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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
終章 それぞれのゴール
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第75話 土のゾンビ再び

「えっ、待って今いいとこだから。何wave目? 13になったら呼んで?」

 四天王に用意されている個室で、土のゾンビはノエルとマリモの中継に釘付けになっていた。

 ゾンビドッグも、一緒になってワフワフしている。


 内線で管理者を呼び出したゾンビは、興奮さめやらぬ様子で話しかけた。

「ねぇ、管理者ぁ。これ、ヤバいよねぇ。ノエル本気になっちゃった感じじゃない?」

「……オゥ。スマンがこのまま40階に突っ込んでくる勢いだから、最終調整するわ。じゃあな」

 ブツッと切られた通話に、ゾンビは顔をしかめる。

「なぁにー、管理者ノリ悪くない?」

 ねぇ、と同意を求めた歩く屍が、落とされた首を45度まちがえてくっつけようとしていたので、正しい位置に回してあげる。


「管理者、ノエルにだいぶ思い入れてたじゃないですか。でも、最後の最後で敵認定されちゃった感じでしょ? あれはヘコみますって」

 したり顔のゾンビラットに言われて、なるほどねと土のゾンビも納得する。

「中間管理職って大変だよねぇ。ボクはずっと現場でいいやぁ」

 オヤブン、そろそろ出番ですと呼ばれて、土のゾンビはボスの間に転移した。




「最終waveだ、みんな、頑張ろう。ソフィア、オレの後ろでポーションを飲んで。時間を稼ぐっ!」

 勇者の声が、疲れきっていたメンバーの顔に希望を灯す。

「アタシも極力、進行を抑えるわ」

 若い魔法使いから飛ばされた火球は、思いのほか高火力で、隣のゾンビドッグがひといきで燃え上がる。


「だけど、まだまだ。【大地の恵み】だよ、再生能力アーップ」

 実はボク、四天王の中でヒーラー枠なんだよねぇ、癒し系なんだよねぇとゾンビがキラキラしていると、聞き覚えのあるイケボが響いた。

「薔薇よ」

「へぇっ!?」

「花弁を散らし、紅蓮となれ」

 足元を(はし)った炎に、再生も間に合わず、歩く屍が消し炭になる。


 勇者の盾の後ろから、黒髪をかきあげる美貌の青年が進み出る。

「くじけるな、行こう!」

 バッと手のひらを向けた姿も、完璧に美しい。火のヴァンパイアの姿がそこにあった。

「ヴァン! ありがとう。オレも続くよ」

「ソフィア、ヴァンの回復をお願いっ」

「えっと……ああん、もう、分かりましたっ!」


 いつの間にか「ダンジョン内だけでよく出会う、流れの冒険者ヴァン」が、同行することが増えて、今やオーガスト隊は迷宮内でだけ4人パーティー。

 幼馴染と姉の幻惑は全く解けず、ソフィアがどんなに説明を尽くしても、10階で討伐したヴァンパイアだとは認識しないらしい。

「癒しよ」

 パアッと優しい光に包まれて、ヴァンはうっとりを目を伏せた。


「いや、悪魔とアンデッドに、冒険者の回復呪文はダメージ判定でしょお?」

 土のゾンビからの真っ当なツッコミに、チッチッと形の良い爪を振る。

「愛がダメージになるはずがないだろう? ありがとう、僕のソフィア」

 ヴァンパイアが後ろから少女の頬に唇を寄せると、回復術師は心底迷惑そうな顔で、青年の端正な顔を押し上げた。

「戦闘の邪魔に、なりますからっ!」

「ああんもう、つれないのも可愛いなぁ」


 呆然としている土のゾンビのワイヤレスイヤホンから、通信が入る。

「あー、ゾンビ。聞こえっか?」

「管理者! よかったぁ、致命的なバグが発生してるっぽいんだよ。何でかヴァンパイアが20階に来ちゃっててさぁ……」

 そうそう、と返事があって、すでにこの事態は管理者の知るところだと分かったゾンビは胸をなでおろす。


「冒険者同士のダメージはオフにしてあるんだけど、モンスター同士はしてねんだわ。「現場」頑張ってな」

「え? は? はあああっ?」

 ゾンビの絶叫の途中で、今度も容赦なく通信は切れる。

 気づけばラッシュ要員は全滅し、癒し系ゾンビのみが部屋に取り残されている。

 火炎に包まれながら、そうか、現場も楽じゃないんだなぁと、四天王はまた1つ賢くなった。

 

 


 20階より地下深く深く、40階のセーフポイントで最後の支度を整えるノエルに、マリモが言い(つの)っている。

「ノエルが聞いたほどは、考えてないから。何なら普段は全然、考えてないから。多分聞いたこと、私の本心と違うから」

「ふむ」

 あまり真剣に聞いているようには見えないリーダーに、ムッとマリモの頬がふくらむ。

「やっぱりズルいのはノエルだよ。闇のノエルなんて、何も言わないし、すごいショボかったんだから。秒殺だったよ」

 ショボ……と少しショックを受けた顔をした後で、またノエルはマントの内側にクナイを仕込む。


「俺は魔物の言葉より、仲間の言葉を信じる。マリモがあれは違うというのなら、違うんだろう」

 こういう時、ノエルという男は非常にやりにくい。

 上手く甘くいい感じの事を言って「いーまからそいつを、殴りにいこうかー」で、ヤーヤーヤーとならないのだ。


「……ダンジョンにいる間が、楽しいのは本当」

 黙ったままの相棒に、結局マリモは、自分の口で本音を吐き出さざるを得ない。

「壊れない武器を出してもらって、こんなにのびのび戦ったのは初めてだから。もうすぐ終わっちゃうのかなって、寂しかったのも……本当」


 床を蹴っていたマリモが顔を上げると、今度はちゃんと青い瞳がこちらを見ていた。

「でも、最後までたどり着きたいのも、本当だから……」

 言葉にしてみたら、知られたくないと思った気持ちより、分かってほしい想いのほうがずっと強かった。

 

 うむ、といつも通りノエルは無表情にうなずいて、立ち上がる。

「なら、行くか」

 見つめる先に、風のスケルトンの間への扉。開ける資格は、仲間の闇を打ち払ったこの手にある。

「うん……行こうっ!」

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