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第53話 雪への備え(1)

 再び20階層クリア後の、ラダトキア出入口と21階への下り階段の部屋に戻る。

 ずっと口数が少ないマリモを、ノエルは少し心配そうに伺うが、こういう時の気の利いた言葉が出てこない。

「うーん」

 考えながら、トコトコと下り階段を降り始めたマリモを呼び止める。

「マリモ? 王に会いに行くんじゃないのか?」

「えっ? そんなのいつでもいいよ」

 

 深刻そうに悩んでたのに、いつでもいいのか! と、ノエルは驚く。

「だってもう話はついてるんだし。もし私がその理由が気に入らなくてドカーンとひっくり返したいなら、40階に降りてからじゃないと、その資格が無いってことだもん」

 全くその通りだ。その通りすぎて返す言葉も無い。


「そんなことよりね、私の最終到達階は22階なの。そのヤバさを感じてほしいから、ちょこっとドア開けてみない?」

 先に水色のドアの前に立ったマリモが、こちらを見上げてくる。

 ノエルが応じて階段を降り始めると、1段ごとに気温が下がっていくように感じる。

 レンガの鍵を鍵穴に押し込んで、冷たい扉を押し開けると、正面から吹雪が叩きつけてきた。


 ランベアード大陸では、年中雪に閉ざされているシュラスという村以外で、積雪を見ることは無い。

 しかし「わぁ、雪」なんて言っていられるのは、ちらちら降って来るかわいいお天気のことで、視界を奪われるような吹雪に当たれば、基本しかめっつらになる。


「寒い」

 ノエルの薄いマントは、あっというまに雪が付着して白くなってしまった。

「ここは本気でヤバいフロアじゃないから、1戦だけしよう」

 戦うといっても、目も開けていられないほどの雪で、どこを目指せばいいか分からない。

 そして、この寒さで本気でヤバくないというのは、ヤバい。

 

「ほら、あのボヤっと赤いのがきっと闘気球だよ。前に来た時は、あの光のあるポイントで戦闘が起こるからって警戒してたんだけど、逆に目印になるね。ラッキー」

 すでにつま先の感覚が無いほど冷えているローグは、全然ラッキーではない。


 ようやく電球のある場所までたどり着くと、その場だけ妙に綺麗に除雪されていて、どうぞここで存分に戦って下さいという管理者の意図が分かる。

 案の定、周辺の雪山から、白いウサギの魔物が飛び出してきた。

「スノゥラビット4匹。すばしっこいのと、案外剛毛だよっ」

 

 剛毛って何だ、とマリモの情報にやや混乱しながら、ノエルは戦闘態勢に入る。

 武器の入れ替えをしてこなかったので、とりあえずボス戦で残ったクナイを投げてみると、剛毛の意味はすぐに分かった。

 眉間に当たったはずのクナイは、毛で阻まれて致命傷にならず、ブンと頭を振ってクナイを振り落としたラビットは、一直線に加速してくる。

「くっ……」

 かろうじて短剣の迎撃で仕留めたが、ゾンビドッグが『駆けてくる』ならば、スノゥラビットは『跳んでくる』だ。速い。


 しかもこの冷気の中、握っている金属武器の冷たさで、どんどん手がかじかんでいく。

「ノエル、後ろー」

 マリモに注意を促されても、寒さで自分が振り返る速度が、落ちているのが分かる。

 小太刀を抜いてウサギの凶悪な前歯を受け止めると、薄い(やいば)はパキィと乾いた音を立てて折れてしまった。


「なにっ?」

 あまりのできごとに、ノエルが目を見開くと、スノゥラビットはすぐに体制を立て直して再度跳躍。その空中姿勢で、背後からバトルアックスに両断されて雪の上へ落ちた。


「ね? 21階から、ヤバいでしょ?」

「ヤバい」

 宝箱の中身の回収を終えて「よし、分かったところで戻ろう!」と元気にマリモが歩きだしたのを、ノエルは震える声で呼び止めた。

「違う、入り口の方角はこっちだ」

「あははっ! 遭難しちゃうとこだった」

 全然笑いごとではない。




 冷え切った体を温めるために、今日は先ほどのドロップ品を四の五の言わずに売却して、酒場の暖炉に一番近い席を確保する。

 ノエルの濡れたマントから滴る水を、ウエイトレスが嫌そうな顔で拭くのを見て、マリモは苦笑いしていた。

 

 体が温まるよーと、マリモが勧めてくれた真っ赤なスープを一口すすって、ノエルは銀髪を逆立たせる。

「……辛い」

「そう? でもあったまるよ」

 大概の料理は文句を言わずに食べるノエルだが、辛いものはどうしても苦手だったらしい。以降、切ない視線で器をじっと見つめるだけになる。


「ごめんごめん、実は前のパーティーでも、コレ食べれるのは私ともう1人だけだったんだ。おねーさーん、根菜のスープお願いしまーす」

 ウエイトレスに注文すると、まもなく根菜と鶏肉がゴロリと入った透明なスープが運ばれてくる。慎重に口をつけたノエルは、ほっと息を吐くと黙々と匙を動かしはじめた。


「これ、私がもらっちゃうね」

 残したスープも、ひょいと自分の前に引き寄せて食べはじめたマリモに、すまんとノエルは目礼する。

「いいの、辛いモノ同好会の同士は、なかなか集まらないのだよ」

 くすん、と大げさに鼻を鳴らしてから話題を変える。


「でさ、行ってみて分かったと思うけど、21階からのアレはヤバいよね……」

 2人はあの白銀の世界を思い描き、同時に声を発した。

「とにかく寒い」「武器が壊れちゃう」

 そして顔を見合わせて「ん?」と首を傾げた。

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