第十話 フジコ公園の戦い
ここから本編の始まりとなります。
ぜひ楽しんでいただけると幸いです。
※前話に引き続き、国立十文字学園高等部八戸校祓い科二年、佐藤銀河の視線でお送りいたします。
※用語解説
・霊技:通常攻撃とは異なる、精霊刀剣の使い手が放つ必殺技の総称。
”霊斬(斬撃系の霊技)“と”霊法(術式系の霊技)“の大きく二種類に分けられる。
なお、主人公たちは霊技を放つ際、霊技名を叫ぶ。(例:火の叫び THE FIRST 斬火讐炎陣)
・霊斬:使用者の霊力を媒介として、物理的に敵を斬り裂く直接攻撃。
使用者の身体能力と霊力制御に大きく依存し、剣技としての技量が問われる。
一撃の重み、速度、角度すべてが勝敗を分ける実戦の基本。(例:火の叫び THE THIRD 一刀両炎斬)
・霊法:使用者の霊力を媒介として、瞬時に発動する術式攻撃。
使用者の霊力鍛心と霊力制御に大きく依存し、無詠唱で使用可能。
攻撃だけではなく、防御、回復など多岐に渡る応用が可能。
(例:火の叫び THE FIRST 斬火讐炎陣、地の叫び THE SECOND 地円陣)
・霊脈:霊力を持つ者の体内にのみ存在する、霊力専用の内的流路。
人間の体内には血液の流れる「動脈」や「静脈」の他に、この第三の脈系、霊脈が存在する。
霊斬も霊法も、その源となる霊力は体内の霊脈を巡り、最終的に柄へと流れ込む。
【青森県八戸市 フジコ公園】
「うわあああああ!!
た・す・け・てーーーーー!!」
「カサカサカサカサカサ」
「おーい!牙恩!
こっちこっちー!」
砂場で10体ほどの、アカズムカデ型・地属性中級悪霊に追われ、元気いっぱいに逃げ回っているのは一年後輩鈴木牙恩。
おれと同じく国立十文字学園高等部八戸校祓い科の学生で、“地の大精霊・地玄武”に選ばれた“地の精霊大剣”の使い手だ。
「いいぞ牙恩!
そのまま悪霊を引きつけて、銀河のところまで誘導するんだ!」
そして、砂場に設置された登り棒の頂点で公園全体を見渡しながら、そう指示を飛ばすのは一年先輩の高橋謙一郎さん。
謙一郎さんも同じく八戸校祓い科の学生で、“風の大精霊・隼風丸” に選ばれた“風の精霊手裏剣”の使い手だ。
「・・・」
──念のため言っておくが、謙一郎さんはれっきとした高校三年生。
浪人でも留年でもない。おれより一歳年上なだけだ。
だから、そこの君。
「あの人、本当に高校生?なんか老けてね?」
とか言わないでもらえると助かります。
なぜなら、この前も夕食の買い出しのためにスーパーへ行ったら、親子から『おじさん』『おじさま』と呼ばれたらしく、ひどく落ち込んでいたのだから……
それを慰めるのにおれと牙恩が一体どれだけ苦労したことか。
普段は冷静なのに、年齢いじりをされると取り乱してしまうので、精霊科三年の樹々吏さんがおもしろがってよくいじっている。
その度におれと牙恩に泣きついてくるので勘弁してほしいところではあるのだが……
「死ぬーーー!死んじゃうーーー!」
「大丈夫だ牙恩!骨は拾ってやるから!」
「そんなーーー!
それってもう死ぬ前提じゃないですか謙一郎さん!」
そんな謙一郎さんと牙恩がやりとりを交わしている間に、牙音と中級悪霊たちがもうおれのすぐ近くまでやってきた。
牙恩を追いかけていた中級悪霊たちが一直線に並び、絶好の攻撃チャンスを形成していた。
「よし!今だ!
避けて牙恩!」
「うわあああああ!」
牙恩はおれの脇をヘッドダイブで滑り抜けていく。
その瞬間、おれは火の精霊刀を上段に構えた。
「火の叫び THE THIRD!!」
柄から、火炎放射器のように激しく炎が放射されると、5メートルに達する巨大な火の刀身へと変貌する。
「一刀両炎斬!!!!」
振り下ろした火の刀身が、悪霊たちを悪霊玉ごと真っ二つに焼き斬る。
するとその場には、透けた子どもたちの姿が現れ、静かに空へと昇り、やがて消えていった。
──あ、すみません、みなさま申し遅れました。
おれの名前は佐藤銀河。
国立十文字学園高等部八戸校祓い科の二年生です。
そして今、手にしているこの武器の名は”火の精霊刀“。
伝説級の武器、“精霊刀剣”の一つで、おれを選んだ大精霊の名は“朱炎雀”。
先ほどの攻撃でわかっていただけたと思いますが、火の大精霊です。
「よし、残るは……」
おれは視線を上げ、時計塔に巻きつくように居座る一体の、トビズムカデ型・地属性上級悪霊に目を向けた。
中級とは、明らかに霊気が違う。
動きはない。だが、こちらをじっと見ている。
「何してるんだ、あいつ?」
登り棒から下りてきた謙一郎さんが声をかけてくる。
「うーん……
こっちの様子を伺ってる……とかですかね?」
「はあ……はあ…… はあ……」
牙恩が肩で息をしながら近づいてくる。
「ふーっ……」
牙恩は深く息を吸った。
これは……くるな。
「ビビるの飽きた」
やはり、どうやら牙恩は通称“ノーマルモード”、別名“ビビリモード”に飽きてしまったようだ。
次は何モードになるのかな?
この子は飽きっぽく、感情や表情がコロコロ変わるため見ていて飽きない。
が、どのモードになるのかは予測不能なため、戦闘に関して作戦を立てづらいのが難点ではある。
「いま攻撃を仕掛けたら、どんな反応をするのでしょうか♪試してみましょう♪小生にお任せを♪」
おー!どうやら今度は“好奇心モード”のようだ。
まるで、動物実験を楽しむマッドサイエンティストかのように、顔がとてもウキウキしている。
そのときだった──
また、あの声が頭に響く。
「こ……せ……
こわ……せ……
こわせ……!コワセ!壊せ!ぶっ壊せ!」
「うっ……!」
頭に直接響く声とともに、おれはその場に片膝をつく。
「大丈夫か!?銀河!?」
謙一郎さんがすぐに駆け寄ってきて、おれの肩に手を置いた。
「は、はい……大丈夫です」
「また……いつもの頭痛か?」
「はい……でも、もう治まりました
ありがとうございます」
「無理するな、後は休んでろ
ここはオレと牙恩でなんとかする」
「いえ、大丈夫です
いけます」
また、これか。
戦闘中、時折頭に直接語りかけてくる“声”。
それに呼応するように湧き上がる“破壊衝動”。
──本当に、一体なんなんだ……
「ギィッ!」
おれらが話している隙に、上級悪霊は頭部にある二本の触角を持ち上げ、そこに地の円形型霊法陣を展開。
茶色く輝いたその霊法陣から、大量の小石がおれたち目がけて放たれる。
「なんだ!?この量は!?」
「……あいつ、味方を囮にしてずっと力を溜めてやがったな!」
おれが驚く中、謙一郎さんは冷静に状況を分析。
「ここはおれが!」
「大丈夫です、銀河さん!ここは小生にお任せください!」
そう言って、牙恩は地の精霊大剣を構えた。
「さーて!
この術を使ったら敵の小石が一体どんな反応を示すのか、実験開始です!
地の叫び THE SECOND!!
地円陣!!!!」
地の円形型霊法陣が展開されると茶色に輝き、牙恩を中心としたドーム状の岩石の結界が展開される。
そこへ飛来してきた無数の小石が衝突すると、全て見事に砕け散った。
「やはり砕けましたか……脆い石をお使いになられてますねぇ」
「よくやった牙恩!後はオレに任せろ!」
すかさず謙一郎さんが風の精霊手裏剣を構える。
「風の叫び THE THIRD!!
鎌韋太刀!!!!」
風の精霊手裏剣を上級悪霊に向け、投げ飛ばす。
高速回転した精霊手裏剣の風の剣身により、上級悪霊を悪霊玉ごと真っ二つに斬り裂いた。
「パキィンッ」
響くような、静かな音。
すると、透けた小学生くらいの男の子が浮かび上がり、こちらに微笑む。
やがて、ふわりと上空へと昇り、消えていった。
——祓い、完了。
『良き、来世を』
キンッ!
おれたちは、それぞれの精霊刀剣を静かに鞘に収めた。
※キャラクター紹介
プロフィール追加
名前:鈴木 牙恩
一人称:好奇心モード時。「小生」