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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
終章 それぞれのゴール
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第73話 心の闇(1)

 王の祝日が明けるなり、管理者室へ飛び込んできたノエルは、スカルドラゴン戦の戦利品をウキウキと選別しはじめる。

 そして、カラドエウリアを抜くと、しばらくその刀身に見惚れて動かなかった。やっぱ「分かる」かぁと管理者は嬉しそうにほくそ笑む。

 腰に()くには長く、マントの中に背負っていては抜刀できない。

 それでも諦めきれなかったのだろう、珍しいことにノエルはマントの外に武器を出して装備した。


「おっ、なんだか印象が違うね」

「本当は外に出したくないが、止むを得ん」

 背負った剣の鞘を固定するために、胸の前でベルトを調整しているノエルに管理者も声をかける。

「基本、アサシンスタイルだもんな。武器が見えてちゃ、やりにくいんじゃないか?」

 その言葉には、不思議そうに首を傾げる。

「いや? 外に出さないのは、武器が傷つかないようにだ」

「まさかの保護目的かよっ!」

 ビシイっと、久々に鮮やかなツッコミをいただいて、ローグは再び31階からの探索を開始した。


 しかし、このペア本当にそろって勘がいい。

 ノエルの気配を察知する能力もなかなかだが、マリモが「なんかイヤ」と避ける危機察知能力も桁外れ。

 どんなに複雑に部屋を繋げても、ワープで飛ばしても、スイスイと正しいルートを選んでしまう。

 1度戦ったモンスターは、回数を重ねるごとに討伐時間が短くなり、スカルバットなどノエルに見つかった瞬間に矢で撃ち落とされて終わり。

 あとは、ゆうゆうとトラップの火をくぐって奥へと進む。


 地下39階、最後の仕掛け部屋は、壁に5つの扉が並んでいるだけのシンプルな造りだ。

 いつもの説明文を、マリモが音読する。声は管理者に似せているつもりらしい。

「ここまでの激戦を越えてよくたどり着いたな。仲間あってのことだよな。だが、この先に待ち構えているのは、その……仲間だ」

 えっ、とマリモは声を詰まらせる。

「1人ずつドアをくぐり、仲間の闇の心を打ち砕け。この苦難を超えた者にだけ、40階の主の間への扉は、ひらかれる」

 

「私がノエルと、戦うってこと?」

「正確には、俺のダークな部分を模倣する魔物と戦って、勝てということだろうな」

 リーダーの冷静な分析に、マリモはめずらしく強く戸惑っているように見える。


「おや、マリモの様子が……って、ふざけてる場合じゃねぇか」

 画面を見ていた管理者は、ポリポリと骨の鼻先をかいた。

 この先に待ち受けるのは、ドッペルゲンガーという魔物で、他の生物をコピーする能力を持っている。

 しかも、その複製は闇の側面を強く引き出し、今まで見せなかった醜悪な一面をさらすことがある。


 ドッペルゲンガーは、スケルトンが用意したモンスターで、闘気の収集率が非常に良かった。自分の力が自分と拮抗(きっこう)するのは当たり前だからだ。

「でもオイラ、この仕掛け好きじゃないのよね」

 自分の闇と戦うなんてイベントは、ゲームの中でやるからいいのであって、リアルにやると心を壊す。

 雪山遭難マップにも文句を言わなかったカシュバルが、唯一苦言を(てい)した仕掛けでもあった。

 

 しかし、この階層を支配する風のスケルトンが、子育て政策に非常に積極的だったこともあり「一番闘気が集まるのに、やめる理由がわからん」と、ゲンガーの撤廃は通らなかった。

 そういう容赦のないところは、四天王の中でも最強だと思う。

 

 そこからなんとか交渉を重ねて「自分、対、自分」だったのを、「自分、対、仲間」に変更したのは管理者だ。

 これはこれで、せっかくここまでに育んだ友情を壊すのだが、他人の闇は「モンスターがやったこと、私の本音じゃない」で案外許される。

 攻撃手段をほとんど持たない回復術師が戦士と当たったらどうするんだ、などと議題に上がったりもしたが、けっこうえげつない方法で、さっさと部屋を出てくるのは、回復職に多かったりするのだ。

 

「しかし、ノエルとマリモかぁ」

 戦わせたらどちらが勝つのかというのは、興味が無いわけではないが、なんとなく2人が争うところは見たくないような気もする。

「アイツらには、心の闇なんて無さそうだけどなぁ……」

 データを表示して「生い立ち」の部分にざっと目を通した管理者は、マリモの愛され成長記録にウンウンと目を細めた後で、ノエルの欄に書かれている「奴隷・襲撃・惨殺」というやたら画数の多い文字に息を呑む。

「コイツ、極限状態からの生存者(サバイバー)か……これは、ヤベェかも」




「速……っ」

 すれ違いざまの斬撃を、バトルアックスでギリギリ受ける。想像通り、対峙したノエルはおそろしく俊敏だった。

 少し猫背に構えて、マントの中に手を入れて突っ込んでくる。今度は下段からの一撃。

 でも、だんだんマリモの目が慣れてきて、次はどこから打ち込んでくるか、予測がつくようになってきた。

「なんか、すごい、単純……!」

 単純だが、やはり速い。テコの原理で力をかけられた手から、バトルアックスがはじかれて床を転がった。


 一度とびすさったノエルは、落ちている武器に目もくれず、再び構えて、またまっすぐに突っ込んでくる。

「こんなの……ノエルじゃないや」

 闇のノエルは、何も言わない。ただ愚直に目の前の障害を打ち払おうと、突進してくるだけ。

 

 彼のトリッキーな動きは、敵の弱点を見破る目は、武器を欲しがる心は、光だった。

 生きたいと願った強い心が、ノエルの強さの芯なのだ。

 だから、闇のノエルなどマリモの敵では無い。拾い上げた戦斧が、青年の影を真っ二つに切り裂く。



 

 背後に5つの扉が並ぶ小部屋の前で、マリモはじっと立ち尽くす。

 正面には40階へ降りる階段が見えるのに、まだ、ノエルは出てこない。


「お願い……私の言葉を、聞かないで」 

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