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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
終章 それぞれのゴール
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第81話 魔王戦(1)

 朝早くからザックの中の物資を総点検し、次の王の祝日を確認しているノエルとマリモに、エイベルが尋ねる。珍しくカシュバルは公務で不在だ。

「あなたたち、まだ迷宮に潜るつもりなの?」

「そりゃもちろん、まだ魔王戦が残ってるから」

 肩越しに振り返って来た娘に、母は驚く。

「スケルトン戦の後に、わざわざ戻ってきたの?」

「連戦できるような状態では無かった」

 ノエルの声のトーンも低い。管理者の言う通り、本当に最後の一本までライフポーションを使い切るほどの激戦だったのだ。


「これまで全く防具には興味が無かったが、そうも言っていられないな」

「だねぇ。私のもずいぶん前に地下3階で拾ったやつで、もうココほつれてるんだよね」

 右の脇下が結構派手に裂けているが、そこが断裂するとどうなるだろうか。エイベルは即座に判断して裁縫道具を取りに走った。


「そういうことで、防具のドロップを狙いながら地下40階を目指そうと思いますっ」

 うぅ、と頭をさすっているマリモは、防具の応急補修が終わった後でゲンコツをくらっていた。

「いい心がけよ。防具は戦士の命です。できればもう少し露出の低いものを選ぶ……」

 だって、動きにくいんだもーんと、すでに口をとがらせている娘から、御しやすいリーダーにターゲットを変える。

「露出が低く、マリーの力も阻害せず、防御力の高いものを選ばせるよう、よろしくお願いしますね」

 笑顔の圧に、ノエルができる返答はたった1つしかない。

「……了解した」

 

 2人が出立してしばらくの後、カシュバルがエイベルの部屋に顔を出した。もう行きましたよと伝えると、あからさまにガッカリした顔をする。

「なんだ、魔王は『る攻め』にしろと教えてやろうと思ったのに」 

 重装歩兵隊長は、珍しくふふ、と声を出して笑った。

「あの子たちの道は、自分で開きますよ。大人の教える攻略など、ただのネタバレです」



 

「管理者、ノエルたち今何階じゃ?」

 スケルトンから通信が入るのと、ゴンゴルノの扉が閉まるのは同時だった。

「今、地上に帰った」

「ハァ? あいつらさっき37階まで来とったじゃろ。トラップでも踏んだか?」

 いやぁ、と管理者は半笑いで答える。

「防具の厳選するのに、時間かかってるみたいだわ」

 何で、何でと複数の声がするところを見ると、四天王全員が魔王の間で準備していたのだろう。

「ごくろうさん、でも、解散っ!」


 風のスケルトン戦で、大苦戦したノエルは防具の見直しをはじめた。

 初登場から今までずっと身に着けていたのは「宵闇(よいやみ)の衣」という黒いマントで、耐火性能が少々ある程度のノーマル防具だ。

 もちろん【激運】の彼に、それより良い防具はいくらでもドロップしている。

 それでも彼が頑なにこのマントを着続けているのは、「軽いから」と「黒いから」らしい。

 

 防具の見直しは大変結構なのだが、付き合いの長い皆様はお察しの通り、このノエル案外こだわりの強い男でもある。

 第一には、自分たちの戦闘スタイルを邪魔しない防具であること。

 せっかくそろえるなら、属性防御に穴が無いこと。物理攻撃及び魔法攻撃に耐性があること。

 あんまりゴテゴテしてないこと、ピカピカ光らないこと、できれば色は黒!


 この果てない防具探しに、マリモは実に楽しそうにつきあっている。

 悩んだ末に売却することになる防具は、たいてい非常に性能が良く、どこの町でも歓迎される。

 これが、めぐりめぐって国力増強につながっていくことが、父との話で深く心に刻まれていたからだ。


 そんなわけで、四天王の待ちぼうけはしばらくの間続き、中でも深層40階のスケルトンのヒマさは苛烈を極めた。

 積み上がるコミックの山、食べ始めたら止まらない和菓子店の栗ようかん。

 そしてスケルトンは、作者の健康状態を心配しながらも、皆が次の巻を待ち望んでいるあの作品を読むうちに、重要な可能性に気付いてしまったのである。

 



 風のスケルトンの間の扉の前に立った希代のペア。銀髪のローグと、褐色のデストロイヤー。

 今回の彼らの登場を音で表すとしたら「テテーン」だろうか。

 属性防御に穴が無く、物理攻撃及び魔法攻撃に耐性があり、動きやすい。

 これを叶えるにはセット防具一式では無理だった。

 超レア防具セットから、腕は火属性、腰は風属性と寄せ集め、守りの要となる頭と胸の防具は重厚に、スピードを殺さぬよう足回りは軽めに。

 ステータスは完璧だ。しかし、見た目がひどい。


「よし、行くか」

「うん。これで……ラストだね」

 互いにヘルメットの中からくぐもった声で、やりとりする。

「今回は全滅も覚悟の上だ。運よくどちらかが生き残ったらセーフポイントで今夜の強制排出を待って、所持金半額だけは(まぬが)れよう」

「分かった。でもノエル、死なないでね」

 マリモの心からのセリフにも、この格好では雰囲気が高まらない。

 案内すべき管理者も、笑いすぎていて部屋に入ることができない。


 城の中庭は、地面の装飾が剥がれて、下のツルっとしたマス目が丸見えになっている。

 本来スケルトンの第二形態で上昇した床が、また下降して魔王の間への扉に進むことになっているのに、勝手に管理者室にワープしてきたりするから、こういう予想外のバグが起こるのだ。

 しかし冒険者たちはそんな些細なことに気を配ることすらしない。

 扉の向こうから漏れ聞こえてくる声に、ノエルとマリモの緊張感は最高潮に達する。


「……つまり、最強は(アリ)なのですじゃ。あれほどの絶望感のある王が、かつていたでしょうか」

 スケルトンの声に、ウンと重低音の返事。それだけで足がすくむほどの覇気を感じる。

「しかしその最強王は、何に敗れたか、そうです軍儀ですよ。商店街のオモチャ屋では手に入りませんでしたから、この際、将棋でもいいことにしましょう」

「ショウギ?」

 マリモの問いかけを、シッとノエルが制すると、目の前の扉が触れてもいないのに、突然バァンと全開になる。

「ノエルよ、ワシにはまるっとお見通しじゃ! 最強の王たる魔王様に、将棋で勝負を挑むつもりじゃな!」

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