第十五話 本物を探せ!
前回の続きのお話となります!
※前話に引き続き、国立十文字学園高等部東京校祓い科二年、中村是隠の視線でお送りいたします。
【東京都北区 北区立赤羽高等学校】
「わたしの活躍、見てくださいましたか!?桜蘭々様っ!」
「ああ、ちゃんと見ていたぞ
ゆくやったな、萌華」
「えへへ♡」
萌華は桜蘭々さんに頭を撫でられ、うっとりとした笑みを浮かべていた。
その瞳はうるんで、まるで小さな子どものように純粋な喜びに満ちている。
「是隠も、よくやった」
桜蘭々さんの手が拙者の頭にも伸び、同じようにぽんぽんと撫でてくれた。
「ありがとうございます」
その光景を横目で見ていた萌華の笑顔が、一瞬で凍りついた。
先ほどまでの幸福に満ちた表情はどこへやら。
頬の緩みは消え、瞳の奥に光るのは明らかな嫉妬の色。
口元は引きつり、手元の指先はきゅっと握られている。
「ちっ……褒められるのは、わたしだけでいいのに……!」
小さく吐き捨てるように呟いたその声は、しっかりと耳に届いていた。
「……聞こえてるぞ、萌華」
「皆様、お疲れ様でした」
そのとき、周囲を覆っていた精霊壁がゆっくりと解除され、様子を見に来た精霊科三年の詩音さんが姿を見せる。
その背後では、精霊科の生徒たちがなにやら小声でひそひそと話していた。
「おい……見ろよ、これ……」
「やば……今日も“完徹コース”確定だな……」
「せっかく目の下のクマが引いてきたのに……」
「仕方ないよ!それが精霊科の仕事だもん!
祓い科の皆さんが無事だっただけでも、喜ばなきゃ!」
「まあ、それもそうなんだけどさ……」
「ぐちぐち言っても始まらないよ!さっさとやっちゃお!」
「……だな!」
……精霊科のみなさん、本当に申し訳ない。
「あの、拙者にも何かお手伝いできることがあれば……」
そう言って、詩音さんに声をかける。
「お気持ちだけで十分です、是隠さん
修復作業は私たち精霊科の役目ですので、あとはお任せください
祓い科の皆様に、これ以上のご負担をかけるわけにはいきません」
「そ、そうですか……」
──そのときだった。
ガラガラガラッ!!
背後から瓦礫が崩れる音が響いた。
「さ、桜蘭々さん!?
な、なにをなさってるんですか!?」
詩音さんが驚きの声を上げる。
振り返ると、桜蘭々さんが素手で瓦礫を整えていた。
「ん? 何って、今からこの校舎を修復するんだろう?
だったら、少しでも作業しやすいように、先に瓦礫を並べておこうと思ってな」
「いえ、それは精霊科の仕事ですから!
どうか、お休みになってください!」
「こんな程度の戦いで疲れるほど、ヤワな鍛え方はしておらん
それに、全員でやった方が早く終わるであろう?」
「桜蘭々さん……」
桜蘭々さんは、表情を変えることなく、淡々と、しかし丁寧に瓦礫を並べていく。
凛としたその真っ直ぐな背中に、精霊科の生徒たちも思わず見入っていた。
「おい、見たか精霊科」
萌華が突然、ずいっと一歩前に出て、両手を腰に当てて仁王立ち。
場の空気をまったく気にせず、堂々と声を張り上げる。
「強いだけじゃない……そして、美しいだけでもない……人格まで完璧……!
これがわたしの……失礼、うちらの桜蘭々様だぞ」
うっとりと語るその顔は、誇らしげなドヤ顔全開。
まるで自分が褒められているかのように、堂々たる態度で腕を組む。
「みんな見習い、そしてこれから桜蘭々様に話しかける時は、必ずわたしの許可を得てからするように!」
ちゃっかり謎のルールまで追加して、得意げに腕を組む。
本人はいたって大真面目な表情で頷いている。
……周囲の精霊科の生徒たちは、誰も何も言えずに、ひきつった笑みで小さくうなずいた。
「是隠、萌華」
『はい!』
「悪いが、お前たちも手伝ってくれないか?
さすがに、これだけの量を妾ひとりでは片付けきれぬ」
「はいっ!喜んでっ!」
萌華は満面の笑みで即答し、勢いよく桜蘭々さんのもとへと駆け寄っていった。
こうして拙者たちは、精霊科の皆と力を合わせ、校舎の修復作業に取りかかることとなった。
─────────────────────────────────────
【東京都北区 赤羽公園】
「はぁぁ……つっかれた~~……」
萌華が公園のベンチにぐったりと腰を下ろし、うなだれるように声を漏らす。
それもそのはず。
結局、修復作業は10時間にも及んだ。
さすがの拙者も、もうヘロヘロである。
「そろそろ日も落ちるな……
せっかくだし、今日はみんなで外食でもどうだ?」
「!?」
ぐったりと疲れをにじませていた萌華が、その一言を聞いた瞬間──
ぱちん!と、まるでスイッチが入ったかのように目を見開き、シャキッと姿勢まで正した。
「名案です、桜蘭々様!
ぜひともそうしましょう!!」
瞬時に萌華のテンションが爆上がりする。
両手をぎゅっと握りしめ、目をキラキラさせながら、全力で頷いたその直後 ──
ギロッ!!
……突然、萌華の視線が拙者に突き刺さった。
先ほどまでのとろけた瞳はどこへやら、今は完全に“据わっている”
──わかってますよね、是隠先輩。
その目は物語っていた。いや、怒鳴るように訴えかけてきていた。
──これは、桜蘭々様と二人っきりになれる、またとないチャンス。
この機会に“できる後輩”としてアピールすれば、桜蘭々様はついにわたしの存在価値に気づいてくださるはず。
そうすれば……あの忌々しい、くそ白亜からの洗脳も解けて、桜蘭々様はわたしだけを見てくださるようになる……!
だから……空気、読んでくれますよね?是隠先輩?
……そんな萌華の心の叫びが、目力だけでビシビシ伝わってきた。
まったく……
「すみません、拙者、このあと用事がありまして……」
「む?そうか、残念だな」
「ほんっっっとうに、残念でしたね〜、是隠先輩っ!
またの機会に、ぜひぜひご一緒しましょ♡」
萌華はあからさまに幸福に満ち溢れた笑顔で、スキップでもしそうな勢いだ。
……仕方ない。
寮に戻る前に、近くのマクドーにでも寄って、テリヤキハンバーガーでも買って帰るか。
そう思って赤羽駅の方へ足を向けた、その時だった。
「おい!邪魔だよ!
こんなところでおままごとなんかしてんなよ!」
「なんだこの人形?きったねーー!」
「ちょっと!やめてよ!」
子どもたちの怒鳴り声が、公園の奥から聞こえてきた。
声のした方を見やると、砂場でひとり遊んでいた女の子が、三人の男の子に囲まれている。
「返してよ!愛乃のお人形!」
「やーだよ!悔しかったら取り返しみろ!」
男の子たちは三角形のフォーメーションを組み、女の子の大事そうな柴犬のぬいぐるみを、パス回ししていた。
「まったく……」
その光景を見かねた桜蘭々さんが、あきれたようにため息をつき、腰に携行していた刀の鞘から柄を引き抜き、大声で叫んだ。
「出ろ!!白雷虎!!」
桜蘭々さんは“雷の大精霊・白雷虎”を召喚。
柄は、“雷の精霊長刀”へと姿を変える。
ゴロゴロゴロゴロッ……!!
バリバリバリバリバリッ……!!
雷の刀身からは、容赦ない雷鳴が絶え間なく轟き、バチバチと火花を散らしている。
空気はびりびりと震え、地面すら波打つようにうねっていた。
「この雷をくらいたくなければ、その人形をその子に返して──
とっととここから立ち去れ!」
桜蘭々さんが雷鳴に負けぬ声で、鋭く凄みを効かせて睨みつける。
「うわああああっ!!」
「か、雷だぁああ!!」
「に、逃げろぉぉお!!」
男の子たちは怯えた悲鳴をあげ、手にしたぬいぐるみを投げ捨てる。
誰かがつまずき、誰かが泣きそうな顔で耳をふさぎながら、蜘蛛の子を散らすように、転げるように公園から逃げ出していった。
「きゃあああっ!!」
女の子も驚き、反射的に逃げようとして──
「きゃっ!」
足がもつれ、転んでしまった。
拙者はあわてて駆け寄る。
「大丈夫か?」
「こわい……こわいよぉ……」
女の子は涙目で、震えながら桜蘭々さんを見上げていた。
「む?すまない
お嬢さんまで怖がらせるつもりはなかったのだが……」
桜蘭々さんも、そっと女の子のもとへ歩み寄る。
「妾のことが怖いか?」
女の子は、こくん、こくんと、震える首で力強く頷いた。
「そうか、驚かせてすまなかった……だがな──」
桜蘭々さんは片膝をつき、女の子と同じ目線になって、優しく語りかける。
「人間っていうのはな、本気になったとき──ときに、悪魔のような顔になるんだ
なにかを全力でやり遂げたい、誰かをどうしても守りたい──
その想いが……心の叫びが強ければ強いほど、顔つきは変わる
それが“本気の顔”ってやつだ
たしかに、悪魔みたいな顔つきかもしれない
だけど、それでも……真剣で、まっすぐな顔なんだよ」
「ほんきの……顔?」
女の子が首をかしげながらも、まっすぐに桜蘭々さんを見つめる。
「ああ、今すぐに理解しなくていい
けれど、いつかその意味を知ってもらえたら……妾はうれしく思う
そして、お嬢さんもいずれ──
心から本気で打ち込みたいと思える“こと”や、全力で守りたいと思える“誰か”に出会えることを……心から願っているよ」
「……うーん!
よくわかんないけど……愛乃、がんばってみる!」
女の子──愛乃ちゃんは、ぬぐった涙の向こうから、ぱっと笑顔を見せた。
「桜蘭々様!!
今のお言葉、この萌華、胸の奥に深く、深く刻みました!!」
「ふふふ♪そうか♪」
桜蘭々さんは、優しく微笑んだ。
「ところで……愛乃と言ったか?
怪我はないか?」
「ちょっと……ひざが痛い……」
女の子の右膝は、すりむけて血がにじんでいた。
「ここは、わたしにお任せください!」
萌華がすかさず名乗りを上げ、腰に携行していた刀の鞘から柄を引き抜き、大声で叫んだ。
「やるよ!!毒吐乃大蛇!!」
萌華は、“毒の大精霊・毒吐乃大蛇”を召喚。
萌華の柄は、“毒の精霊短刀”へと姿を変える。
毒の刀身がボコボコと泡立つように液化し、その毒がとろりと滴ると、萌華は慎重に、女の子の傷口へと垂らしていった。
「お、おい……大丈夫なのか、それ……?」
心配になった拙者は、思わず声をかける。
「大丈夫です、これは“治癒毒”ですから
体に悪影響を与える毒だけを、この毒で倒すんです」
「へえ……そんなことまでできたのか」
「“毒を以て毒を制す”ですよ、是隠先輩♪
どう、愛乃ちゃん?痛みは引いたかな?」
「うん!ぜんぜん痛くない!
ありがとう、おねえちゃん!」
「いえいえ♪
でもね、傷口をちゃんと塞いでおかないと、また“バイ菌”っていう毒が入っちゃうから……絆創膏を貼りましょう!」
萌華はスクールバッグから絆創膏を取り出し、丁寧に貼ってあげた。
「よし、これでオッケー!
さ、もう暗くなってきたし、そろそろおうちに──」
「……」
愛乃ちゃんが、ふいに黙り込む。
「どうしたんだ?愛乃?」
桜蘭々さんが、そっと優しく問いかける。
「愛乃……おうち、帰りたくない……」
「どうしてだ?」
「おうちに帰っても、どうせ誰もいないんだもん
パパもママも、夜遅くまでずっとお仕事で……わたしが寝たあとに、こっそり帰ってきてるの
誰もいないおうちに帰るくらいなら、公園で遊んでたほうが楽しいもん……」
そう言って、愛乃ちゃんはまた砂場に戻り、ひとりでおままごとを始めた。
「困ったな……」
「どうしましょう……」
「このまま放っておくわけにはいきませんね……」
拙者たち三人は、思わず顔を見合わせた。
「仕方ない……!」
そう言うと、萌華が愛乃ちゃんに歩み寄った。
「ねえ、愛乃ちゃん……だっけ?
わたしたちと一緒に、ゲームしない?」
「……ゲーム?」
「そうっ!名付けて──
“本物を探せ!ゲーム”〜〜!!!!」
萌華が両手を広げて、謎のテンションで叫ぶ。
「……“ほんものをさがせ!ゲーム”?なにそれ?はじめて聞いた」
「ふっふっふっ♪とっても楽しいゲームだよ♪
ルールは簡単!
今からこの“忍者もどき”……失礼、是隠先輩とそっくりな人が、たーくさん出てくるの!
その中から“本物の是隠先輩”を探し当てる──ただそれだけ!」
……おい、今最初に”忍者もどき“っつったか、”忍者もどき“って。
「ほんもの?」
「そう、本物!
偽物は触れると消えちゃうから、消えなければ大当たり!……つまり、勝ちってわけ!」
なるほど。そういうことか。
拙者の霊法──デコイを使うつもりだな。
「なぜ拙者が、そんなくだらないゲームに付き合わないといけないんだ」
「ふーん……」
萌華は、どこか遠い目で拙者をじっと見つめてくる。
「……な、なんだよ?」
「一緒にやらないんですか?……“青春“」
「なにっ!?青春!?」
「そうですよ!
若人たちが公園で一緒にゲームをする……
これを青春と呼ばずして、なんと呼ぶんですか!?」
「よし!やろう、青春!」
青春!
そうか、拙者はいま……青春を体験できるのか!?
「やったー!なんかおもしろそう!」
愛乃ちゃんがパァッと笑顔を咲かせる。
「ふふふ♪おもしろい!
妾も全力で相手をしてやろう!」
桜蘭々さんが刀の柄に手を添え、静かに気合いを入れた。
「くっくっくっ……
“青春”っていう言葉に弱いんだよなぁ、是隠先輩は♪チョロいぜ♪」
「ん? なにか言ったか?」
「いーえっ♡なんにも♡
それじゃあ是隠先輩、お願いします!」
「わかった!」
拙者は腰に携行していた二本の刀の鞘から、柄を引き抜き、大声で叫んだ。
「やるぞ!!影鯨!!」
”影の大精霊・影鯨“を召喚。
拙者の柄が、影の精霊双短刀へと姿を変える。
拙者は、右手に持っている”影の精霊双短刀・陽“を、自身の影に突き刺す。
「影の叫び THE FIFTH!!」
影の刀身が影を貫いた瞬間、影が十字に地を走ると、やがて鋭角を描きながら、影の線は形を成していく。
形成されるのは──
“影の五角形型霊法陣”
拙者は右手の人差し指と中指を、両目の間に添える。
「集まれ、影たちよ──」
その言葉とともに、周囲にある遊具の影、木々の影が、霊法陣に吸い込まれるように集まっていく。
「出個影の陣!!!!」
霊法発動の刹那。
霊法陣から、拙者とまったく同じ姿をした“影の分身”たち──
三十体ものデコイが、音もなく現れた。
「── 散ッ!!」
拙者の合図とともに、三十体のデコイたちは一斉に四方へと展開。
拙者自身もその群れの中に紛れ込む。
「さあ!
先に本物の是隠先輩を見つけた人の勝ちですよ!」
「やるからには、妾は全力だぞ!」
「愛乃だって負けないよ!」
後ろを向いていた萌華たちは振り向き、それぞれがかけっこをし始めるときのような構えを取る。
「いきますよ〜!
Ready……GO!!」
萌華の合図とともに、三人は勢いよく散らばっていった。
「えいっ!……あれ? 消えた
じゃあ、あれかな? えいっ!……あれれ?」
愛乃ちゃんは次々とデコイに抱きついては、消えるデコイに首を傾げる。
「はああっ!!……くそっ!
……お前が本物か!えいやっ!!……これも違うか!!」
桜蘭々さんはまるで戦場の武将のように、豪快な蹴りを次々と繰り出し、デコイを蹴散らしていく。
その蹴りが決まるたびに、デコイは霧のように消滅していった。
「おりゃああああっ!……ちっ!デコイか!
やああああっ!……くそっ!どれが本物だ!」
萌華は、正拳突きで次々とデコイを吹き飛ばしていく。
「……いやいやいやいや、ちょっと待て」
拙者の脳裏に一抹の不安がよぎる。
──あのふたり、本物の拙者にも容赦なく全力攻撃を叩き込んでくるつもりでは?
そんな思いが頭をよぎったその瞬間だった。
がしっ!
背後から、柔らかな感触が拙者を包み込んだ。
「あれっ……?消えない……?」
振り返ると、愛乃ちゃんが拙者の腰にぎゅっと抱きついていた。
「じゃあ、これが……本物?」
「ああ、拙者が本物だ」
そっと頭を撫でると、愛乃ちゃんはぱあっと笑顔を咲かせた。
「ほんと!?やったーー!!
愛乃の勝ちーー!!」
「おおーっ!見事だ、愛乃!」
桜蘭々さんは笑顔で拍手を送り、声を弾ませる。
「くそおおぉぉっっ!!
是隠先輩に全力の腹パンをお見舞いする、絶好のチャンスだったのにぃぃぃぃ……!!」
萌華はひとり、地面に膝をつき、拳で地面を叩いて悔しさを露わにしていた。
「……おい、萌華
また、本音がダダ漏れだぞ」
──やっぱりこいつ、本物の拙者にも全力攻撃を叩き込んでくるつもりだったな。
「ねぇねぇ、もう一回やろ!もう一回っ!」
愛乃ちゃんが、まだ遊び足りない様子で無邪気にせがむ。
「ダーメ!本当に暗くなってきたし、今日はおしまい!」
萌華が優しく首を振りながら制止する。
「えーっ!?」
愛乃ちゃんは思わず声を張り上げるが、萌華はにっこり微笑みながら続けた。
「また今度、一緒にやろうね!
その代わり、今日はちゃんとおうちに帰ること!」
「ほんと? おねえちゃん!」
「うん、本当だよ!指切りげんまん、しよっか?」
「うん!」
二人はすっと小指を絡ませ、楽しげに歌いだす。
「指切りげんまん〜♪うそついたら〜♪
(是隠先輩に)針千本♪のーます♪
ゆびきった!」
「……おい、いま小声でなにか言わなかったか?」
「なーんにも♡空耳じゃないですかぁ?」
「じゃあまた今度、一緒に遊ぼうな、愛乃
ちゃんとおうちに帰るんだぞ」
「うん!ありがとう!
いっしょに遊んでくれて!
バイバイ、おねえちゃんたち!」
「バイバーイ!」
拙者たちは、手を振って愛乃ちゃんを見送った。
「帰る家がある……
家族……か」
その時、拙者の胸が、じんわりと熱くなったのを確かに感じた。
─────────────────────────────────────
【赤羽駅前】
「さっ、ご飯食べに行きましょう!
もうお腹ぺっこぺこ〜〜!」
「そうだな……そういえば是隠、この後用事があったんじゃなかったか?
間に合うのか?」
「せっかく久しぶりに三人揃ったんだし、そんな用事は断ってみんなで行きましょうよ、是隠先輩!」
なにやら心境の変化があったのか、珍しく萌華が優しくなっている。
「……いいのか?」
「……今日だけは特別ですよ
ゲームに付き合ってもらったお礼です
そのかわり……お代の方はお願いしますね♡是隠先輩♡」
「……こいつ」
「心配するな、かわいい後輩たちにお金は出せさせん
今日は妾のおごりだ
お腹いっぱいになるまで、たくさん食べるがよい」
「えっ!?そ、そんな!
桜蘭々様にそんな負担をかけさせるわけにはいきません!」
「いいんだ、たまにはお前たちに先輩らしいこともしてやらんとな!」
桜蘭々さんはにっこりと微笑み、萌華の頭を優しく撫でる。
「桜蘭々様……」
「さて!食べることも修行のうちだ!
妾より食べた量が少なかった者は──
明日の修行、倍にするからな!」
『えっ!?』
拙者と萌華は同時に仰天した。
その後、近くの焼き肉食べ放題のお店に入り、おいしいご飯を堪能……する余裕は当然なく、拙者と萌華は必死に桜蘭々さんと同じ量を平らげた。
しかしその結果、すっかりグロッキーになり、しばらく動けなかったのだった。
こうして、たった三年間しかない高校生活のうちの──
忘れられない、一日がまた過ぎていったのだった。
─────────────────────────────────────
“青春ノート”
5月14日 東京都北区・赤羽公園
桜蘭々さんと萌華、そして愛乃ちゃんと一緒に“本物を探せ!ゲーム”をした。
“友だちと公園で一緒にゲームをする”
……そうか、これが青春。
※キャラクター紹介
プロフィール
名前:飯田 詩音
年齢:17歳
身長:169cm
体重:秘密
職業:国立十文字学園高等部東京校精霊科三年
性格:冷静沈着・淡白
一人称:「私」
好きな食べ物:もんじゃ焼き
最近気になっていること:時々、是隠から変なお誘いを受けること