夜に溶けて
憂鬱な日曜日。
外はまだ暗い。手を伸ばして枕元に置いた時計を取るが、そこに表示されているのはまだ朝の六時で。日曜日の休みだというのに、まだ惰眠をむさぼることだってできるはずだったのに。ここから二度寝という至福をしてもいいのだが、そうもいかない。ゆるゆると枕元に時計を戻し。
「おりゃ!」
かけ声をつけて、布団を蹴っ飛ばして、パジャマを脱いだ。バァン、と音を立ててクローゼットから適当な服を引っ張り出して、着る。テーマはかわいい女子。うそ。適当に引っ張り出したらそうなっただけ。
部屋から出て、顔を洗って、髪の毛を整える。ふてくされた顔もなんとか整えて。服に似合う顔にしよう、とメイクをしていくが、すればするほど遠退いていく。
「彼女に似合う顔」
鏡の中のわたしは、ようやくといったように笑った。
朝食も食べずに、バッグだけ持って、家の外へと出る。準備をしている間に日が昇っていたらしく、辺りは明るくまぶしい。腕につけた時計を見れば、まだ朝の七時といったところで。朝起きるのが早い彼女はきっともういるだろうけれど。
まぶしい太陽を睨み付けて、歩き出した。
日曜日の朝だというのに、部活動をしている生徒たちを横目に花壇の前まで歩いて行く。
小夜子はやはり花壇に水をあげていた。小夜子はきちんと制服を着こなしている、その姿を見て、なんだか心が揺れる。私の約束を覚えているだろうか。
「あら、早いのね」
「今日だけだよ。約束したでしょ」
「そうだったわね」
ふふ、と彼女は笑いながら、花に水をやっている。これは、たぶんわたしとした約束なんて忘れているのだろう。それでもいい。彼女といられるなら。
水がぽたぽたと彼女の手から滴っている。それを鬱陶しそうにぱっぱっと手を振り、水を払う。
「で、なんの約束だっけ?」
「……小夜子、ほんとに覚えてないの。」
「ごめん!」
彼女は目の前で手を合わせて、言う。そうたわいのない約束だったから。彼女にとっては、小夜子にとっては、どうでもいいことだったのだろう。いつもなら流せた、いいや今日だって流せるはずだ。小夜子の癖は今に始まったことじゃないのだから。だから今日だって、今日だって。大丈夫、大丈夫だよね。
「そっかあ。じゃあ今日は帰るね」
流せなかった。
小夜子は悲しそうに顔を、歪めて、それでも美しい顔を保ったまま。わたしに何も言えないでいる。そのきれいな顔を見るのもなんだか辛くなって、わたしは走って逃げた。
帰ってからも、ただいますら言わずに自室にこもる。お母さんの慌てる声が聞こえても無視をした。明るい日差しが鬱陶しい。きらきらとわたしを照らそうとする光が。荒々しくカーテンを閉めた。
「…………」
ぼろぼろとこぼれ落ちる涙も、揺れる感情も。自分勝手なものだった。そうはわかっていても、今すぐコントロールできるものでもなく。小夜子を嫌いになれるわけでもない。だから。
「明日になったら謝ろう……」
ぼろぼろ泣きながら、ベッドに潜り込んで、目を閉じた。