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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
終章 それぞれのゴール
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第72話 ラストダンジョン(3)

 ノエルとマリモが目を開けると、夜勤のクズ石拾いの子どもが駆け寄ってきた。

「うわ、ノエルがダンジョンから出されるなんて珍しい」

「全ロストー、全ロストー」

 手を叩いて(はや)す子どもに目くじらを立てるようなノエルではない。……ロストせずに済んだからではあるが。

 

「馬小屋泊まりでいいから、ご飯だけは食べようよ、ご飯も無理ならお酒だけは飲もうよ」

 いまいち優先順位が不純なマリモと、酒場へ寄るかでしばらくモメる。

「分かった、コレクションから1本売ろう」

 しぶしぶ宿の武器庫を開けるノエルに、やっぱり「使う用」と「コレクション」を分けて考えているなとマリモは腕組みした。中を覗くと、まだ人が寝られるほどのスペースは無い。


 武器屋に持ち込んだ薙刀(なぎなた)に、意外な高値がついたので、ホクホクと奥へひっこめようとした主人とノエルが、しばらくカウンターで綱引き状態になる。

「売って……くださるのでは?」

「売値が知りたかっただけだ……」

「あらら、冒険者と町人じゃ分が悪いから、私もおじさんに加勢しちゃおうかな」

 ひょいと伸ばされた褐色の腕に、ノエルは慌てて手を離す。勝てないどころか、マリモに握られたら石突の装飾が砕ける。

 



 ゴンゴルノに1つしかない酒場は、今日も盛況だ。明日はダンジョンに入れないと決まっているので、すでにかなり出来上がっている冒険者も多い。

「待ってね、席の空きがあるかな……?」

 酒場の娘が、困ったように店内を見回していると、奥のテーブルでこちらに手を振る者がいる。

「ノエル!」

「マリモさーん」

 3人の少年少女たちに、満面の笑みで呼ばれて「やっほー」とマリモが応える。


 さっそく空いている席に座ったマリモに対して、ノエルはテーブルの横に立ったままだった。

 うつむき加減の青い瞳をのぞき込んで、メイは半眼で口を開く。

「あー、またヴァンパイアに負けたのかー、かわいそうに、何て言葉をかけたらいいんだ……って思ってるでしょ!」

「む……思って、ない」

 図星を突かれたローグは、一応否定してみる。

「無表情も、見慣れると案外分かりやすいものですね」

 マリモの皿に料理をとりわけていたソフィアにまで言われる。


「ふふ、ノエル! オレたち火のヴァンパイアを倒して、史上最年少記録を塗り替えたよ」

 他のテーブルから椅子を借りて来てくれたオーガストが、誇らしそうに告げると、ノエルは目を見開いた。

「そうか……よく、やったな」

 青年の一本調子の声に、メイがもっと褒めてよと文句を言う。

 マリモだけが「あっ、ノエル泣きそう、泣け、泣いちゃえ!」と心の中で楽しんでいた。


「しかし、またゴンゴルノに戻ってきたということは……」

 再びサッと顔を曇らせたノエルに、今度はソフィアが頬をふくらませる。

「お金に困ったんじゃありませんよ。お世話になったゴンゴルノのギルドと、ガザたちへの報告に戻ったんです。明日の劇の寄付金は、もう納めてきました」

「11階からの探索も、モンスターが強くて大変だけどなんとか頑張ってる。今日は、このまえのお昼のお礼にオレたちにおごらせてよ!」

  

 この豪華料理をオゴる? 王都にいるわけでも無いのに、寄付金を納めた……だと?

 ハクハクしている相棒の肩を、そっとマリモが抑える。

「ノエル、やめよう。これ以上先輩の尊厳を失わないで」 

 

 ありがたく後輩たちの奢りで夕食をいただき、マリモの采配で「私たちこっちだからー」と、比較的高級な宿の前で別れた。

 仲良く並んで歩く3人の姿が見えなくなると同時に、扉を開けながら店の主人に注文する。

「すいませーん、馬小屋2人。床乾きめ、藁マシマシで!」

 さすが金欠ローグのパーティーメンバー筆頭。リーダーのメンツを守り、馬小屋泊まりにもこだわりが光っていた。




「ちょっと、女性メンバーに馬小屋泊まりは無いわよ。アタシあれだけはホントに嫌だったんだからね」

 ゴンゴルノはそんなに狭い町では無い、しかし酒場で遅くまで呑んだ冒険者は、だいたい屋台で軽い朝食を済ませるものだ。

 案の定ノエルたちは屋台街で、髪から藁を生やした状態でオーガスト隊とエンカウントし、メイに怒られている。


「マリモさん、どうぞ(くし)を使って下さい。顔を拭くものも持ってきましょうか?」

 世話を焼くソフィアに、マリモは元気に返事をする。

「顔は、お馬さんの飲み水借りて洗ったから大丈夫!」

 ヒッと顔をひきつらせた回復術師に、櫛を返す。なるほど、このくらいタフでなければ、ノエルの相棒は務まらない。


 そのままの流れで、消耗品の購入に向かった一行は、途中で武器屋のオヤジにつかまった。

「このショートソード、見て下さい。鞘の調整が完璧でしょう」

「……これなら走っても音がしないな、買おう」

「地属性付与の大鎌もどうです? 激レアですよ」

「握りに巻かれた革のグリップが完璧だ、これなら全力で振れる。買おう」

 昨日売った薙刀の残金を、せっかく馬小屋で節約したというのに、気前よくノエルは支払ってしまう。

 

 えっ、あれっ、と勇者と姉妹は顔を見合わせる。

「これって、一番最初にノエルが売った……」

「あー、やっぱり?」

 町で勧められる品が、やたらとノエル仕様にされていることに気付いていたマリモも苦笑いする。

「売った金額より、買い戻す金額が高ければ、そりゃ万年、金欠だよねぇ」 

 恐るべきひとりマッチポンプは、ゴンゴルノの武器屋だけを確実に富ませていた。

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