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第十一話 ミケくん輸送作戦

猫と赤ちゃんのコラボ動画とかよく見てほっこりしてます


※前話に引き続き、国立十文字学園高等部八戸校祓い科二年、佐藤銀河の視線でお送りいたします。


【青森県八戸市 フジコ公園】


「やったー!」

「さすが謙一郎さん!」

「銀河も牙恩もよくやった!」


おれたちは勢いよくハイタッチを交わす。


「みんなー!」


精霊壁が解かれ、精霊科三年の樹々吏さんが手を振りながら駆け寄ってきた。


『おつかれーい!!』


おれと牙恩と樹々吏さんは、いつものノリで元気よくハイタッチ。


「なんだ?そのかけ声は?」

「ん?ああ、これ?

 最近わたしたちの間で流行ってるかけ声だよ!ね?」

「はい!謙一郎さんも一緒にどうですか?」

「まさかとは思うが、“れい”と“霊”をかけているわけじゃあるまいな」

「そんなことしないですよ!

 『死者を愚弄しないこと!!』

 ──白亜(はくあ)先生の教えじゃないですか!」

「そうか、ちゃんとわかってるならいい……

 疑って悪かったな」


申し訳なさそうな謙一郎さんに、樹々吏さんが歩み寄る。


「はい!ということで、謙一郎くんも!

 おつかれーい!」

「お、おつかれーい……」


照れくさそうに、でもしっかりとハイタッチを返す謙一郎さん。

その姿に、思わず笑みがこぼれる。


「うん!

 三人揃えばどんな悪霊が来てもドンと来い!って感じだね!」

「でも……けっこう色々壊してしまいました

 特にあの砂場あたりとか……修復作業大変ですよね

 すみません!」


おれは深々と頭を下げた。


「なーに言ってんの!みんなが無事ならそれで十分よ!

 建物や遊具は壊れてもまた人の手で直せるけど、人間の身体や心はそう簡単には治らない

 霊法にだって限界はあるからね……

 だから、これからも私たちのことは気にせず、思いっきり戦いなさい!

 それが精霊科の使命でもあるんだから!」

「樹々吏さん……

 はい!ありがとうございます!」


もう一度、心を込めて頭を下げた。


「よ〜し!それじゃあ、わたしたちは早速修復作業にかかるわよ!」

『はい!』


背後に控えていた精霊科の生徒たちが一斉に返事をする。


「おれもなにか手伝います!」

「ぼくも!」

「物運びは任せろ!風で運んでやるからな!」


おれたちも修復作業に加わろうとしたそのとき──


「みゃあ……みゃあ……」

「ん?」


どこかから、小さな鳴き声が聞こえた。


「あっ!あそこ!」


牙恩が指差す先。

そこには、一本の木の上に、一匹の猫が取り残されていた。


「牙恩!」

「はい!」


謙一郎さんが牙恩を肩車し、猫を救出する。


「みゃあ!みゃあ!」

「首輪が付いてるってことは、誰かが飼ってるってことか」

「あっ!首輪の裏に名前が書いてますよ!

 ……“ミケ”ですって!」

「どれどれ……」


樹々吏さんが猫の股の間をちらりと確認する。


「うん!謙一郎くんより立派な“モノ”がついてるから、ミケ“くん”だね!」

「オレの見たことないよな!」


謙一郎さんが全力でツッコむ。


「大丈夫です!謙一郎さんの方が立派ですよ!」

「そうですよ!

 謙一郎さんのは、ちゃんと身長に比例したブツがついてます!

 最初風呂場で見た時、ぼく、すごくびっくりしたんですから!」

「えっ……あ、いや……それを面と向かって言われるのはさすがに恥ずかしいな……

 そ、そうか……オレのはそんなに立派だったのか」


謙一郎さんの視線が下がっていく。その先にあるのは、自分の……


「ねえ、乙女の前でそんな下品な話、どこまで深掘りするの?」

「最初にこの話題だしたのお前だよな!?」


謙一郎さんが再ツッコミをかます。


「あっ!ミケくん!」


そんな話をしている間に、牙恩の腕の中からミケくんがスルリと抜け出して地面に着地すると、そのまま走り去っていった。


「おーい!ミケくん、どこ行くんだ!?」

「おうちに帰るんじゃない?」

「そうだぞ銀河、後は放っておいても大丈夫じゃないか?」


おれは、ミケくんの後を追いかけ、走り始めた。


「また途中でどっかの木に登って下りられなくなったりでもしたら大変じゃないですか!?」

「たしかに、それもそうだな……よし、最後までちゃんと面倒みるか」

「じゃあミケくんのことは頼んだよー!

 こっちは修復作業してるからー!」

「はい!

 お願いします!」


おれたち三人は、ミケくんを慌てて追いかけた。


─────────────────────────────────────


【フジコ公園から数百メートル先 北村家】


走って数分後、ミケくんは一軒の大きな邸宅の敷地内へと入っていき、玄関ドアを引っかき始めた。

おれたちは邸宅の門扉を開け、ミケくんのいる玄関ドアへと向かう。


「みゃあ……!みゃあ……!」

「ここがきみの家かい?立派な家だねー……」


おれは玄関ドアを引っかいていたミケくんを優しく抱き抱えた。

表札には“北村”の名前。


「とりあえず、インターホン押してみますね!」


そう言うと牙恩は、玄関脇にあったインターホンを押した。

──しかし、反応はない。


「留守かな?」

「もう一度押してみます!」


牙恩がもう一度チャイムを押すが、やはり応答はない。


「……誰もいないみたいですね」

「どうしましょう?

 一度、ミケくん連れて寮に戻ります?」

「そうだな

 ポストに置き手紙でも入れておけば大丈夫だろ」


三人で相談していると──


「きみたちー!!どうしたのー!?」


門扉の外から声をかけられた。

見ると、近所のおばさんらしき人がこちらを見ていた。

おれたちはおばさんに駆け寄り、事情を説明する。


「この猫ちゃんを、おうちに届けに来たんです!」

「あら!?ミケちゃんじゃないの!?

 置いてかれちゃったの!?」

「みゃあ!みゃあ!」

「置いて……?」


おばさんはミケくんの頭を優しく撫でている。


「置いてかれたってどういうことですか?」


牙恩がおばさんに尋ねた。


「北村さんち、今日引っ越したのよ!

 なんでもお父さんの転勤とかで……!」

「そ、そんな……!?」

「引越し場所はどこなんです?」


謙一郎さんが冷静におばさんに尋ねる。


「オーストラリアよ!」


『オ、オーストラリア!?』


三人揃って絶句する。


「確か、18時過ぎの新幹線で青森駅に行くって言ってわね!

 そこから青森空港に行って、そこから……」

「とりあえずは18時過ぎに八戸駅から出る新幹線ですね!」

「え、ええ……そうよ」

「今の時間は!?」


スマホで時間を確認したところ“17:45”と表示されていた。


「……くそっ!車でも八戸駅までは30分かかる!

 どうする!?どうする!?」


おれは頭をフル回転し、打開策がないか考える。


「こうなったら!」

「そうですね!」


焦るおれの横で、牙恩と謙一郎さんはなにかを閃いたのか、お互いを見てうなずき合っていた。

そして、二人とも左腰に携行していた鞘から柄を引き抜くと、大声で叫んだ。


「出て来い!!地玄武(じげんぶ)!!」

「行くぞ!!隼風丸(じゅんぷうまる)!!」


牙恩は、“地の大精霊・地玄武”を召喚し、謙一郎さんは、“風の大精霊・隼風丸”を召喚。

牙恩の柄は“地の精霊大剣”へ、謙一郎さんの柄は“風の精霊手裏剣”へとそれぞれ姿を変えた。


「え……?

 二人してどうしたんですか?」

「サイズは……このくらいかな!

 持ちやすいように取っ手もつけてっと!」


牙恩が地の精霊大剣を地面に突き刺すと、地面が盛り上がり、取っ手付の猫用ケージが完成していく。


「ちょっと狭いけど、我慢してね……

 はい、銀河さん」

「え?」


牙恩はミケくんをケージに入れると、それをおれに手渡した。


「外は硬く、中は柔らかい素材の土で作りましたから、これでミケくん()大丈夫です!」

「それじゃあ後は頼んだぞ、銀河!」


そう言うと謙一郎さんは風の精霊手裏剣を構えた。


「……なんか嫌な予感」

「風の叫び THE() FIFTH(フィフス)!!」


次の瞬間──

風の精霊手裏剣が高速回転。

そして、謙一郎さんの足元には巨大な“風の三角形型霊法陣” が展開された。


「ちょ、ちょっと待っ──」

直線風(ちょくせんふう)!」


おれの真下から噴き上がる上昇風。


「うわああああああ!」


その上昇風により、おれは空高く上昇した。

いや、させられた。


「もう一回!

 直線風(ちょくせんふう)!」


次は、背後から強烈な突風。

おれの体は、風に乗って一直線に八戸駅の方角へ飛ばされていった。


「うわああああああ!」

「頼むぞ、銀河!」

「銀河さん……

 良き、来世を」


猛烈なスピードで空を飛び、あっという間に八戸駅が見えてくる。

が、おれの体はどんどん降下していく。


「このままじゃ、地面に激突する……!

 こうなったら!」


おれは両手で抱えていたケージを左手だけで持ち、そして右手で左腰に携行していた柄を引き抜き、大声で叫んだ。


「来い!!朱炎雀(すえんざく)!!」


“火の大精霊・朱炎雀”を召喚。

そして、柄は“火の精霊刀“へと姿を変える。


「おりゃあああああ!!」


柄から──爆炎を噴射!

まるでロケットの着陸のように、スピードを殺し、なんとか無事に地面に着地した。


「はあ……はあ……

 うまくいった……そうだ!」


おれは急いでケージの中を確認する。


「みゃあ!みゃあ!」

「よかった……

 ごめんよミケくん、びっくりさせちゃって

 ……っと、急いできみの家族を探しに行かないと!」


おれは、優しく語りかけながらケージを開けてミケくんを抱き抱えると、八戸駅構内へと駆け込んだ。


─────────────────────────────────────


【八戸駅】


「ミケくんのご家族の方、いらっしゃいませんかー!?」


おれは駅構内を走り回りながら、何度も叫んだ。

待合室、みどりの窓口、お土産コーナー……

くまなく探すが、どこにもミケくんの家族らしき人の姿はない。


「間に合わなかった……のか……」


胸の奥がじんと痛み、力が抜ける。

おれはその場に崩れ落ち、両膝を床についた。


「みゃあ!みゃあ!」

「大丈夫、心配しないで

 おれが、ちゃんと責任もって面倒みるから」


おれはミケくんの目を見て優しい声で話す。

すると、


「みゃあ!」


ミケくんはオレの腕から飛び出し、一直線にどこかへ向かっていった。


「あっ!ミケくん!」


おれは急いでミケくんの後を追う。

その先で──


「みゃあ!みゃあ!」

「あっ!ミケだ!

 パパ!ミケがいたよ!」


小さな男の子がミケくんを抱き抱えていた。


「ほんとだ!

 どこに行ってたんだミケ!!めちゃくちゃ探したんだぞ!!」

「よかった……

 これでちゃんと家族全員揃って渡豪できるわね

 ほんとによかった……」

「うん!

 ミケ!もう離さないからな!」

「みゃあ!みゃあ!」


父、母、そして男の子に囲まれて──

ミケくんも、うれしそうに鳴いている。

おれは、その光景を少し離れた場所から、そっと見守っていた。


「……よかった」


ミケくんは、確かに家族の元へと帰っていった。

抱きしめられ、撫でられ、声をかけられているその小さな体。

当たり前のように交わされる会話。当たり前のように寄り添う姿。


それを見ているだけなのに──

胸が、じんわりと熱くなった。


「……家族、か」


ぽつりと、声が漏れる。


その瞬間だった──

頬を一筋、温かいものが伝った。

拭おうとするより先に、もう一滴、そしてまた一滴。


「……え?」


気づけば、涙が止まらなくなっていた。


一年。

あの日から、もう一年が経った。

正確に言えば一年以上だが、未だにおれは、自分の家族のことをなにひとつ思い出せていない。

それでも──

目の前の家族の再会を見て、どうしようもないほどに感動している自分がいた。

あたたかいものが、胸の奥に確かに宿っていた。


……おれの中にもきっと、どこかに──

家族の記憶がある。

そう信じて──


─────────────────────────────────────


【国立十文字学園高等部八戸校 学生寮】


「銀河さん!」


寮の入口に、牙恩と謙一郎さんが立っていた。

どうやら帰りをずっと待ってくれていたらしい。


「おかえりなさい!

 ミケくんがいないってことは、うまくいったみたいですね!」

「なんとかね!」

「よくやった銀河!

 お前なら必ず、なんとかしてくれると信じてたぞ!」


謙一郎さんから頭をなでられる。


「できれば、事前にすることを言ってほしかったですけどね!」

「まあ、そう言うな!

 代わりに今日の料理当番やっておいたから、それでチャラにしてくれ!」

「あっ!そうだ!

 おれ今日、料理当番だった!」

「今日の夕飯はなんなんですか、謙一郎さん?」

「ふっふっふっ、聞いて驚くな……いや驚け……

 シーフードピラフだ!」

「シ……」

「シーフード」


おれと牙恩は、同時にうなだれた。

──というのも、謙一郎さんの料理は約9割、海鮮系。

しかも半分の確率で、味噌汁代わりに八戸せんべい汁が登場する。


「心配するな!

 ちゃんとお前たちの好みはわかっている!

 牙恩のは“超激辛シーフードピラフ”で、銀河のは“超ガーリックシーフードピラフ”にしておいたぞ!」

「本当ですか!?」

「やったー!!

 謙一郎さん大好きー!!」


おれは謙一郎さんに勢いよく抱きついた。


「お、おいっ!離せ銀河!」

「あれ?もしかして照れてます?」

「て、照れてなどしておらん!」


そして、おれたち三人は寮の中へと入っていった。


こうして、たった三年間という短い高校生活の内の一日がまた、過ぎ去っていったのであった。

※キャラクター紹介

プロフィール

名前:杉本 樹々吏

年齢:18歳

身長:163cm

体重:秘密

職業:国立十文字学園高等部八戸校精霊科三年

性格:適当・やんちゃ

一人称:「わたし」

好きな食べ物:スルメ 〜マヨネーズと、一味または七味とうがらしを添えて〜

最近気になっていること:小説家を目指していてファンタジージャンルの小説を書いているのだが、なぜか気付いたらBL作品へといつの間にか変貌していること。

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