第71話 ラストダンジョン(2)
地下37階。デュラハン2体をなんとか倒して、ドロップ品を回収し、そろそろ帰還しなくてはと部屋を出ようとした。
直後、足元の魔法陣が再び明滅しはじめる。
さきほどまで自重を倍に感じさせる効果で、バトル難易度を爆上げしてくれていたトラップが、別の色に光っている。体が引っ張られるような力を感じて、転移の罠だと分かった。
「2度目は……卑怯だ」
ノエルの恨み節に、管理者室では嬉しそうな声が上がる。
転移先の部屋に扉は無い。代わりに同じ魔法陣が床一面に描かれていた。
勝つか死ぬまで、退路は無いぜぇと小憎らしい声が聞こえてくるようだ。
「また体が重くなる罠? それに、コイツ……でっかいねぇ……」
正面にある骨の塊が、見る間にガラガラと寄せ集まって、天井に頭が付きそうな巨体に組み上がっていく。
二足で立ち上がった背には骨の翼。深い眼窩に真っ赤な光が灯り、おぞましい咆哮が響く。
「これが、スカルドラゴンか」
まずいな、とノエルは小さくつぶやいた。
マリモの猛攻が続く。開戦から前に陣取ったまま、一歩も引かずに打ち合い続けている。
「10分を切った」
懐中時計をポケットに押し込みながら、ノエルは次の矢をつがえて放つ。
相棒が振ったバトルアックスの軌跡を読んで、それを受けたスカルドラゴンの姿勢が崩れるのを読んで、骨の隙間から見える核へ矢が吸い込まれていく。
「ヒュゴアァ!」
鳴き声ではない、骨の隙間をきしるような音と共に、闇の炎が吐き出される。
一気に上昇する部屋の温度に、ノエルは顔をしかめた。
炎が収まるまで待つ時間が無い。
王の祝日まで、あと7分。このままではダンジョン前に放り出されて、拾った武器を、全ロストする!
「炎、どうにかするっ!」
戦斧を掲げてマリモが叫ぶ。どうやってと聞く代わりに、ノエルは棍を握りしめて跳躍した。
どうにかできなければ、もろとも丸コゲ。だが、この褐色の相棒は、できないことを「できる」とは言わない。
ヒュオ、とノエルの背中が風を感じ、「なるほど」とつぶやいて空中で姿勢を整えた。
巨大なバトルアックスを、バトントワリングよろしくグルグルと回すマリモの前で風が起きて、闇の炎は吐き出したスカルドラゴンに戻って行くように見える。
自分で吐いたくせに、ドラゴンは熱から逃げるように天を仰いだ。そこで目が合うは、銀髪のローグ。
邪魔な鼻先が無くなって、頭上から核までがガラ空きになる。全体重を乗せた棍は、鎖骨を砕きながら、核を貫いた。
「箱開ける!」
ドロップした宝箱の中身を根こそぎマリモが抱えあげる。
「扉開ける!」
魔法陣が起動するの待たずに、ノエルが管理者室の扉を開くと、見事な連携プレーで荷物は部屋に滑り込んだ。
「後で片付けるから、そのままにしておいてくれっ!」
バンと扉を閉じると、視界がブレる。今度の引っ張られるような力は、冒険者を迷宮の外へ放り出す力だ。
やりきった満足感で、ノエルとマリモは強制排出を甘んじて受けた。
ガチャッ、ザザー、バターンと、ならず者たちの嵐が去って、管理者は深くため息をつく。
「後で片付けるからって、オイラはカーチャンかよ。つーか、この使い方は卑怯だろ」
いやまぁ、魔法陣の2度使いもズルだったから、あいこだろうか?
一応マリモが気をつかって置いたであろうドロップ品の山を見ると、目を引く剣の柄があった。
「おぉ、こりゃ懐かしいなぁ……。そういや気に入って、レプリカ作って宝箱に入れたんだった」
管理者が手にしたのは、一見ありふれた、細身のロングソードだ。
柄も刀身もただの鋼鉄製だが、抜けばその繊細かつ計算されつくした極上の薄刃が、カタナに近い仕上げになっているのが分かる。
はるか昔、魔界と戦ったココでもニホンでも無い世界の鍛冶師が、息子のために打った剣だ。
名匠というわけでも無かったのに、戦地へ赴く息子を守ってくれるように、負けないようにと一心に願って作られた剣は、奇跡の名刀となった。
銘をカラドエウリアという。
実際、魔王城までの死闘では息子の命を守り、最終局面では手柄に逸った上官に「おまえにはもったいない」と取り上げられてしまった。
隊は全滅したが、武器を失った息子は故郷に帰されて、生き残ったのだ。父の願いは、息子を護ったのである。




