第79話 ギフト(1)
「おおお、ついに……やったかぁ」
痺れたように目を閉じていた管理者は、こうしちゃいられないとピョンと床に降りた。
この後に魔王戦が控えていて、そこまで冒険者をアテンドするのが表舞台での最初で最後の役割となる。普通は、ここではじめて冒険者と管理者は顔を合わせるのだ。
扉を開こうと壁に近寄った管理者は、すぐ横に現れたドアにぎょっとして飛び退った。
「カンちゃん、見てたー? 勝ったよー」
ヘロヘロのマリモが、それでもニカッと笑う。
「おう、もちろん見てたさ。よくやったなぁ」
「このままでは、さすがに太刀打ちでき……」
後ろから何か言いながら入ってきたノエルは、しっかりと大鎌をゲットしてきていた。
四天王から武器はドロップしないので、ハッキリ言って泥棒であるが、まあこの際、細かいことは言うまい。
「管理者」
武器を置いて、ノエルは床にひざをつけた。
「疑って、すまなかった」
「お? おお、おう」
ドッペルゲンガーの話だと分かるまで、しばしの時間を要した。そして、そう言われるとかなり居心地が悪い。
それでも、あんなくだらない小芝居をしてくれたスケルトンに感謝して、ここは乗っからせてもらおう。
「オイラのダンジョンだから、管理不行き届きでもある。イヤな思いをさせて、スマンかったな」
マリモにそう言うと、彼女はいつも通り「いいよー」と軽く応じてくれた。
この笑顔にノエルも管理者も、ずいぶん救われてきたのだ。
「さて、それじゃ……」
案内をはじめようとした矢先に「それじゃ」とノエルも部屋を出ようとする。
「んんっ? どこ行く?」
びっくりした管理者に、マリモが答えた。
「お城。風のスケルトンを倒したって、お父さんに報告して、準備ができたらまた40階まで戻ってくるー」
それはまた、ご苦労さんなことで、と思ったがこの2人なら大した道のりでもない。
前回は報告が遅れて父ちゃんがヘソを曲げたっぽいから、今回は一番先に知らせてやろうというのか。孝行娘だなと、管理者はホッコリして2人を見送った。
「ノエル、そしてマリー。40階踏破おめでとう」
カシュバル王の心からの言葉に、後ろに控えていたエイベルもそっと涙をぬぐう。
「ううん、まだまだこれからだよ」
愛娘の答えに、母はそうねとその肩に触れた。
「剣の道に終わりは無いわ。あなたの戦士としての人生はこれからよ」
「風のスケルトンは強かっただろう。しかし、たった2人で勝っちまうとはなぁ。さすがの4ツ持ちというところか」
カシュバルは祝福半分、自分たちの半分以下の人数で踏破してしまったノエルへの羨望半分。また、迷宮に潜ってみたいという気持ちが湧いてきて、お尻がソワソワしている。
「ギフトには助けられてもいるが、振り回されていることの方が多い。使いこなせていない証だ」
マリモの闇に触れた手前、ギフトの話題は少し心苦しい。
「ノエル」
諫めるように王に呼ばれて、ノエルはすぐに言いなおす。
「使いこなせていない証デス」
「いや違う、いまさらおまえに敬語は求めてないから心配するな」
以前管理者にも言われたようなことを、陛下にまで許されたらしい。
「ギフトは、別に誰かが与えたものじゃない。元から持ってるおまえの性質を端的に言い表しただけだ」
えっ、と目を丸くしたのは【怪力】に悩む娘も一緒だ。
そういえば、カシュバルが管理者に話した時も「カミ様が与えたもんじゃねぇのかよっ!」なんて、不思議な驚き方をしていた。
「教会員は【観察眼】のギフト持ちが就く仕事だからな。生まれた頃から、15歳までずっとその子を見ていれば、何に適性を示すか分かるんだよ」
魔法使い系のギフトを所有している人間は、教会員に宣言される前から自分の適性に気付いていることがほとんどだ。
ほぼ100パーセントの確率で遺伝で発現するから、親が魔法の制御方法を教えるし、親の無い子は周りが別の魔法使いを頼る。
メイとソフィアも、母親が【土】の魔法使いだった。属性は、同じになることもあれば、別のものが発現することもある。それでも、魔法使いの親は魔法使いであることには変わりは無い。
逆に【鍛冶】や【商才】などの職人系のギフトは、完全にその子の興味関心を見極めて与えられる後天的ギフトだ。
親が裁縫士でも、子のほうにやる気が無ければ【お針子】を与えたりはしない。
「ちなみに、俺の【英雄】とか、ノエルが一時期面倒を見ていたボウヤの【勇者】なんてのは、戦士として頑張りそうだけど、何て言って伸ばしたらいいかわからん! って、教会員が苦しんだギフトだな」
「適当なことを教えないで下さい。15歳時点では絞り込めなかった、可能性を秘めたギフトですよ」
半笑いの国王陛下を、エイベルがフォローする。
「俺の4つは、どういうことなんだ?」
「ノエルの場合は、最初の3つまではそのまんま、規格外に【器用】で【俊敏】で【激しく運がいい】子だったってことだな」
奴隷襲撃事件の折り、戦闘経験の無かった孤児がたった1人、はじめて握ったナイフで、両手を縛られたまま戦って生き残った。確かに規格外だ。
これに加えて、王都からルーノルーノに移った後も、ノエルは「このガキは頭がおかしい」と言われるほど鍛錬を積んでいた。
まるで、それしか生き方を知らないように。
「で、その規格外の3つを薄めるために【浪費家】も贈って、4ツ持ちにしたんだと思うぜ」
「えぇ……? どう考えても、最後のいらなくない? 何で薄めたの?」
マリモの声と、納得がいかないという顔のノエルに、カシュバルは楽しそうに笑う。
「ノエルが幸せに生きるためにさ」
どういうこと? とマリモがエイベルを見ると、母も静かにうなずいていた。
「もちろん浪費家だっておまえの性格だ。でも思い出してみろ、ノエルを心から気にかけてくれるヤツとの縁は、常に【浪費家】から始まっているんじゃないか?」
最初にかち合ったのは、明るいブラウンの瞳。そういえばマリモとも、空腹なのに金が無くて、肉を分けてもらったのが縁だ。
思い浮かんだ人はほぼ全員と言っていいほど「金が無い」というノエルを、叱り、励まし、助けてくれる人ばかりだった。
規格外のギフトだけに引き寄せられた人間は、必ず【浪費家】によって去っていった。
ノエルの周りに残ってくれた人は、皆、【浪費家】のノエルを愛してくれていたのだ。
「無限に広がる未来は、時に若者にとって、茫漠で途方もなく感じるだろう。どの方角へ向かえば力を生かせるか分からなくなった時、ギフトはその指針となってくれる」
カシュバルの声は、やはり【英雄】だと思う。
強く心を動かして、あたたかな希望を吹き込んでくれる気がするのだ。
「自分が見守った子どもたちが、幸せな大人になれるように贈る。それがギフトなんだよ」




