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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
4章 凍てつく迷宮
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第54話 雪への備え(2)

「えっ、そんなに寒かった?」

 キョトンと尋ねてきたマリモに、ノエルは絶句する。

 そういえば、ほとんど肌の露出が無いノエルに比べて、腹と太ももがむき出しの軽鎧のマリモから、寒いという雰囲気を一度も感じなかった。


「そんなのより、冷え冷えの武器が、パキーンって壊れちゃうことのほうが大問題でしょ!」

 マリモが前回のパーティーを脱退した真の理由はこれだった。

 ただでさえ壊しがちな武器が、冷気にさらされて折れること折れること。

 30階のボスがワーウルフなので、この階層は獣系のモンスターが出る、剛毛や厚い皮下脂肪に阻まれてしまうので、さすがのマリモでも拳でのダメージは期待できない。


 武器を壊してしまうと、完全にパーティーのお荷物になってしまう。

 心の方が折れかけていた時、リーダーのヒジをはずした。それで、これが潮時だと脱退することにしたのだ。

 その後は、ソロでユニーク武器を求めてダンジョンに潜り続けたが、結局ノエルの【激運】に頼らなければ入手することはできなかった。


「でもね、私はもう【壊れない】ユニーク武器持ちだからぁ」

 満面の笑みでドヤ顔しているが、そこはノエルにとっては特段問題だと感じていなかった。冷えて割れるような薄い武器を使わなければいいだけのことだ。今こそ、ため込んだアレもコレも活躍のチャンスだ。


「俺は寒さで動きが鈍る方が問題だと感じた。特に末端だな」

 足や、手先がかじかむと、踏み込みもみかわしも甘くなり、武器もしっかり力をいれて握れなくなる。


「魔法使いは、冷たい空気を吸い込みすぎると、呼吸も苦しくなるって言ってたけど、それは気のせいだよね」

「いや、気のせいでは無い。マスクがあった方がいいかもしれん」

 とは言ってみたものの、今まで防具にはまるで頓着(とんちゃく)してこなかったので、具体的なものは思いうかんでいない。


「つまり、21階を進むための、あったか装備が必要だなーと、そう考えていますね? リーダー!」

 だからそう言っていると思ってマリモの方を見ると、すでにカラのワイングラスが3つ並んでいた。


「出ないよ」

 酔っ払いか、と思ったのがバレたのかと思うほど、マリモは短く素っ気なく言った。

「出ない?」

 ノエルが首を傾げて尋ねてきたことに、嬉しそうに、ニヤーっと笑う。

「あったか装備は、ダンジョンの宝箱からは出ませーん!」

「なん……だと」




 翌日、城下町の通称「雪中行軍通り」に向かい、毛皮のコートの値札を見たノエルは、貧血を起こして倒れそうになった。

「あはは、これは新品だから、中古を扱ってる店を回ろうよ」

 マリモが奥の方の店を指さす、通りの左右に並ぶ店が全て防寒着を扱う店なのだというから圧巻だ。


 試着しているコートは、膝が隠れる丈でフード付き。黒を欲しがったノエルだが、予算の関係で深緑で妥協した。

 手袋はミトン型で外側が皮、中に毛皮がはってある。5本指のものが欲しかったが、予算の関係で妥協した。

 ブーツはくるぶし丈で底の滑り止めが一番強そうなものを選んだ。もっと中もモコモコで、丈も長くて雪が入りにくい……妥協した。


「……金が無い」

 差し出された請求書を見て、ノエルは眉をしかめる。

「お客さん、勘弁してくださいよ。これでもだいぶオマケしてるんですよ」

「どうしても足りなかったら、手袋かたっぽだけ買えばいいんじゃない?」

 手袋のバラ売りなんてするわけないでしょうと、悲鳴をあげた店主はさらに端数の銅貨をオマケしてくれて、ノエルが身に着けていたクナイ数本も買い取って、ようやく装備が整った。


 中古品でもこれだけ値が張るのには理由がある。

 実は現在定期的にダンジョン探索をしている冒険者のうち、半数以上のパーティーがこの21階から30階の水のワーウルフの支配階層で活動している。だから、買い手はいても、売り手がいないのだ。

 ラダトキア近辺で生活する者に防寒具は不要。冒険者だけが買うのだから多少強気の値段設定でも、飛ぶように売れる。


 何故この階層に冒険者が滞留するかと言えば、21階からの環境が一気に過酷になりすぎることと、純粋にワーウルフが強いこと。

 そして、今までの迷宮産レア装備を身に着けていられなくなるから、というのが最大の理由かもしれない。

 切れ味のいい武器は次々と折れるし、モコモコの防寒具を着こみたければ、当然カッコイイ鎧は脱がなければならないのだ。


 

「よーし、じゃさっそく、あったか装備を試しに行こう」

 張り切って先を歩いていたマリモは、木札を買うための銀貨を握りしめた手を高く上げた。

 鍛えられた褐色の腹筋が、惜しげもなくさらされるのを、ついノエルはじっと見つめる。

「……マリモは、その格好で行くのか?」

「うん! 寒いのは結構平気なんだよね」

 少し考えてから、ノエルは重ねて問う。

「ちなみに、暑いのは?」

「暑いのは得意!」

 この相棒、全天候型デストロイヤーである。


 ギルドカウンターを訪れたマリモの顔を見て、受付嬢は「ちょっと待っていてください」と奥へひっこみ、すぐに戻ってきた。

「陛下から、話があるから寄るようにと言付けを受けております」

「あれま? なんだろう。ごめんノエル、お城に寄ってもいい?」

「もちろんだ」

 王命を「ダンジョンに行くから」なんて断るはずが無いだろうと思ってから、ちぇー、と小さく舌打ちしているマリモを見て、いやあるかもしれんと思い直した。

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