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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
4章 凍てつく迷宮
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第67話 再会と悲願(1)

「あのね、ソフィア。アタシ、火のヴァンパイアに勝てたらオーガストに好きだって言おうと思うの」

 ソフィアの手からマジックポーションの小瓶が落ちて、床で砕けた。

「やだ! ちょっと、大丈夫?」

 すぐにソフィアを後ろへ下がらせて、メイが破片を拾い集める。

「……ご、ごめんなさい。私が拾いますから」

 我に返ってしゃがみ込んだ妹の手を、姉はぐっとつかんで留めた。


「いいの、アタシがずるいって、分かってるから」

 うつむいたままそう言ったメイの声に、黄緑色の瞳が丸く見開かれる。

「ソフィアも、オーガストが……好きだよね」

 深い失望は、姉が顔を上げるまでに、必死で飲み込んだ。

 

 オーガスト隊が、ヴァンパイアに敗北することすでに7回。

 しかし1回ごとに、確実に成長していることを感じられたから、もうやめようとは誰も言い出さなかった。

 そして前回の全滅は、非常に惜しかった。最後の一太刀を、当てられさえすればというところまで追いつめて、その一刀が届かなかった。

 次は、勝てる。それが3人の中で強く現実味を帯びている。

 明日こそ、ゴンゴルノから出発する最後の日になるだろう。そんな夜の、できごとだった。

 

「オースは多分、ソフィアが好きだと思う。もう、ずっと昔から」

 メイは静かに話し続ける。

「気持ちを伝えても、たぶんアタシはフられる。それでも、伝えたいの。伝えないと苦しくて心が死んじゃいそうなの……ごめんね、ソフィア」

 姉さまらしい、とソフィアの胸に愛しさがこみ上げる。

「いいですよ、姉さまがずるいと言うなら、私も告白しますから」

 今度はメイの目が見開かれた。そして、長い迷いの後で「うん、そうしよう。10階を超えて、一緒に想いを伝えよう」と返事がある。

 

 これでいい。オーガストの返答次第で、どんな風にも立ち回れる。

 私はずっと、この想いを抱えて、姉さまのそばにいられる。

 

 


 出発の朝、クズ石捨て場でオーガストとガザは強く手を握りあっていた。

「今度こそ、火のヴァンパイアを倒してくる」

 マメだらけの固い手のひらを、ガザは全力で握り返す。

「あんまし意気込むな、何回でも施療院まで運んでやるからよ」

「うん、ありがとう。その時はよろしく」


 ザッ、ときびすを返して、ダンジョン入り口のドアに手をかけたオーガストは、首を傾げた。

「あれ……? 開かない」

「ああ、多分、中から誰か戻ってきてるんだ。ちょっと離れて待っててやれよ」

 ガザのアドバイスに、オーガストが手を離したのと、迷宮から戻った人物が扉を開けたのは同時。


 キラリと輝いた銀の髪に、その場の誰もが一斉に声を上げた。

「ノエル!」

 コミュ障ローグは、ビクッとして、一度開けた扉を閉めようとする。

「ちょっと、何で戻ろうとするのよ!」

 メイが扉を引っ張ると、後ろからもノエルは押し出されるところだった。

「ほら出て出て。わぉ、こんなにたくさん待ってた。みなさーん、こーんにちはー」

 褐色の肌の女性は、巨大なバトルアックスを携えてノエルの横に立つ。クズ石拾いのこどもたちが元気に「こんにちはー」と返した。


「……オーガスト。久しいな」

 ぐるりとメンツを見渡したノエルは、キラキラした目で自分を見ている少年が、ずいぶん背が高くなったことに口元をほころばせた。

「久しぶり! 今からダンジョンに潜るところだったんだけど……」

 後衛の二人を振り返ると、メイは嬉しそうにウインクし、ソフィアも杖を抱いてニッコリうなずく。

「もう2日あれば10階までは余裕だもの、少しくらいいいじゃない」

「一緒にお昼を食べませんか?」


 姉妹に両手をとられて、引っ張られるノエルを、マリモは「ほえー」と見つめる。

 リーダーは子どもに懐かれるタイプではなさそうなのに、意外だ。

「オレたち、ノエルに育ててもらった冒険者なんだ。お姉さんも一緒に行きましょう」

 オーガストもマリモをエスコートして歩き出そうとした時、「待て」とローグは足を止めた。

「……昼メシを食う金が無い」

 その場の全員が、笑顔で声を揃えた。

「知ってるよ」




「えっ、じゃあ2人(ペア)で水のワーウルフを討伐したってこと?」

「そうだよー」

 軽く返事をしたマリモに、オーガストがどうやってと尋ねる。

「えっと……ワーッと打ち合って、私はスポーンと脱いでね、ノエルがトウッってジャンプして、最後がトドメって感じだったよ」

 全く攻略の参考にならない。しかもその軽鎧を、それ以上どこを脱いだのだろうかと、純情な勇者は顔を赤くする。 


「女戦士が、ノエルとパーティーを組んでるなんてすごいと思ってたけど、なんだかすごく納得よ」

「回復術師も居ないのに……なんて心配が消し飛びました」

 姉妹から向けられる視線は、尊敬しているのか、あきれているのか、判断がつきかねる。

 

「おまえたちはどうだ? 連携はうまく行くようになったか」

 尋ねたノエルが珍しく先輩ヅラしているのを、貴重なものを見た気分でマリモが眺める。

「うん、連携は完璧だと思う。今日は、火のヴァンパイアに8回目のリベンジに行くところなんだ」

 隠さずに敗北を伝えてきた少年は、もうノエルより肩回りがガッシリしているかもしれない。

 負けるたびに死の恐怖を超えて、その度に己を鍛え、作戦を練って、迷宮に挑んできたのだろう。


「ノエル、何かアドバイスをくれない?」

 真剣なメイのまなざしに、ノエルはゆっくりと首を横に振った。

「今さら付け焼き刃など必要無い。自分たちのやってきたことを信じて、全力でぶつかれ」

「はいっ!」

 姿勢を正した3人の返事に、マリモも眩しいものを見たように目を細めた。

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