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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
終章 それぞれのゴール
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第83話 エピローグ

 魔王の問いに、しばらくノエルは黙ったままだった。

 事前の打ち合わせで「ノエルが欲しいものをもらいなよ」と答えていたマリモは、気楽に隣で立っている。

 彼女にとって【壊れない】武器より良いものは無く、ゾンビの予想に反して、たぶんまだ迷宮に潜る日々は終わらない。

 だって、武器リストがコンプリートされていないうちに、管理者は防具カタログをノエルに渡したのだ。そっちも埋めたいに決まっている。


 そして、一度倒したボスを「強ボス」として再登場させて、新アクセサリ収集をさせようかなんていう、エンドコンテンツ計画があることも知っている。

 ノエルは今のところ、アクセサリに全く興味が無い様子だけど「武器と防具は全部コンプリートしたのに、アクセサリは……あはは、全然だね!」と煽れば一発だ。

 長い沈黙の後で、ようやくリーダーが息を吸う気配があった。

 さてノエル、最後はどんな伝説の武器を求める? 剣か、槍か、それともクナイか……。


「ニホンに行かせてほしい」

 

 その言葉に、全員が息を呑んだ。

「無理、だろうか」

 ノエルは少し控え目な声音で、それでも強く魔王を見つめた。王の巨体は、見上げていると覆いかぶさってくるような錯覚さえ覚える。

 長く見つめ合った後で、フイっと魔王の瞳は管理者に向けられた。

「……管理者、ドウ?」

「いや、無理じゃありませんけど……なんでまたあっちへ行きてぇんだよ」

 

 何でって、そりゃあ……と、ノエルの目が輝く。

「モデルガンが欲しい! きっとあれは、手に収まるサイズから、筒先の長いもの、太いもの、様々な種類があるはずだ。全部見たい」

「銃かぁー」

 ぺちん、と管理者は自分の額をたたく。管理者室に、かなりの種類の武器を用意してたというのに、全部はずした。

「あれは、この世界には持ち込めないんだろう? なら、このチャンスを生かして俺が行くしかない」


「ま、待ってよノエル。こことは別の世界に行っちゃうってこと?」

 これには慌てたマリモが、ノエルの袖をぎゅっとつかむ。

「いや、行けるというなら、戻ってもこられるはずだ。実際、四天王はニホンと行き来している様子だった」

 そういうところは鋭い。

「確かにそうだが、こことニホンは直通じゃねぇ。魔界を経由しなきゃならんけど、オマエら魔界に来る気か?」

「モデルガンのためなら、行こう」

 その積極性もっと他に発揮しろよと、管理者は前のめりのノエルを抑える。


「魔界に行ったら、はっきりいってこっちの冒険者はクソザコだぞ。しかもさらにニホンに出る時には、ここでの戦闘ギフトも魔力も何も持ち込めない。ただの町娘みたいなステータスになるんだぜ?」

 ヒュッと息を吸ったマリモに、ノエルは「だそうだ」とニヤリとする。

「マリモも、あの薄いガラスの闘気球に、触ってみたいだろう?」

「触って……みたい!」


 管理者が『オイラたちはダンジョンから出ない。そういう約束だ』と言った時、持ち込むべき武器とそうでない武器を選別していると知った時、モンスターの力を一律に制御している事を知った時。

 他の世界と干渉する際の、ルールを決めていると気づいた。

 ランベアード大陸は戦うための世界だが、ニホンには戦いを持ち込まない。ならば、戦闘系の【ギフト】もまた「持ち込むことができない設定」にしているのではないか。


 だとしたら、ニホンは相棒にとって、のびのびと歩き回れるもう1つの世界になるのではないか。

 ……あと、やっぱりモデルガンはほしい。

 

「どうします? 叶えられますけど、往来するとなると結構複雑で、オイラがついててやらないと……そうするとダンジョン管理の方が……」

 モジモジしている管理者を、ゾンビは「あぁ、やっぱり管理者は、ノエルたちが好きなんだねぇ」と声に出さずに見守る。

 魔王はヌッとピースサインを出してきた。

「えっ? 何です? おっけー?」

 戸惑う管理者に、威厳のある声が降って来る。

「週休2日制、王の祝日は連休」 


 クッ、その2日で行ってこいということか、軽く言ってくれる。ニホンにいる間の方が、満員電車とかで、体力消耗するんだぜ……。

 ノエルとマリモは、期待に満ちた目で管理者を見ている。

「ああもう、分かったよ! オイラが連れてって、また連れてかえってきてやるよ! 都合よく今夜から休みじゃねぇか、ボサボサしてんじゃねぇ、行くぞ」

 歩き始めた管理者に、2人の冒険者はウキウキと従う。そこで、ククク……と忍び笑いが漏れた。


「んん? どうしたヴァンパ……あぶねぇな!」

 カッと地面に刺さった薔薇は、非戦闘区域だったので燃え上がることはない。しかし明らかな殺気に満ちていた。

「魔界へ行くんだね、嬉しいよ銀髪の冒険者! さぁ、早く魔界への扉を開いて、何の制限も無い僕と戦っておくれ」


 やべぇ、走れと管理者が駆けだす。

「ひぇー、めっちゃ怒ってるよ。ノエル、何したの?」

「分からん。むしろ、あいつ誰だ?」

「火に油を注ぐんじゃねぇええ!」



 

 こうして金欠ローグは、地下40階の迷宮の最奥へ至り、その褒美に案内人付きで異界(ニホン)へ渡る権利を得た。

 しかしまだ彼のアイテムコンプリートの旅は道半ば。通りすぎたいだけの魔界も、かなり険しい。


 ヴァンパイアに追われる一行は、ようやくニホンへの扉の前までたどりついて、息を整えていた。

「何で、オイラまで、こんな目に……」

「いい運動になったねー。それに、こうしてると3人パーティーみたいじゃない?」

 マリモに笑顔を向けられると「よせやい」と照れる。


「よし、行こうか」

 諸悪の根源のならず者は、待ちきれない様子で扉に手をかける。

「あ、そうだ。前にも言ったが、ニホンに着いたら、戦闘系のギフトは全部使えなくなる」

「うんうん! 私、人混みで肩をぶつけて歩いてみたかったんだぁ」

 迷惑行為はやめような、と夢見る乙女をたしなめる。


 ガチャ、と開いた扉の向こうはパーラーゲッコウの地下駐車場。

 停まっていた軽自動車に「おぉ」と声をあげたノエルに、一番大事な話をして、この物語を締めくくろう。


「オマエの【浪費家】に限っては、戦闘ギフトじゃねぇから、この世界でも有効な」

 ギギギ、と銀髪のローグは振り返る。

「なん……だと」


(完)

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