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わたねことOL

私はOL、歳は…内緒。


最近の悩みは仕事場で孤立している事かしら。


意地悪な事はされてない、嫌煙されてる訳でもない、ただ…ほら、あれよあれ!

ほ・ん・の!ちょっとだけ他と違うから距離を置かれてるだけ!ただそれだけ!!


なによその顔、口悪いって言いたいの?


悪かったわね!


…………。


……はぁ。


ダメダメ、こんなんじゃ…

なんでもっと優しい言葉が選べないの?


昔からそう…、私は言葉選びが苦手…。


仕事場の皆と普通に接したいのに、どうすれば良いの…


「誰か、助けて…」


か細く呟いた。

答えてくれる人なんている筈ないのに。


無い、筈だった。


『タスケマスニャン』


「ひっ!…な、なに?誰?!、…ん?」


頭を振ったら何かが目の前にゆっくりと落ちてくる。


それは着地して私を見上げる。


『ポク、ワタネコ、アナタヲオタスケシマスニャン!』


わたねこ?良くわからないけど、喋る綿毛かしら?


それにしても……


「あんたちょっと汚れてるわね」


『?…、オタスケシマスニャン!』


「その前にあんたをお助けしてあげる」



私はわたねこを掴むとそのまま脱衣場に入り浴室からボディソープと洗面器をとる、洗面器の上に乗せたわたねこをわしゃわしゃと洗う。


ぬるま湯で洗い流し、タオルで拭いて、ドライヤーで乾かす。


「よし、終わり!」


わたねこはもっふもふになった。

キューティクルに光輝いている。


流石は高級ボディソープね。


「どう?」


『ニャ、ニャンニャン♪』


ご機嫌になってポンポン跳ねてる。


「気に入って良かったわ、いい?誰かの前に立つ時は身嗜みは絶対だからね?忘れちゃダメよ?」


『ニャニュニョ!』


「…、それ返事なの(汗)?」


それにしてもこの子、妖怪?それともUMA?

どっちなのかしら?


「あの子が見たら喜びそうね、ふふ」


『ニャノコ?』


「ああ、あの子って言うのは私の後輩の事よ、UMAが大好きなんですって」


『??』


目をパチパチさせちゃって、可愛いじゃない。


「所であなた、さっき私を助けてくれるって言ってたけどそれほんと……」


『オタスケシマスニャン!オタスケシマスニャン!』


「きゃ!?急に元気になったわね」


『キレイニシテクレタ、ポク、カナラズ、アナタヲ、オタスケシマスニャン!』


「あ、ありがとう」


あれ?私、今素直になってる?!

なら、それなら…、背中を少し、少しだけでも押して貰えるのなら…!


「えーと、私は人と打ち解けるのが苦手で歩み寄れたらなって思って、その~…」


『ニャニャニャ…』


「??!…え、あ、ど、どうしたの?」


わたねこはプルプル震えると次の瞬間だった。


『モッフゥゥゥ!!』


カメラのフラッシュのような目映い光を一瞬だけ出した。


「なによも~」


『カナウ!』


「なにが?」


目を擦る私の足元に置いたスマホが流行りの歌を響かせた。

これは後輩からの着信!


「はい!もしもし?」


『せんぱ~い…』


「ど、どうしたの?元気無いわね?」


『実は一週間後のプレゼンについてご相談がありまして…、もう自分じゃ限界で、うう、ぐす…な、なぎだぐでぇぇ~…わぁぁぁん!!』


「(もう泣いてるじゃない)分かった分かった、で?何処に居るの?」


『ずび…、怒らないですか?怒りませんか?説教無しでお願いします先輩怒るとめっちゃ怖くテ……』


「……切るわよ?」


『切らないで~~!!先輩のマンションの入り口に居ますぅ!開~け~て~!??』


「最初からそう言いなさい」


『ニャ?』


そして私は後輩を自宅に招き入れる。


「あんた着替えて無かったの?」


後輩は今日の仕事スタイルのまま。

私の質問に力無く項垂れた。


「まだ始まっても居ないのに泣くんじゃない!ほら、しゃんとしな!」


「は、はいぃ!?」


姿勢を正す後輩を見て私はあわてて口を押さえる『しまった、消沈している相手に私は…』心でそう悔やんでいたら。


『ニャニャン!』


わたねこが私と後輩の真ん中に降り立つ。


「!?」


「ん?綿?でも待って、今『にゃん』って鳴いた??」


『オタスケシマスニャン♪』


「!?」


「ば、あんた出て……」


「可愛いぃぃ♡♡♡♡」


「可愛いんかい!?」


そうだった、こいつ(後輩)はこう言うやつだったのを忘れていた。


「これは綿毛のUMA!間違いなく地球外生命体!テンション上がるぅぅ!!」


『ポク、ワタネコ、オタスケシマスニャン!』


「いや!もう十分っす!救われました!さいっこう!!!」


さっきの落ち込みは何処へやら、後輩はわたねこの写真を撮りまくる。


元気が出たのは大変によろしい。

よろしい所で…。


「用件を言いなさい!!!」


頭を鷲掴み目を強引に合わせる。


「ひぃぃ!ごめんなさいごめんなさい!?話します、話しまーす!?」


後輩がここへ来たのはプレゼンを手伝って欲しいとの事だった。

だったらハッキリ言いなさいよ、もー。


「なんか馬鹿みたいな遠回りね」


「だってこう言うのは普通は自分でってのが多いじゃ無いですか、だから言いずらくて、ねー?わたねこちゃん」


『ニャー』


「ほら、わたねこちゃんも『そーだそーだ』言ってますよ!」


『コーニャコーニャ』


「こーにゃって言ってるわよ…、ほら練習するわよ」


「へ?」


「惚けた顔しないの、やるからには徹底よ!ほら、あんたの事だから内容は頭に入ってるでしょ?」


「は、はい!あ、下書きあるのでこれ見てて下さい!」


「OK、わたねこ!あんたは聞いてなさい良いわね」


『ニャニュニョ!』


「だからそれは返事なの!?」


『ニョニュニャ』


「読めたわよ、あんた喧嘩売ってるわね~~!?」


「わー!?先輩やめてください!いたいけなわたねこちゃんをいじめないで下さい~~!?」


こうして、なんだかんだあったものの。

わたねこを観客に私は後輩とプレゼンの練習をした。


◆◇◆◇


そして迎えた本番は成功、途中噛んだり詰まったりしたけど後輩はなんとかプレゼンをやりとげた。


販売機の前で私は後輩と乾杯する。


「「かんぱーい!!」」


「先輩!今日は本当にありがとうございました!!」


「なに言ってんのよ、殆どあんたが頑張った事よ、私は隣に座ってただけ、それだけよ」


「それが励みになったんです!所々サポートしてくれて、うう、感謝してもしきれません!!!」


「そんな何も泣かなくても……」


「そ・れ・と♡わたねこちゃぁぁん♡♡君もありがとうねぇぇ♡♡」


『グッニャブ!』


「てんきゅう!(THANK YOU)」


「何してんだか」


共鳴しあう2人を横目にコーヒーを飲んでいたら、同期がやって来て今日の事を凄く感動したと熱烈に感想を言ってくるから段々恥ずかしくなってきた。


「あー!もー!分かったからもう良いわよ!」


「私はあんたがちょっと怖いと思ってたけど、本当は良い奴なんだね、本当に感動した!」


「かか、勘弁してってば!」


「今度一緒にジムで汗を流そう、同期よ♪」


「分かった分かった!それで良いからもう止めて!?」


同期は名残惜しみながらも嬉しそうに手を振り帰っていった。

なんかどさくさに紛れて変な約束もしちゃったけどま、いっか。


「せせせ、せんぱぁぁぁぁい!?」


後輩が慌ててやって来た。


「どうしたの?」


「わた、わたた、わたねこちゃんが風に飛ばされちゃいました!?」


「え!?」


「わたねこちゃん、窓の外を見てたので私は一服してたんです、そしたら風が吹いてきて気が付いたら……」


「っ!」


私は薄く空いている窓を全開にして空を見る。

そこには、わたねこの影すらなかった。


「……」


「うわ~~ん!ごめんなさぁぁい!」


「良いのよ」


「え、でも…でもぉ…」


「あいつはこれで良いのよ、きっと…」


そう、これでいい。

あのこはきっとそうして旅をした方が良い。


なんとなく、そう思う…、事にした!


「先輩…、そ、そんな清々しぃ…泣くの堪えて…ううう、わたねこちゃぁぁん…」


「やれやれ、ほら!涙ふきなさい、化粧とれるわよ」


後輩の顔面にハンカチを押し当てて私は歩き出す。


わたねこ、あんた頑張んなさいよ?

誰かに迷惑かけんじゃないわよ!


もし汚れたら風に任せてなんとか帰って来なさい。


そしたらまた、洗ってあげるから。


でもその前に。


「私の顔を洗わないとね」


涙で化粧が剥げたかも、私は追い付いた後輩と笑いながら早足で化粧室に向かった。



ー続くー

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