第49話 土のゾンビ(1)
管理者は昨日宿に泊まるために、10階から逆走してきたローグとデストロイヤーが、今度は1階からピクシーたちを蹴散らして降りはじめているのを見て頭を抱えた。
ピャー、キャーと叩き潰されるピクシー。ドロップした宝箱はチラリと中を見て、もう浅い層の中身では拾い上げるものすらないらしい。
「ひどい……むごすぎる」
これでは、迷宮の目的にも合致しない。仕方なく管理者は5層に降りようとしているノエルにマイクで呼びかけた。
「オーイ、ノエルとマリモ。ちょっとそこでストップ」
「……?」
「その声はカンちゃん! やっほー、ここだよー」
見えとるわ、と能天気なマリモを横目に、迷宮のプログラムをいじっていく。
「これでヨシ……っと。試験的に、あまりにオマエらと実力差のあるモンスターに【逃げる】を実装してみた。次の階に降りてみてくれ」
「どういうこと?」「わからん」と首を傾げながら階段を降りた2人は、次の部屋を開けて目が合うなり、中のピクシー3匹がクモの子を散らすように「ワー」と逃げ出したのを見て、なるほどとうなずいた。
「あはは、なんかちょっと可愛い」
「苦肉の策なんだよ、次の廊下右手の部屋に行って、今度は『逃がさないで』戦ってみてくれ」
指示通り扉を開けて、「ワー」とピクシーが逃げる先へ、音も無くノエルが回り込み一刀。コッソリ部屋を出ようとしていたリリスの肩を、マリモが笑顔でメキィとつかんで戦闘を終える。
「うわー、リリスまで【逃げる】の対象に入るとか、オマエら怖ぁ。でも挙動は問題なさそうだな」
これなら、戦う必要のない雑魚戦で双方が消耗することが防げるし、この世界の人間のステータスでいけば20階層以降では【逃げる】コマンドを使用する魔物はいなくなるだろう。
次の王の祝日に全域実装にするかぁ、と考える。
「もう、行って……いいのか?」
放置していたノエルから尋ねられて、管理者はすまんすまんとマイクに向き直った。
「いいぜ、今後は浅い階のコたちには、お手柔らかに」
「おっけー!」
満面の笑顔でマリモが応じ、その先でまた「ワー」「ヒャー」と小者たちが逃げ惑う声が響いた。
そして、地下20階。土のゾンビの間の横にあるセーフポイントで、ノエルとマリモは休憩をとっていた。
ちなみに、ここまで一度も休まずにひたすら潜り続けたマリモのタフさに、ノエルは静かに驚いている。
「はい。パンに挟んだ塩漬け肉が、けっこうパサパサしてるかも」
ものすごく分厚いサンドイッチを渡されて、ノエルはチマチマとかじっていく。塩漬け肉以前に、パンがかなりパサパサしていて、口の中の水分が全てもっていかれた。
ふと思い立って、先ほどドロップした宝箱に入っていたビンを一本取り出し、持ち歩いている小鍋に注ぐ。
「おぉっ! 祝福 のワインだ。魔力全回復するやつでしょ?」
「らしいな」
言いながらその鍋を暖炉の火にかけたノエルに、マリモが慌ててストップをかける。
「何で火にかけるの? アルコールが飛んじゃうよ」
「……飛ばすつもりだが」
言葉の途中で、ノエルは珍しくフっと笑った。
「いや、必要無いな。以前組んでいたパーティーの魔法使いたちに飲ませるのに、いつもこうしていたからクセになっていた」
カップに注ぎ分けたワインの片方をマリモに渡すと、彼女もくすっと笑った。
「今は自分で飲むつもりなんでしょ? こんなレアアイテムで、水分補給しようとしてるのノエルくらいだよ。アタシは戦士だから、飲むのはじめて。うんまっ!」
魔法使いたちが羨ましいわぁと、のんべえはつぶやく。
「宝箱から出るから、飲み物の持ち込みは必要ないと考えていたからな。あとは、食料も出てくれれば完璧なんだが」
「【激運】持ちは、言うことが違うねぇ」
食事を終えて、マリモはノエルに不敵な笑みを向ける。
「さて、リーダー。土のゾンビの情報は、ラダトキアの酒場で買いましたかな?」
「そんな金は無い」
たった一人のパーティーメンバーは、「さすが【浪費家】」と合いの手も忘れない。
「じゃ、どんな作戦でいくの?」
土のゾンビの討伐が終わっているマリモは、楽しそうに目を輝かせる。
「この階層の傾向を見るに、ボスも物量押しで来る気がする」
「ほほう!」
ぱーっと、マリモの顔が明るくなり、大正解ぱんぱかぱーん! と言わんばかりだ。ネタバレするつもりは無いらしいが、顔に丸出しである。
「だから、作戦としては……出てくる敵を倒して、ボスをたたく」
「あははっ! シンプルだね」
マリモが土のゾンビと戦った時は、魔法使いと、アーチャーが主な火力だった。回復術師は回復のみ、残る前衛2人も防御に徹することで、陣形を維持して勝利した。
5人でもかなり厳しいと感じたあの戦いを、ペアでやろうというのだから、ワクワクが止まらないのだ。




