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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
終章 それぞれのゴール
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第69話 再会と悲願(3)

 ドロップした金箱から(ともしび)の鍵を受け取り、3人は手前のセーフポイントに戻って、肩を抱き合って泣いていた。

「やった……ついに……勝ったね」

 オーガストは、涙をぬぐって真剣な顔で姉妹を見つめる。

「ノエルを追放するなんて、バカなことして。全滅して、迷走して。それなのに、こんなオレをリーダーだって言ってついてきてくれて、ありがとう」

 当たり前じゃない、とメイの声が震えた。


 あぁ、今だ。ソフィアはその瞬間を、奥歯を食いしばって受け止める。

「好きよ、オーガスト。オースが好きだから、一緒に戦いたかったの」

 メイの告白に、少年はややあってからカッと頬を染めた。

「あり……あり、ありがとう」

 アリアリアリって何よ、とメイは笑い、トンとソフィアの肩を押す。あなたの番よ、というサインだ。


 この空気なら、うやむやにできそう?

 それとも2人を祝福する方が、賢い選択?


『伝えないと苦しくて心が死んじゃいそうなの』と言った姉の姿。

『だって、それだって、全部愛だよ』と力強く笑ったマリモの顔。 

 ぐるぐる回る頭の中で、歪んだ愛が暴れまわる。

 ねぇ、教えてと、ソフィアが思い浮かべたのは、ヴァンパイアの赤い瞳だった。


『誰かを愛するって、気味が悪いことなの?』


「ソフィア……大丈夫?」

 急に押し黙ってしまった回復術師を案じて、オーガストは声をかける。

「オース……、私、あなたが羨ましい」

 こぼれたのは、腹の底からの羨望。


「姉さま、私だって、姉さまが好きです。ずっとお慕いしています」

 2人から注がれるのは、困惑したまなざし。そうだろう、意味が分からなくて戸惑うばかりだろう。

 だけど私が、妹でなければ、女でなければ、オーガストのように男の子だったなら。こんな顔はしなかっただろうに。


 先に口をひらいたのは、意外なことにオーガストだった。これで、あらゆることに合点がいったのだ。

「……ソフィアに比べたら、ずっと日が浅いけど、オレもメイが好きだ」

 分かってる、とソフィアは乱暴に目じりをぬぐう。

「だから、ごめん。お姉さんをオレに下さい」

 喉を鳴らして、嗚咽をかみころした。

「大事にしてくれなきゃ……承知しませんから」

 

 そして、きっと一番「わかっていない」愛しい人へ向き直る。

「くやしいですが、オースなら姉さまを任せられそうです」

「もう……バカね。いつまでもお姉ちゃんっ子なんだから。びっくりしたじゃない」

 伝えた想いが、ちゃんと受け止められなくても、胸にしまったまま腐っていくより良かった。

 優しい2人が、拒絶しないでいてくれて、良かった。

 

「何しんみりしてるの? これから土のゾンビの階へ行くのよ!」

 ひとまずラダトキアに出てギルドに報告しなきゃと、メイが立ち上がりかけた時、ノックの音がして3人は身構えた。

「だ……誰だっ?」

 盾を構えたオーガストの後ろに寄り添って、姉妹は息をひそめる。安息の部屋(セーフポイント)は絶対安全ではなかったのか。


「やぁ、おじゃまするね。僕、冒険者なんだけど、道に迷っちゃったみたいで」

 部屋に入ってきた黒髪の麗しい青年に、ソフィアを息を呑む。

「なんだ、お困りでしたらどうぞ。一緒に休んで行って下さい」

「温かいスープを作りましょうか?」

 警戒を解いて、迷い人の世話を焼き始めるメンバーに、ソフィアは目を白黒させる。青年は軽やかに歩いてきて、回復術師の隣に座った。


「あなた、火のヴァ……」

 しっ、といたずらっ子のように笑いながら、少女の唇に押し当ててきた指先は冷たい。

「どうしても、きみたちが気になっちゃって。ダンジョンにいる時だけ会いにいけるようにしてもらっちゃった。今日から僕も、はぐれ冒険者だよ」

 どういうわけか、オーガストとメイは全く気付いていない。弱い幻惑が働いているのだ。


「お姉さんに気持ちを伝えられたんだ。良かったね」

 美しい微笑を浮かべながら、内緒話をされると、なんだかとても落ち着かない気持ちになる。

「誰かを愛するってどんな感じがするのか、これから僕にも教えてね」

 甘い声音に、思わずソフィアは自分の耳に触れる。魅了防止のイヤリングは、ちゃんと両耳で揺れているのに、どうして。


 管理者室では、骨の面が興奮した様子で「これは、ワンチャン……」とつぶやきながら、『人外、少女、溺愛』のタグで検索した小説を片っ端から読み始めていた。

 



 

 はじめてラダトキアのギルドを訪れた一行は、その規模に圧倒されて固まっていた。

「10階層、最年少記録更新。オーガスト隊でーす」

 受付嬢がガランガランとハンドベルを鳴らして知らせてくれたので、その場にいた冒険者たちから割れんばかりの拍手をもらう。

「そういえば。それも目標だったね」

 照れ笑いするオーガストに、晴れやかな顔で拍手に応えるメイ、ヴァンパイアの色香に当てられて、まだクラクラしているソフィアが並ぶ。

 

 一通りの説明をうけた3人は、城下へ出ると完全なおのぼりさんになった。

 ずっと上を見ながら、口をあけて歩いている。

 憧れのお菓子屋さんは、何件も軒を連ねていて、どの店に入ったらいいかすら迷う。

 酒場、宿、武器屋、全ての物価が高いねと顔を見合わせた時、30階のボスを倒したノエルと、何故ゴンゴルノで再会したのかが分かった。


「さすがオレたちのお師匠様」

「金欠ローグ」

「ですわね」

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