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第51話 魔界の望み(1)

 20階層のボス討伐報酬も、10階と同じくダンジョン内のワープに関するアイテムで今回は、金箱の蓋を開けると内部が鍵の形にくぼんでいる。

「ここに灯の鍵を入れて、蓋を閉じて……」

 マリモに言われるまま鍵を納めると、パーっと蓋の継ぎ目から光が溢れた。


煉瓦(レンガ)の鍵のできあがりだよっ。これでお揃いだね」

 今まで銀色だった鍵は、少し太くなり赤銅色に変わっていた。

「土と火でレンガということか」

「えっ? そうなの?」

 相棒は、意味までは深く考えないタイプらしい。


 ボス部屋を抜けると、10階踏破後と同じく外の光を感じる扉と、さらに下層につながる階段のある部屋に出る。

「これもラダトキアの闘技場の同じ扉とつながっているのか?」

「そうだよ。今度はラダトキアの入り口から入ったら、20階層スタートも選べるようになるよ。酒場で聞いた話だと、ゴンゴルノからはダメだって」

 なるほど、とうなずいた後もしばらくノエルは考え込んでいる。


「俺たちはここまでに10回階段を降りた。それなのに、入った扉と出る扉が同じになるのか」

「そう。不思議じゃない? このダンジョンが何なのか、知りたくならない?」

 キラキラっとマリモの目が輝くと、ノエルも珍しく少し声を弾ませた。

「……知りたいな」

 



「で、何でオイラのところに来るわけ? 王様に聞けって言っただろ」

 ぬくぬくとコタツに入って、お茶が出てくるのを待っている冒険者ペアの図々しさに管理者は腕組みする。

 先ほど大量虐殺してくれたゾンビたちを蘇生してきた後で、疲れているのだ。

「お父さんが、20階踏破したらダンジョンの秘密を知ってもいいって、許可もらってきたよ」

「おぉ、マリモもあの絶倫王の娘かぁ。そっかそっか。父ちゃんには世話になってるよ、あんがとさん」

 いえいえー、と笑っているマリモに、急須から最後の一滴まで茶を注ぎ切った管理者は、そんなら教えてやるかぁと言った。


「まずな、オイラたちはオマエらとは別の世界のイキモノだ」

「別の……世界?」

 ノエルの無表情の中の驚きも、ようやく見分けがつくようになってきた。

「そうさ、オイラたちは魔界からこの世界に扉を開いてやってきた」

 魔界、という響きにマリモに緊張が走る。魔物が地上でどれだけの被害をもたらしてきたか、王国兵士の娘は良く知っているからだ。

「……何のために?」

 問うてから、ごくりと唾をのみ込んだマリモに、たっぷりの間の後で秘密を明かす。


「少子化対策のために」

「…………?」

 カシュバルに話した時とまるで同じ表情だなと、管理者は笑いをこらえた。

「時にノエル、子どもはどうやって作るか知ってっか?」

 突然自分に振られた質問に、銀髪の青年は挙動不審になる。


「ナニをドウしたらいいか、分かるよな?」

「……それは、あれだ。おしべが……ゴニョゴニョ」

 首まで真っ赤になってボソボソ説明しようとしているノエルを見て、薄情なマリモは声を上げずに爆笑している。


「そうさ、【闘気球】を【共振】しねぇと、子どもは産まれねぇよな」

「そうだな。違いない」

 ノエルはうむ、とうなずき、マリモが「うぉいっ!」とツッコんだ。

 さっきの土のゾンビをボコりすぎた件への仕返しはこのくらいにするか、と管理者は茶をすする。

 

「オマエらの三大欲求が、食欲、睡眠、性欲だとすると、オイラたちは食う、寝る、戦うの3つが柱になってる」

「本能的に、戦いたーいって欲求があるってこと?」

 そういうことだな、と管理者はうなずく。

「戦闘で生じた闘気は、沼とか、木のうろとか、薄暗くて湿っぽい場所に溜まって固まる。それを闘気球と呼ぶんだ」

 これは魔界だけでなく、どの世界でも同じような傾向を持つ。だから洞窟や密林にモンスターが湧きやすい。

「んで、それに魔力で振動を与えることで、自分の同族が生まれるってのが魔物が増える仕組みだ」

 はえぇ、とマリモは口を開けている。


「それともう1つ、オマエらと大きく違うのは、魔王の性質は、魔界の魔物全てに深く影響するってことだ」

 簡単に理解はできないだろうと、管理者は説明を重ねる。

「ラダトキアは今までずいぶんたくさん王が変わってきたようだが、暴虐な王がたてば、民も暴れまくり、気弱な王がたてば、民が毎日メソメソしてるなんてことは無いわな?」

「そういう結果を引き寄せることはあるかもしれんが、王と民はイコールの関係では無いな」

 いまいち分かってない顔のマリモに代わって、ノエルが返事をする。

「だよな。ウチの先代の魔王は【絶望】の魔王だったんだ」


 絶望の生まれる場所で、一番力を発揮するから、扉を開いた先の世界をひとつ【絶望】で滅ぼした。

 配下の魔物たちは絶望をむさぼるために、血の(たぎ)りにまかせて戦い続け、いくらでも増えた。

 そして、やがて魔王自体も死期を知ると特大の闘気球と共振して、次期魔王を宿し、塵となって消えていった。


「カンちゃん、ちょっと待って。今も新しい魔王がいるってこと?」

 マリモのひどく怯えた顔を見つめ、やはり王の血を引く者だと管理者はうなずく。


 そうだよ。今も魔王は居て、この先も新たな魔王は生まれる。だからマリモのトーチャンは、この道を選んだんだ。

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