番外編 ⭐︎Merry Christmas⭐︎ 〜神戸校編〜
【注意!!】
本編とは全く関係ありませんのでご注意を!!
※今話は、国立十文字学園高等部神戸校祓い科三年、田中刹那の視線でお送りいたします。
【兵庫県神戸市 某森林】
「クリスマスの叫び THE FOURTH!!」
わたくしが氷の精霊両刀を大きく振り抜いた、その瞬間──
氷の両刀身が柄元から静かに分離し、澄んだ音を残して宙へと舞い上がった。
二枚の氷刃は、雲を突き抜けるほど天高く昇ると、夜空をなぞるように旋回する。
その軌跡はやがて、互いに重なり合いながら二重の円を描く。
形成されるのは、巨大な——
“氷の雪だるま型霊法陣”。
「ホワイトクリスマス!!!!」
霊法発動の瞬間。
薄水色に輝き出した霊法陣から、凍てついた冷気が一気に解き放たれた。
夜空に白い吐息を吹きかけるかのように、ごうと音を立てて大粒の雪が舞い落ちる。
それは吹雪というより──
空そのものが、聖夜の雪を零したかのようだった。
狙うは、目前に群れを成す──
雪だるま型・氷属性中級悪霊×30
雪だるま型・氷属性上級悪霊×1
降りしきる猛吹雪は、彼らの頭上にだけ、選ぶように降り積もる。
祝福の雪ではない。
これは──選別された雪の制裁。
右へ逃げても、左へ逃げても、視界の先は白。
雪の壁が四方を閉ざし、霊法陣の内側は瞬く間にホワイトアウトと化した。
世界は白一色。
風は鈴の音のように鳴り、その響きはどこかクリスマスベルを思わせる。
やがて悪霊たちは、凍えを凌ぐように互いへと寄り添い、絡まり、押し合い、雪に埋もれ──
ひとつの巨大な塊となった。
──“本家本元の雪だるま”の完成である。
丸みを帯びた輪郭。
どこか愛嬌のある佇まいは、街角に飾られるクリスマスオブジェそのもの。
……中に悪霊が詰まっていなければ、だが。
やがて──
──パキッ……!パキパキッ……!パキィンッ!
内部から、澄んだ破砕音が連続して響く。
圧し潰されるように、悪霊たちのコアが次々と砕け散っていく。
それはまるで、聖夜を彩るガラス飾りが割れる音のようだった。
そして──
雪だるま姿のまま、悪霊たちは一斉にこちらを振り返った。
……その表情は、なぜか全員やけに不機嫌である。
「おいっ!雪量、何とかしろよ!」
「ホワイトっていうレベルじゃねぇぞ!!」
まるで、新作ゲームの発売日に並ばされた客のように、ぶつぶつと文句をこぼしながら、彼らは宙へと浮かび──
やがて光に包まれ、消滅していった。
「良き、Christmasを。」
──キンッ!
澄んだ金属音とともに、わたくしは氷の精霊両刀を静かに鞘へと納めた。
「……さて、お二人は大丈夫かしら?」
周囲を見渡すと──
左方で、”七面鳥のコスプレ“に身を包んだ麻璃流さんが、同じく七面鳥型・水属性上級悪霊と対峙していた。
「あわてんぼうのサンタクロース〜♪
クリスマス前にやってきた〜♪」
ノリノリで踊りながら歌う麻璃流さん。
だが先ほど慌てて着替えたせいで衣装は前後逆。
背中にあるはずの羽根が胸元でばさばさと主張している。
夕方で、周囲はすでに薄暗い。
加えて、この森林は暗く視界も悪い。
一昨日から降り続いた雪が地面を薄く覆い、足元は当然のごとく滑りやすい。
そんな状況で、キレッキレに踊れば──
「やばやばやばっ!」
──ツルッ!──ズコーンッ!
転ぶ。跳ね起きる。雪を払う前にまた踊る。そして、また転ぶ。
……その繰り返しである。
それでも歌うのはやめない麻璃流さんは、勢いのまま跳躍し、悪霊へと飛びかかった。
だが──
七面鳥型悪霊は両翼を大きく広げ、“水の七面鳥型霊法陣”を展開。
次の瞬間——
青く輝く霊法陣から噴き出したのは、大量の──“スタッフィング”。
パン粉、野菜、米、ハーブ。
七面鳥の腹に詰め込む、あの料理用の中身が、まとめて麻璃流さんめがけて吐き出された。
「うわっ!ちょっ、ちょっと待って!
空中じゃあ、避けられ──っ!」
慌てる麻璃流さんだったが、勢い任せに身体をひねって強引に回避。
……が、ひねりすぎて自分の羽根(前後逆)を手で押さえる羽目になり、空中で体勢が大きく崩れた。
外れたスタッフィングの豪雨は上空へ抜け、そのまま──
──ドカーーンッ!
何かに衝突したらしく、派手な爆発音が夜空にこだました。
「ちょ、ちょっとだけ危なかったかな……っ!」
麻璃流さんはバランスを崩しながらも強引に着地。
すぐさま雪を蹴散らし、足をふらつかせつつ、水の精霊分離剣を構える。
「クリスマスの叫び THE FIFTH!!」
叫びながら若干噛みかけるが、本人は気にせずそのまま水の精霊分離剣を自身の足元へ突き立てた。
水の片剣身が地を貫いた瞬間、水が地を滑るように走ると、夜の森を巡って二重の円を描く。
形成されたのは巨大な——
“水の七面鳥型霊法陣”。
「青の洞窟!!!!」
水の霊法陣が青く輝いた瞬間——
水流が一斉に立ち上がり、巨大な“七面鳥の水霊体”が形を成す。
その両翼が、ゆっくりと閉じるように広がり──
空気そのものを震わせながら、悪霊を包み込んだ。
翼の内側では、水粒が宙に浮かび、無数の蒼い光が連なり揺らめいている。
光は留まらず、帯となって流れ、洞窟の奥へ吸い込まれるかのように連続して輝いた。
それは──
東京渋谷から代々木公園へと続く、冬のイルミネーション。
“青の洞窟”の光の回廊を思わせる、深い蒼のトンネル。
水面に反射した光が幾重にも重なり、青の濃淡が奥行きを生み出す。
まるで水そのものが光を編み込んで作った洞窟のようだった。
幻想的すぎる光景に、七面鳥型悪霊は思わず動きを止める。
その瞳に宿ったのは、恐怖ではない。
一瞬の──魅了。
人であれ、悪霊であれ、抗いがたい青光の魔性。
「よしっ、チャンスっ!」
その隙を逃す麻璃流さんではない。
水流のような速度で駆け抜け、水の精霊分離剣を悪霊の胸部へ突き刺した。
──パキンッ!
乾いた破砕音とともに、コアが砕ける。
七面鳥姿の悪霊は宙へ舞い上がり、やがて光に包まれ、静かに消えていった。
「良き、Christmasを。」
……とキメ顔で言った直後、足元の雪でつるりと滑る。
「っとととっ!?だ、大丈夫……っ!よしっ!」
──キンッ!
腹の虫を鳴らしながら、麻璃流さんは水の精霊分離剣を静かに──
いや、少し慌てて鞘へ納めた。
まさに──“あわてんぼうの麻璃流さん“であった……。
「あとは……天嶺叉さんだけですね。」
今度は右方に視線を向ける。
そこには──
“クリスマスツリーのコスプレ”に身を包んだ天嶺叉さんが、同じくクリスマスツリー型・樹属性上級悪霊と静かに対峙していた。
騒がしさも、焦りもない。
あるのは、聖夜の森に似合う、凛とした沈黙だけ。
「クリスマスの叫び THE SIXTH!!」
天嶺叉さんは、樹の精霊双刀を自らの足元へ突き立てる。
樹の双刀身が地を貫いた瞬間──
大地がざわり、と低く震えた。
地中から樹の根が走り出し、根は幹となり、幹は枝へと分かれて伸びていく。
やがて直線と直線が交差し、まるで光の糸で幾何学模様を編み上げるかのように、整然と荘厳な形を成した。
形成されたのは巨大な──
“樹のクリスマスツリー型霊法陣”。
「モミの樹!!!!」
霊法陣が鮮やかな緑色に発光した瞬間──
大地から芽吹いた樹々が一斉に天を目指して伸び上がる。
現れたのは、夜空を支えるかのような──巨大なモミの樹。
その枝に、様々な属性の精霊たちが次々と吸い寄せられていき、赤・青・緑などに輝く“オーナメント”となって実る。
枝と枝の隙間には光の粒が流れ、瞬きながら連なり、まるで命を宿したイルミネーションのように輝いた。
そして──
頂点で輝く“星”が、鋭利な光の槍へと変化。
一直線に悪霊の悪霊玉を貫いた。
──パキンッ!
澄んだ破砕音。
黄金の光が揺れ、悪霊玉は粉々に砕け散る。
その瞬間、ツリーの枝がざわりと揺れ、聖夜の風が吹き抜けたかのように光の粒が舞い散った。
悪霊はクリスマスツリーの姿のまま空高く舞い上がり、やがて他の悪霊たちと同じように無数の光となって消えていった。
「良き、Christmasを。」
──キンッ!
静寂を切り裂く澄んだ音を残し、天嶺叉さんは樹の精霊双刀を鞘へと納めた。
──雪に、青の洞窟に、クリスマスツリー。
(あとついでに、あわてんぼうのサンタクロース)
ここ──半円状に展開された精霊壁の外側から眺めればきっと……
「……ふふ♪
素敵な“スノードーム”の完成ですわね♪」
わたくしは、そっと息を吐いた。
その時──
本日初めての雪が、空から降り始めた。
しんしんと舞い落ちる粉雪。
それは、誰の霊法でもない。
──そう。
ここは今、まぎれもない“本物のホワイトクリスマス”に包まれていた。
「さて、これで任務完了ですわね!
わたくしも急いで着替えませんとっ……!」
戦闘の余熱がまだ残る中、わたくしは慌てて制服を脱ぎ、震える身体を押さえながら──
“雪だるまのコスプレ”へと着替える。
「なぜこのような格好をするのか」、ですか?
それはもちろん、皆様ももうすでにお気づきだと思います。
本日は──
12月24日。クリスマスイブ。
ここ、神戸市の街中は、どこからともなくクリスマスソングが流れ、スーパーの店頭にはオードブルが並び、各家庭の玄関先には個性豊かなクリスマスリースやツリーが飾られ、街全体が──“聖なる夜”の空気に包まれていた。
そんな中、わたくしたちを囲っていた精霊壁がふっと解除される。
「全員無事か!?」
精霊科三年の助助さんを先頭に、精霊科部隊が雪を踏みしめながら駆け寄ってきた。
「あっ!来た来た!
それじゃあ、いっくよーー!!」
麻璃流さんの、どこまでも元気な声が森に響く。
「みんな大好き、クリスマスの治安は!!」
「正義の名の下に、わたくしたちがお守りしますわ!!」
「そ、それがウチたち……!」
『クリスマス保安隊!!』
──ドンッ!!
わたくしたちはそれぞれ、堂々とポーズを決めた!
精霊科部隊は「ヒューヒュー!」「かっこいい⭐︎」「かわいい♡」などと大盛り上がり。
……ただし、その中にひとりだけ明らかに渋い顔の人がいる。
言わずもがな、助助さんである。
「はあ……。またお前たちは……。」
盛り上がる空気を一瞬で冬に戻すような、深いため息。
「俺たちはこれからここの修復に入る。
お前たちは急いで学園に戻って、準備の方を手伝ってくれ。」
『はーい!』
わたくしたちは、元気よく返事をした。
助助さんの言う“準備”とは──
明日、12月25日18時から開催される、神戸校最大の平和な行事──
“イルミネーション点灯式”のことだ。
12月に入ると同時に、わたくしたちは精霊科と協力し、校舎全体にLEDライトや装飾を取りつけ、準備を重ねてきた。
このイベントは一般公開もされていて、毎年多くの地域の方々が神戸校へ足を運ぶ。
祓い科にとっても、精霊科にとっても、そして地域の方々にとっても──
一年で最も華やかで、穏やかな一夜。
「さて、参りましょう!」
わたくしたちが学園へ戻ろうした、その時だった──。
「……あれ?
あそこに誰かいますよっ!」
麻璃流さんが遠くの方……森の奥を指さした。
「“誰か”……ですか?わたくしにはなにも見えませんけど……。
この暗い中よく見えますわね、麻璃流さん。」
「さすが麻璃流さん。獣並みの視力。」
「やだ、天嶺叉ったら!褒めないでよ!」
嬉しそうに天嶺叉さんの背中をバンバン叩く麻璃流さん。
「とにかく行ってみましょう!」
わたくしたちはスマホのライトを点け、麻璃流さんが示した暗がりへと駆ける。
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【兵庫県神戸市 某森林奥】
「──あっ!
本当に人がいましたわっ!」
ライトが照らした先には──
一人の老人の殿方。それと隣には……一匹のトナカイ。
「いたたたっ……!」
老人の殿方は腰を押さえ、苦しそうにしている。
「大丈夫ですか!?おばあちゃん!」
麻璃流さんが勢いよく駆け寄った。
「わしゃ“おじいちゃん”じゃっ!
いや、それよりも……。」
老人の殿方はそれどころではない様子で、肩を落としている。
「わ、わしのソリが……!」
ライトを周囲へ向けた瞬間、惨状がはっきりと照らし出された。
粉々になった木片と、ひしゃげた金具の破片が、雪面に無残に散らばっている。
「一体、何があったんですか?」
恐る恐る尋ねると、老人は肩を落とし、悔しそうに首を振った。
「それがな……空を飛んでおったら、急に……
何かが下から飛んできたんじゃ……。」
老人は空を仰ぎ、思い出すように言葉を継ぐ。
「次の瞬間にはソリに衝突してな。
ドン、と爆ぜたかと思ったら……気付いた時には、もうここに落ちとった……。」
──何かが下から飛んできた。
……そういえば、先ほど麻璃流さんが戦っていた最中、上空で派手な爆発音が響いていましたわね。
あれは、麻璃流さんが避けた悪霊の霊法が、この方のソリに衝突した音でしたのね……。
「『空を飛んで』……?」
天嶺叉さんが、小さな頭をこてんと傾げる。
「あれ……?ちょっと待って……!
この人、もしかして……!?」
そう言うや否や、麻璃流さんが老人の殿方の全身へとライトを向けた。
赤い衣装。
白くふさふさとしたおひげ。
丸みを帯びたお腹。
そして、その背後には──赤鼻のトナカイさんまで控えている。
……ということは。
この殿方は、まさか──
『サンタクロース!?』
わたくしたち三人の驚きの叫びが、見事なまでにぴたりと重なった。
「え、うそ!?ほんとにサンタさん!?」
「ま、麻璃流さん、驚くのも無理はありませんが……まずはケガの治療をしませんと!
天嶺叉さん、助助さんを呼んできてくださる?」
「わ、わかりました……!」
天嶺叉さんが走り去り、すぐに助助さんを連れて戻ってきた。
助助さんは珍しく目を丸くした。
「……サンタクロース?」
だが、すぐに真剣な表情へ戻り治療を施す。
「──これで大丈夫です。」
「ありがとう。」
サンタさんは助助さんにほほ笑みを向けたが──粉々になったソリを見て、表情が再び曇る。
「これではもう、クリスマスプレゼントを運べん……。
ああ……このままでは、こどもたちの夢を壊してしまう……。
わしゃ、一体どうすれば……。」
ひどく落ち込むサンタさん。
すごくお困りのよう。助けてあげたい。でもどうすれば……?
すると──。
「大丈夫ですよサンタさん!“あたしたち”に任せてください!
ですよね、刹那さん!?」
麻璃流さんが、夜の森に響くほどの声で叫んだ。
──“あたしたち”。
その言葉が胸にストンと落ちる。
──そう……そうですわ……!
わたくしたちなら、なんだってできる!
今までだって、どんな絶望的な状況でも、みんなで力を合わせて乗り越えてきたではありませんかっ……!
だったら、今回だって──!
「麻璃流さんの言う通りですわ!
わたくしたちにお任せください!」
わたくしも拳を握り、力強く宣言した。
「で、でも、式の準備の方は……どうするんですか……?」
天嶺叉さんが、恐る恐る助助さんの方を見る。
「そっちの方はいい。
それよりも、サンタさんの手助けを。
こどもたちの夢を壊さないことの方が優先だ。」
わたくしたちは思わず顔を見合わせ、にっこりと笑った。
「よーし!
それじゃあ、まずは作戦名を決めなきゃね……うん!
“クリスマスプレゼント配達作戦!!”……で、どうでしょうか!?」
「え、ええ……。
もう、それは麻璃流さんにお任せしますわ。」
「ウ、ウチも……。」
いつも通り、意味そのまんまのネーミングに関して、もはやなにもツッコまないわたくしと天嶺叉さんであった。
「──さて、それでは……クリスマス保安隊!!
クリスマスプレゼント配達作戦!
いきますわよー!!」
『おおーー!!』
全員が拳を高く突き上げた。
そして──
わたくしたちは背中の鞘へと手を伸ばし、一斉に柄を引き抜く。
「お、お前さんたち!
一体なにをするつもりなんじゃ!?」
「大丈夫です、サンタさん!
ここはわたくしたち、クリスマス保安隊にお任せくださいっ!」
その言葉を合図にするかのように、わたくしたちは夜空に響き渡る声で叫んだ。
「おいで!!白氷狼!!」
「来なさい!!水青龍!!」
「お願い!!青天森!!」
わたくしは“氷の大精霊・白氷狼”を。
麻璃流さんは“水の大精霊・水青龍”を召喚し、天嶺叉さんは“樹の大精霊・青天森”を召喚。
わたくしの柄は“氷の精霊両刀”へ。
麻璃流さんの柄は“水の精霊分離剣”。
天嶺叉さんの柄は“樹の精霊双刀”へと、それぞれ姿を変えた。
「えいっ!」
天嶺叉さんが樹の精霊双刀を地へ突き立てると、地中から木の根がうねり出し、あっという間に“木製のソリ”が組み上がっていく。
「おおーっ!これはすごい!」
サンタさんが感嘆している横で、わたくしは氷の両刀身から多くの冷気を放出。
斜めにそびえ立つ巨大な“氷の発射台”を作り上げた。
「さあ、乗り込みますわよ!」
わたくしたちはソリへと次々に乗り込む。
「あ、あの……刹那さん。
この状況……前にもあったような気がするんですけど……。」
「奇遇ですわね、天嶺叉さん!
わたくしも、まったく同じことを考えていましたわ!
おそらくこれは──“既視感”。
いわゆる……“デジャブ”というやつですわね!!」
(※ 参照:『第十三話 結婚式場へ?それとも葬式場?』)
「“デジャブ”……。
初めての体験なのに、なぜか以前にも経験したことがあるように感じる、あの不思議な感覚のこと……。」
天嶺叉さんの声が、次第に強張っていく。
「な、なんだか……嫌な予感が……。
も、もしかして……この後って……!!」
言葉の続きを口にする前に、天嶺叉さんとわたくしは、反射的にソリの手すりをぎゅっと掴んでいた。
「サンタさん、トナカイさんも!!
振り落とされないように、しっかり掴まっててください!!」
「な、なんじゃなんじゃ?
一体、なにが始まるというんじゃ!?」
天嶺叉さんにサンタさん、さらにはトナカイさんまでもが顔を引きつらせ、じわりと額に脂汗を滲ませていた。
見開かれた目、引きつった口元。
三者そろって、ソリの手すりをぎゅううっと握りしめる。
「第二形態!!」
麻璃流さんの叫びと同時に、水の精霊分離剣の柄が二本に分離。
一本だった両剣は、瞬く間に二本の双剣へと姿を変えた。
そして──
「みんな、いっくよーーーー!!」
ソリの最後部に乗り込む。
「カウントダウン開始!!
1!
2!
3!
4!
5ーーーー!!!!」
──ドォンッ!!!
双剣の柄から、爆発的な水流がジェット噴射!
「やっぱりーー!!」
「うおおおおおっ!!」
「カウントダウンじゃなくて、カウントアップ!……ですわーー!!」
その勢いのままわたくしたちを乗せたソリは、氷の発射台を一気に駆け上がった。
次の瞬間──
ロケットが宇宙へ向かって飛び立つかのように、ソリは夜空へと射出される。
弾かれたように、高く、高く、舞い上がった!!
「いーーーーっ、やっほーーーー!♪♪♪」
「気持ちいいですわーーっ!!」
わたくしと麻璃流さんは、満面の笑みで両手を掲げて楽しむ。
「うおおおおおおおっ!!」
「きゃああああああっ!!」
一方、サンタさんとトナカイさん、そして天嶺叉さんは、涙目になりながら両手を上げ、声を限りに絶叫していた。
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【兵庫県神戸市 上空】
「うわー!!
本当にこのソリ、空を飛んでるーー!!」
「まあ……なんて素敵な景色ですの!」
「き、きれい……!」
トナカイさんに引かれた天嶺叉さん特製の木製ソリは、冬の夜空をなめらかにすべるように進んでいく。
眼下に広がる神戸の街は、無数の光に満ちていた。
通りごとに色の異なるイルミネーションが瞬き、建物の輪郭までもがやさしい輝きに包まれている。
まるで夜空に開いた宝石箱のようだった。
「それでサンタさん。
これから、どうやってプレゼントを配っていくんですか?」
麻璃流さんが尋ねると、サンタさんは「ふぉっふぉっふぉっ!簡単なことじゃよ。」と朗らかに笑い、ソリの前方に取り付けられた小さなモニターを指さした。
「これはのう、“ソリナビゲーション“と言ってな。
この一年、良い子にしておったこどもたちの家が、すべて地図として映し出されるんじゃ。」
モニターの中には、世界中の町や村、そして数えきれないほどの家々が、きらきらと光る点となって表示されていた。
「そして、次に行くおうちが近づくと……。」
言葉が終わるのと同時に、表示されていた目的地に到着する。
その瞬間──
ソリの後部に積まれていた大きな白い袋が、ぽよんっ、とかわいく揺れた。
そして、中からひとつのプレゼント箱が、勢いよく飛び出してくる。
「わっ……!」
びっくりしながらも、見事にキャッチした天嶺叉さん。
「そのプレゼントを、あの家に向かって放ってみなさい。」
「えっ!?
あ、あの……こ、こうですかっ?えいっ!」
──ポイっ!
放られたプレゼントは、空の途中でくるりと向きを変える。
まるで意思を持っているかのように、ふわり、すいーっと宙を滑り、そのまま家の壁を──
すり抜けていった。
「えっ!?すっごーい!!
家の壁をすり抜けて、中に入っていった!」
「ふぉっふぉっふぉっ!すごいじゃろう?」
サンタさんは満足そうに胸を張る。
「ソリナビゲーションをもとに目的地に行って、到着するとその家の子がほしがっているクリスマスプレゼントがこの白い袋から自動で出てきてな。
あとはそれを放るだけで、クリスマスソックスのある場所──枕元や暖炉の上、クリスマスツリーの下など、“クリスマスプレゼントを置くべき場所”まで、自分で判断して移動してくれるという寸法なんじゃ。」
「す、すごいですわ……サンタさん!」
「……トナカイさんも、ウチが作ったこのソリも普通に空を飛んでますけど……
この“壁をすり抜けるプレゼント”も一体、どういった原理なんだろう?」
天嶺叉さんが、小さく首を傾げる。
「原理もなにも、”イベント属性“の霊法を付与してるからに決まっておるじゃろ。」
『イ、イベント属性!?』
わたくしたちの驚きの叫びが、ソリの中に響き渡った。
「え、なにそれ!? イベント属性って……!?」
麻璃流さんの問いに、サンタさんは冷静に答えた。
「これを扱える者は、そう多くない。
クリスマスの”わし“や、正月の“年神様“。
節分の”鬼様“や”福の神様“。ひな祭りの”ひな人形様”に、七夕の“彦星様”と“織姫様”……。
要するに、そのイベントの中心となる存在、あるいは大精霊だけが持つ特別な属性なんじゃ。」
「は、初めて聞いた……!
初めて……?あっ、まずい……!!」
天嶺叉さんがハッ!としたように、わたくしの方を振り返る。
しかし──もう遅かった。
わたくしの全身はすでに──身震いが止められなくなっていた。
──えっ。ちょ、ちょっと待って。
「わたくし……わたくし……!
イベント属性なんて──
こんな体験、初めて♡好き♡」
甘い衝撃が、胸の奥をきゅぅん、と締めつける。
──そう。
わたくしは、サンタさんに初めてを奪われ、そして──恋に落ちた。
「きゃあああああっ♡
ダーリン、結婚しましょーー♡」
「うおっ!?な、なんじゃ、急に抱きついてきて!?」
わたくしがサンタさんに抱きついた、その瞬間。
驚いたサンタさんの手が手綱を強く引き、トナカイさんが慌てて鳴き声を上げた。
次の瞬間──
ソリは、まるで嵐に放り込まれたかのように、大きく、激しく揺れ始める。
「おわっ!あぶなっ!
刹那さん、落ち着いてくださいっ!」
「お、落ちるーー!!」
右へ。左へ。上下に。
夜空の中で、ソリは制御を失った振り子のように振り回されていた。
けれど──
ソリがどれだけ大きく揺れようと、わたくしの心は微塵も揺れません。
──そう、今のわたくしの心は……ダーリンと結婚したい♡それに一直線ですわ♡
そんな大騒ぎの中、気づけば次の目的地に到着。
今度は七面鳥コスプレ (相変わらず前後逆)の“麻璃流サンタ”が、無事にプレゼントを配り終えたのだった。
その後も──
わたくしたちは夜空を駆け、空の上からたくさんの子どもたちの家へと、クリスマスの奇跡を──確かに送り届け続けたのであった。
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【学生寮10階 1001号室 ベランダ】
「みんなのおかげで、今年も無事にこどもたちへプレゼントを届けることができたよ。
本当にありがとう。」
サンタさんは帽子を取り、深々と頭を下げられた。
「いえいえ!
また来年もなにかあれば、あたしたちクリスマス保安隊にお任せをっ!」
「ふぉーっふぉっふぉっふぉっ!
それは頼もしいのう。では、その時はぜひお願いしようかの。」
「せ、刹那さん……元気出してください……。」
天嶺叉さんが、泣きじゃくるわたくしの背中をそっとさすってくれる。
「ううっ……!
まさかサンタさんが、すでにご結婚されていて……
しかも、お子様どころか、お孫様までいらっしゃっただなんて……っ!
うえーん!
わたくし、また失恋してしまいましたわー!」
天嶺叉さんにしがみついて泣くと、彼女は「よしよし」と言いながら、優しく頭を撫でてくれた。
そんな中、サンタさんが「あっ!」と思い出したように手を打つ。
「そうじゃった!
お前さんたちにも、クリスマスプレゼントを渡さんとな!
なにか欲しいものはあるかい?」
「え……!?やったーー!!」
「や、やった……!」
麻璃流さんと天嶺叉さんのテンションが、今日一番に跳ね上がる。
「麻璃流さん……。
この前、わたくしのプリンを勝手に食べましたよね?
悪い子にはプレゼントは来ませんよ。……ですよね、サンタさん?」
「そ、そんなーー!?」
気持ちを切り替えたわたくしがそう言うと、涙目になる麻璃流さん。
「ふぉっふぉっふぉっ!
今日は特別じゃ。手伝ってくれた分で、プリンの件はチャラにしよう。」
「ほんとですか!? ありがとうございます、サンタさん!」
一瞬で元気を取り戻す麻璃流さん。
「プレゼントって、なんでもいいんですか!?」
「もちろんじゃとも!クリスマスじゃからの!」
「やった!……でも、どうしよう!?
”エンジョイステーション5“か、”神天呑Switch2“。
それとも未プレイのあの名作、”It plays two“?
最近出た”ビンモンスター・アメジスト“も欲しいし……。
……あーん!欲しいものが多すぎて決められないよーー!」
頭を抱えて悩み始める麻璃流さん。
「天嶺叉さんは、もう決まりました?」
「ウ、ウチは……そ、その……。」
頬を赤らめ、もじもじする天嶺叉さん。
「“トナカイさんに触る”っていうプレゼントでも……いいですか?」
「ふぉっふぉっふぉっ!
それはこの子に聞いてみんとの。どうじゃ?」
サンタさんが尋ねると、トナカイさんは少しずつわたくしたちに近づき……そっと頭を差し出した。
「ふぉっふぉっ!
どうやらこの子も、君たちのことを気に入ったようじゃ!
クリスマスプレゼントなんて言わず、好きに触りゃあええ。」
「よかったですわね、天嶺叉さん!」
「は、はいっ!」
わたくしたちは、長いあいだ夜空を駆けてくれたトナカイさんの毛並みを、感謝を込めて撫でた。
ふわふわ、あたたかい。
その感触を味わいながら、わたくしは遠慮がちにサンタさんへ尋ねる。
「あ、あの……サンタさん。
わたくしたち、三人とも同じプレゼントでも大丈夫ですか?」
「もちろんじゃよ。」
わたくしたちは顔を見合わせ、そして──
笑顔のまま、満場一致で頷いた。
「それでは、わたくしたちが欲しいクリスマスプレゼントは──」
『クリスマスオードブル!!』
声を揃えて、元気よく叫んだ。
「ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉっ!了解じゃ!」
サンタさんが白い袋からプレゼントを取り出して放ると、それはふわりと浮かび、わたくしの部屋の中へと自動に滑り込んでいった。
「それじゃあ、わしゃ、そろそろ次の街へ行くとするかの。
改めてみんな、本当にありがとう!
来年もいい子にするんじゃぞ!」
『はーいっ!』
「Merry Christmas⭐︎」
──ピシッ!
手綱が軽く振られ、トナカイさんが空を蹴って走り出す。
シャン、シャン、シャン、シャン……
澄んだ鈴の音が、夜空へと溶けていった。
『Merry Christmas⭐︎
さようならー!』
わたくしたちは、両手を大きく振りながらサンタさんたちを見送った。
─────────────────────────────────────
【学生寮10階 1001号室 (わたくしのお部屋)】
わたくしたちはベランダから部屋へ戻り、テーブルの上に置かれた大きなクリスマスプレゼントをさっそく開いた。
そこには──
「うわあっ!いいにおい!」
「全部おいしそうですわっ!」
「ケ、ケーキまである……。うれしい……!」
ピザにフライドポテト、ローストチキン、シーフードサラダ。
あつあつのグラタンに、シーフードパエリア。
チーズとバジルのトマトパスタ、ロール寿司、サーモンとアボカドの生春巻き等々──。
どれもこれも、クリスマスにふさわしいごちそうばかり。
そしてテーブルの中央には、雪の結晶をかたどったホワイトクリスマスケーキが、誇らしげに鎮座していた。
部屋の灯りに照らされ、テーブルはまるで小さなパーティー会場のように、やさしく、あたたかな光に満ちていた。
「──それでは、いきますわよ。
麻璃流さん、天嶺叉さん。」
『はいっ!』
ジュースの入ったグラスを、三人でそっと掲げる。
「せーのっ!」
『Merry Christmas!!』
──カチンッ!!
グラスが触れ合い、澄んだ音が、静かな部屋にやさしく弾けた。
「もうっ!
どれから手をつけるか迷うーー!!」
「ウチは……ピザからいきます!」
「じゃあ、わたくしは……。」
そのとき、ふと視線がベランダの向こうへ向いた。
外では変わらず、しんしんと粉雪が舞い落ちている。
そして、夜空の彼方へ──
ゆっくりと遠ざかっていく、小さなソリの影。
トナカイさんと……サンタクロースさん。
それは年に一度だけ、聖夜に許された、ほんのひとときの奇跡の風景だった。
──どうか、来年も……
また、みなさんと一緒に、クリスマスを迎えられますように……!!
そう、心の叫びをあげながら、わたくしはもう一度グラスへと視線を落とす。
その先には──
勢いよく食べ過ぎて喉を詰まらせ、どんどんと胸を叩く麻璃流さん。
そして、ピザをくわえながら、慌てて飲み物を差し出す天嶺叉さんの姿があった。
「ふふっ♪
もう、二人とも本当に──大好きっ!」
ふと思わずこぼれたのは……心からの本音だった。
その日、わたくしは──
大切な人たちと共に、心の底から最高のクリスマスを迎えたのであった。
⭐︎Merry Christmas⭐︎
みなさま、良きクリスマスを!!
【予告!!】
──2026年も、正月の物語がやってくる。
2025年の主人公は銀河たち、八戸校組!
そして2026年は──
なんと、まさかの祓い科全員!?!?
……ということで──!
「番外編 ⭐︎Happy New Year⭐︎〜お年玉争奪戦編〜」
2026年1月1日12時、公開予定!お楽しみに!




