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第44話 英雄カシュバル=モーガン(4)

 王宮を歩くマリモの足取りはとても慎重で、ずっと手を腰の後ろで組んでいる。

「お城の廊下って、壺とか彫刻とか、手が当たったら砕けそうなものを飾りすぎじゃない?」

 ノエルは砕けるか砕けないかで装飾品を見たことが無かったが、言われてみれば割れ物が多い。

 

 すれ違う兵やメイドたちは、マリモを見ると「やぁ、マリモ」「こんにちは」と気さくに声をかけてくる。

 城内を自由に歩けるのは、カシュバルの子だから許されているわけでは無く、重装歩兵隊長エイベルの娘だから許可されていることだ。

 そうでなくては、48人の子たちが自由に出入りしはじめて収拾がつかない。

 

 謁見の間の前でマリモが「こんにちはー」と元気に挨拶すると、守衛の兵が笑った。

「マリモがここへ来るなんて珍しいな、何だ? パパにカレシの紹介か?」

 後ろのノエルをじろじろ見て、気安い調子で話しかけてくる。

「全然ちがーう。陛下はお仕事中でしょうか?」

 マリモの問いに、扉の向こうへ大声で守衛は尋ねる。

「陛下ー! マリベルが来てますけど、通します? 後にします?」

「おぉ、入れ入れ!」

 およそ王とその従者とは思えぬやりとりがかわされて、マリモはずかずかと謁見の間へ入っていく。

 ノエルはただ黙って、王様の周りは案外騒がしいものなのだな、と納得していた。

 

 ラダトキア王は、謁見の間の床に巨大な地図を広げて、部下と話し込んでいるところだった。

 玉座から降りて、床にあぐらをかいている。

「ちょうどいい。マリー、最近ゴンゴルノの方へ行ってないか?」

 チラリと地図を見て、街道沿いに置かれた赤いマークに、首を横に振った。

「行ったけど、ダンジョンを逆走したから地上は走ってないよ。新しいモンスターの巣?」

「目撃情報だと、魔物だったのか、野生動物だったのか曖昧でな。何人か現地に派遣してみるとするか」

 方針が決まったらしく、地図を丸めて兵が部屋を出ると、謁見の間には王とその娘と、銀髪のローグだけが残された。


「ダンジョン逆走って、何だ? 新しい遊びか?」

 地図が無くなっても、玉座に戻る気はないらしい。王を見下ろして話すというのもあんまりだったので、自然と2人も座り込んだ。

「違うよ、ラダトキアは色々がめついから『すぐ詰む』んだって。だから、あんまりお金がかからないゴンゴルノを探索拠点にするんだよ」

 マリモは素直に理由を説明し、当然カシュバルは「すぐ詰む」発言の主を見つめる。

「王都はがめついか」

「…………」

 まさに滝汗である。無表情なまま、青年の額から流れ落ちる冷や汗に、王は破顔した。


「わっはっは、すまんすまん。率直な感想を聞きたいだけだ」

 ノエルはギクシャクと首からギルドの認識票を外し、裏返して床に置く。

「ほう、これはすごいな。4ツ持ちは初めて見た」

「すごいでしょ、私のパーティーリーダーだよっ!」

 自慢げなマリモの横で、ノエルは小さな声で言い訳をはじめた。

「ギフトのせい、というだけでも無いのだと思う……思いますが、金に困ることが多く、俺に王都はとても」


「リーダーはコミュ障だな」

「ノエルの悪口はやめてよ」

 ぷくっと頬を膨らませたマリモに、カシュバルは肩を落とす。

「ひっさびさに会いに来てくれた娘が、男連れだったんだぜ? 悪口くらい言わせろよ」

「ダメだよ。久々になったのは、お母さんが年頃になったら、お父さんに1人で会いに行くな、妊娠するわよって言ったからだもん」

「エイベルは俺のことを、何だと思ってるんだ……」

 自分の発言などどうでもよくて、親子喧嘩のダシに使われただけだと気づいて、ノエルの汗がようやく止まる。


「ま、王様の泣き言を言わせてもらうと、冒険者を受け入れながら、城下の民も安全で健やかに暮らしてもらおうと思うと、案外金がかかる。その分ちょこっと冒険者にも負担してもらいたいってのが本音だ」

 分かりやすい説明に、ノエルがこくんとうなずく。

「だが、あんたみたいな若い冒険者を『詰み』にさせないことは、今後のラダトキアの課題だな。考えとく」

「……ありがたい、です」

 これは、誰しもこの王を好きになる。

 一時期はこんな金の亡者共の巣など滅べと、呪う寸前だったノエルでさえ、次の王の祝日には寄付金を納めたいと考えを変えていた。


「それで、今日は俺に聞きたいことがあって来たんだろう?」

「何で分かったの?」

 何で分かったんだ、とノエルも胸中だけで叫ぶ。

「顔に書いてある」


 ニッと笑った王に、マリモはあのね、と問いかける。

「ダンジョンの底まで行って、何のためにランベアード大陸の地下にダンジョンがあるのか、聞いたんだよね?」

「ああ、聞いた」

 マリモの問いの内容まで、半ば予想していたのだろう。カシュバルは不敵な笑みをうかべたままうなずく。

「それって、秘密なの? 私たちも最下層まで行かないと教えてもらえないこと?」

「そんなことは無いさ。城の上層部は皆知っているし、ダンジョンの入り口を任せてるギルドの連中も、もちろん分かってる」


 知りたいかと尋ねた王に、マリモは必死に首を縦に振る。

「今、何階まで降りた?」

 不意にノエルの方へ顔をむけてきたカシュバルに、戸惑いながら返事をする。

「19階の仕掛けを解いて、20階の土のゾンビに挑むところだ。……です」


 ヨシ、と王は急に姿勢を正して、2人に言い渡す。

「20階を踏破したあかつきには、ダンジョンの秘密を知る権利を与え、40階に至ったならば、俺がどんな望みを叶えたか教えてやろう」

 ちなみに、とすぐにカシュバルは言い添える。

「地上において、俺が叶えた望みを知るものは、共に戦った仲間だけだ」

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