第43話 英雄カシュバル=モーガン(3)
1カ月もすると、この特異なダンジョンの仕組みは、かなり詳らかになっていた。
ギフトを持たない15歳以下の子どもたちは、ダンジョンに入ることすらできず、入り口で跳ね返される。
入るたびに迷宮内部の構造が変わり、地図は役に立たない。1度に入れるメンバーは5人までで、中で合流することは不可能。
モンスターを倒すと、時々何もない場所から宝箱が湧いて、未知のアイテムを入手することができる。
慎重に、しかし確実にダンジョンの調査は進んでいた。
そんなある日、朝方出発したはずの調査隊が、何故か迷宮入り口で瀕死で転がっているのが見つかって、現場は騒然となった。
一旦全ての調査はストップし、カシュバル自らゴンゴルノの施療院まで駆けつけて話を聞く。
目を覚ました隊長は「俺たちは地下6階で死んだはずだ」とうわごとのように言った。
仲間がリリスの魅了で無力化。そこに魔法攻撃の連発で浮足立ったのが敗因だったのだという。
死んだなら、ここにいるはずが無い。ちゃんと撤退してきたじゃないかと他の兵は笑ったが、カシュバルは丁寧に隊の全員から話を聞き取り、特にショックのひどかった若い兵にしばらくの休暇を与えた。
そしてラダトキアに戻るなり、自分もダンジョンに入ると宣言したのだ。
当然側近たちは大反対。こんなわけの分からないダンジョンが発生している現在、カシュバルの身に何かあったらどうするのだ、誰が国を率いていくのだと必死に説得した。
「心配無い。少し早いが闘技大会を開き、次の王のアテを選んでおこう。俺が死んだらそいつが王になるし、俺が死ななければそいつと決闘して勝てばいい」
こともなげに王は言い、すぐに闘技大会の準備をするよう命を出し、そこで闘技場の選手入場口の1つが、どうやらゴンゴルノと同じ状態のようだと発覚したのだ。
ただし、誰も10階層に到達していない現在、この入り口からダンジョンに入れる者はおらず、ただボヨンボヨンと跳ね返される入場口でカシュバルはしばらく考えこんでいるようだった。
「……闘技場が使えないのは、困った。こりゃぁ早いとこカタをつけないとな」
何故か非常に楽しそうに王は笑い、数日のうちに2名を王国兵から、もう2名をギルドから引き抜いて、自身がリーダーとなるパーティーを結成した。
城の訓練場で若手の指導をしていたエイベルは、入り口から聞こえてきた「陛下」「カシュバル様」という歓迎の声に、露骨に顔をしかめる。
「いいの、集中を切らさないで」
手を止めようとしていた新兵に言うと、こちらに向かってきたカシュバルも「続けてくれ」と言う。
上官である重装歩兵隊長と、国王陛下に見つめられながらの素振りは、今年入隊したばかりの少年には荷が重い、数回で手元が狂って木剣を取り落とした。
「御用があれば、参上しますと申し上げたはずですが」
「いやいや、用がある方が来るのが礼儀だろう」
子を産んでも一向にデレる様子の無いエイベルに、カシュバルは苦笑いしながら言葉を続けた。
「すまないが、ちょっと手伝ってほしいことがある。一緒に来てくれないか」
「……御意」
仏頂面のまま、エイベルは油断なく王の後に続く。
城を出たところを見ると、お堀の掃除の手伝いでは無い。城下町も抜けてしまったので、町の揉め事の仲裁でも無い。馬車に乗って出発したが、どこかにモンスターでも……。
「ということで、これからこの5人が迷宮を攻略する仲間だ。俺はリーダーを務めるカシュバル=モーガン。よろしくな」
ゴンゴルノの酒場まで引っ張って来られたエイベルは、王の言葉に「やられた」と再び顔をしかめた。
「王の名を知らぬ者など居りませぬよ。ワシは【地・火・風】の魔法使いじゃ。ギルドから参上した、よろしくな」
2属性以上を扱える魔法使いは稀で、年かさの爺は本来【賢者】を名乗れる。
「僕もギルドから来ました。【隠匿】【探知】の斥候職です。戦闘では弓でサポートさせていただきます」
礼儀正しく挨拶したのは、少年といっていいほど幼く見える男で、背丈もエイベルの肩くらいまでしか無い。
「そうそうたる顔ぶれだな、エイベル。私は、長く王国で衛生兵をやってきた。回復は任せてくれ」
見知った男は、エイベルが新兵の頃から衛生隊の兵長を務めてきた腕のいい回復術師だ。急にゴンゴルノに回されたと思っていたらこういうことか。
「……重装歩兵隊より参りました、エイベルです」
むすっとしたままのフルプレートアーマーの肩に、ひょいと王の気安い手がかかる。
「よーし、それじゃ、俺たちでこのダンジョンの謎を解き明かそうじゃないか!」
「人たらし王」の名は伊達では無い。寄せ集めのパーティーは、すぐにカシュバルを中心に固い結束で結ばれていく。
死線をくぐりぬけるたび、連携は強化され、個人の出せる以上の力を発揮するようになった。
そして困難の果てにカシュバル=モーガン隊は、地下40階に至り、役目を終えたパーティーは惜別の涙に濡れて解散したのだ。
彼が最奥で何を知り、何を得たのかは、本人から聞くことにしよう。




