第80話 ギフト(2)
「じゃあ、私は? 私の【怪力】はどんな幸せを願われてるの?」
マリモの問いに、両親は顔を見合わせる。
彼女の怪力も魔法使いと同様、生まれながらのもので、母の遺伝がちょっと度を超えて出たものではある。
しかしこれに、幼いころからマリモがどれだけ窮屈な思いで暮らしてきたかは、2人が一番よく分かっていた。
手が触れただけて、壺を叩き割ってしまう。よろけたリーダーをそっと支えたつもりが、ヒジを外してしまう。
それはノエルの【浪費家】よりはるかに厄介な、自分で制御できない行き過ぎた力だ。もはや、呪いに近い。
そんな性質を持って産まれる子は、どこの世界にも必ずいる。
しかし、このランベアード大陸ではその呪いを隠さず、ギフトとして明示した。
「ちょっとお転婆だけど、いい子ですってみんなに知ってもらえるわ」
エイベルは優しい言葉で表現した。
呪われし力を【怪力】と示すことで、マリモの破壊行為は、彼女の意志では無いことを知らせる。
それもまた、生きにくい性質をもった子が、社会とうまく折り合うために贈られたギフトだ。
「だけどね、陛下も私も、城のみんながマリーを愛しているのは、ギフトのおかげじゃないわ。何故だか分かる?」
わかんない、と首を振るマリモは、幼子のような無防備な表情で母を見つめた。
「あなたがいつもニコニコ笑っているからよ。時々失敗して、コッソリ泣いて、それでもまた笑うことができるあなたの強さを、みんな尊敬しているわ」
戸惑うマリモに、ノエルも口をひらく。
「確かに。どんな時でも、マリモが笑っていてくれたことは、大きい」
「コミュ障! もっとうまいこと俺の娘を褒めろ」
王様からの大人気ないヤジを、エイベルは視線だけで黙らせる。
「いつでも笑顔でいるには、とても強い心が必要だわ。マリー、あなたは私の自慢の娘よ」
ついに我慢できなくなったようで、マリモはそっとエイベルの胸に額をつけた。
怪我をさせるのが怖くて、久しく自分に触れてこなかった娘を、息苦しくなるほど抱きしめてやる。
「馬鹿ね、これでも重装歩兵隊長よ。もっと全力でいらっしゃいな」
母娘の抱擁を、ノエルが穏やかな気持ちで見つめていると、カシュバルが腕をひらく。
「娘の相方は、俺の息子同然だ。ほら、オマエも来いよ」
「これが人たらし王、カシュバル=モーガンか……。結構です」
深夜。ノエルとマリモは、カシュバルと3人で城の宝物庫を訪れていた。
ここに、かつて40階に到達した王が叶えた「望み」があるらしい。
儀礼用の剣や、扱いに困って寄贈されたユニーク武器などが、博物館のように説明付きで展示されている。
「王宮の宝物庫……宝物庫か……」
「ダメだからね、この中のものに手をだしたら、ホントのならず者になっちゃうからね」
異様なテンションになっているノエルを、マリモが真剣になだめていた。
その宝物庫の突き当りに、さらに厚い鍵付きの扉があって、魔法による封印までかけられている。
両方を解除して開かれた扉の先には、ガラスケースに納められた、銀色の箱が鎮座していた。
「これが、俺が望んだモノだ」
それだけ言ったカシュバルに、マリモは箱のまわりをぐるりと回る。ひとかかえほどもある、結構大きな箱だ。
「何だろうこれ。結構大きいけど、箱……だよね?」
「中に伝説の武器が入っているか、この箱自体が武器に変形するか……」
ノエルの予想に、カシュバルは首を横に振る。
「いいや、中はカラで、開くことはできるが変形はしない。これから入れるんだ」
当然、何を? と見つめてきた娘に、カシュバル王の目がキラキラと輝く。
「この国の、未来をだよ!」
「……」
「…………」
静かに武器に手をかけた2人に「待て待て何でだ」と王は手のひらを向ける。
「いや、お父さんが、真のラスボスかと思って」
「そんな小さな箱に、未来がおさめられてたまるかと思って」
身構える2人に隙は無い。これ以上引っ張ると自分の命が危険だ。
「違う、これはトウヒョウバコだ。管理者にニホンから取り寄せてもらったんだよ!」
カシュバルの望みは、使えなくなった闘技場に代わって、新たな王を選出するシステムだった。なにせこのままでは、次代選出の際に戦争になりかねない。
面白がった管理者は、抜いた人が王様に選ばれる剣と岩セットや、カシュバル自身が不老不死になって、半永久的に玉座に居座るための薬なんかも用意してくれたのだが、一番彼の興味を引いたのがこの箱だった。
叶えてもらえる望みは、パーティーで1つ。王の望みを聞いた仲間たちは、満場一致でこの箱をもらい受けることに賛成してくれた。
「この箱に次に王になるべき人の名を書いて入れる、全員が投票を終えたら箱を開けて、一番たくさん名前が書かれていた人が次の王だ」
全く新しい仕組みに、ノエルは眉をしかめる。その良さが、よく分からない。
「今までは、腕っぷしの強いヤツしか王選に関わることができなかった。でも、これなら子どもからヨボヨボのじいさんまで、みんなで王を選べるようになるんだ」
おぉ、とローグは感嘆の声をもらした。そんな公平で平和な方法で王が選出されるなら、夢のようなシステムだ。
「でもそれだと、強い人じゃなくても王様になっちゃうんじゃない?」
マリモの戸惑いに、そうとも、と王は笑う。
「ダンジョンの出現で、大陸の民はどんどん強くなっている。いつか、本当の脅威が襲って来たときは、皆が一丸となって立ち向かうことが必要だ」
カシュバルの目は、遙か未来のランベアード大陸を見つめている。
「その時、王は皆に選ばれて、その心をまとめられる存在だといい。ひとりだけ強い必要は無い」
はぇー、とマリモはなんともいえない声を漏らした後で、カシュバルを見つめた。
「じゃ、次もお父さんみたいな王様が選ばれるといいね」
そのとびきりの笑みに、かっこよくキメた国王陛下はデロデロに溶けた顔になって娘にすがりつく。
「マーリーぃ。お父さんは嬉しいよー」
再びの父娘の抱擁を見ながら、ノエルはカシュバルの偉大さに感じ入っていた。
この人は国のために迷宮の謎を解き明かし、魔界との共存の道を選択し、国の未来のために望みを叶えた。
銀髪のローグがここにはあるはずの無いカメラをスッと見上げると、あなたと目が合う。
「……主人公、この人だったんじゃないか?」
そんなことはないはずだから、安心してほしい。




