第六話 水の精霊分離剣
※用語解説
・霊気:霊的存在から自然と発せられる気配や雰囲気。
周囲に「何かがいる」と感じさせる霊的な空気感。
人はかつて、霊気をこう呼んでいた──“霊感”と。
しかし、精霊の存在が明らかになると、“霊気”へと改名された。
人間でいう“覇気”のようなもの。
(使用例):「この場に漂う霊気……ただ者じゃない……!」
・霊圧:圧倒的な霊気、霊力によって生じる、“威圧感”、“圧力”。
精神や身体に直接のしかかるような、息苦しさを感じる。
強者ほど存在するだけで周囲を制圧する力を持つ。
人間でいう“重圧”のようなもの。
(使用例):「立っているだけで、圧し潰されそうな霊圧だ……!」
・霊力(追加):“霊的エネルギー”そのもの。
霊法の源となるエネルギー。
(使用例):「全霊力を、この一撃に込める!」
【現代 兵庫県神戸市 国立十文字学園高等部神戸校 食堂】
「おばちゃーん!おかわり!大盛りでっ!」
「あら麻璃流ちゃん、今日もいい食いっぷりだねぇ!」
「今日もガッツリ稽古したから、もうお腹がペッコペコで〜!」
「ふふっ!若い子はそうでなくっちゃ!
はい、大盛りご飯、お待ちどうさま!」
「ありがとうございますっ!」
茶碗からこぼれそうなくらいの大盛りご飯を受け取ったあたしは、席に戻って、生姜焼きに再び箸を伸ばす。
この、口いっぱいにご飯を詰め込んでいるあたしの名前は渡辺麻璃流。
国立十文字学園高等部“神戸校”祓い科の二年生。
稽古のあとに食べるご飯って、なんでこんなにおいしいんだろ!?
しかも今日の日替わりは、生姜焼き定食。
肉!タレ!白米!最強タッグ!
ガッツリ動いたあとのご飯といえば、やっぱりお肉!
──って思うの、あたしだけじゃないよね?
「ん〜〜っ、うんま〜〜い♪」
ほっぺが落ちそうな味に、思わず笑みがこぼれる。
幸せ……いまこの瞬間、たぶん世界一幸せ……
そんな、幸せに浸っていたときだった。
「♪〜〜」
テーブルの上で、スマホが軽快な着信音を鳴らした。
画面を見ると、精霊科三年の助助さんからの着信。
「はひっ!」
ご飯を頬張ったまま通話ボタンをタップ。
「桜井だ
悪霊が出た、すぐに来てくれ
場所は磨須海水浴場だ」
「ほうはいへふ!ふふいふはいはふ!」
「……なんて?」
あたしは慌てて口の中のご飯を飲み込み、喉を押さえながらゴホッとひと咳。
「了解です!すぐに向かいます!」
「よろしく頼む」
通話を切ると、あたしは最後のひと口を一気にかきこんで立ち上がった。
「おばちゃーん!ごちそうさまでしたーっ!とってもおいしかったです!」
ニッコリ笑って感謝の言葉を伝えると、食堂を飛び出して磨須海水浴場へと急いだ。
「あともう一杯はいけたなあ……」
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【磨須海水浴場】
神戸市内でも有名なこの磨須海水浴場は、砂浜の長さが二キロ近くもある広大なビーチ。
夏になると、たくさんの海の家が立ち並び、海水浴客でめちゃくちゃにぎわう地元の人気スポットだ。
──でも今は、夜。
陽が沈み、浜辺はひっそりとした闇に包まれていた。
「麻璃流!こっちだ!」
「助助さーん!」
助助さんの声に反応して、あたしは砂浜をザッザッと駆け寄る。
その背後には、精霊科の学生が三人。
全員、顔がこわばってる。緊張感ビシバシだ。
「着いたばかりで悪いが、早速現状報告を──」
「それじゃあ、行ってきまーすっ!」
「お、おい!?ちゃんと敵の情報を──」
「大丈夫ですっ!見ればわかりますって!」
「おい麻璃流!……まったく、あいつはいつもこうなんだから……」
助助さんのため息が、潮風に溶けていく。
──でも、もう遅い。
あたしはすでに、夜の海風を切って走り出してた。
悪霊の気配は、はっきりと感じる。
じっとしてるなんて、性に合わないし!それに……
「よ〜し、いっちょ派手にやっちゃいますか〜っ!」
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【磨須海水浴場 助助の位置から約1km先】
「おっ!はっけーん♪」
夜の波音にまぎれて、あたしの声が弾んだ。
浜辺の先に、烏賊型の中級悪霊がずらり、ざっと20体。
そのさらに奥、まるで空気ごと歪ませるような異質な霊気を放つ巨大な影──あれが本命、上級悪霊だ。
「よ〜し、先手必勝だね!燃えてきたーっ!!」
あたしは、背中に携行していた剣の鞘から、柄を引き抜く。
そして、柄を強く握りしめ、大声で叫んだ。
「来なさい!!水青龍!!」
その名を叫んだ瞬間——
あたしの体内から水が一気に噴き出し、空間全体が渦を巻き始めた。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
地を揺るがすような轟音とともに、巨大な水の渦が浜辺を包みこみ──
その中心から、咆哮を上げて龍が出現。
これぞ──
“水の大精霊・水青龍”
全身が透き通るほど澄んだ水で形作られた、巨大な龍。
その姿は──荘厳で、美しくて、幻想的で……それでいて、とてつもなく強そう!!
あたしが今、手に持っているのは──
“水の精霊分離剣”
柄は、握りの役割を果たすI字型の精霊玉だけでできてて、鍔もなし。
一見すると、ただの細長いクリスタルの棒みたいな見た目。
ちなみに、別名は“Water Saber”……
って、精霊科の人たちが勝手にそう呼んでるだけなんだけどね。
どうやら、昔めちゃくちゃ流行ったSF映画『MOON WARS』に出てくる武器、“Moon Saber”に形がそっくりなんだって。
……まあ、たしかに見た目は似てるかも。
水青龍は、まるで大河がそのまま空を流れてきたみたいに、ズバーンッて勢いであたしの柄に突っ込んできた!
“精霊玉”に、水青龍が吸い込まれる。
次の瞬間──
透明色だった精霊玉が、青色に染まる。
柄の両端から激流が噴き出し、渦を巻くように収束しながら硬質の“水の剣身”を形作った。
今──
この刀は“真なる形”を顕現した。
“柄”だけだった未完成の刀に、大精霊の力が宿り、“水の剣身”がここに生まれ、“水の精霊分離剣”は真価の姿を現した。
これこそが──
大精霊に選ばし者のみが扱うことを許された伝説級の武器。その名も──
“精霊刀剣”。
あたしは、水の精霊分離剣を構える。
「水の叫び THE FIRST!!
流流舞踏剣!!!!』
──風のような、いや、水流のようにしなやかで速く……
斬る、斬る、また斬る!
奔る剣閃は奔流となって中級悪霊たちをなぎ払い、その一撃一撃が、まるで水の舞踏──
絶え間なく繋がる動きが、攻撃と防御をひとつにし、敵の隙を一瞬たりとも逃さない。
圧倒的な速度、そして流麗な剣技。
“流れるように、踊るように斬る”という言葉が──
いま、ここに具現化されていた。
──え、水でどうして斬れるのかって?
それはね、”ウォータージェット“の原理を応用してるから!
超高圧ポンプの力で圧縮された水が、狭い通路を通って超高速ジェット水流になる。
この柄部分がその“ポンプ”の役割を担ってるってわけ。
その威力、固いものはもちろん、どんなに柔らかい素材でも切断できる。
「グギャアアアア!!」
悪霊たちの核──“悪霊球”を斬り裂いては、次々と祓っていく。
「よーしっ!あとは奥の上級だけ!」
──と思ったそのときだった。
「……あれは!?」
上級悪霊は、自身の頭上に触手を集中させていた。
展開されるのは──
“雷の円形型霊法陣”
「ギィィィィィ!!」
『上級悪霊
俗名:吉川見谷子
種別:烏賊型
属性:雷』
次の瞬間——
“雷の円形型霊法陣” が黄色に輝くと、空気が裂けるような轟音とともに、雷が放たれた。
それは、一点集中。
真っ直ぐ、迷いなく。あたしを貫くための雷。
砂浜を抉り、空気を焦がしながら、雷は一直線に突き進んできた。
「やばっ!」
とっさにジャンプして回避──したけど!
「きゃあっ!」
空中で触手に絡め取られてしまった。
「やだ〜〜っ!ヌルヌルしてて気持ち悪い〜〜っ!!」
触手を斬ろうとしたけど──
この形態……両手持ちじゃ、振りにくいっ!!
「こうなったら……第二形態!!」
I字型の精霊玉、柄中央でパキッと分離。
一本だった柄が、二本の短い柄へと変化する。
そう──この“水の精霊分離剣”は、両剣から双剣へと“分離”できるのだ!
言うなれば──
第一形態は「両剣モード」。
第二形態は「双剣モード」。
──ふっふっふっ♪
刹那さんの“氷の精霊両刀”。そして、天嶺叉の“樹の精霊双刀”。
その両方の特性を兼ね備えた、この”水の精霊分離剣“は──まさに無敵!!
両刀と双刀。いや……
両剣から、双剣へと変化できるこの“水の精霊分離剣”こそ、真なる最強!!
「これなら……いけるっ!」
両手に構えた双剣で、触手をズバズバッと一閃!
「やった!」
拘束を脱したあたしは浜辺に着地。
「第一形態!!」
すぐさま双剣を合体させ、再び両剣へ。
「おっりゃああああああ!」
水の精霊分離剣を全力で振り抜き──
上級悪霊を悪霊球ごと真っ二つに!
「パキィンッ!」
甲高い破裂音が夜空に響く。
静寂の中、砕けた悪霊球からふわりと光が溢れ──
その中から、透き通るような女性の人影が姿を現した。
20代くらいの若い女性。
何も言わず、ただ穏やかに微笑むと──
そのまま、空へと昇っていった。
そのあとを追うように、無数の光が浮かび上がった。
中級悪霊の“元” だった精霊たちの魂もまた、光の粒となって空へ帰っていく。
——祓い、完了。
「良き、来世を」
キンッ!
あたしは、水の精霊分離剣を静かに鞘に収めた。
※キャラクター紹介
プロフィール
名前:渡辺 麻璃流
年齢:17歳
身長:168cm
体重:秘密
職業:国立十文字学園高等部神戸校祓い科二年
武器:水の精霊分離剣
召喚精霊:水の大精霊 水青龍
性格:天真爛漫
一人称:「あたし」
好きな食べ物:なんでも!
最近気になっていること:無し!!(寝れば大抵忘れるので)




