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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
4章 凍てつく迷宮
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第60話 紅蓮に揺れる心(1)

 2度目の全滅から目覚めたオーガストは、自分より先にソフィアがベッドに身を起こしていたことに気付いて驚いた。

「ソフィア……大丈夫?」

「ええ。でも、また姉さまを死なせてしまいました」

 まだ眠ったままの姉を見つめる瞳に、おびえの色は無い。最初の全滅でメイが見せたのと同じような、くやしさだけがにじんでいた。


 施療院の支払いを済ませ、クズ石拾いの子どもたちには、復帰の挨拶がてらお菓子を差し入れる。

 そして、体が完全に回復するまで、さらに2日間宿で休養につとめた。宿のおかみはここぞとばかりに張り切って、栄養価の高い料理を出してくれる。

 予備費としてギルドに預けてあったお金で、十分にそれらを賄って、再チャレンジの体制はすぐに整った。


 3人は、オーガストの部屋でベッドに腰かけて対策会議をしていた。

「まずは、前回魅了されて役立たずになっちゃったこと、ごめん」

 メイが謝るが、魅了防止対策を怠った、パーティー全体の責任だとオーガストがフォローする。

 女性必中の魅了に、ソフィアがかからなかったというところまでは気づいていない。

「今度は忘れずに、最後のセーフポイントで魅了防止のアクセサリをつけかえよう」


 あのブラブラ揺れるハートのイヤリングは、見た目が恥ずかしいので必ず外してから町に出ていたのだが、今回は全滅したのでそのままの格好で入り口に出てきてしまった。

「2コつければ100パーセント魅了防止になるから、3つもつけてるヤツは初めて見たってガザに笑われちゃった」

 現在3つ所持しているので、メイとソフィアにつけさせるなら、あともう1つ欲しいところだ。

 

 話は、ヴァンパイア戦の内容に移り変わる。

「ミラーシールドでできた隙に、ヴァンパイアの体力を削り切れなかったのが敗因だと思う」

 オーガストの分析に、そうね、とメイはうなずく。

「アイツが動き出すギリギリまで、詠唱が止まらないように頑張るわ」

「オレも、後半息が上がって攻撃の手が緩んだ。体力もつけなきゃいけない」

 まずは火力不足の解消が課題と見て、明日から浅層で体を慣らし、アクセサリの取得を目指そうということで話が決まった。


 打ち合わせを終えた後も、オーガストとメイはいかにして手数と威力を高めるかで盛り上がっている。

「……あの、私は回復で精いっぱいでしたが、攻撃に回った方がいいでしょうか」

 ヴァンパイアの硬直時間にマジックポーションを飲み、動き出した後の攻撃に身構えていたソフィアは、前回全くダメージには貢献していない。


「いや、ソフィアは……」

「ううん、ソフィアは……」

 勇者と魔法使いは、同時に同じような事を言おうとしたらしい。ぴったり息が合ってしまった事に、少し恥ずかしそうに顔を見合わせて笑った。

 メイが譲ったので、オーガストが改めて言い直す。

「ソフィアは回復に専念してくれた方がいい。攻撃はオレたちでやるよ」

「そう……」

 ゆらりと潤んだ黄緑色の瞳を、ソフィアはすぐに伏せて立ち上がった。

「明日も早いですし、私、先に休みますね」


「ソフィア?」

 小走りにドアノブをつかんだ妹を、メイは驚いて呼び止める。

「……おやすみなさい」

 しかし、姉の声に振り返る事も無く、ソフィアは部屋を出ていってしまった。


「もしかして、ソフィアの事をのけ者にしたみたいな言い方に聞こえたかな」

 バタン、と向かいの部屋の扉が閉まった音が聞こえてから、オーガストは不安そうに眉を寄せる。

「役割の話じゃない。あの子だって自分が回復に専念しなきゃ勝てない相手だってことくらい分かってるはずだわ」

 キツめに言い放った後で、でも、とメイはすぐに語気を弱める。

「ソフィアのおかげで、あんなに戦えたんだって、部屋に戻ったら言っておく」

 ドアを見つめたまま心配そうなメイの横顔に、オーガストはあまり考えずに口を開いた。

 

「ありがとう。メイは、優しいね」

 髪をひるがえしてこちらを向いたメイは、めいっぱい吊り目を見開いていて、迫力がある。

「なっ、なによ、急に。そんっ、そんなこと、今まで言ったことないじゃない」

 言いながら、カーッと茹で上がるようにメイが赤くなっていく。

「無かったっけ? いや、最近、よ、よく思ってるよ」

 つられてオーガストも、しどろもどろになりながら赤面する。

 

「ふ、ふーん。最近よく、アタシのこと優しいなって、思ってるんだ」

 あっ、これは「生意気」と、鼻で笑われる流れだ!

 身構えたオーガストの前で、魔法使いは自分の襟元をギュッとつかんで、目を逸らしながらつぶやいた。

「……嬉しい」

 メイの仕草に、少年の心臓が急にドキドキと騒ぎ出す。


「って言ってもすごく最近のことで、元はメイのキツい言い方がすごく苦手だったし。今でも、結構ヘコむ時あるし」

 台無しにするようなオーガストの言葉にも、メイは「何よ……」と少しうらめしげな視線をおくってきただけだった。

「フン、まあいいわ。そろそろ素振りの時間でしょ。もう寝てあげるわね」

「えぇっ? 気づいてたの?」

 姉妹が寝た後の、庭での練習がバレていたことに、オーガストはもう一度顔を赤くした。

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