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第十六話 人の臭いって、指摘しづらくない?

今話からしばらく当作品の世界観の設定のお話となります。


※今話は、国立十文字学園高等部八戸校祓い科二年、佐藤銀河の視線でお送りいたします。


【青森県八戸市 国立十文字学園高等部八戸校 四階 祓い科の教室】

 

「みんな!これを見てくれ!」


バンッ!


そう叫びながら、教室前方のプロジェクター画面を指示棒で勢いよく叩いたのは、おれたち祓い科の担任——

夜太刀(やだち)白亜(はくあ)”先生だ。


黒色短髪に、高身長で引き締まった細マッチョ体型。整った顔立ちに涼しげな目元。

見るからに、女性にモテそうな雰囲気をまとっている。

紺色のスーツを着ているが、ネクタイは緩め、腕まくりもしているなど、どこかラフな印象だ。


——“現代最強の祓い士”。


そう称される白亜先生は、十文字学園祓い科における最初にして唯一の卒業生でもある。

これまで精霊刀剣の持ち主に選ばれ、祓い科に所属した者は何人もいた。

だが、その全員が、卒業を迎える前に悪霊祓いの任務中に命を落としている。

そう——

火の精霊刀の前任者であり、そして——

おれの兄だという、金翔さんも——


「すごいことが判明したぞ!

 このグラフを見れば一目瞭然!

 上級以上の悪霊が発生しているのは、神戸市、東京23区、そしてここ八戸市だけだ!」


プロジェクターに映る資料の上部には、こう記されていた。


“全国版 過去の上級以上悪霊発生率”


日本地図を背景に、各地域の悪霊発生率が棒グラフで示されている。

その中でも明らかに突出している三本の棒——八戸市、神戸市、東京23区。

それ以外の地域は、ほぼゼロだった。


『・・・』


おれと牙恩、それに謙一郎さんは、そろって無言になる。


「あれ?」


プロジェクターを指さしたまま、白亜先生が呆けたように言った。


「そんなの、前からわかってたじゃないですか?

 だから祓い科は“八戸校”・“神戸校”・“東京校”の三箇所に配置されているんですよね?

 白亜先生から教わったんですよ」

「そうだったっけ?」


白亜先生はポリポリと頬をかき、どこか気まずそうに笑った。


そう——

今、おれたちがいるのは国立十文字学園高等部“八戸校”。


四階建ての鉄筋コンクリート造りで、各階の用途は明確に分かれている。

最上階の四階は祓い科専用、三階は精霊科の三年生専用。

二階には教職員室や研究室などがあり、そして一階には精霊科の一年生と二年生が割り当てられている。


敷地内には正門と裏門に加え、広々とした校庭とプール、体育館。

さらに、うさぎと鶏の飼育小屋まである。

——そして、なぜか校舎と校庭の間にある私道沿いには、屋根付きの土俵が鎮座している。


「誰が何のために建てたのか」「そもそもなぜ屋根付き?」


その理由は、教職員を含め誰ひとりとして知らず、いまでは“八戸校七不思議”の一つとして扱われている。


国立十文字学園高等部は、全国に一校ずつ設置されている。

だが白亜先生の言う通り、上級以上の悪霊が発生するのは、八戸市・神戸市・東京23区の三箇所のみだ。


下級や中級の悪霊であれば、精霊科の生徒だけでも祓うことができる。

だが、上級以上となると話は別。

精霊刀剣を扱える者でなければ、まともに戦うことすらできない。


そのため、祓い科が設置されているのは、三校だけ——八戸校、神戸校、そして東京校。

それ以外の校舎には、精霊科のみが存在している。


そして祓い科の担任を務めるのは、白亜先生ただ一人。

多忙を極める先生は、八戸校に常駐しているわけではなく、時折姿を見せては、おれたちに稽古や授業をつけてくれている。


普段のおれたちはというと——

自主稽古を重ねながら、悪霊を祓うために必要な知識と技術を、互いに鍛え合って身につけているのだ。


「じゃあ、これならどうだっ!?」


白亜先生が教壇にあったリモコンを手に取り、操作すると、プロジェクターの画面がパッと切り替わった。


「全国版、過去の上級以上悪霊発生率……夏限定!?」


今度映し出されたのは、夏の期間——六月から八月に限定した統計だった。

グラフを見ると、五年前から毎年、夏の間だけ東京23区の棒グラフだけが異様に伸びている。

一方、八戸市と神戸市の発生率はゼロのまま。

まるで悪霊が夏休みを取っているかのように、きれいさっぱり姿を消していた。


「これを見てわかるとおり——

 なぜか五年前から、“夏だけ”、上級以上の悪霊が東京に一極集中しているのだッ!!」

『おおーっ!!』


おれたち三人は、思わず立ち上がり、スタンディングオベーションで白亜先生を称えた。


「ふっふっふ……!

 それだよ!その反応を待っていたんだよ、諸君!

 ほんと、君たちだけだよ……そんな良いリアクションしてくれるのは……」


と、言いながら——


「他の校舎の連中はなぁ、一人を除いてみんな冷たくて冷たくて……オヨヨ……」


白亜先生は、あからさまにわざとらしく泣き真似を始めた。


「確かに言われてみると……去年の夏は上級悪霊出てませんでしたね」

「そうなんですか?」


おれがつぶやくと、隣の牙恩が小さく首を傾げた。


「そうだな……去年の夏は、銀河とずっと二人で稽古漬けだった記憶がある」


謙一郎さんが腕を組み、懐かしむように言った。


「じゃあ、東京校の人たちは……どうやって今までの夏を乗り切ってたんだろう?」


牙恩が不思議そうに眉をひそめた。


「今の東京校には、桜蘭々がいるからな!」


白亜先生が元気よく答えた。


「桜蘭々?」


牙恩がまたしても首をかしげる。


「樹々吏さんから聞いたことがあります

 “学園最強の祓い士“、その名も——”雷獣の桜蘭々“

 “何でも派手にぶっ壊すこと雷獣の如し”で有名だとか」

「オレは入学式で見たことあるが、確かに風格が他の学生とはまるで違ってたな」

「学園最強……雷獣……何でも派手にぶっ壊す……ま、まさか人間も!?

 一体、どんな恐ろしい人なんだ……!?」


牙恩が震えながら怯えた声を漏らす。


「彼女は強いよ

 すでに、超常級を単独で何体か祓っているしね

 現状、君たちより頭一つ飛び抜けて強いのは間違いない」

「そ、そんなにですか!」


おれは驚きの声を上げた。


「まっ!超常級とは言っても、弱い方のだし!

 俺と比べちゃうと、まだまだ全然なんだけどね!」


白亜先生の鼻がピノキオのように伸び、自慢げに話す。


「はい、ということで……!

 決まりました!!」

「……なにがです?」

「六月一日から、君たちには東京に行ってもらいます!!」

『えっ!?』


おれたち三人は、突然の発表に目を丸くして唖然となった。


「ぼ、ぼくたちが東京にですか!?」

「そうだよ♪

 夏だけだけど、東京校への応援派遣って感じでね!」

「これまた急ですね、白亜先生……」

「六月一日ということは……二週間後か」


おれたちは慌てふためく。


「東京か……ちょっと怖いな……

 テレビでニュースとか見てると、毎日のように殺人事件とか起きてるし……」


おれは少し不安になった。


「大丈夫大丈夫!

 殺人事件っていったって、無差別で理由もなく突然発生してるわけじゃないんだから!

 大体は人間関係のこじれの延長線上で発生するもんだよ、あれは

 東京ったってそんなに身構える必要はないよ!遠足気分で大丈夫! 

 あっ、ちなみに新幹線で行くけど、おやつは一人500円までね!」

「遠足気分か……」


おれたちは顔を見合わせた。

牙恩を除いて、おれと謙一郎さんは楽しみ半分、不安半分の表情をしていた。


牙恩だけは中等部からこの学園に通っていて、十文字学園中等部は東京にしかないため、中等部時代は東京の学生寮で暮らしていた。

つまり、牙恩はすでに、東京がどういう街かを知っている。


「ってことで、なにか質問ある人ー?」

「はい!」

「はい、銀河くん!」

「にんにくはおやつに入りますか?」

「新幹線内で異臭騒ぎが起こるからだめです!

 せめて臭い控えめのにんにくチップにしてください!」

「やった!」

「はい!」

「はい、牙恩くん!」

「エンジョイステーションポータブルはおやつに入りますか?」

「それ機械じゃねえか!!

 だめです!余計なものは置いていくように!」

「えっ!そ、そんな……

 ぼくにとってはおやつみたいなものなのに……」

「はい!」

「はい、謙一郎くん!」

「500円に消費税は含まれますか?」

「こまけえな!

 うーん、じゃあ税抜500円でいいよ!」

「よっしゃ!」

「ってバカやろーーーー!!

 もっと他に聞かなきゃいけないことがあるだろうが!?」


突然、白亜先生に怒鳴られた。


「なんだろう?」


おれたちは顔を見合わせ、首を傾げる。


「三郎ラーメンは、東京にも展開されていますか?とか?」

「うん、全国展開されてるからちゃんとあるよ

 なんなら、本店は向こうだし」

「高等部のネット環境はちゃんと整っているかどうか、ですかね?」

「うん、中等部よりもずっと良くなってるよ」

「夏だけとは言え、東京で生活するときの心構えじゃないか?」

「うん、こことたいして変わらないよ……

 って、ちっがーーーーう!」


白亜先生が教壇をドンッと叩いた。


「『東京校の子たちはどんな人たちなんだろう?』とか、

 『神戸校の子たちはどんな人たちなんだろう?』とか、気にならないのかい、君たち!?

 もっと人に興味を持ちなさい!!」

「えっ?

 神戸校の人たちも来るんですか?」


おれは白亜先生に尋ねた。


「もちろん!

 神戸校の子たちも、夏だけ東京に来てもらうことにしたんだ!」

「そんなことより白亜先生……オレ、もう……そろそろ限界で……

 大事なこと、言ってもいいですか?」


謙一郎さんが、どこか深刻な表情を浮かべる。


「なんだい、謙一郎?」

「この教室——

 にんにく臭いです」

「あっ、ごめんなさい!原因はおれです!

 朝に食べた牛丼に、つい“すりおろしにんにく”を入れすぎちゃって……

 しかも、今ちょうどブレスケアを切らしてまして……本当にごめんなさい!」

「大丈夫ですよ、銀河さん

 白状しなくても、原因は銀河さんだってみんなわかってましたから」

「ありがとう謙一郎、代わりに言ってくれて

 人の臭いって、なかなか指摘しづらいよね……

 ってことで、急いで換気じゃあああぁぁぁっっっ!!ゲホッ!ゲホッ!」


三人が慌てて窓を開けて換気を始める。

どうやらおれに配慮して臭いを我慢してくれていたらしい……本当に申し訳ない。

次からは、ブレスケアが切れている時はなるべくにんにくは控えよう……


そんなこんなで、二週間後の六月一日から、おれたち三人の東京行きが決まったのだった。

※キャラクター紹介

プロフィール

名前:夜太刀 白亜

年齢:27歳

身長:190cm

体重:75kg

職業:国立十文字学園高等部祓い科担任兼精霊省特別顧問

武器:?

召喚精霊:?

性格:楽観的

一人称:「俺」

好きな食べ物:マヨネーズと、一味または七味とうがらしを上にかけた醤油せんべい

最近気になっていること:先生として、かわいい生徒たちに自分がしてやれることとは!?

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