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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
2章 管理者とローグ
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第36話 大掃除(1)

 王都ラダトキアのギルドに借金の返済を終えたノエルは、この後はゴンゴルノから出入りするから、こちらのカウンターにはしばらく戻ってこないかもしれないと説明した。

「かしこまりました」

 王都にのぼっても、資金繰りがうまくいかず、そのまま冒険者を引退するということは、ままあることだった。


 受付嬢はなにくわぬ顔でほほ笑んで、名簿の横に「都落ち」と書き記す。

 その胸に緑の葉のブローチがあるのを見て、ノエルはわずかに首を傾げた。前回の王の祝日からまだ7日は経たないはずだ。

 しかし壁にかけられた木札の数を見ると、潜っている冒険者の数も少なく、出てきたパーティーが「じゃあ、おふくろさんによろしくな」なんて、しばしの別れを惜しんでいる姿も見られる。

 

 不思議に思いながらもダンジョンに入ると、マリモに管理者室への鍵を取り出して見せた。

「ダンジョン用の鍵とはまた全然違うね」

 見比べるために取り出したマリモの鍵は、ノエルの持つ(ともしび)の鍵より太くてゴツい。それに気づいてパッとポケットに仕舞った。

「これはネタバレだね、土のゾンビを倒してからのお楽しみ」

 そういうのを気にするタイプだったのか、と内心驚きながらもノエルは、壁に管理者室への鍵を突き立てる。


「マジかぁ。いやいや、しょうがないよ。ゆっくり休んでね、お大事に」

 現れた扉を押し開けると、管理者は光る画面の方を向いたまま、通信を終了したところだった。数匹のモンスターがふらつく足取りで、画面から見切れていく。

 

「まぁ、入ってくれ」

 ノエルが我が物顔で、パーティーメンバーを招き入れるのに、ピクッと羽飾りが揺れる。

「……」

 しかし、今日はまだツッコまねぇぞという強い意志を宿して、管理者は背中を向けたままだった。


「おじゃましまーす。おぉ……」

 部屋に足を踏み入れたマリモは、あたりを見回して「なに、ここ」と驚きの声をもらす。

 普通はこういう反応があるもんだよな、と満足した管理者は、ゆっくりと椅子を回して2人の冒険者に向き直った。


「管理者室へようこそ。デストロイヤーのお嬢さん」

 カタカタと骨の面が揺れたことに、マリモがまん丸く目を見開く。そして。


「うっわぁ、しゃべった! ねぇノエル、この骨の子、しゃべるよ!」

 バビュンとすっとんできたかと思うと、フードから突き出た骨の面に両手で触れる。

「待て、ちょ、触んな! おさわり禁止!」

「これは羽? それとも耳? ふわふわだよっ!」

 今度は頭の羽飾りをむんずとつかまれて、管理者は早くもギブアップした。

「うわーん! ノエル、やめさせろー」

 

「いいか! オイラはこのダンジョンの管理者なんだからな! 結構これでも偉いんだぞ、気安く触んなよ」

「はーい」

 椅子に座りなおした管理者の前で正座させられても、マリモはニコニコしたまま。ついでに座らされたノエルも、ちょうどいいとペコっと頭を下げた。


「と、いうことで、今後は2人でダンジョンに潜るという、挨拶に来た」

「おう、おまえにしては殊勝な心掛けだよ、だが挨拶ならもっと、ソレらしいやり方で頼むぜ」

「……了解した」

 絶対分かっていない顔だなと思いつつ、管理者はすでに立ち上がろうとしているノエルを呼び止めた。


「さてここから一気に20階層攻略だぜって顔のおふたりさん。ダンジョンはしばらくお休みだ、聞いてないのか?」

「えっ? 王の祝日はまだ先じゃない?」

 慌てて指折り数えるマリモの前で、ノンノンと管理者は首を振る。


「毎年大晦日(おおみそか)と、三が日は休みって決まってるだろ。ホワイトなダンジョン経営をめざしてんだからよ」

 オオミソカ、なにそれという顔に、説明を重ねる。

「今日までは一応ダンジョン開けてるけど、土のゾンビは家族で温泉旅行だし、水のワーウルフはカウントダウンイベントに行くから、ボス部屋は開かないぜ」

 ちなみに風のスケルトンは、孫が来るから部屋の片づけに必死なはずだ。


「ああ! なんか連続でダンジョンに入れなくなる日があると思ってたら、そういうことだったんだ。冒険者もこの機会に里帰りしたりするんだよ」

 マリモの「わかった!」という顔を見て、そのための連休だよと管理者はうなずく。


「そんで正月三が日は、完璧におやすみ。オイラもおせちと雑煮食って、一日中飲んだくれる予定」

 そういいながら、手元のシフト表に並んだ「病欠」の文字を見下ろしてげんなりする。

 飲んだくれると聞いてマリモが目を輝かせ、何か食べる話に、珍しくノエルも質問をしてきた。

「……オセチトゾウニとは、どんな食べ物だ? 聞いた事がない」

 

「お(せち)料理と、お雑煮(ぞうに)は別の食い物。ほれ、これがお節だ」

 画面に映し出されたのは、四角い容器に様々な料理が詰め込まれたご馳走だ。

「すっごい! なにこの巨大なエビ!」

 頭をくっつけるように、画面をのぞき込んだ2人を見て管理者は欠員補充の算段をする。


「この超豪華お節は、ムーンロード商店街の総菜屋に予約済みだ。今年は張り込んだから、オイラだけじゃ食べきれないかもしれないなぁ……」

「よし、手伝おう」

 ノエルは【俊敏】に立候補する。

「返事が(はぇ)えよ。ちょこっとダンジョンの手入れに協力してくれるって言うなら、歓迎するんだけどヨ」


「『ちょっと手伝ってほしい』って言う人には気を付けろって、お母さんが言ってた」

 珍しく警戒の色をにじませたマリモに、管理者は画面を切り替える。

「なんと、お節の早期予約特典で、地酒の飲み比べセットがついてくる!」 

 茶、青、緑の四合ビンが並んだ写真を見て「くぅっ美味しい予感」と彼女は膝をたたいて挙手した。

「手伝いますっ」

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