番外編 ⭐︎Happy New Year⭐︎〜お年玉争奪戦編〜 Part3
※前話に引き続き、国立十文字学園高等部八戸校祓い科二年、佐藤銀河の視線でお送りいたします。
【国立十文字学園高等部八戸校 学生寮10階 談話室】
おれたちは、親である白亜先生を正面に、横一列に並んでいた。
左から順に、麻璃流、謙一郎さん、天嶺叉、是隠、牙恩、桜蘭々さん、萌華さん、おれ、刹那さん。
白亜先生は、用意された50本の紐の中心部分をひとまとめにし、右手にぐるりと巻きつけると──
「よいしょっ!」
掛け声と同時に、左手で──
“小銭のついていない方“を、勢いよく畳に叩きつけた。
──ドンっ!
乾いた音が響き、紐が一斉に跳ね上がる。
まるで生き物のように、四方へと散っていった。
“小銭のついている方”は見破られないよう、紐の中心部分は右手の甲だけが見える形で巧妙に隠されている。
「あっ! これが一番跳ねたっ!
なんか縁起良さそうだし、あたしこれにするっ!」
「それだったら、こっちのほうが跳ねた気がするぞ!
オレはこれだっ!」
「ウ、ウチは……これにします……。」
「ぼくはこれ!」
「あっ! ちょっと狂人牙恩!
それはわたしが取ろうと思ってたのにー!
譲りなさいよっ!」
「妾は正々堂々、目の前の紐を選ぼう。」
「ダーリンはどれにしますの?
わたくし、ダーリンが選んだ隣の紐にしますわ♡」
「おれは……じゃあ、これで!」
「”余り物には福がある“。
……そうか、これがお年玉。」
それぞれが迷い、主張し、騒ぎながらも、やがて全員が一本ずつ紐を掴んだ。
「よし、全員決めたな?
それじゃあ、まずは……10円玉からだ!」
白亜先生は、楽しそうな声色で叫ぶ。
「いくぞー!
じゅ〜え〜ん! じゅ〜え〜ん!」
奇妙なリズムに合わせて、左手で10円玉のついた紐を引き始める。
──するするするっ……!
一本の紐が、まるで見えない引力に吸い寄せられるかのように、白亜先生の手元へと滑り込んでいく。
その紐を握っていたのは──
「あっ、拙者だ。」
是隠だった。
「残念だったな、是隠。はい、10円。」
白亜先生が小銭ケースから10円玉をつまみ、是隠へ手渡した。
「ふっ……ハズレじゃなかっただけでも、良しとするか。」
特に動揺する様子もなく、是隠はいつも通りのマイペースさで受け取った。
「えっ、でも拙者、これで終わりですか?」
「慌てるな、是隠。
ちゃんと“お楽しみ”は残してあるからな!」
こうして白亜先生主導のゲームは、笑いと期待に包まれながら、にぎやかに進行していくのだった。
──その後も第一回戦は続き、残っている紐も気付けば半分になっていた。
すでに引き当てて、観戦に回っているのは四人。
(是隠:10円、天嶺叉:10円、萌華さん:ハズレ、謙一郎さん:50円)
そして、まだ何も当たっていないのは五人。
(おれ、刹那さん、麻璃流、桜蘭々さん、牙恩)
「よーしっ!」
白亜先生が、やけに上機嫌な声を張り上げる。
「じゃあ、残ってる紐──
初回サービスで、一本10円で販売だ!」
白亜先生は満面の笑み。
「えーっ! ずるいー!
あたしも買いたいー!」
「もちろん、まだ当たってないやつも買っていいぞ!」
麻璃流が駄々をこね始めたが、白亜先生は冷静に、一瞬の“間”を置いてから条件を付け足した。
「ただし、残りは25本だから……すでに当たったやつは二本まで。
まだ当たってないやつは、一本だけ買っていいぞ!」
そうして、次々に購入が進む。
観戦組の四人は、それぞれ二本ずつ購入。すでに一本を持っている五人も、一本ずつ追加。
──結果。
余った紐は、七本。
「先生! まだ七本も残ってますよ!」
「それも売ってください!」
「で、でも……九人じゃ割り切れませんよ……。」
困惑する声が上がる中、
「じゃあここは──正々堂々、じゃんけんだ!」
謙一郎さんの提案に、場の空気が一気に色めき立つ。
……しかし。
「待て待て。 親は俺だぞ?」
白亜先生が、ぴしっと手を上げた。
「残念だが、この残り七本は──売らん!!」
「ええええーっ!」
「けちーーー!」
談話室は一瞬で、ブーイングの嵐に包まれた。
「今回はな!」
白亜先生は、そんな反応すら楽しむように、満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、次いくぞ!
今度は──100円だっ!」
そして、例の調子で叫び出す。
「ひゃくえ〜ん!ひゃくえ〜ん!」
その掛け声とともに、100円玉のついた紐が引かれていく。
──するするするっ!
その紐を握っていたのは──
「えっ……?」
「そんな……!?」
「もったいなーい!!」
誰の手にも握られていなかった一本の紐が、静かに、虚しく、白亜先生の手元へと吸い寄せられていく。
「はーっはっはっ! 残念だったな!
まあ、こういうのもこのゲームの醍醐味だっ!」
白亜先生は底抜けに楽しそうだったが、こちらとしては100円という大金を、文字通り見逃した形だ。
あまりにも、あまりにも惜しい。
──そして。
お年玉争奪戦・第一回戦は、ついに大詰めを迎えるのだった。
残された紐は──二本。
500円玉と、ハズレ。
紐を握っているのは──おれと、天嶺叉。
「ぎ・ん・が! ぎ・ん・が!」
男性陣が声を揃えて大合唱を始める。
「て・れ・さ! て・れ・さ!」
負けじと、今度は女性陣まで対抗合唱。
談話室は一気にヒートアップし、まるで体育祭の応援席のような熱気に包まれた。
「さあ、第一回戦──ラストいくぞ!」
白亜先生の声が、場を制する。
「500百円玉は、果たしてどちらの手にっ!?」
緊張感は最高潮。
白亜先生が──パッ!と、固定していた右手の紐束を放した。
おれと天嶺叉は同時に紐を掲げる!
「こ、これは──!?」
おれの紐の先には──
なにも付いていなかった。
「そ、そんなぁ……!」
「や、やった……!
500円……!500円だぁ……!」
天嶺叉は、小動物のようにぴょんぴょんと飛び跳ね大喜び。
「はははっ! 残念だったな、銀河!
だが、まだ一回戦目!
さっそく──第二回戦いくぞ!」
そう言うとすぐに、白亜先生は二回戦目の準備を始めた。
すぐさま紐をまとめ直し、右手にぐるりと巻きつけると──
「よいしょっ!」
──ドンっ!
再び、勢いよく紐が床に叩きつけられた。
「よーしっ!
今度こそ、500円を手にしてやるっ!」
──こうして、その後もお年玉争奪戦は続いていった。
後半戦に差しかかると、白亜先生は、
「さあ、ここからが本番!
出血大サービス祭りじゃーー!」
などと叫び出し、500百円玉の紐が三本に増え、100円玉も倍の数に。
その代わり、ハズレは数本のみ。
期待と欲望が一気に膨れ上がり、談話室の盛り上がりは、さらに加速していくのだった。
──今年最初の運試し。
最終的に、いちばん金運が良かったのは誰だったのか……。
それは、みなさまのご想像にお任せすることにします。
「天嶺叉!
お年玉ももらったし、今から初売り行こうよ!」
「えっ……!
あっ、うん。いいね、行こう!」
弾む声に、自然と笑顔が広がる。
「桜蘭々様も……よければご一緒に……行きませんか?」
「初売り──年が変わって最初に物を売り出す、お正月の風物詩か……。
知識としては知っていたが、実際に行ったことはなくてな……。
よし、何事も経験だ。 妾も行くぞ!」
「や、やった!
ありがとうございます、桜蘭々様!
……あっ、是隠先輩も来てくださいね。もちろん“ATM役”として。」
「一番お年玉が少なかった者から、さらに搾り取る。
……そうか、これがお正月。」
淡々とした是隠の一言に、周囲がくすっと笑う。
「初売りかー!
いいね! あたしも行きたい!
ね、がっくん、一緒にゲーム見てまわらない!?」
「いいですね、麻璃流さん!
銀河さんも一緒に行きましょう!」
そこへ、割って入る声。
「牙恩さん、残念ですがダーリンは今から、わたくしと初売りデートですわ!
二人で一緒に、結婚生活に備えた家具を見て回って…… きゃあああああ♡
ダメですわダーリン♡
まだわたくしたちに、子どもは早過ぎますわぁぁぁぁ♡ ♡ ♡」
「おい、刹那!
銀河は元々、オレと一緒に九食センターの初売りに行く約束してたんだぞ!
だよな、銀河!?」
「ふ、二人とも!
腕を引っ張らないでくださいっ! い、痛いですって!」
わいわい、がやがや。
誰が誰と、どこへ行くのか、もはや収拾がつかない。
──こうして結局。
「みんなでいきましょう! もちろん、白亜先生も!」
という、あまりにも単純で、しかしこの場にいる全員にとって、いちばん正しい結論に落ち着いた。
なにはともあれ──。
今年も、こうしてみんなと一緒に、楽しい正月を迎えることができた。
なにも、大金が当たったわけじゃない。
けれど、笑って、騒いで、同じ時間を過ごせたことが、何よりの“当たり”だったのかもしれない。
──どうか、今年も。
ここにいるみんなが、それぞれにとって良き一年を過ごせますように。
それが、おれ──
佐藤銀河の、新年最初の“心の叫び”であった。
Happy New Year!!
みなさまにとって、良き一年になりますように⭐︎




