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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
終章 それぞれのゴール
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第76話 風のスケルトン(1)

 風のスケルトンとの決戦は、実際の魔王城の中庭を模したマップで行われる。

 周辺はぐるりと回廊に囲われ、切り取られた空に紫色の雲がたなびいていた。


 部屋の主はすでに、真正面で待ち構えている。

 巨大な両手鎌を手に、黒いローブをまとったしゃれこうべがその場に立っているだけだというのに、マリモはゴクリと喉を鳴らした。

「冒険者よ、迷宮の最深層までよくぞ至った」

 渋いしゃがれ声が響くだけで、プレッシャーに押しつぶされそうになる。

 

「ワシの用意した仕掛けは、楽しんでいただけたかな」

 その言葉にノエルがピクリと肩を動かす。

「たった2人でここまで来たというのに、互いに殺し合ったのか。ワシの用意した39階のあの仕掛けで!」

 マリモも不愉快そうに眉をしかめる。

「そうとも、所詮アレは迷宮の管理者。この最強の風のスケルトンこそが、あの仕掛けを用意したのだぁ!」


「オイ……スケさん、勘弁してくれよぉ」

 モニターの向こうで、管理者がうめく。


「……つまり、あの闇の仲間と戦わせる仕掛けは、おまえが作った。管理者は関与していない、ということか?」

 静かな調子でノエルが問う。

「ウンそうそう、そゆこと」

 鎌の柄を両手でギュッと握って、コクコクうなずいているスケルトンに、マリモが小さな声で「軽っ!」とつぶやく。


 なるほど、と一度目を閉じたノエルは、1カメ、2カメに順に視線を送り、最後の3カメラに向かって目力を強めた。

「すまない。濡れ衣だったようだ」

「ウゥ、誤解がとけて嬉しいヨ……って、なるかーっ! 何だこの小芝居。ラストなんだぞ!」

 

 管理者の悲鳴は杞憂(きゆう)だ。ノエルの怒りは、ターゲットを得てまっすぐに風のスケルトンに向けられている。

「あの仕掛けは悪趣味だ。仲間を傷つけたこと、許さん」

 ノエルが構えると、マリモもブオンと戦斧を振った。

「そうだよ! 乙女心を裸足でペタペタ歩かれた気分だよ!」

 靴は脱いでいるから、ほのかに礼儀正しいような、それはそれですごく嫌なような。たとえ話が苦手な子である。


 上空からカラカラと羽音が響いて、電球を咥えたスカルバットが降りてくる。

「そうカッカするでない。見なさい、この濃密な闘気を。ワシはね、本気で魔界の少子化を憂えておるんじゃよ。だから、どんな手を使っても、おまえさんたちから極上の闘気を搾り取りたい」

 背後から立ち昇る邪気は、黒いモヤとなって視認できるほどだ。

「さぁ、若い冒険者よ。骨の髄まで死合(しあ)おうぞ」  


 シャドウボールの連撃を走りながらかわして、ノエルはやはりかと静かに焦っていた。

 土のゾンビ、水のワーウルフは肉弾戦だったが、この風のスケルトンは魔法攻撃を主体としている。

「魔法攻撃をしてくるボスは初めてだ、慎重にいこう」

 距離をとったままのマリモの元まで下がると、早口に言う。

「あれー、火のヴァンパイアって魔法系じゃなかったっけ」

「…………?」


 思い出そうとしたノエルとマリモの間に、スケルトンの鎌から衝撃波がはしった。

「おぉっと」

 ピョンとさらに下がったマリモの目の前で、小さなつむじ風が起こる。ぞわっと悪寒がして、口を押えてさらに大きく背後に飛び退った。

「なに……げほっ、げほっ」

 褐色の戦士は、胸に焼けるような痛みを感じて咳き込む。

「毒の風か。まずいな」

 解毒薬(キュアポーション)を相棒に投げながら、ノエルは時間をかせぐために回廊沿いを走り始める。


「毒だけじゃないぞい」

 再びスケルトンが鎌を振りかぶって、衝撃波を飛ばす。

 ノエルの移動を完全に読んだ軌道の先で、またつむじ風が起こった。吸わないように、息を詰めて駆け抜けようとしたローグの片足が、風の円に触れると、前へつんのめるように地面を転がる。

「ぐっ……痺れ……っ」

 肌に触れるとしびれをもたらす風の陣だ。


「さらにこの風、高級掃除機のように吸い……」

 パチンと指を鳴らすと、まだむせているマリモも、しびれているノエルも、それぞれがつむじ風に引き寄せられていく。

「まずい、耐えろ!」

 とっさに地面にクナイを刺したノエルの下半身が浮く。マリモもバトルアックスを強くつかんで耐えた。


「マイナスイオンドライヤーのように吹きつけるゥ」

 つむじ風がほどけるように逆回りしはじめたかと思うと、フィールド全体に細かく霧散していく。

「げへっ、うぁ、ビリビリするぅうー」

 しゃべるなというノエルのジェスチャーに気付いたのは、一通り自分の身に何が起こったか実況した後だ。

 濃度は低いが、毒と麻痺の両方の効果を受けて、マリモは地面に倒れ伏していた。


「ほれほれどうしたぁ。『許さん』とか啖呵を切っておいて、ワシまだ一太刀もくらっとらんぞぃ。顔だけ良くてもこの世界は渡れんのだよ」

 スケルトンの煽りは、自他ともに美醜にこだわりの無いノエルの心を動かさない。

 毒と違って痺れに効くポーションはこの世界に無い。ただじっと、痺れの効果が抜けるのを待っていた。


 つまらんのぅとスケルトンはターゲットを変える。

「さっきの吸い込みで相棒は浮いたのに、お嬢ちゃんはピクリとも浮かんかったの、ワシ、見たからね」

「ちょ……」

 こちらからは手ごたえアリだ。

「武器が、重いから……だもん」

 ぐぐっと顔をあげて、戦斧を杖に立ち上がろうとしてくる。


 ノエルの武器の1つ1つは確かに軽い。しかし、マントの下に隠し持っている総重量となれば、マリモのバトルアックスと匹敵する。それを彼は「身に着けている」のだ。

「こう、腰からふわーっと浮いとった。相棒だけ」

「装備が違うもんっ!」

 軽鎧にサンダルのいでたちで、気合でマリモは仁王立ちする。どこからどう見ても、彼女のほうが軽装だった。

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