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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
4章 凍てつく迷宮
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第59話 雪中行軍(3)

 暗くなってきた外を確認して、夜時間のスキップがてら、防寒具が乾くまで仮眠を取ることを決める。

 起きたら、栄養のある食事をとって再出発の予定。以上、解散、就寝。


「ええぇぇ……。そんでホントに爆睡しちゃう感じかよー」

 管理者室では、雪吹雪(ふぶ)くロッジへの妄想に憧れるようなノリの良い曲がかかっているのに、モニターの向こうは完全就寝モードだ。

 暖炉直近のコゲそうな場所で丸まって眠るノエルと、暑いと言いながら少しずつ戸口近くまで転がっていったマリモは、スヤスヤと眠っていた。

「吹雪の山小屋って、男女ペアで入ったら成就率100パーセントじゃねぇのかよ」

 さてはノエルは流行りの草食男子かと、ブツクサ言いながらお菓子をかじる。


 それにしても、この階層は想定通りの良い出来だ。

 これまで魔界産の武器防具に頼ってきた冒険者たちは、それを手放すことで自分の実力を知り、足りない分を補いはじめる。

 そして命の危険が迫っている人間から発される闘気は、濃度が高い。高位の魔物と共振できる闘気球は、ほとんど21階層以降のものだ。

 冒険者たちのステータスを平均化したグラフを眺めれば、この10年で一様に上昇傾向なのが分かる。

 カシュバル王のもくろみ通り、ダンジョンに潜ることでこの大陸の戦力は強化されていた。


「でも、まだまだなんだよなぁ……」


 ランベアード大陸は、魔法の概念を持つ世界だが、魔術の研究が進んでいなかった。

 小さな火の玉から、中くらいの火の玉、そして地を這う火炎へという進化のプロセスを持っていない。

 回復術師も同様で、傷を癒す効果がパーティー全体に広がったりはしないし、蘇生ができるようにもならない。

 その分、たった1つの持ち魔法を、高速で連発できるようになるという成長の仕方をするが、やはり火力不足は否めないのだ。

 

 剣士の方も、魔力で自分の体や、武器を強化するという術を知らない。魔法職以外は、魔力を持っていないと思っているフシさえある。

 この超低温マップがヒントになればと眺めているが、この10年、延々とむき出しの武器で突っ込んできては、ポキポキと刃を折って嘆いていた。

「逆に生身でこんだけタフに戦えるってのは、すごいのかもしれんけどさ」


 だから、ダンジョンで宝箱に入れる武器の性能に、この世界にとってのオーバーテクノロジーとなるものが無いかは、いつも気をつけている。

 中に強力な神獣が封じられた魔石とか、振りかざすと隕石が落ちる杖なんかは、間違っても入れてはいけないのだ。

 ニホンの新聞に折り込まれていたオモチャ屋の広告を広げて、もう少し進化してくれたら、合体ロボとかも出したいのになぁなんてつぶやいているうちに、ノエルとマリモは起き出して出発の準備を整え終わっていた。


 山小屋の扉を開いて、吹き込んで来た雪にも負けず「さぁ行こう」と、目をキラキラさせるマリモ。

 うぅ、寒いと肩をすくめたノエルは、どっちに向かうの? と問われて、すっと一点を指さした。

 管理者がその先の座標を見ると、確かに下り階段がある。よく見れば、今までの道のりもスタート地点からほぼ一直線にセーフポイントに向かって歩いてきていた。

「えっ、何? オイラの画面見えてんの?」

【激運】をナメるなと、ぎゅっとフードをおさえたノエルがつぶやいた気がした。



 

 その後も2人の快進撃は進み、現在地下27階。下り階段は見えているというのに、道を阻むモンスターが手ごわい。

 ワイルドボアの灰色のごわごわした毛は、凍り付いて逆立ち、小さな目が常にノエルたちを真正面に捉えている。

 一心に突進してくる攻撃は原始的だが、威力の凶悪さは折り紙付き。さきほど牙がかすめただけで、ノエルのコートの裾が切れて裂けていた。

 大きな鼻が、フゴゴゴと息を吸いこみはじめたのを見て、マリモは声を張り上げる。

「ダイアモンドダスト、くるよっ!」

 

 猪が吐いた鼻息が地面に当たると、新雪が舞い上がり視界を塞ぐ。

 周りが見えなくなるだけでなく、この氷の粒を吸い込むと気管が一時的に凍って、息ができなくなる。

 口元を覆っていたノエルは、一瞬だけその手を離した。

「右っ!」

 リーダーの短い叫びに、マリモは気配だけを頼りにバトルアックスを振った。戦斧の側面で殴られる形になったワイルドボアは、一瞬怯むが、そのまま横を駆け抜けて、再びこちらへ向き直っている。


 倒せない、手袋が邪魔で、武器にきちんと力が伝わってない。マリモは歯噛みした。

「あと1回。突進、来るぞ。構え……ゲホッ」

 注意を促すセリフの途中で、ノエルが咳き込む。

「大丈夫?」

「……氷が少し入った」

 

 ノエルを目掛けて突っ込んで来た猪は、明らかに様子がおかしい。目を血走らせて口から泡を吹いている。

 そういえば、あと1回ってどういう……。マリモが思っている間に、ノエルはスルリと身をかわし、猪はよろめいてドウッと横倒しになった。

 よく見れば尻のあたりに、クナイが1本突き立っている。

「わぉ。こんな小さなクナイでよく倒したね」

「先端に毒を塗っておいた。獣系には効きがいいな」


 階層のモンスターは、ボス戦のヒントになっていることが多い。

 獣系、突進、パワー型、氷属性……。

「ねぇ、ずっと思ってたんだけど」

 ノエルの思考をマリモのお気楽な声が遮る。

「この階のボスって、水じゃなくて、氷のワーウルフって名乗るべきじゃない?」

「……そうか?」

 

 首を傾げたノエルに代わって、管理者が言い訳を叫ぶ。

「四天王と言えば、地水火風だろうがぁ!」

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