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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
2章 管理者とローグ
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第37話 大掃除(2)

 管理者は言質を取るとすぐに、管理者室の合鍵のアイテム効果を書き換えはじめた。

 鍵を持つノエルたちを【外部の人間】から、【ダンジョンのイキモノ】側へ属性変更する。実質モンスターになってしまっているのだが、後で戻すんだし、本人たちに説明しなければバレないだろう。

 これでノエルたちは0時になっても、自動でダンジョンから出されることはなくなったので、まずは、管理者室の大掃除にこき使うことにする。




「だから、使う分だけ残して、売るなり捨てるなりしろって言ってんだろ。掃除が大変なんだよ!」

 管理者の小言を聴きながら、床を拭くノエルは、む、と口をへの字に結ぶ。


「これ、このへんにガチャッと置いちゃっていい?」

 一度回収した武器を山ほど持ったマリモが、笑顔でポイとしそうなのを、ノエルは必死で止める。

「それはダメだ。これは属性付きで、これは無属性だから……」

「だーっ、掃除がすすまねぇ!」


 ようやく綺麗になった部屋に、管理者が分厚い布団のようなものを広げる。

「ノエル、ちょっとその天板持ちあげててな」

 脚だけを残してはずれてしまった低い卓を見て、マリモが「壊れたぁ」とつぶやく。実際彼女は、家具の外れてはいけない部分を、外してしまうプロだった。

「これはこういうテーブルで、壊れてないの。ほれ、こたつの完成だ。おまえらも入ってみな」


 先に座って、足先をふとんに突っ込んだ管理者を真似て、おそるおそる二人も座る。

「ほわぁ……ぬくい」

 うっとりテーブルに突っ伏して、マリモは目を細め、ノエルは秒で寝落ちした。

 管理者室の時計が深夜0時を知らせ、これで今年のダンジョンの営業は終了だった。お疲れ様である。




 そして本日が、管理者の言うオオミソカらしい。

 見慣れた10階層までの石造りの小部屋で、ノエルは脚立に乗って不思議なガラス球を交換する仕事をしていた。

「背の高いヤツがいると、助かるねぇ」

 管理者が小箱から出したガラス球には、太いネジのような部品がくっついているから、それを天井の受け口と合わせて回していく。


「次は、これかな」

 交換すべきガラスを見つける係のマリモが、次の1つを指さす。彼女が直接部品に触れるのはご法度だ。絶対割れる。

 脚立を移動して、指定されたガラス球を、付ける時とは逆方向にねじっていくとカコンと外れた。

 ノエルから渡された球に溜まった赤黒いモヤを見て、管理者はウンウンとうなずいた。

「浅い層にしては、いい闘気が溜まってる」

「ねぇ、これってホントにガラスなんだよね? 王都でもこんなに薄くて透明なガラスは見たこと無いけど、どこで作られてるの?」


 のぞき込んできたマリモに、管理者は得意そうに球を掲げて見せる。

「そりゃメイドインジャパンよ。しかもこんな高品質なもんが何と税込み百十円。百円ショップ様々だぜ」

 じゃぱん、ひゃくえん、とマリモは語感を楽しんでいる。分からないことを、分からないままでもいいやと割り切るまでが、非常に早い。


 10階の火のヴァンパイアの部屋の様子を伺った管理者は、ホッと息を吐いて扉を開いた。

「コスメの初売りに並ぶってさっき出発したらしい。今のうちに交換しちゃおうぜ」

 脚立を持って部屋に入ったノエルが天井を見上げても、どこにもガラス球が無い。


「こっちこっち、ボス部屋は浮き球を使ってんのサ」

「あー、これ20階にもあったよ」

 部屋の角の柱の上にオブジェのように飾られているのは、一抱えほどある分厚いガラス玉で、なぜか網に入っている。

「昔の漁具らしくて、最近は探すのが大変さ」


 あの戦闘じゃ、交換するほど溜まらんかったかぁと管理者はぼやく。もちろん、一刀で終わったノエルとヴァンパイアの戦いのことだ。

「これなら、ゴンゴルノのガラス屋でも売っていると思うが?」

 ぼそっとつぶやいたノエルの声に、管理者は飛び上がって驚く。

「そうか、ローテクはこっちだよな。盲点だったぜ!」


 その後、19階のゾンビラッシュ部屋まで降りて、交換作業は終了らしかった。

「これより下層はもういいの?」

 マリモが尋ねると、ピコンと羽飾りが揺れる。

「下はバイトの子たちがやってくれたはずだ。それにこの先はネタバレになるだろ」


 管理者室に戻って、再びコタツの魔力にとりつかれているところに、湯気があがる器を持った管理者が現れた。

「今日はお疲れ、手伝いありがとさん。年越しソバでも食おうぜ」

 香り高いダシと、ピンと立ったエビのしっぽが美しい天ぷらソバに、2人はゴクリと喉を鳴らす。


 ズゾゾと骨の面に吸い込まれていく麺に、音を立てるのは行儀が悪いとか、骨がメシを食うのはどういうわけだとか、無粋なことを言うメンツでは無い。

 手を合わせて「イタダキマス」と唱えるところから、最後の一滴まで汁を飲み干すところまで、見事に真似た。




 ノエルは、ぬくぬくとコタツに入り、異国の言葉で歌われる曲をまどろむように聴いている。


 理解されないまま、仲間が去っていくこともあった。

 孤独を抱えて、腹をへらして、がむしゃらに走った。

 ゴーン、ゴーンと鳴り続ける低い鐘の音に、鈍い痛みは消えていき、不思議と穏やかな想いが唇からこぼれていく。


「でも、いい一年だった」

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