ゴキブリは人間になると有能だった!?
正義者に連れて行かれたおいらは、あれよあれよと監獄に捕まってしまった。
おいら好みの薄気味悪い場所で、ちょっぴり嬉しく思っているのは内緒だ。
それでも身動き取れないのは不自由で、何とか抜け出せないかと鉄格子の隙間に頭を突っ込んだりしていた。
なぜおいらが人間になってしまったかは後で、とにもかくにも自由を手に入れたかった。
朝昼夜ご飯が運んできて、ゴキブリのおいらでも美味しいと思う味だった。
ご飯1杯にみそしる鮭などなど、おいらが見たことない料理が山のように出てくる。
人間に対する印象が変化し、風船のように膨張したお腹をポンポンと叩き一拍置いてからブンブンブン!! と首を左右に振った。
「おいらは、あの時の光景を絶対に忘れない!! 非情を尽くした残虐な行い忘れることなど出来ない!!」
たかがちょっとご飯が美味しいだけで……美味しいだけで…………考えを放棄した。
ゴキブリの時は、こんな細かいこと考えなかったのに、きっと人間になってしまったからだろう。
「人間達に復讐のチャンスを!! そのためには、ここから脱出しなければ!!」
ゴキブリは案外頭が悪い。
何度人間に毒を飲まされてコロッと殺されたか、学習能力が皆無なので同じ罠を設置すれば同じように罠に嵌り殺されるんだ。
それでも無限に増殖すると思われるような、圧倒的な数で人間共と好戦していた。
「何かないのか!! 頭がないおいらには、どうすればいいのか」
人間という生き物は、ゴキブリにとって非常にデメリットだ。
この程度の鉄格子も抜け出せないなんて、家に侵入することも家から逃げることも得意なゴキブリは、空き巣のスペシャリストと巷では噂されていた。
いつの間にか部屋に居て、カサカサと人間共を目の前で挑発するからだった。
「うぅ……この大きな体が憎い……これでは100%パフォーマンスが出来ない」
途方に暮れて牢屋の中で項垂れていた。
♢♢♢
転機が訪れたのは次の日だった。
人間に対する復讐も諦めようかと考えていた頃、突然牢屋がガチャンッと開いた。
その音を鼓膜で受け取り、全力で昼飯を平らげた後、開いた牢屋に向かって走った。
人間という存在になってもスピードは一流で、一気に牢屋の外に出た。
「やったー!!! これでおいら人間に復讐出来る!!!」
このまま外に出ようと思い、超速で駆け抜けていく。
どんなに走っても息を切らせることなく、どこまでも走り続けることが出来る。
「あっ、お前は!!!」
「止まれ止まれ!!! 脱獄犯だ!!! 至急応援を頼む!!!」
その声にフッと笑みを浮かべた。
追いかけっこなら誰にも負けない!! ゴキブリだった頃も人間に追いつかれたことはない!!
丸めた新聞紙と殺虫スプレーの二刀流に沈んだだけだ!!
「クソッ!!! こいつすばしっこいぞ!!!」
「なんて速さだ!!! 俺達が束になっても追いつける気しないぞ!!!」
「なら銃だ銃!!! 銃で殺しちまえばいい!!!」
何やら物騒な話をしている。
次の瞬間、パンッパンッ!! と乾いた音が響き、視界に捉えきれない球が飛んできた。
それをヒャッヒャッ!!! と情けない悲鳴を響かせながら何とか避ける。
「なんて奴だ……拳銃を使ってもダメなのか……」
「それどころか一発も掠ってやしません!! このままじゃあ無駄打ちです!!!」
「クソックソッ、なんてハイテクな犯罪者なんだ!! そもそも後ろを振り向かずどうして避けられるんだ!!!」
これはゴキブリの性能である。
ゴキブリは聴覚がいい、それに人間共と相対して殺気がわかるようになった。
その殺気から左に右にただ避けているだけだった。
「あっ、どんどん離されていっちゃいます!!!」
「ち、ちがう……はぁはぁはぁ……俺達の息があがってるんだ」
「あいつ、あんなに走ってるのに息1つも切らしてやいませんぜ!! あいつの肺は馬並ですか!!!」
こいつは勝ったなーと思った瞬間、眼前まで壁が迫っているのを見落としていた。
ここは右に曲がらないといけないのだが、おいらは曲がることを疎かにしてしまった。
顔にガンッと壁が命中し、それでも生命力の強さからもう一度走り出した。
結構な距離を広げていたのだが、一気に詰められてしまう。
「顔面にガンッ!! と壁をぶつけたくせに、そのまま走り続けてる!!」
「クソッ……でもあいつが馬鹿なことはわかった」
「けど……あの逸材を牢屋に入れておくのは少々勿体ないんじゃないですか?」
「確かにそうです!! 頭はともかく足の速さと体力は俺達以上だ。しかも顔面を壁にぶつけても一切怯まなかった!! 僕は部下に欲しいです」
「……捕まえた後に考えることにしよう。なぁに、今応援の正義者が前から来ている。どんなにスピードがあったって、挟み撃ちに太刀打ちできまい」
後ろの正義者と、どんどん距離を離し、前から迫ってくる正義者に頭の中が真っ白になった。
それでもへこたれずに体を捻って何とか避けようとするが、1つ抜けて2つ目の正義者共に捕まってしまった。
「ほぅ、こいつはすげーや……あの絶体絶命の窮地から1つの人海防壁を抜けるとな? 用心して2つ目の人海防壁を作って正解だったな」
おいらが1人じゃなければ……人間共みたいに仲間が……仲間が居たら…………