第77話 風のスケルトン(2)
「スケルトンさんのやり方は、ダメだと思う」
キッと睨みつけながら、マリモは前へ進んでくる。元の顔に愛嬌があるので、あまり迫力は無い。
「私が誰にも言わずに黙ってたことを、勝手に知らせちゃうとか」
怪力へのコンプレックスは、本当に誰にも知られたくなかった。
知られてしまった後で、ちょっと楽になったように感じている自分の弱さも、嫌いだ。
「実はノエルより、ほんのちょっと重いかもなーって、思ってたとこを突いてくるとか!」
体重の問題は、それ以上にダメだ。絶対暴いてはならない大問題なのだ。
ごん! とバトルアックスが地面を叩く。
「デリカシーが無いと思うよっ!」
「なんっ……!」
アゴがはずれそうなほどショックを受けたのは、この年末に帰省した孫娘に全く同じことを言われたからだ。
バイト先の人間関係はどうだ、若いうちの苦労は買ってでもしろ、カレシの1人くらいおらんのかぁ?
めっきり口数が減った孫娘に構いたくて構いたくて、絡みまくったスケルトンに返された、骨も凍るような声を思い出す。
「はぁ? うっざ。じいちゃん、デリカシーが無いんだって」
これ以上は間合いに入られると判断したスケルトンが、胸の痛みを押し殺してシャドウボールを飛ばすと、マリモはそれを戦斧の側面で打ち返した。
「あぶないじゃろう!」
自分の撃った高魔力の魔法を打ち返されて、スケルトンは驚いて叫ぶ。
「お返ししますぅー」
「カァー、なんじゃ、この小娘。腹立つのぅ!」
続けて振った大鎌は、銘をサーオルタードという。闇の魔力を極大に増幅する効果を持ち、状態異常をもたらす風を起こし、接近戦にも対応できる伝説の逸品だ。
毒と麻痺のつむじ風にはさまれたマリモは、先ほどノエルから受け取ったキュアポーションのビンを、葉巻のように口の端にくわえた。
そして、そのままブオンブオンと戦斧を振り回しはじめる。
「な! 毒は?」
「くすり、のんでる」
器用にしゃべるマリモの口元で、あまりポーションは減っているようには見えない。
「ごあっ、重い……。何故だ、痺れは!」
マリモの攻撃を鎌で受けたスケルトンの足が、地面にめりこむ。
「くすり、のんでる」
「その薬じゃないだろぉお!」
マリモはもともと健康優良児。今まで「薬」と名のつくものに世話になった覚えが無い。
「いいことよ。薬は飲むほど、だんだん効きにくくなるものなの。きっといざというとき、ものすごく効くわ」
母エイベルはそう言っていた。今がその「いざ」というときだ。実際、ものすごく効いている。
マリモが足元を狙った攻撃で、バキャッと右足が砕ける音がして、スケルトンの体が傾く。
それを背後から支えたのは、銀髪のローグの手だった。
「マリモは、ワーウルフ戦をこの格好で勝った。ちょっと感覚がアレだが、とても強い」
スケルトンの黒いローブを鷲掴みにすると、勢いよく胸元をはだけさせる。「イヤン」と骨は恥ずかしそうに身をすくめた。
「やはり、核があるタイプか……」
ドスゥと目の前に振り下ろされた細剣に、すんでのところでスケルトンは体をひねる。さらに骨が数本砕けた。
「いきなり核狙ってくるとか、容赦なさすぎじゃろう!」
「許さん、と言ったはずだ」
ローグはいつのまにか、黒いマスクを身に着けていて、その怜悧な双眸とあいまって悪役にしか見えない。
「ふふふ、フハハハ! いいぞ、最下層まで降りてくる者は、やはりこのくらいブッ飛んでおらねばつまらん」
激しい風が巻き起こり、砂埃に目を閉じた隙にスケルトンはノエルの腕から逃れてマップの奥へ移動していた。
その場にかがんだスケルトンは、無事だったほうの左足に手をかけると、自らそれを折り取る。
「なにしてるのっ!?」
マリモが驚いて声を上げる。しかし、両足を失った魔物は、何故かそのまま宙に制止していた。
ドクン、ドクンとみぞおちあたりで赤く光る核が、鳴動する音が聞こえ、次第に大きく膨れ上がりはじめる。
「ボス戦のお約束、分かるじゃろう?」
足元から立ち昇る邪気と共に、ローブは消え失せて、いかにもという漆黒の鎧をまとったスケルトンが浮遊する。
「第二形態か。足が無い……」
ノエルのうめくような声に、「ご名答」とゴキゲンな返事。
「足など飾りじゃよ」
「さっきより、核の露出が大きい。狙える時に確実にいこう」
残念ながら、ノエルはスケルトンのネタを拾ってくれない。
「ま、よいさ。さぁ、管理者、決戦の舞台へワシらを誘っておくれ!」
両手を天にむかって掲げると、ゴゴゴと音がして地面がせりあがり、あたりが暗くなっていく。
「くっ……視界を奪われるのはキツいな」
暗闇で歯噛みしたローグに、管理者はそんな無粋はしねぇよと笑う。
「わぁ……」
マリモのため息と同時に、最終決戦の壮大なBGMが流れ始める。
ラストステージのイメージは宇宙。
踏むとシャリシャリ謎の音をたてる透明な床がある他は、果てしない星のきらめきが四方を埋め尽くしている。
しばらく呆然とあたりを見回していた2人は、ようやく感想を述べた。
「これは……夜だね」
「うむ。夜、だな」
「あーっ、こいつらに宇宙の概念もねぇんだったぁ」
でもカシュバルのときは「ここまでありがとう。みんな、死力を尽くそう」みたいな燃える展開があったんだい!
金欠ローグと褐色のデストロイヤーは、ただ黙ってスケルトンから吹いてくる、禍々しい風を見つめているだけだった。




