うん、先生な?麻璃流」


白亜先生が、もはや慣れっこのように苦笑しつつも、どこか嬉しそうに返す。

麻璃流さんが第一声から“白亜先生”と呼ぶことは、まあ、ほとんどない。


「わかりませんっ!」


とびきりの笑顔とともに、元気よく即答する麻璃流さん。


「そのとおり!正解!」

「……えっ?そ、それでいいんですか……?」


窓際に座っている、わたくしのかわいい二年後輩の天嶺叉さんが、ぼそりとつぶやいた。


「まったくわかってないってわけじゃないけど、精霊と悪霊については、まだまだ謎が多いんだよ」


白亜先生はそう言って、教壇の前に立ったまま、精霊と悪霊の歴史について、静かに語り始めた。


・1945年8月15日

 第二次世界大戦の終戦とともに、“霊力に目覚める者”が全国各地に出現。

 同時に、“精霊が視える”という証言が相次ぎ、不可解な事件や殺人も発生。

 そのいくつかには、常人では目に見えない“異質な存在”の関与が疑われ始める。


・1946年2月10日

 「人は死後、精霊となり、その後また人間に輪廻転生するのではないか」という“精霊説”が学術界で初めて提唱される。

 宗教・民俗学・霊学など、多方面から注目され、国内の研究者たちが本格的な調査に乗り出す。


・1946年8月15日

 日本政府が精霊の存在を公式に認定。

 精霊の解析等を目的とした“精霊省” が創設される。

 これにより、精霊に関する国家的調査が本格的に始まる。


・1947年8月15日

 精霊省が年間データを分析。

 精霊の中でも“人を害するもの”と“害さないもの”がいることが確認される。

 それらを区別するため、前者を「悪霊」と呼称することが決定。

 霊災数も増加傾向にあり、政府は警戒を強める。


・1950年12月24日

 初代精霊省大臣が、悪霊による襲撃を受ける。

 間一髪のところで救出したのは、初代”氷の精霊両刀“の使い手だった。

 この襲撃事件をきっかけに、“精霊刀剣”の存在が初めて世に明かされる。


・1955年2月15日

 全国調査の結果、精霊刀剣が10本存在することが判明。

 それぞれの使い手たちは精霊省に召集され、正式な“配下”として管理されるようになる。


・1960年4月1日

 精霊省の管轄下にて、“悪霊祓い専門の教育機関”として「国立十文字学園」が全国各地に設立される。

 同時に、霊災の通報は精霊省に集約され、そこから該当地域を担当する十文字学園の校舎へと連絡が入る仕組みが整備された。


・1969年10月26日

 当時の“火の精霊刀”の使い手が、毒属性の悪霊を祓ったところ、過去に毒で自死した自分の母親だったことが判明。

 これを皮切りに、悪霊がかつての知人や肉親だった、という報告が多数寄せられる。

 これらの調査により、以下の2点が学術的に確立される。

 「人は死後、“精霊”となる」「死因によって“属性”が定まる」

 “精霊説”は、ほぼ事実として認定されることになる。


・1996年8月15日

 過去50年間にわたる霊災の統計データを分析し、悪霊の脅威度に応じて“霊格制度”が導入される。

 これにより、悪霊は「下級」「中級」「上級」「超常級」などの階級で分類された。


「──とまあ、こんなところかな!」


白亜先生は軽快にそう締めくくると、手をひらひらと振った。


「それじゃあ刹那、悪いけど補足説明よろしく〜

 俺もう、しゃべり疲れちゃった……」


そう言って、すとんと机に突っ伏す先生。

その手には、どこからともなく現れた醤油せんべい。

続いて引き出しから取り出したのは、マヨネーズと一味唐辛子。


「よし、完璧♪」


そう呟いて満面の笑みを浮かべると、パリッと景気よくせんべいにかぶりついた。


──なぜ、引き出しの中からおせんべいと調味料が出てくるんですの……!?


心の中で、静かに──けれど全力で“ツッコミの叫び”をあげた。

……が、すぐに気を取り直して、わたくしは立ち上がる。


「わかりましたわ!」


軽く一礼しながら教壇に立ち、チョークを手に取る。


「それでは、わたくしが補足をいたします!」


わたくしは図や用語を添えながら、精霊と悪霊について、解説を始めた。


──この学園に通う以上、そして精霊刀剣の使い手として選ばれた以上、わたくしたちは悪霊と戦うための“知識”を持たねばなりません。

白亜先生が見せた飄々とした姿の裏には、どれほどの経験と責任感が隠されているのか。

わたくしは、少なからず知っているつもりです。

だからこそ、応えなければなりません。この声で、この手で。


教室の空気が、ふたたび静かに引き締まっていくのを感じながら、わたくしは語った。

淡々と、けれど、強く、深く。


【わかっていること】

・悪霊を祓うにはその核──“悪霊玉”を破壊しなければならない。

・悪霊には銃や大砲などの通常兵器は通じず、精霊 (悪霊)には精霊の攻撃でないと通じない。

・中級以下の悪霊であれば、精霊科の人たちでも祓うことができる。

 だが、上級以上となると、より悪霊玉が硬くなり、より高霊力が求められる等の理由から、精霊刀剣を扱える者でないと祓えない。

・霊力に目覚める時期は人それぞれだが、一般的には13歳から18歳の間とされている。

・霊力を得ると、悪霊の姿が見えるようになり、さらには精霊の力を借りて“霊法”を使えるようにもなる。

 そのため、霊法の悪用を防ぐ目的で、霊力を持つ子どもはすべて、法律に基づき十文字学園へと入学させられ、精霊省の管理下に置かれる。


麻璃流さんも、天嶺叉さんも、真剣な面持ちで耳を傾けてくれていた。

わたくしは、静かに言葉を続ける。


【わかっていないこと】

・悪霊はどのような原理で発生するのか?

・なぜ“上級以上”の悪霊は神戸市・八戸市・東京23区に集中するのか?

・いつ亡くなった人が、なぜ今“悪霊”として出現するのか?


「──以上ですわ、いかがでしょう?白亜先生」

「うんっ!完ッ璧♪

 ありがとう、刹那!」


満足げに頷いた先生は、食べかけのせんべいを豪快に口に放り込み、もぐもぐと噛みながら教壇へと戻っていった。


「……でもね、いま刹那が話してくれた悪霊の祓い方は“上級以下”の話で……

 “超常級”になってくると、ちょっと事情が変わってくるんだ」

「……どういうことですか?」


天嶺叉さんが、きょとんとした顔で首をかしげた。


「天嶺叉ももう、“新人教育”を終えて、一人で悪霊祓いに行けるまでに成長したし、そろそろ大事なことを話しておかないとね」


先生の目元がわずかに細まり、教室の空気がふっと張り詰めた。


「普段、生物学の授業で“心臓の位置”を勉強してるよね?」

「はい……犬型の悪霊だと、実際の犬の心臓と同じ場所に悪霊玉があると学びました」

「そのとおり!」


白亜先生がにこりと頷いたあと、表情を真剣なものへと切り替える。


「──でもね、超常級の悪霊は違う」

「……え?」

「どこに悪霊玉があるのか、まったくわからないんだ」

「心臓の位置にも、ないってことですか……?」


天嶺叉さんの声が、戸惑いと困惑に揺れる。


「そう──

 だから超常級と戦うときは、まず“悪霊玉探し”から始めなきゃいけないんだ」

「……どうやって探すんですか?」


先生は少しだけ口ごもったあと、軽く肩をすくめて──


「……とにかく、いろんなところを斬りまくるしかない!」

「えええっ!?」


天嶺叉さんの、“驚愕の叫び”が炸裂する。

それも無理はない。

わたくし自身、初めてこの事実を聞かされたときには、まったく同じ反応をしてしまったのだから。


「脳筋戦法かもしれないけど、正直なところ、現状ではそれしかやりようがないんだ」


白亜先生が苦笑まじりに言う。


「ただし、ひとつだけポイントがある

 それは悪霊玉がある場所──そこを守る部位は、明らかに他よりも硬く作られているということ!

 たとえば、悪霊玉が人間でいう“脳”の位置にあるとすると、その周囲……つまり頭部は、異様に防御が厚くなっているんだ!」

「そ、そうだったんですか……」


天嶺叉さんが、わずかに顔をこわばらせて息をのむ。


「今のところは、超常級が出現した場合、“精霊壁”で現場を封鎖して、俺が駆けつけるまで君たちは精霊壁外で待機──っていう運用にしてるけど……」


先生はそう言って、一度肩を回すように軽く息を吐いた。


「でもね、将来的には……君たちが超常級を祓えるまで成長してくれたらすごく嬉しい!!

 みんなと共闘……それはまさに、先生と生徒が互いに手を取り合い繰り出す“愛の叫び”!!」


小さく冗談めかした調子に、教室の空気が、ふっと緩む。

みんながくすりと笑い、張りつめていた緊張が少しだけ和らいだ。


「でも……超常級って、そんな頻繁に出るものでは──」

「たしかに、滅多には現れないけど、急に出現しきてもおかしくないんだ」


白亜先生の声が低く、穏やかに、しかしはっきりと教室に響く。


「実際これまでにも、何人もの精霊刀剣の使い手が、突如現れた超常級に命を奪われてきた

 だからこそ、これはただの知識じゃない──“生き残るための知識”なんだ」


先生は教室を見渡しながら、ひとりひとりに語りかけるようにゆっくり言う。


「絶対に、頭に叩き込んでおいてくれ」


そして白亜先生は、わざとらしくパンッと手を打って、空気を切り替えるように声のトーンを戻す。


「さて、では最後に──

 “③祓い科の使命”について説明していこう!」

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