番外編 ⭐︎Happy New Year⭐︎〜お年玉争奪戦編〜 Part1
【注意!!】
本編とは全く関係ありませんので、ご注意を!!
※今話は、国立十文字学園高等部八戸校祓い科二年、佐藤銀河の視線でお送りいたします。
【青森県八戸市 某所】
冬の澄み切った空気が、頬をきりりと刺した。
吐く息は白く、見上げた空には雲ひとつない。
抜けるような青が、どこまでも広がっている。
橋の下を流れる川には朝日が反射し、細長い金色の帯となってきらめいていた。
静けさに包まれたその橋の上を──
おれたちは、三人並んで歩いていた。
「うーん! いい天気だー!」
思わず伸びをしながら声を上げると、隣を歩いていた刹那さんが、ふわりと優雅に微笑む。
薄水色の着物の袖が揺れ、雪のように白い指が、ためらいもなくおれの腕に絡んできた。
「わたくしの心も、この空のように透き通っていますわ!
だって……ダーリンと一緒なんですもの♡」
赤い羽織袴姿のおれに、抱きつくように身を寄せてくるものだから、心臓が思い切り跳ね上がる。
「おわっ!?
せ、刹那さん! そ、そんなにくっつかないでくださいっ!」
「はあ……。」
慌てるおれをよそに、反対側から深いため息が落ちてきた。
紫色の着物を凛と着こなした萌華さんが、冷ややかな視線を向けてくる。
「わたしもいるんですから、すぐ二人だけの世界に入らないでもらえます?
それと銀河先輩、なんかにんにく臭いんですけど……。新年一発目からなに食べたんですか?」
「えっ!?」
思わず口元を押さえ、朝の記憶が一気にフラッシュバックする。
「そ、そういえば朝飯に、“にんにく砂糖醤油の餅”を食べたのに、ブレスケア忘れてた……!
ご、ごめんなさいっ!」
慌ててポケットを探り、ブレスケアを口に放り込む。
萌華さんは呆れた表情を浮かべ、刹那さんはというと──
「ダーリンなら、どんなに臭くても気にしませんわ♡
それに、新年最初のご飯でにんにくだなんて……そんな人、初めて♡
ますます好きになりましたわー♡」
と、いつもの調子で再び抱きついてきた。
川沿いを吹き抜ける冬の風だけが、さらさらと三人の足元を通り過ぎていく。
──なぜ、こうしてみんな揃って着物姿なのかというと。
今日は一月一日。そう、お正月だ。
街全体が、どこか浮き立った空気に包まれている。
初詣帰りの人々や、晴れ着姿があちこちに見え、門松やしめ飾りが軒先を彩っていた。
屋台から漂う甘く、時には香ばしい匂いが、冬の風に乗って流れてくる。
かくいうおれたちも、これから初詣に向かうところだ。
その流れで、自然と全員が和装になっている。
そして、橋の下──
河川敷にも、正月らしい賑わいが広がっていた。
澄んだ冬空の下、家族連れや子どもたちが、思い思いに凧を揚げている。
鶴や龍を描いた伝統的な凧。
人気キャラクターの凧。
さらには、子どもたちが自分で手作りしたのだろう、素朴でかわいらしい凧まで。
色とりどりの凧が、気持ちよさそうに空を舞っている……のだが、その中に──
どう見てもおかしい凧が、一つだけ混じっていた。
「うわあああああ!!
た・す・け・てーーーーー!!」
空から響いた、ひときわ大きな悲鳴。
反射的に顔を上げたおれは、その光景に言葉を失った。
巨大な凧に磔にされ、必死に手足をばたつかせている人影。
その姿には、はっきりと見覚えがある。あれは──
「……って、牙恩!?」
「ふふっ♪
牙恩さんも、お正月ではしゃいでおりますのね♪」
「さすが狂人。
遊び方まで狂っているとは……。」
空中では、涙目になった牙恩が、今も必死に叫び続けていた。
その凧の糸を目で辿っていくと──
糸巻きをがっしりと握っていたのは、黄色の着物を着た女性。
桜蘭々さん……もとい、あの覇気、圧。そして、あの一切笑っていない目。
「雷獣の桜蘭々だ……。」
「桜蘭々様ーー♡」
萌華さんが我先にと駆け出す。
それにつられて、おれと刹那さんも後を追い、橋を下りて河川敷へと向かった。
「──あ、あの……
なにをされているんですか、桜蘭々さん。」
恐る恐る声をかける。
「……おっ、銀河か。」
おれに気づいた瞬間、彼女の表情がふっと和らいだ。
張り詰めていた雷獣の気配がすっと引き、いつもの桜蘭々さんへと戻る。
「見てわからぬか?
“人間凧揚げ”だ。」
「に、人間凧……揚げ……。」
「うわあああああっ!!!!」
桜蘭々さんが、軽く手元の紐をゆるめた瞬間。
凧はさらに高度を上げ、牙恩の悲鳴が澄み切った青空へと吸い込まれていった。
そこへ──
「あっ、ぎっくん! 刹那さんに萌華ちゃんも!」
青い着物に身を包んだ麻璃流が、近くの屋台で買ったらしい食べ物を両手いっぱいに抱え、こちらへ駆け寄ってくる。
「みんな着物似合ってるーー!!」
「まあ♪
そういう麻璃流さんも、とてもお似合いですわよ!」
「ありがとうございます、刹那さん!」
褒められた麻璃流は、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「まさに“馬子にも衣装”ですね!」
「萌華ちゃんもありがとう!」
「……褒めてないんですが。」
萌華さんは、じとっとした視線を向けながら、ぼそりと呟く。
そんな和やかな談笑が始まった横で、桜蘭々さんは相変わらず、何事もないかのように平然と人間凧揚げを続行していた。
「焼きそば買ってきましたよ、桜蘭々さん!」
「ありがとう麻璃流。
そこに置いといてくれ。
これが終わったらいただくよ。」
「はーい!」
麻璃流は言われた通り、近くの石の上に焼きそばを置いた。
空では今も牙恩の悲鳴が、正月の青空に元気よく響き渡っていた。
「それで……
なにがあって、こうなってるの?」
おれは声をひそめて、麻璃流に尋ねる。
「え?……ああ、これ!?
えっとね……!」
麻璃流は、頬張っていたたこ焼きを急いで飲み込むと、説明を始めた。
「さっき三人で、この辺に出た悪霊を祓いに行ってきたんだけど……
ほら、がっくんって、最初は基本“ビビリモード”から入って、戦ってる途中に他のモードに切り替わるじゃん?」
「うん、まあ……。」
「でも今回は“ビビリモード”に飽きる前に、あたしと桜蘭々さんで一気に悪霊を祓っちゃったの!」
──嫌な予感しかしない。
「結局、がっくんはなんもしないで、逃げ回って終了!」
「……なるほど。」
「だから桜蘭々さんが──」
「怒っちゃって、ああなってるわけ……と。」
「そっ!」
空から聞こえる牙恩の絶叫は、もはや季節風のように、一定のリズムを刻んでいた。
「さすがですわ、桜蘭々さん!」
胸元で手を合わせ、刹那さんが感嘆の声を上げる。
「牙恩さんのためを思って、人間凧揚げをされているのですね!
なんと立派な後輩教育ですわ!」
「どういうことです?」と、萌華さんが首をかしげる。
「正月に凧揚げをするのは、古来より男の子の成長や健康を願う意味合いがあるんですの!
それに、凧を高く揚げて厄を遠ざけ、願いを空に届ける──そんな縁起担ぎでもありますのよ⭐︎」
「へぇぇ……そうだったんですね。
じゃあ、つまりこれは──
戦闘から逃げた狂人牙恩の成長を願って、あのように凧に磔にして空へ放っていらっしゃると!」
萌華さんの目が、尊敬と狂気の入り混じった輝きを帯び始める。
「正月の風習まで把握していらっしゃるとは……!
さすが博識、そして後輩思いの桜蘭々様!
くっ……!
わたしも男だったら……桜蘭々様に人間凧揚げをしていただけたのに……!」
半分悔しそうに、半分うらやましそうに、萌華さんは“牙恩凧”を見上げていた。
結局──
女性陣は楽しそうに談笑しながら、正月の青空を舞う牙恩凧を、しばらく鑑賞し続けるのであった。
──うん、わかった。
今この場で牙恩を救えるのは、おれしかいないということだね。
そう悟ったおれは、勇気を振り絞って桜蘭々さんに声をかけた。
「あ、あの……桜蘭々さん。
そろそろ行かないと……集合時間に遅れちゃいますよ。」
控えめに言うと、桜蘭々さんはぱちりと瞬きをした。
「む? もうそんな時間か。」
彼女は空を見上げ、少しだけ考え込む。
「……仕方ない。
今日はこのあたりにしておいてやるか。」
「なんという器の大きさ……!
さすが桜蘭々様です!」
興奮のあまり、萌華さんが鼻血を垂らし始めた横で、桜蘭々さんは手元の紐をくるくると手早くまとめていく。
すると、空の彼方にあった牙恩の小さな影が、次第に少しずつ大きくなり始めた。
──ほっ……よかった……。
安堵したのも束の間。
「そういえば!」と、麻璃流が思い出したように手を叩く。
「さっき、けんさんから連絡があって、初詣には白亜先生も来るそうですよ!」
「なんだって!?」
桜蘭々さんの血相が、一瞬で変わった。
「それを早く言わんかっ!」
着物の袖を翻し、勢いよく振り返る。
「よし!
全員、急いで集合場所へ向かうぞ!……あっ。」
彼女の手元には──
すでに、凧糸など一切残っていなかった。
当然ながら、牙恩は──
「うわあああああああっ!!」
風をまとった巨大な凧に引きずられ、まるで流れ星のように、空の彼方へと吸い込まれていく。
「がおーーーん!!」
その姿は瞬く間に点となり、やがて澄み切った青空へと溶けていった。
「すまぬ、牙恩!
妾は、白亜先生を待たせるわけにはいかんのだ!
なんとか自力で降りてきてくれ!」
「じゃあねー!狂人牙恩!
良き、来世をーー!」
「牙恩さーん!
お正月で浮かれるのはわかりますが、遊ぶのもほどほどに、ですわー!」
「がっくーん!
あとで、空から見た地球の感想教えてねー!」
「そんなーーーーーー!!!!」
空の彼方で、かすれた牙恩の悲鳴が尾を引き、やがて冬の風に紛れて完全に聞こえなくなった。
──こうして一同は、牙恩を華麗に(?)置き去りにしたまま、何事もなかったかのように集合場所──
“八戸神社”へ向かうのだった。
【予告!!】
新年、あけましておめでとうございます!
銀河たちも正月を迎え、晴れ着姿で初詣へ……のはずが。
桜蘭々、麻璃流。そして……凧に磔にされた牙恩と合流!?
人間凧揚げ状態の牙恩は、空の彼方へと……。
次回、まだ合流していない謙一郎、是隠、天嶺叉ともようやく合流……するのだが!?
正月の騒動は、まだまだこれから!
平和なはずの新年に、次なる波乱の予感が──!
次回──
「番外編 ⭐︎Happy New Year⭐︎〜お年玉争奪戦編〜 Part2」
明日、2026年1月2日12時公開予定!
お楽しみに!!




