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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
4章 凍てつく迷宮
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第55話 王の呼び出し(1)

「何でカンちゃんから、話を聞いちゃうんだよぉ」

「えー、だって1回ダンジョンから出るのが面倒だったんだもん」

 ノエルは王の私室で、ソファに座ってだだをこねるカシュバル王と、その娘の言い合いを聞いている。

 陛下も管理者を「カンちゃん」と呼ぶのか、さすが親子だなとノエルはどうでもいいことで感心していた。


「普通、あのゾンビラッシュを切り抜けたら、酒場でお疲れ様会をするだろう。で、夜が明けたら、俺のところにまっすぐに来ると……ノエル! おまえも、ちょっとは気をきかせて、王様のところに行こうって言ってくれなきゃ!」

「申し訳アリマセン」

 私がいいって言ったんだよ、とマリモはすぐにフォローしてくれる。


「魔界の話は、カンちゃんから聞いた方が絶対分かりやすかったよ。っていうか、何で私たちが20階踏破したの知ってるの?」

「そんなのダンジョンに入って『カンちゃーん、マリーたち今どのへん?』って聞いたら『あれ? 昨日、迷宮の目的教えたから、父ちゃんに話聞きにいくと思うぜ』って言われて、もうガッカリだよ」

 それを聞くためだけに、王も銀貨3枚を払って木札を購入したのだろうかと、浪費家の心配は斜め上だ。


「最初の迷宮踏破者は、いかにして仲間と共にその苦難を乗り越えたのか。エイベルもその一員なんだぞ? お母さんの活躍も聞きたくないのか?」

「お母さんからはさらっと聞いてるし、自慢話は聴きたくないですー」

 ノエル! とかなり大きな声で呼ばれ、「何でしょうか」とローグは姿勢を正す。 

「娘が……反抗期かもしれん。どうすればいい?」

「……自分には子育ての経験が無いので何とも。大変ですね」

 ノエルも冷たいと、イジけはじめた父を見かねたのか、ようやくマリモは問いかけた。


「ねぇ、お父さん。魔界の魔物を増やすために、この世界が力を貸してるのは……なんで?」

 ノエルとマリモの付き合いはまだ浅い、それでも分かるくらいには、彼女の声音は緊張している。

 聞きに来なかったんじゃなくて、怖くて聞きに来れなかったのかもしれないと、ノエルはようやく思い至った。


 娘から向けられる眼差しは、反抗期なんかとっくに超えて、すでに充分大人の思索に満ちていた。

 モンスターの巣を叩き、町を守ろうと必死で活動している王国兵の働きと、まるで真逆を行く行為だ。

 でもそれを認めているのには、何か理由があるはずでしょう?

 根底にある信頼に、カシュバルはつい涙腺が緩みそうになるのをグッとこらえた。


「最下層に至った者としてひとつ、確かに断言できることがある。俺たちは、あの魔王に勝てない」

 普段表情豊かなカシュバルが、真顔で言う言葉には深い重みがあった。

「ダンジョンの中で戦う魔物たちの力は、おそらく管理者によって意図的にセーブされている。俺たち地上の人間が歯が立つ程度に調整されているんだと思う」


 最奥の間で相対(あいたい)した魔王と、その前に控えた何の制限も無い四天王。

 おそらくその時、ランベアード大陸最強だったと思われるカシュバルが、絶対に勝てないと分からされるほど、圧倒的な力を感じた。


「ダンジョンの魔物たちが地上に出てきたら、この世界は滅ぶ」

 王からの絶望的な言葉に、2人は言葉を失った。

「ただ、魔界の目的は俺たちを滅ぼすことじゃ無く、子孫繁栄だ。カンちゃんは、王であり最初の踏破者である俺が、魔界からの扉を閉ざせと言うなら、そうすると言った」

「じゃあ……何で」

 うめくように言った娘に、なんでだと思うと、カシュバルは瞳で問いかける。長い間の後で、マリモは鋭く息を吸った。

「強く……なるため!」

「さすが、エイベルの娘だ。その通り。俺たちは強くならなくてはいけない」


 カシュバルは、平和になりつつあると思っていたこの世界の横っ腹に、異界から簡単に穴を開けられたことを深く憂慮(ゆうりょ)していた。

 今回管理者たちに撤退してもらったとしても、また別世界のもっと凶悪なナニカが訪れないとも限らない。

 このランベアード大陸を守るため、戦える者を増やし、装備を拡充し、組織を練り上げる必要があった。

「そこで俺の目的と、カンちゃんの目的が一致した」


 そうか、とノエルが先を引きつぐ。

「最初は弱い冒険者も、管理者の蘇生で何度でも再挑戦でき、高値で売れる武器は、冒険者を迷宮の奥へと誘う」

「ダンジョンが発見されてから、ギルド組織はずいぶん大きくなったし、女性の活躍も増えたんだよね。戦う女性に対しての評価はずいぶん変わったって、お母さんが言ってた」

 うむ、と王は強くうなずく。

「俺たちは、戦って平和な世界を手に入れてきた民だ。これからも、その努力を怠らず精進しようじゃないか」

「うん!」

 心の底からホッとしたと、マリモの顔に書いてある。


 ノエルはと言えば、実は以前言った通り、迷宮のなりたちだの目的だのに全く興味は無かった。色々な武器が無料で手に入るという一点だけが、彼を強烈にダンジョンに惹き付けていたからだ。

 しかし今となっては、管理者の部屋を訪れることができ、王の娘とパーティーを組む身だ。自分が迷宮に挑むことが、どちらの利にもなるという情報は嬉しいものだった。


「そうだ、ノエル。20階踏破のご褒美に、王様秘蔵のとっておきの本、見せてやろうか」

 ソファの後ろから取り出した本を手にした王が、ノエルを手招きしたので、のこのことローグは王の前へ進み出る。

「何の本だ……デスカ?」

 すっと腰を浮かせた王が、何事かをノエルの耳に吹き込むと、カーッと青年は赤くなった。

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