第78話 風のスケルトン(3)
第二形態のスケルトンは、足を失くして空中浮遊することで、高機動力を得ている。
スイッと横移動しながら、サーオルタードから打ち出される衝撃波は、着弾するまで毒や麻痺のつむじ風になるのか、ただの物理ダメージなのか見分けがつかない。
「床がつむじ風でいっぱいになっちゃうよ」
1分単位で残るやっかいな技だというのに、撃ち出す速度が速いうえに、回り込んできては逃げ道を塞ぐように置いていく。
毒はマスクとポーションで対応するとしても、痺れのほうはぜひとも避けたい攻撃だった。
「シャドウボール3つ……! マリモ、打ち返すな!」
完全にバッティングフォームだったマリモが、リーダーの声に慌てて身をかわすと、後ろで派手な音がした。
毎度毎度どうやったらあの速度で、触っていい攻撃とそうでない攻撃を見分けるのだろうか。今日も信頼のノエルの目である。
肥大化した核は、弱点にもなるが、今まで以上に高出力の魔法を撃ち出すことを可能にしている。
先ほどまでの、打ち返せるシャドウボールとは桁違いの威力なのだ。
ノエルが取り出した弓も、途中のつむじ風に軌道を逸らされて、コアを狙うどころの話では無い。
かといって、全く攻撃の間合いに入れてもらえない近接職2人は、風のスケルトンを攻めあぐねていた。
「さぁ、もっと闘気を燃やすんじゃ!」
スケルトンが頭上で大鎌をぐるぐる回し始めたかと思うと、床の中央に巨大な黒い竜巻が発生する。
「命を蝕む、スケルトンの必殺技。【腐食の風】じゃ」
「下がれっ!」
ノエルの号令で後退したものの、先ほどと同様、じわじわと体が風に吸い寄せられる。
「ん……んんっ?」
違和感を感じてマリモが鼻をつまむと、隣でノエルが体をくの字に折った。
「ごふっ……」
マスクの上から口を覆ったのに、手のひらが真っ赤に染まる。吐血したのだ。
「ノエル、大丈夫? 何で私は鼻血なのぉ?」
丈夫さの違いである。
風は止んだが、直接命を削ってくるこの技は、今までのなかでもとびきりヤバい。
ノエルは初めてザックからライフポーションを取り出して、1本をマリモに渡し、もう1本を一気にあおった。
「あの大技、ダメージは凶悪だが、隙でもある。次はこちらからも仕掛けるぞ」
「うん」
2度目の腐食の風には、大鎌を回しはじめたタイミングで、ノエルが短剣を握って突っ込んだ。
見事に核の下部にヒットし、少しヒビを入れたが、離脱と同時に腐食の風のど真ん中に着地することになる。
「ノエル、ノエルっ!」
悲痛な声に目を覚ますと、マリモは振り上げた手を止めきれずにもう一度ノエルの頬を叩いた。
ダメージは無いが、本能的に首のあたりがぞわっとする。
潤んだ目を見上げて「気絶したか」と問うと、うん、と相棒はうなずく。どうやらステージの端まで引っ張ってきてくれたらしい。
新たなライフポーションを口に突っ込まれて、今度は私がいくとマリモが駆けだした。
そして、今度こそ口から血を吐きながらマリモがよろよろと戻ってくる。
「一撃当たったけど……きびしい。でも、どう? 血を吐いてるのって、なんかかっこよくない?」
「いや……その感性は、わからん」
武器を変えて、立ち位置を変えて、タイミングを変えて。そのたびに血を吐いて、ポーションを飲み干す。
常にスタイリッシュでトリッキーな戦闘を見せてきたノエルには、ありえないほど、泥臭い戦いが繰り広げられていた。
それでも少しずつ確実に、風のスケルトンのライフは削られてきている。
血で額にはりついた銀髪を、後ろへ撫でつけると、青い目が燃える。
こんなにボロボロになっても、彼らの闘志にはまるで陰りが見えない。
死の風を押し返す、マリモのバトルアックスの剣圧、大鎌の軌跡を見切って、ふところへ抉りこむ銀の疾風。
ああ、戦うということは、生きる事そのものだと管理者は思う。
だからこんなにも鮮烈で、こんなにも見る者の胸を熱くするのだ。
「いけよ、ノエル。全力で! エリクサーを残して勝てる相手だと思うなァ!」
「いいぞ。この闘気球があれば、四天王クラスの魔物とも共振できるっ!」
浮き球2つに満タン近く溜まった闘気を見て、風のスケルトンは喜びの雄たけびをあげた。
「若き冒険者よワシはおまえたちが気に入った。この大鎌サーオルタードで、とどめを刺してやるから、再びここへ戻ってこい! あと2つは必要なんじゃ」
四天王全員分まで、あと闘気球2つという、至極単純な計算をしたスケルトンは、正面でニコッと笑った戦士の相方が「居ない」ことに気が付いた。
「この大鎌、銘のあるものなのか」
ぼそりと聞こえたのは、自分の首の真後ろから。しかも、振り上げた鎌をぎゅっとつかまれている。
「え? いや、離してくれんかの……?」
第二形態のスケルトンを信じられないほどの力でつかんでいるのは、武器への執念だ。
「もしや、四天王の武器はドロップする……? いや、ゾンビとワーウルフは持っていなかった。すると、おまえだけか」
火のヴァンパイアは、量産品のレイピアを持たされているので、たしかにスケルトンだけが良い武器を持っている。
「この武器が、欲しいぃ」
「いやっ、何このヒト、急に怖いんじゃぁ」
「ノエルー」
ヤッホーとほほ笑みながら手を振るマリモが、一瞬天使に見えた。
「水のワーウルフが、殺してはぎ取れって、言ってたよ」
前言撤回、悪魔である。そして、ワーウルフはそうは言っていないだろう。
「なるほど」といつも通り、無表情にノエルはうなずく。
静かに背中から抜かれたカラドエウリアは、銀河のきらめきを吸い込むようにその刀身を輝かせた。
風は止み、耳の痛くなるような静寂。
研ぎ澄まされた一撃が、ひび割れだらけの核を打ち砕いた。
「ぐふぅ……無念じゃが、仕方がない。魔王様に挑む権利を……与えよう」




