いけすかない騎士
人間共に捕まってしまったおいらは、そのまま牢屋に入れられてしまった。
鉄格子を2つ重ねられて、より強度な牢屋が作られる。
おいらは、鉄格子の柵を両手で掴みガンガンガンと揺らす。
おいらはおいらはおいらは―――!!!
同種族の仲間が居たら、笑いものにされていただろう。
それだけ今のおいらは滑稽で醜かった。
そもそも同じ種族の仲間達に会えない。
あいつらは今、何をしているのか? そもそもどうしておいらは……人間になってしまったのか? 何もわからず異国に1人ポツンッと取り残されたような気分だ。
おいらの死に様を容易に思い出すことが出来るのに……
何もすることなく、深く深く項垂れるばかりだ。
♢♢♢
牢獄がガチャンッと開いた。
この空間全体がおいらの気力をゴリゴリと奪っていき、抜け殻になってしまったかのように腑抜けになった。
そんな時突然牢屋が開き、顔を上げた。
硬質な服を身に付けた、嫌みったらしい笑みを湛える男が現われた。
腰の鞘に剣を納めて、ピンッと背筋を伸ばして立っている。
「意外ってそうな顔をしているな」
鼻息をハッと鳴らし、挑発するような言葉遣いだった。
「前代未聞なことが起こってしまってな……あいつらが頭おかしいのか、お前に秘めたる何かあるのか……お前を正義者で正式に雇うんだって」
俺からすればちゃんちゃらおかしいがなーと両手を出し首を竦めた。
「どんなことがあろうとも、犯罪者を雇うなんてな……まさかここまでこの国は落ちぶれていたのか」
「犯罪者!! 犯罪者っておいら何もしてない!!!」
「ならなぜ捕まってる? 何もしてなければ捕まることはない。大方盗みを働いたところだろう、その人相の悪さから盗人臭が滲み出てるぜ」
「たたしかにおいらは、空き巣のスペシャリストだけど……ででもおおいらは、この世界に来て一度も盗みを働いていない!!! 信じてくれ!!!」
「情に訴えかけようとしてるなら無駄だぞ? 俺はこいつらとは違う!! 立派な騎士だからな!!」
正義者と騎士の違いがわからないので?マークだ。
そのおいらの態度を見てどんなことを考えているのかわかったのか、ハンッと鼻息を鳴らした。
お前には興味がないんだと、背中を向ける。
「正義者なんてままごと同然だ!! 所詮騎士になれない負け犬共だな」
おいらじゃない人間が聞いたなら、本物の騎士だというこいつのセリフを聞いて怒り狂うんだろう。
だがおいらは人間が大嫌いだ!! なぜなら新聞紙と殺虫スプレーの二刀流でおいら達を殺しにくるからだ。
わざわざ日の当たらない排水溝の中とか冷蔵庫の裏に住んでるのに、そこにおいら達が居ると決めつけて殺虫スプレーを掛けてくる。
何ならおいらの仲間の1人は、カマキリ2匹に筋肉を食い千切られて惨い殺され方をした。
しかもカマキリ達においら達を食べるように命令したのも人間で、ニヤニヤと残酷な笑みを浮かべてビデオカメラで撮っているのだ。
人間には殺意しか浮かばない!! 人間共を根絶やしにしてくれる存在を切に願う。
「そもそもおいらは、人間が受けつけない」
「はっ?」
あまりにも突拍子もなくおかしな発言をするもので、性格悪そうな騎士様が頓狂な声を返す。
「お前も同類だ!!! 人間なんて全員死ねばいいんだ!!!」
「頭おかしいんじゃないのか? お前だって人間だろう?」
「人間になりたいなんて……一言も言ってない!! 勝手に人間にされたんだ!!」
「・・・・・・そうかそうか……頭がおかしい奴だったか、本当にあいつらの考えがわからんなー頭がおかしい奴を雇って……レクリエーションでもさせるつもりだったか?」
「レクリエーション?」
「お前はもう喋るな……頭がおかしい奴の戯言なんか、いちいち会話するだけ無駄だ!! 俺の頭まで腐敗される」
気持ち悪いモノを見るような顔を向けられて、馴染みのある追い払うポーズでシッシッあっち行け!!! と言った感じに手を動かす。
この追い払うポーズを何度やらされたか……ただおいらは、おいらの仲間達は、隅っこの方で誰の邪魔をすることもなくひっそりと暮らしていただけなのに!!
ゴキブリの住処に殺虫スプレーという奇襲を仕掛けて、体が大きいことを良いことに死ぬまで残虐な殺戮を繰り返す。
だからおいらは人間が大嫌いなんだ!!! お前みたいな人間が!!! 人間がーーー!!!
「騎士様、何か御用ですかな?」
イライラしている頭に水を掛けるような声が飛んできた。
騎士の背後に大柄な男が立っていた。
「その者を気に入ったんですかな? ですが渡しませんぞ!! この男は凄い逸材ですのでな!!」
「ケッ、頭がおかしい奴のところには頭がおかしい奴が集まるんだなー」
「騎士様冷やかしはお里が知れるというものですぞ!!」
「誰が冷やかしだ!!! 馬鹿にするのも大概にしろよ!!! 出来損ないの正義者共が!!! 打首にしてやったっていいんだからな!!!」
「ほぅほぅ~小物みたいなことをのたまいますな~これは負け犬というものですかな?」
怒りに震える騎士に、立派な口髭を撫でながらそれでも尚挑発を続ける。
心なしか目の前のキザッたらしい騎士より、この白い口髭を蓄えた男の方が大物に見えた。
「減らず口だけは達者だな」
「そちの方こそ、弱者を甚振るのが好きなようで~そんなことでストレス解消して~そんなにお姫様を守る騎士はストレスが溜まるんですかな? でしたら私は平民を守る正義者の方が水があってますな~」
「非常に悔しそうだな……」
「いえいえ歯肉を剥き出しにしてる騎士様ほどじゃありませんよ」
悪意に満ちた騎士と聖母のような白いオーラを放つ白い口髭の男を見合った。
やはり人間という生物は意味がわからない、出会ってすぐに口論するんだから。
わかりたくもないけど……