第47話 少年たちの成長(3)
オーガストと姉妹が1部屋ずつ分けて使うようになったので、ダンジョンで使用する荷物は基本、オーガストの部屋に置かれている。
明日ダンジョンに潜る準備を整えて、あとは眠るだけとなったところで、ソフィアは王都へ行くなら少し良い服も用意しなきゃと、先に自分たちの部屋に戻った。
「あの子ったら、もうボスに勝った気でいるのかしら」
あきれた、と笑うメイにオーガストもつられて笑う。
「さっきは、ソフィアを説得してくれてありがとう」
少年の感謝の言葉に、メイは軽く息を吐く。
「ソフィアも覚悟は決まっていたんだと思うの。ただ少し臆病で、先の楽しみが無いと、踏み出せない子だから」
付き合いの長いオーガストだって、それは良く知っている。
その上で、ソフィアの「一歩」を促したのは、さすがメイだなと思ったのだ。
一度パーティーが全滅してから、今のようにメイに対してさすがだなと思うことが増えた。
ダンジョンの中でも、3人で話し合っているようで、メイとオーガストが案を出し合い、ソフィアはそれにうなずいているという構図が多い。いきおい、何でもメイの方にばかり相談してしまうクセがついていた。
彼女の意見は、容赦なく厳しいこともあるが、いつも強気で前向きだ。
それに触れるたびに、オーガストは「さすがメイだな」と思うのだ。
戦闘の後は、セーフポイントで休み、充分に回復してからまた次の階へ。
地下10階の小部屋まで3日ほどかけてたどりついたオーガスト一行は、【キスしなければ出られない部屋】の説明文の前で絶句していた。
「えっ……これって、どういう」
うろたえるオーガストに、メイは精一杯のお姉さんの余裕を振りまく。
「どうって、べ、別にっ? キスすればいいだけでしょ。簡単じゃない」
まさかオースって、キスもしたこと無いの? と煽っても「そんなの無いよぉ」と情けない悲鳴がかえってくるだけ。
メイはめずらしく、口ごもりながら問いかけた。
「それで、オースはどっちとキス……したいの?」
「へぁあっ!?」
オーガストの純情な反応は、仕方が無い。ギフトをもらってから、とにかく姉妹を守る戦士になることに必死で、恋とか愛とか言っていられなかった。
町にいた頃からずっと、ソフィアに淡い気持ちは抱いているが、それは、その、キスとかそういうのではないのだ!
「うっひょー、修羅場じゃねぇか。いいよいいよ、オイラこういう展開を待ってたんだよ」
ゲスな管理者は、モニターを食い入るように見つめて、成り行きにワクワクテカテカする。
真っ赤になったオーガストが、おそるおそる姉妹を見た。
メイはさっさと決めなさいよと言いながらも、髪を直して唇が乾燥していないかチェックしているし、ソフィアはなんだか難しい顔で考えこんでいるような……。
「ソフィア……」
オーガストが呼んだ名に、あからさまにメイはがっかりした顔をし、ソフィアはぴくりと眉を跳ね上げた。
「ソフィアは、ど、どう思う? この仕掛け」
問われた回復術師は、つかつかと鏡の前まで歩いて行って、じっと鏡を見つめた。
「姉さま、この鏡……」
「なにか分かりそう?」
メイも近くまで歩み寄ると、姉妹の姿が鏡に映る。
「この鏡に認識されるようにするには、どのあたりに立てば……姉さま、鏡の方を見ていてください」
いいわよ、と請け負ったメイは鏡を見つめた。
妹の両手が姉の両肩に触れ、つま先が一歩前へ出ると、たわわな胸が控え目な胸元に押し付けられる。
「この状態なら仕掛けがとけそ……んっ」
オーガストからソフィアの表情は見えない。
代わりに、ピンクの髪がサラリと背中を滑ったかと思うと、メイが大きく目を見開いたのが見えた。
「百合キター!」
仕掛けの認識メーターがギューンと上がっていくのに合わせて、管理者のテンションも爆上がりだ。
姉妹の美しき口づけは、見事ボスの間へ挑むための仕掛けを解除した。
音も無く開く扉の前で、何が起こったかよくわかっていないオーガストと、顔を真っ赤にしたメイが立ち尽くす。
普段めったに先頭を歩くことの無いソフィアが、扉の先をヒョイと確認して、「セーフポイントがあるようです」と言いながら戻って来た。
「えっ、あ、ソフィアが仕掛けを解いてくれたんだね、ありがとう」
一番おいしいチャンスを逃したという自覚も無く、少年リーダーが礼を言うと、回復術士は「どういたしまして」とほほ笑む。彼女からは、何の戸惑いも見られなかった。
「ちょっと、ソフィア! びっくりするじゃないの」
「ふふ、たまには私もお役にたちたくて」
「確かに、仕掛けは解けたけど、もう少し空気を読みなさいよ……」
ブツブツ言う姉の方は、チャンスを逃した悔しさにちょっと不機嫌だ。
そんなことより、とソフィアは2人のほうへ向き直る。
「ノエルはソロでこの部屋をどうやって攻略したのでしょうか」
「確かに……」
「そう言われれば……。あっ、きっとあれよ。ノエルは【俊敏】だから、自分の残像とキスしたのよ!」
当たらずとも遠からずである。
セーフポイントでボス戦前最後の休息をとりながら、3人はノエルがいかにして独りキスシーンを演じたかを妄想して、大いに盛り上がった。




