第十話 フジコ公園の戦い
ようやく序章を終え、ここから本編の始まりです。
ぜひ楽しんでいただけると幸いです。
※今話は、国立十文字学園高等部八戸校祓い科二年、佐藤銀河の視線でお送りいたします。
【青森県八戸市 フジコ公園】
「うわあああああ!!
た・す・け・てーーーーー!!」
「カサカサカサカサカサ」
「おーい!牙恩!
こっちこっちー!」
砂場で10体ほどの、ムカデ型の地属性中級悪霊に追われ、元気いっぱいに逃げ回っているのは一年後輩の牙恩。
おれと同じく国立十文字学園高等部八戸校祓い科の学生で、“地の大精霊地玄武”と契約している“地の精霊大剣”の使い手だ。
「牙恩!いいぞ!
そのまま悪霊を惹きつけて銀河のところまで誘導するんだ!」
そして、砂場に設置された登り棒の上に乗り、公園全体を見渡しているのは一年先輩の謙一郎さん。
謙一郎さんも同じく八戸校高等部祓い科の学生で、“風の大精霊隼風丸”と契約している“風の精霊手裏剣”の使い手だ。
・・・
念のためもう一度言っておくが、謙一郎さんは一年先輩だ。
浪人をしたとかそういうわけではなく、年齢は単純におれの一個上である。
はい、そこの君。
『あの人本当に高校生?老けてね?』
とか言わないでくれると助かります。
なぜなら、この前もスーパーへ買い物に行った時に、親子から『おじさん』『おじさま』と呼ばれたらしく、ひどく落ち込んでいたのだから。
それを慰めるのにおれと牙恩が一体どれだけ苦労したことか……
普段は冷静なのに、年齢いじりをされると取り乱してしまうので、精霊科三年の樹々吏さんがおもしろがってよくいじっている。
その度におれと牙恩に泣きついてくるので勘弁してほしいところではあるのだが……
「死ぬーーー!
死んじゃうーーー!」
「大丈夫だ牙恩!
骨は拾ってやるから!」
「そんなーーー!
それってもう死ぬ前提じゃないですか謙一郎さん!」
そんな謙一郎さんと牙恩がやりとりをしている間に、牙音と中級悪霊たちがもうおれの目と鼻の先にやってくる。
牙恩を追う中級悪霊たちがおれと一直線に並んだ。
「よし!今だ!
避けろ牙恩!」
「うわあああああ!」
牙恩はおれの横元をヘッドダイビングですり抜ける。
おれは火の精霊刀を上段に構える。
「火の叫び THE THIRD」
柄から、火炎放射器のように激しく炎が噴出し、5メートルほどの長さの刀身となる。
「一刀両炎斬!!!」
火の精霊刀を振り下ろし、悪霊たちを火の刀身で悪霊玉ごと真っ二つに焼き斬った。
すると中級悪霊たちは中身が透けた子供たちになり、そのまま上空へと飛び上がっていき、徐々に体が薄れ消滅していった。
すみません、みなさん申し遅れました。
おれの名前は佐藤銀河。
国立十文字学園高等部八戸校祓い科の二年生です。
そして今、手にしているこの武器の名は”火の精霊刀“。
伝説級の武器、“精霊刀剣”の一つであり、精霊刀剣とは、大精霊を宿すことではじめて戦うことができる武器のことを指します。
おれが契約している大精霊の名は“朱炎雀”。
先ほどの攻撃でわかっていただけたと思いますが、火の大精霊です。
「よし!
残るは……」
おれは、時計塔に巻きついている一体の、中級悪霊と同じムカデ型の地属性上級悪霊を見つめる。
上級悪霊はこちらに視線を向けてはいるが、動かずにじっとしている。
「何してるんだ、あいつ?」
登り棒から下りてきた謙一郎さんに話しかけられる。
「うーん……
こちらを様子見してる……とかですかね?」
「はあ……はあ…… はあ……」
さきほどまでたくさん逃げ回っていた牙恩が息切れしている。
「ふーーー
ビビるの飽きた」
どうやら牙恩は“ビビリモード”に飽きてしまったようだ。
次は何モードになるのかな?
この子は飽きっぽく、感情や表情がコロコロ変わるため見ていて飽きない。
どのモードになるのかは推測不可能なため、戦闘に関して作戦を立てにくいのは欠点なのだが……
「いま攻撃仕掛けたらどんな反応するんですかね♪
試してみましょうよ♪」
おー!
どうやら今度は“好奇心モード”のようだ。
まるで、動物実験を楽しむマッドサイエンティストかのように、顔がとてもウキウキしている。
「こ……せ……
こわ……せ……
こわせ……
コワセ!
壊せ!
ぶっ壊せ!」
「うっ!」
おれはその場で片ひざをつく。
「大丈夫か!?銀河!?」
謙一郎さんが心配し、おれの左肩に手を置く。
「は、はい
大丈夫です」
「またいつもの頭痛か?」
「はい……
でも、もう大丈夫です
おさまりましたから」
「後は休んでろ
この場はおれと牙恩でなんとかする」
「大丈夫です
いけます」
またか……
本当に一体なんなんだ?
誰かが頭の中に直接語りかけ、そして同時に起こる、この破壊衝動は。
戦闘中のみ、時折この症状が発生する。
「ギ!」
おれらが話している隙に、上級悪霊が頭にある二本の触覚部分に茶色の円形霊法陣を展開。
その霊法陣から大量の小石をおれたちに向け放ってきた。
「なんだこの量は!?」
おれは驚き、
「もしかしてあの野郎、味方を囮にして力を溜めていやがったな」
謙一郎先輩が冷静に分析する。
「ここはおれが!」
「大丈夫です銀河さん!
ぼくに任せてください!」
そう言うと牙恩は地の精霊大剣を構えた。
「さーて!
この術技を使ったら敵の小石が一体どんな反応を示すのか、実験開始だ!
地の叫び THE SECOND
地円陣!!!」
牙恩が持つ地の精霊大剣の剣身が形を変え、おれたちを包むドーム型の土の壁を形成。
その強固な土の壁に敵の攻撃が当たると、敵が放った大量の小石は全て砕けていく。
「やっぱり砕けたかー……
脆い石使ってんな」
「よくやった牙恩!
後は俺に任せろ!」
謙一郎さんが風の精霊手裏剣を構える。
「風の叫び THE THIRD
鎌韋太刀!!」
風の精霊手裏剣を上級悪霊に向け、投げ飛ばす。
高速回転した精霊手裏剣の風の剣身により、上級悪霊を悪霊玉ごと真っ二つに斬り裂いた。
すると、小学生くらいの透けた男の子がこちらを見て微笑むと、そのまま上空へと飛び上がっていき、徐々に体が薄れ消滅していった。
「良き、来世を」
キン!
おれたちは精霊刀剣を鞘に収めた。
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