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金欠ローグと地下40階の迷宮  作者: 竹部 月子
2章 管理者とローグ
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第35話 仲間(2)

 宿の一室から、武器を引っ張り出したノエルを、主人はあきれ顔で見つめる。

「ノエルさん、王都に移ったんじゃないのかい」

「……いや、これからも世話になる」


 ついでに馴染みの武器屋で、ユニーク武器への名入れを依頼する。

 武器を買い取ってもらっているノエルの横で、マリモが職人に耳打ちすると、禿げ頭のオヤジは訳知り顔で「М」と刻印してくれた。

 これで武器のユニーク効果が発動し、バトルアックスは【壊れない】属性を持った。


「ゴンゴルノのギルドの方にも、まだ借り入れがあったような、無かったような……」

「寄っていこー」

 おー、と手を振り上げたマリモと共にギルドへ入ると、受付嬢が驚いた表情で立ち上がった。


「ノエルさん! お戻りだったんですか。そちらはもしかして……お仲間?」

破壊者(デストロイヤー)のマリモですっ」

 にこっと笑って名乗った女性を見て、まわりがどよめく。

 もう間もなく解散するというのに、と居心地悪く思いながら、借入金を確認するとゴンゴルノを出る前にきちんと払い終わっていたようだ。

「じゃあ、もう一度王都まで行って清算してくる」

 借り入れも、パーティーも。そんな気持ちでホールを出ようとしたノエルの元に、ギルドマスターが大またで歩み寄ってきた。


「ノエルっ!」

 呼ばれるだけで、自然と首をすくめてしまうのは、ゲンコツの衝撃に耐えるためだ。

「オマエ、やっと仲間を得たか!」

 がしいっ、と肩をつかまれて、強く揺さぶられる。

「え、あ、まぁ、いちじ……てきに」

 ぐわんぐわん揺らされながら、とぎれとぎれに返事をする声は、感動しているギルマスまでは届いていないように思われる。


「マリモだね、うむ、ギフトは【怪力】か。いいぞ、ノエルとやっていくには、このくらいのガッツのある方がいい」

「ですよね!」

 ビッと親指を立てたマリモは、何故そんなドヤ顔でうなずいているのだろうか。

「こいつはまぁ、ほんと色々アレで、足りんところも多い。でもな、根はいいやつだから、見捨てないでやってくれ」

「もちろんです、任せて下さい」

 そして何を任されるというのだろうか。

 

「いいか、正念場だぞ。ここからうまく関係が作れるかどうかで、真人間になれるか、 ならず者(ローグ)のままか決まる。今回の縁を大切にして精進しろ」

「だから、これでパーティは解さ……」

「返事ぃっ!」

 耳元で大声を出されると、反射的に背筋を伸ばし「ハイ!」と応じてしまう。


「よし、話は以上だ。今日はもう遅い、パーティメンバーをゆっくり休ませてやるのもリーダーの役目だぞ」

「…………むぅ」

 ホールに取り残されたノエルは、反論の隙が1ミリも無かったことにうなだれ、マリモは何故かニコニコとその背中を見つめていた。




「すまない、非常にまずいことになったかもしれん」

「まふいことっへ?」

 酒場でさしむかったマリモは、料理を口に詰めたまま、わざとらしく瞬きする。

「このパーティーは期間限定のものであることを、うまく説明できなかった」

「あら、でも別に私はこのままノエルとパーティーで構わないよ」

 あの場の全員が、ノエルの「違うんだ」というオーラを無視したことは黙っておく。このタイプは、周りから固められるのに弱いのだと、すでにマリモは気づいていた。

 

 しかしノエルは料理に手も付けずに、うつむいて言葉を続ける。

「俺は金使いが荒い。よく今日の食事にも事欠いて、ギルドに突き出されてるならず者(ローグ)だ。さっき見ての通り、人に説明するのも苦手だ」

 うん、とマリモはうなずく。そうでなければ、餌付(えづ)けしてパーティーを組んでもらうなんて荒業は使えなかった。

「だから、やはりパーティーを組むのには向かないと思う」


 酒がまわりはじめ、ほわっとしてきた頭でマリモが考えたのは「この人、何歳なんだろうな」ということだった。

 迷宮を進む時の判断力、戦闘の技能、魔物や武器への豊富な知識は、以前組んでいた40過ぎのパーティーリーダーを超えていると感じる。

 その反面、ギルドマスターにやりこめられ、こうして申し訳さなそうに身を小さくしている姿は、ほんの少年のようにも見えた。

 まぁ、いくつなのかなんて、実はどうでもいいのだけれど。


「でもさ金欠ローグって、ダンジョンにいる間は、関係なくない?」

 マリモの言葉の意味をはかりかねて、青い目がまばたく。

「潜っている間に、コミュニケーション不足を感じたことは無かったよ。ノエルは、何か困ってた?」

「いや、全く」

 基本このマリモという女は、戦闘スタイル同様「大振り」だった。目の前に現れた敵は全力で斬るが、先々がどうなっているかを細々心配することは無い。

 右へ行こうと言えば「いーよー」、一度休もうと言えば「おっけー」なのである。


「じゃ、良くない?」

 押し切ろうとしたマリモに、「あれ、そうかな」と丸め込まれそうになったノエルは、かつて失敗したオーガストたちのことを思い返して踏みとどまった。

「いや、良くない。パーティーは地上でも1単位で見られる。ダンジョン内が良ければいいわけじゃない」


「あははっ、めんどくさっ!」

 満面の笑顔でマリモは断じ、ノエルはその迫力にたじろぐ。

「ヨシ、私がノエルの寝食を保障して、地上での保護者になろう。だから代わりに、ノエルはダンジョンでリーダーやって?」

「…………ふ、ふむ?」

 まだ思考中の銀の頭に、マリモは腹から出した声をぶつけた。

「返事ぃっ!」

「ハイッ!」


 これがランベアード大陸で2組目、前衛2人のみで40階層に到達した希代のパーティーの、結成の瞬間であった。

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