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第42話 英雄カシュバル=モーガン(2)

 大混乱の城前広場で、カシュバルが助けを求めて王妃を振り返った。

「ご自分の発言に、責任をおとりあそばせ」

 その時の返答は、今でも伝説である。


 この妻は、ラダトキア王に古くから仕えてきた大臣の家の出だ。産まれた時から王の妻になることが決まっているいわば「プロ王妃」である。

 王になる条件の一つに、この大臣家から()配偶者を選ぶことが決まっていた。

 歴代の脳筋王たちからは、面倒な財政や法の管理は丸投げされることが多い。実質の影の王家の役割を担ってきた家系だった。

 

 強い者が次の王になるという仕組みから、王自身が子を残すかどうかは問題で無く、白い結婚も上等。他に運命の人を連れてこようが、大ハーレムを築こうが構わない。

 カシュバルはこの時まで彼女の他に妻はおらず、ツンとすました表情の正妃とは、ほとんど話したことも無い状態だった。

 

 しばらく民衆の前で、じっと考え込んでいた王は、やがてまっすぐ前を向くと、大きな声で2つ目の宣言をした。

「……分かった。男に二言(にごん)は無い! 希望者全員、かかってきやがれ」


 そんなわけで、ラダトキア王には現在48人の子がいる。

 老若も出自も問わず、本当にカシュバルは希望者全員と(ねや)を共にした。

 大臣家の王妃も、ちゃっかり子を産んだし、奴隷出身の母もいるという。


 あまりの希望者の多さに、1人につき王の子どもは1人までと制限がついたし、認知はするが生活の面倒まで見られないとおふれも出されたので、婚姻中であっても王の子を身ごもることが許可された。まさに別腹である。

 それにはさすがに、旦那の方が激怒しただろうと思いきや、そうでも無い。


「ウチのかみさんが、カシュバル様の子を産むんだ、すげえだろ」

「なんだよ、おまえも王の子の父になるのか。稼いでるもんなぁ」

 熱狂的なカシュバル王の人気もあってか、おおっぴらな托卵は好意的に受け止められていた。

 何なら「王の子の父」になると言えば、甲斐性のある夫としてハクが付くくらいの勢いまである。

 かといって、そういう下心で王の子など望まない妻を差し出しても、彼女らは決して妊娠しない。カシュバルの人の心を見抜く目も、また非常に確かだった。


 そんな中、王の側近の間で内緒ごとのように囁かれている話がある。

「陛下は、求められるままたくさんの子の父となったが、ただ一人だけ、ご自分が求めた女性(ひと)との子をなしたらしい」

 若くして王国兵を志し、民のためにひたむきに戦い続ける姿は、まるで王国の盾だ。そこにカシュバル様は惹かれたのだろう。

 ここまでで、すでに5人くらいまでは絞り込めるのだが「王のボディタッチに、舌打ちを返すのは彼女くらいのものだ」とまで言えば、だいたい内部の人間は「ああ、あの人か」と顔が思い浮かぶ。

 

「王宮の噂話なぞロクなものじゃねぇな。やめろやめろ、みんな同じだ。なんならこの大陸に生まれた子どもは、全員俺の守るべき、愛しい赤ちゃん(ベイビー)なんだよ!」

 王はいつもその噂を真向から否定する。そして、日に日に母に似てくる褐色の戦士を、目の端で静かに(いつく)しんでいる。

 

「誰でも国王の子を産めるキャンペーン」の陰で、奴隷解放は、静かに着実に進められた。

 数年後に奴隷という身分が完全に消滅したころになって、あれも王の戦略のうちだったのかなぁなんて声があがったほどだ。

 元奴隷たちは市井(しせい)にとけこみ、愛する人と家庭を築いたり、目指すべき職人になるために弟子入りしたりしている。

 その中でもノエルのように、ダンジョンに挑む冒険者としての道を選んだ者は、かなり多いかもしれない。



 

 ダンジョンの入り口が発見されたのは、ゴンゴルノのクズ石捨て場が先だった。

 採掘道具を取って来いと言われた新人の少年が、迷ったあげくに見つけたのが、扉が錆びて放置されていた物置小屋。

 スルリと扉は開いたのに、空気に押し出されるような感触が邪魔して、中の石造りの部屋へは入れない。


 報告を受けた鉱山組合の大人は首を傾げた。

「クズ石捨て場にそんな部屋は無い。どっかの坑道と繋がっちまったんじゃねぇか?」

 よもやよもやと、3人ばかりの鉱夫がツルハシと明かりを手に入った元物置は、小屋でも無ければ坑道でもない。


 続く扉を開くと、そこには見たこともない魔物が待ち構えていて、ギャーと叫んで男たちは逃げ出した。

 クズ石捨て場に転がり出てきた鉱夫のうち、一番最初に我に返った男が、町に魔物を入れてはならないと、勇気を振り絞って扉までとって返す。

 すると、不思議なことに開けっ放しの扉の向こうで、人型の小柄な魔物はじっと立ち尽くしたまま、ギラギラとした目でこちらを見つめているだけだったという。


 すぐに王都に使いが走り、王国兵団の半数がゴンゴルノに派兵され、ものものしくクズ石捨て場を封鎖した。

 先発調査隊は、確かに扉の向こうが石造りの部屋につながっていて、中に未知の魔物が生息していることを確認し、王命を受けてその魔物と戦った。

 1階層のピクシーに、選りすぐりの王国兵士が5人がかりで挑めば、あっというまにこちらの勝利だ。


 王兵ならば、中の魔物に勝てる、むしろ楽勝らしい。

 この町はもう終わりだと絶望に沈んでいたゴンゴルノに、朗報がはしる。

 今後は王国兵団が、さらに奥までの探索を進めるとの方針が打ち出されると、宿屋も酒場ももちろん武器屋も、かつてない規模の客を引き受けることになるのだ。町は息を吹き返したように慌ただしくなった。

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