第46話 少年たちの成長(2)
ノエルにアドバイスをもらってからというもの、チームワークが格段に向上したオーガストたちは、迷宮から安定した収入を得られるようになった。
それと同時に、この安定は一時期のものかもしれず、いつまた食事にも困るような日が来るかもしれないということも理解している。
すぐに使うアテの無いお金はギルドに預け、お金に換えやすい小さなアクセサリ類は、いざという時のために手元で保管していた。
身の丈に合わない風呂付きの宿もやめて、酒場でたまの贅沢を楽しむのに留めることにしている。
「おまえたちですら、この短期間で学習できることを、何であのローグは永遠に理解できねぇんだ。今度会ったら、教えてやってくれ」
ギルドマスターにそう言われるくらいには、冒険者として生活する術が身についてきていた。
「おばちゃん、客室の掃除終わったよ」
バケツとモップを持ってオーガストが降りてくると、食堂で仕込みを手伝っていた姉妹もちょうど作業を終えたところだった。
「ありがとう、もうすぐ娘が来てくれる時間だから、あんたたちはもうダンジョンへお行き」
揺り椅子で編み物をしていた宿のおかみが、そう言ってくれたので少年たちは宿の2階へ駆けあがる。
無理を言って、格安で3人1部屋を借りていた宿から、ようやく3つベッドのある部屋へ移れそうだと算段が立った時、宿のおかみが階段から落ちて腰を打ってしまった。
歩くのにすら難儀するおかみに、近くに住む娘が手伝いに来ることになったが、午後から夕方の一番忙しい時間帯だけで、小さい宿とはいえそれでは手が回らない。
そこでオーガストたちが、困っていた時に泊めてくれたお礼にと、宿の手伝いを買って出ると、おかみはとても喜んだ。
掃除や料理の仕込みを手伝ってもらう代わりに、ツインルーム2部屋を、1部屋分の値段で貸してくれるという。情けは人の為ならずということを、少年たちは身をもって知った。
部屋で支度を終えたオーガスト隊は、迷宮の入り口に立つ。
クズ石捨て場の子どもたちに「行って来る、もしもの時はよろしくな」と声をかけて入り、「無事に戻ったよ、いつもありがとう」と言って出てくることもすっかり習慣化していた。
5階を突破した後も、少年たちは慎重にダンジョンを進む。
6階まで降りて戻り、7階まで降りて戻り。リリスが2体出た時はどうするのが一番いいか、アイテムの消耗が多い日は何が悪かったのか、何でも相談し、試行錯誤する日々が流れた。
おかみの腰がすっかり良くなり、手伝いが要らなくなっても、3人は相変わらず少しお得に宿に泊めてもらっていた。
「あら、オーガスト。あなたずいぶん背がのびたわね。もう3人の中で一番大きいんじゃない?」
連れだって部屋に上がろうとしていたところに、そう言われてオーガストは姉妹を振り返った。
「ソフィアより、ほんのすこーしよ。それよりおばちゃん、この腕の方がすごいんだから、ムキムキなのよ」
シャツをまくって見せなさいよとメイにせっつかれて、照れながら腕を出し、ムキッとポーズをとってみる。
「あら、すごいじゃないの。でも鉱山の男たち比べたらまだまだよ、シャツがバリっと破れるくらいじゃないと」
そして「誰がそのシャツを縫うんだい?」の状態になるのだろう。
部屋に戻ったオーガストは、今日マッピングした地図を見ながら、1つ1つの戦闘を思い返す。
もう、ダメ出しする箇所が無いほど、良い動きだったと言えるだろう。
隣の部屋に姉妹が風呂から戻った気配があったので、少年は立ち上がってドアをノックした。
「10階のボス、火のヴァンパイアに挑んでみたいんだ」
改まった声音でそう切り出したオーガストに、ソフィアは少し眉を寄せたが、メイは挑戦的に笑って見せた。
「いつ言い出すかって、待ちくたびれたわ。アタシは行ける、行きたい」
ぐっと身を乗り出して言った後で、妹を見つめる。
「ソフィアはどう? 怖い?」
あまり圧がかからないように、オーガストは視線を外して回復術師の返事を待つ。
「……強い魔物なんですよね?」
「うん、まず間違いなく、今までダンジョンで戦ったモンスターの中で一番強いと思う」
ここで楽観的なことを言って、ごまかしても意味が無い。
リーダーからの率直な意見に、かよわい肩がひくりと震え、そのままソフィアは黙ってしまった。
「ねぇ、ソフィア。ラダトキアを見てみたいと思わない?」
不意にメイがそう尋ねた。
「王都を……ですか?」
意外そうに目を上げた妹に、姉は緑色の目をきらめかせる。
「馬車が走れるくらい広い大通りがあって、5階建ての建物もあるんですって。それに、お菓子だけを専門に扱う店があってね、白い壁にキャラメル色の屋根。甘い香りが通りまで漂ってくるのよ」
酒場で聞いた話を、まるで見てきたようにメイは話す。
「王の祝日には、城前広場で劇をやるんですって。揚げ菓子を買って、食べながら観たら楽しいでしょうねぇ」
まさかその劇に、出る方の仕事があることまでは知らないのだろう。ソフィアは姉の話に、ついに「わぁ」と小さな声をあげた。
「行ってみたい。ラダトキアに行ってみたいです!」




